HMG-CoA合成酵素2欠損症

HMG-CoA synthase-2 deficiency, HMGCS2

概要

HMG-CoA合成酵素2欠損症は、空腹が続いたときに、脂肪からエネルギーのもととなる「ケトン体」をつくれなくなる先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、HMGCS2 遺伝子の変化が原因となります。「ミトコンドリアHMG-CoA合成酵素欠損症」とも呼ばれます。

ふだんはまったく症状がなく、元気に過ごしていることがほとんどです。ところが、胃腸炎や発熱で食事がとれない、長い時間何も食べていないといったきっかけがあると、低血糖、ぐったりする、意識が低下するといった急な発作を起こします。多くは乳児期から幼児期のはじめ(おおむね生後半年〜2歳ごろ)に、初めての発作で気づかれます。

この病気は空腹を避けることで発作をかなり防げることが知られています。その一方で、診断がつく前の発作が重いと、脳に後遺症が残ることがあります。あらかじめ病気を知り、体調を崩したときの対応を決めておくことが、お子さまを守るいちばんの手立てです。

HMGCS2 遺伝子の変化で起こる病気として知られているのは、現在のところこの病気だけです。ケトン体を「つくる」側に問題がある病気で、ケトン体を「使う」側に問題がある病気(ケトン体がたまりすぎる病気)とは、症状や検査の結果が正反対になるのが特徴です。

原因

HMGCS2 は、肝臓の細胞のなかの「ミトコンドリア」ではたらく酵素(HMG-CoA合成酵素2)の設計図です。

食事をとらない時間が長くなると、からだはたくわえた脂肪を分解し、肝臓でケトン体をつくって、脳や筋肉のエネルギーとして使います。とくに脳は、ブドウ糖が足りなくなったときにケトン体を大切な燃料にしています。HMG-CoA合成酵素2は、このケトン体をつくる流れの最初の段階を受け持つ酵素です。

この酵素がはたらかないと、空腹時にケトン体がつくれず、ブドウ糖を使い切ったところで脳のエネルギーが不足します。さらに、分解された脂肪が使われずに肝臓にたまり、肝臓の腫れ(脂肪肝)を起こします。小さなお子さまは大人よりもブドウ糖のたくわえが少ないため、短い時間の空腹でも発作が起こりやすくなります。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 空腹や体調不良をきっかけにした急な発作:この病気のもっとも大切な特徴です。胃腸炎、発熱、嘔吐、長時間の絶食などのあとに起こります
  • 低血糖:ぐったりする、顔色が悪い、反応が鈍いなど
  • 意識の低下、けいれん:重い場合は昏睡に至ることがあります
  • 嘔吐、呼吸が速く深くなる(血液が酸性に傾くことによる)
  • 肝臓の腫れ(肝腫大):発作のときに目立ち、脂肪肝を伴います
  • 発作と発作のあいだは、ほとんど症状がありません
  • 重い発作や長引く発作のあとには、発達の遅れなどの後遺症が残ることがあります

年齢が上がり、空腹に耐えられる時間が長くなるにつれて、発作は起こりにくくなる傾向があります。ただし、大きくなってからも、強い体調不良のときには注意が必要です。

検査・診断

発作のときの血液・尿の検査で、低血糖があるのにケトン体が少ない(低ケトン性低血糖)ことが手がかりになります。ふつうは空腹で低血糖になると、からだはケトン体を大量につくるため、「ケトン体が増えていない」こと自体が重要なサインです。同時に、血液中の遊離脂肪酸は高くなります。

発作時の尿の有機酸分析で、この病気に特徴的な物質が見つかることがあり、診断の助けになります。一方で、発作のないときの検査では異常が出にくく、新生児マススクリーニング(生まれてすぐの血液検査)でも見つけにくい病気です。脂肪酸の分解がうまくいかない病気など、似た症状の病気との区別も必要です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、この病気では HMGCS2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。ふだんの検査で異常が出にくい病気だからこそ、遺伝子で確定することに大きな意味があります。ごきょうだいがまだ発作を起こしていなくても、診断がつけば予防の準備ができます。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。しかし、空腹の時間をつくらないこと、体調を崩したときに早めにブドウ糖を補うことで、発作の多くは防ぐことができます。治療の中心は、日々の予防と、発作時の速やかな対応です。

  • 空腹を避ける:年齢に合わせて食事・授乳の間隔があきすぎないようにし、夜間の長い絶食を避けます
  • 体調不良時の早めの糖分補給:発熱、嘔吐、下痢で食事がとれないときは、糖分を含む飲み物をこまめにとります
  • 口からとれないときは早めの受診と点滴:ブドウ糖の点滴で、発作を防いだり、早く回復させたりします
  • 緊急時の対応を書いた書類の携帯:病名と必要な処置を、かかりつけ以外の医療機関や保育園・学校にも伝えられるようにします
  • 手術や検査で絶食が必要なときは、事前に主治医と相談し、点滴で糖分を補います
  • 脂肪の多い食事を控えるよう指導されることもあります。食事の内容は主治医・栄養士とご相談ください
  • 後遺症がある場合は、発達の支援やリハビリテーションを行います

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる HMGCS2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HMGCS2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

HMGCS2 はミトコンドリア型3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA合成酵素をコードし、アセチルCoAとアセトアセチルCoAからHMG-CoAを生成する、ケトン体産生経路の律速酵素である。主に肝臓で発現し、絶食や高脂肪食の状態で転写が誘導される。細胞質型の HMGCS1(コレステロール合成経路)とは別の遺伝子・別の経路であり、HMGCS2 の両アレル機能喪失による疾患として知られるのは本症のみである。

臨床像は、感染や絶食を契機とした低ケトン性低血糖、代謝性アシドーシス、肝腫大(脂肪肝)、脳症で、発症は乳児期〜幼児期早期が多い。ケトン体が低いにもかかわらず代謝性アシドーシスを呈しうる点、アシルカルニチン分析が正常または非特異的で新生児マススクリーニングでの検出が困難な点が、診断上の落とし穴となる。発作時の尿中有機酸では、ジカルボン酸尿に加え、4-ヒドロキシ-6-メチル-2-ピロンなどの特徴的代謝物が報告されており、診断の手がかりとなる。間欠期には生化学的異常が乏しいため、確定は HMGCS2 の両アレル病的変異の同定による。

鑑別としては、同じケトン体産生系の HMG-CoAリアーゼ欠損症(HMGCL、ロイシン代謝産物を伴う有機酸尿を示す)、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(ACADM)などの脂肪酸β酸化異常症(多くはアシルカルニチン異常を示す)、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1A欠損症(CPT1A)が挙がる。一方、スクシニルCoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ欠損症(OXCT1)やβ-ケトチオラーゼ欠損症(ACAT1)はケトン体利用障害であり、ケトアシドーシスという逆の病態を示す。いずれも常染色体潜性で次子再発率は25%であるが、管理方針が異なるため、遺伝子診断による病型確定が重要である。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子で確率に差はありません。上のお子さまで診断がついている場合は、次のお子さまが生まれたら早めに検査と予防の準備をすることで、発作を防ぎやすくなります。

Q. 妊娠中の超音波検査で分かりますか。

A. この病気は、お腹の中にいるあいだは症状が出ないため、超音波検査では分かりません。原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、遺伝学的な検査で調べることを検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 新生児マススクリーニングで見つかりますか。

A. この病気は、新生児マススクリーニングでは見つけにくいとされています。ふだんは検査の値に異常が出にくいためです。多くは初めての発作をきっかけに診断されるため、ご家族に患者さんがいる場合は、早めに遺伝子の検査を受けることが大切です。

Q. ふつうの生活を送ることはできますか。

A. 空腹を避け、体調を崩したときに早めに対応することで、多くのお子さまはふだん通りの生活を送っています。成長とともに発作は起こりにくくなる傾向があります。ただし、診断前の発作で後遺症が残った場合は、継続した支援が必要です。主治医とよく相談しながら過ごしてください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Conboy E, Vairo F, Schultz M, et al. Mitochondrial 3-Hydroxy-3-Methylglutaryl-CoA Synthase Deficiency. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #605911 HMG-CoA synthase-2 deficiency. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Thompson GN, Hsu BY, Pitt JJ, Treacy E, Stanley CA. Fasting hypoketotic coma in a child with deficiency of mitochondrial 3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase. N Engl J Med. 1997;337(17):1203-1207.
  • Aledo R, Mir C, Dalton RN, et al. Refining the diagnosis of mitochondrial HMG-CoA synthase deficiency. J Inherit Metab Dis. 2006;29(1):207-211.
  • Pitt JJ, Peters H, Boneh A, et al. Mitochondrial 3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA synthase deficiency: urinary organic acid profiles and expanded spectrum of mutations. J Inherit Metab Dis. 2015;38(3):459-466.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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