フィリッピ症候群

Filippi Syndrome, CKAP2L

概要

フィリッピ症候群は、頭が小さいこと(小頭症)、生まれる前からの成長の遅れ、知的発達の遅れ、手足の指がくっついている「合指(ごうし)」を特徴とする、まれな先天性の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CKAP2L 遺伝子の変化が原因のひとつとして知られています。

1985年にイタリアのフィリッピ医師が初めて報告したことから、この名前がつけられました。これまでに世界で報告された患者さんは数十人ほどと、非常にまれな病気です。特徴的な顔つきと手足の指の形、そしてとくに言葉の発達の遅れが目立つことが、この病気を見分ける手がかりになります。

CKAP2L 遺伝子の変化によって起こる病気として、現在知られているのはフィリッピ症候群だけです。一方で、フィリッピ症候群と診断された方のなかには CKAP2L 遺伝子に変化が見つからない方もいるため、ほかの原因遺伝子があると考えられています。

原因

CKAP2L は、細胞が分裂するときに染色体を2つの細胞へ正しく分ける「紡錘体(ぼうすいたい)」という装置ではたらくたんぱく質の設計図です。

おなかの赤ちゃんの脳は、脳のもとになる細胞(神経前駆細胞)がさかんに分裂して数を増やすことで大きく育ちます。CKAP2L がはたらかないと、細胞分裂がうまく進まず、染色体の分配に誤りが起こりやすくなります。その結果、脳をつくる細胞が十分に増えず、頭が小さくなり、体の成長や発達にも影響が出ると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。男の子にも女の子にも同じように起こります。

症状

  • 小頭症:生まれたときから頭が小さく、成長しても小さいままです
  • 成長の遅れ:妊娠中から体が小さめで、生まれたあとも低身長・低体重が続きます
  • 知的発達の遅れ:程度は軽いものから重いものまでさまざまで、とくに言葉の発達の遅れが目立ちます
  • 手足の合指:この病気のもっとも特徴的な所見です。手では中指と薬指、足では人さし指と中指の間がくっついていることが多くみられます
  • 小指が内側に曲がっている(小指の内弯)
  • 特徴的な顔つき:鼻の付け根が高く幅広い、小鼻が薄い、上唇が薄いなど
  • 男の子では停留精巣(精巣が陰嚢に下りていない状態)
  • 一部の方で、けいれん(てんかん)、髪・歯・爪の異常、斜視など

報告されている患者さんの数が少ないため、大人になってからの経過や寿命については、まだ十分にわかっていません。症状の現れ方や重さには個人差があります。

検査・診断

多くは生まれたあとに、小頭症、成長の遅れ、手足の合指、特徴的な顔つきの組み合わせから疑われます。その後、言葉や運動の発達の遅れがはっきりしてくることで、診断の手がかりがそろっていきます。妊娠中の超音波検査で頭や体が小さめであると指摘されることはありますが、指の合指などの細かな所見を妊娠中にとらえることは難しく、超音波検査だけで診断することはできません。

確定診断は遺伝学的検査で行い、フィリッピ症候群では CKAP2L 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。小頭症と合指をともなう病気はほかにもいくつかあり、遺伝のしかたもそれぞれ異なります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、それぞれの症状に合わせた対症療法と、お子さまの発達を支える療育が中心です。小児科を中心に、さまざまな診療科と支援者がチームでかかわることが大切です。

  • 発達の支援(療育):早い時期からの理学療法・作業療法・言語療法で、お子さまの力を伸ばします
  • 言葉とコミュニケーションの支援:言葉の遅れが目立つため、身ぶりや絵カードなども含めた支援を行います
  • 合指の手術:手の使いやすさや見た目を考え、形成外科で手術を検討します
  • 成長と栄養の管理:体重や身長の伸びを定期的に確認します
  • 合併症への対応:けいれんがあれば抗てんかん薬、停留精巣があれば手術、目や歯の定期的な診察を行います
  • ご家族への支援:就園・就学の相談や福祉制度の利用を含め、継続的に支えます

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる CKAP2L 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CKAP2L 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

フィリッピ症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

CKAP2L(cytoskeleton-associated protein 2-like)は、マウスで神経前駆細胞の分裂に関わる紡錘体関連たんぱく質として同定された Radmis のヒト相同遺伝子である。分裂期に紡錘体および紡錘体極に局在し、神経前駆細胞の細胞分裂に関与する。2014年、フィリッピ症候群の複数家系で両アレル性の機能喪失型変化が同定され、原因遺伝子として確立した。

患者由来細胞では、紡錘体形成の異常、染色体の遅滞(ラギング)、多極分裂など分裂期の異常が増加していることが示されている。病態は、神経前駆細胞の分裂障害による神経細胞数の減少という点で、一次性小頭症(MCPH)や小頭症性原発性小人症と共通の機序をもつと考えられる。ただし、合指症をはじめとする四肢の所見と、とくに強い言語発達遅滞をともなう点がフィリッピ症候群の臨床的特徴である。また、臨床的にフィリッピ症候群と診断された症例の一部では CKAP2L に変化が検出されず、遺伝的異質性が示唆される。CKAP2L について、フィリッピ症候群以外の表現型(アレル疾患)は現時点で確立していない。

鑑別としては、一次性小頭症(ASPM、WDR62 など)、セッケル症候群(ATR など)、コルネリア・デランゲ症候群(NIPBL など、多くは新生変異による顕性)、ファインゴールド症候群(MYCN、常染色体顕性、小頭症と足趾合指)、眼歯指異形成症(GJA1、主に常染色体顕性)が挙がる。これらは遺伝形式が異なり、次子再発率が25%(潜性)、50%(親が罹患者の顕性)、ほぼ0%(新生変異)と大きく違うため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。小頭症や合指をともなう病気には、新生突然変異によって偶発的に起こるものや、遺伝のしかたが異なるものもあります。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 超音波検査で頭や体が小さめと指摘されることはありますが、超音波検査だけでこの病気と診断することは難しいです。前のお子さまで原因遺伝子が確定している場合は、妊娠中の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 指がくっついているのは治せますか。

A. 合指は形成外科の手術で指を分けることを検討できます。手術の時期や方法は、くっつき方や手の使い方、全身の状態を見ながら担当の医師と相談して決めます。

Q. 言葉は話せるようになりますか。

A. この病気では言葉の発達の遅れが目立つことが多く、話せる言葉が限られる方もいます。ただし、発達の程度には個人差があります。早い時期から言語療法や、身ぶり・絵カードなどを使ったコミュニケーションの支援を受けることで、お子さまの伝える力を伸ばすことが期待できます。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Hussain MS, Battaglia A, Szczepanski S, et al. Mutations in CKAP2L, the human homolog of the mouse Radmis gene, cause Filippi syndrome. Am J Hum Genet. 2014;95(5):622-632.
  • Filippi G. Unusual facial appearance, microcephaly, growth and mental retardation, and syndactyly. A new syndrome? Am J Med Genet. 1985;22(4):821-824.
  • Yumoto T, Nakadate K, Nakamura Y, et al. Radmis, a novel mitotic spindle protein that functions in cell division of neural progenitors. PLoS One. 2013;8(11):e79895.
  • OMIM #272440 Filippi syndrome; FLPIS. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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