概要
ファーバー脂肪肉芽腫症は、細胞のなかで脂質の一種「セラミド」を分解する酵素がはたらかないために、関節・皮膚の下・のどなどにセラミドがたまり、炎症としこりを起こす病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ASAH1(8p22)遺伝子の変化が原因となります。
典型的には生後数か月ごろから、①関節の痛みと腫れ(のちに曲がったまま固まる)、②皮膚の下のしこり(結節)、③しわがれた声・弱い泣き声の3つがそろって現れます。リソソーム病(ライソゾーム病)のひとつで、非常にまれな病気です。重さには幅があり、生後まもなく肝臓や肺がおかされて乳児期に亡くなる重い型から、関節の症状が中心で成人まで過ごせる軽い型まであります。
ASAH1 遺伝子は、別の病気も起こします。同じ遺伝子の変化で、関節やしこりの症状はほとんどなく、筋力の低下とてんかん(ミオクローヌスてんかん)がおもな症状となる「進行性ミオクローヌスてんかんを伴う脊髄性筋萎縮症(SMA-PME)」になることがあります。このページで扱うファーバー脂肪肉芽腫症は、関節・皮膚の下・のどの症状が中心になる点が特徴です。
原因
ASAH1 は、酸性セラミダーゼという酵素の設計図です。この酵素は、細胞のなかの「リソソーム」という分解工場で、セラミドを脂肪酸とスフィンゴシンに分解するはたらきをもっています。
酵素がはたらかないと、セラミドが分解されずに細胞のなかにたまっていきます。たまったセラミドを取り込んだ細胞(泡沫細胞)が、関節のまわりや皮膚の下、のど、肺、肝臓などに集まり、炎症と肉芽腫(しこり)をつくります。病名の「脂肪肉芽腫」はこの様子を表しています。酵素のはたらきがどのくらい残っているかによって、症状の重さが変わると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 関節の痛みと腫れ:手首・指・ひじ・ひざ・足首などに起こり、しだいに関節が曲がったまま動かしにくくなります(拘縮)
- 皮膚の下のしこり(皮下結節):関節のまわりや手足、耳の後ろなど、圧のかかるところにできやすく、数が増えていきます
- しわがれた声・弱い泣き声:のど(喉頭)にもしこりができるためで、呼吸や飲み込みの妨げになることがあります
- 体重が増えにくい、発育の遅れ、くり返す発熱
- 肺の症状:肺にもセラミドがたまり、くり返す肺炎や呼吸の障害が、重症化の大きな原因となります
- 肝臓・脾臓の腫れ:とくに重い新生児型でみられ、胎児水腫を伴うこともあります
- 神経の症状:一部の型では、発達の遅れ、けいれん、筋力の低下を伴います
- 軽い型では関節のこわばりとしこりが中心で、子どもの関節炎(若年性特発性関節炎)と間違えられることがあります
検査・診断
関節の痛みと腫れ、皮膚の下のしこり、しわがれた声の3つがそろうと強く疑われます。軽い型では関節の症状だけが目立つため、子どもの関節炎として治療されていて、あとから診断がつくことも少なくありません。
診断には、血液の白血球や皮膚の細胞を使って酸性セラミダーゼのはたらきを測る検査、セラミドの量を調べる検査、しこりの組織検査(セラミドをためた泡沫細胞がみられます)が用いられます。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ASAH1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療は確立していません。症状をやわらげ、生活を支える治療を組み合わせて行います。型によって経過が大きく異なるため、お子さまの状態に合わせて医療チームと方針を相談することが大切です。
- 痛みと炎症への対応:痛み止めや炎症を抑える薬を使います
- リハビリテーション:関節が固まるのをできるだけ防ぎ、動かせる範囲を保ちます
- しこりへの対応:生活の妨げになるしこりは、手術で取ることがあります
- 呼吸・栄養の管理:のどのしこりで呼吸や飲み込みが難しい場合は、気道の確保や栄養の補助を行います
- 造血幹細胞移植:神経の症状がない型では、移植によって関節やしこりの症状が改善したという報告があります。ただし効果には個人差があり、移植そのものの負担や危険もあるため、専門施設で慎重に検討します
- 新しい治療:酵素を補う治療(酵素補充療法)などが研究されていますが、まだ研究段階です
- ご家族への心理的支援と遺伝カウンセリング
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ASAH1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ASAH1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
ファーバー脂肪肉芽腫症は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
ASAH1 はリソソーム酸性セラミダーゼをコードする。前駆体は自己切断によってα・βサブユニットからなる活性型となり、セラミドをスフィンゴシンと脂肪酸に加水分解する。スフィンゴ脂質分解経路の要となる酵素であり、欠損によりセラミドが組織に蓄積し、マクロファージ由来の泡沫細胞を伴う肉芽腫性炎症をきたす。電子顕微鏡では湾曲した管状の封入体(ファーバー小体)が特徴的とされる。
臨床像は連続的な広がりを示し、従来は①古典型(乳児期発症の三徴)、②中間型・③軽症型(関節症状が主体で長期生存)、④新生児・内臓型(肝脾腫・胎児水腫を伴い乳児早期に死亡)、⑤神経進行型などに分類されてきた(旧分類にはプロサポシン欠損症やサンドホフ病との合併例も含まれていた)。同一遺伝子の別の疾患としてSMA-PME(脊髄性筋萎縮症と進行性ミオクローヌスてんかん)があり、関節症状・皮下結節を欠く点で本症と対照的である。残存酵素活性と表現型の相関が示唆されている。
鑑別としては、若年性特発性関節炎、硝子線維腫症(ANTXR2)、多中心性骨溶解症(MMP2 など)、ムコ多糖症、ほかのリソソーム病が挙がる。関節炎として長期間治療されている例があり、皮下結節と嗄声を伴う乳幼児の関節炎では本症を念頭に置き、酵素活性測定と遺伝子解析を行うことが重要である。神経症状のない例では造血幹細胞移植による炎症症状の改善が報告されており、組換え酸性セラミダーゼによる酵素補充療法は開発段階にある。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。キャリアのご両親ご自身には、通常症状はありません。原因となる遺伝子の変化を確定しておくことで、次の妊娠での検査の選択肢が広がります。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 多くの型では、妊娠中の超音波検査で目立つ所見はなく、生まれて数か月たってから気づかれます。重い新生児型では、胎児水腫として見つかることがあります。前のお子さまで遺伝子の変化が確定している場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。ASAH1 遺伝子の変化は、関節やしこりの症状はほとんどなく、筋力の低下とてんかんがおもな症状となる病気(SMA-PME)を起こすこともあります。どちらになるかは遺伝子の変化の種類などによるため、専門の医師が症状と検査結果をあわせて判断します。
Q. どのような経過をたどりますか。
A. 型によって大きく異なります。肺や肝臓がおかされる重い型では、乳幼児期に亡くなることが多いとされます。一方、関節の症状が中心の軽い型では、成人まで過ごされる方もいます。お子さまの状態に合わせて、医療チームとよく話し合ってください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Yu FPS, Amintas S, Levade T, Medin JA. Acid ceramidase deficiency: Farber disease and SMA-PME. Orphanet J Rare Dis. 2018;13(1):121.
- Koch J, Gärtner S, Li CM, et al. Molecular cloning and characterization of a full-length complementary DNA encoding human acid ceramidase. Identification of the first molecular lesion causing Farber disease. J Biol Chem. 1996;271(51):33110-33115.
- Ehlert K, Frosch M, Fehse N, et al. Farber disease: clinical presentation, pathogenesis and a new approach to treatment. Pediatr Rheumatol Online J. 2007;5:15.
- Zhou J, Tawk M, Tiziano FD, et al. Spinal muscular atrophy associated with progressive myoclonic epilepsy is caused by mutations in ASAH1. Am J Hum Genet. 2012;91(1):5-14.
- OMIM #228000 Farber lipogranulomatosis. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #159950 Spinal muscular atrophy with progressive myoclonic epilepsy. Online Mendelian Inheritance in Man.
