家族性高インスリン血症性低血糖症2型

Hyperinsulinemic hypoglycemia, familial, 2, KCNJ11

概要

家族性高インスリン血症性低血糖症2型は、血糖を下げるホルモンであるインスリンが、血糖が低いときにも止まらずに出続けてしまうために、重い低血糖をくり返す病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、KCNJ11(11p15.1)遺伝子の変化が原因となります。

多くは生まれて数時間〜数日のうちに低血糖で気づかれます。脳は血液中のブドウ糖を主なエネルギー源としているため、低血糖が続いたりくり返したりすると、けいれんや脳へのダメージにつながるおそれがあります。早く気づいて血糖を保つことが、お子さまの発達を守るうえで何より大切です。

KCNJ11 遺伝子は、変化のしかたによって正反対の病気を起こします。はたらきが弱まる変化ではインスリンが出すぎる(この2型)一方で、はたらきが強まりすぎる変化ではインスリンが出なくなり、生後6か月までに発症する「新生児糖尿病」となります。また、同じ高インスリン血症でも、隣り合う ABCC8 遺伝子が原因のものは1型と呼ばれ、2型より頻度が高いことが知られています。

原因

KCNJ11 は、すい臓でインスリンをつくる細胞(β細胞)にある「カリウムの通り道(KATPチャネル)」の、穴の部分にあたるたんぱく質(Kir6.2)の設計図です。このチャネルは、ABCC8 遺伝子がつくるたんぱく質(SUR1)と組み合わさって、ひとつの部品としてはたらきます。

このチャネルは、血糖が低いときには開いて、インスリンを出す「スイッチ」を切っておく役目をしています。KCNJ11 遺伝子の変化でチャネルが正しくつくられない、または開かないと、スイッチが入りっぱなしになり、血糖が下がってもインスリンが出続けます。その結果、くり返す重い低血糖が起こります。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 生後まもなくからの重い低血糖:多くは生後数日以内に見つかります
  • けいれん、ぐったりする、哺乳がうまくできない:低血糖による症状です
  • ふるえ(振戦)、顔色が悪い、呼吸が止まりかける、体温が低い
  • 大きく生まれる(巨大児):おなかの中でもインスリンが多く出ているためです
  • 大量のブドウ糖を点滴し続けないと血糖が保てないことが特徴です
  • 低血糖が長引いた場合の後遺症:発達の遅れ、てんかんなどが残ることがあります

検査・診断

低血糖が起きているときの血液検査で、本来はほとんど出ていないはずのインスリンが検出されること、脂肪が分解されてできる物質(ケトン体・遊離脂肪酸)が低いこと、グルカゴンという注射で血糖が上がることなどから疑われます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、この型では KCNJ11 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。KCNJ11 や ABCC8 が原因の高インスリン血症には、すい臓全体に異常がある「びまん型」と、一部分だけに異常が集まる「局所型」があり、治療方針が大きく変わります。両方の親から変化を受け継いだ場合は多くがびまん型で、局所型が疑われるときは特殊なPET検査で病変の場所を調べます。

治療

まず何よりも、低血糖をすみやかに防ぎ、脳を守ることが治療の中心です。治療の効き方には個人差があり、この型(両方の親から変化を受け継いだもの)では、のみ薬が効きにくいことが多いとされています。

  • ブドウ糖の点滴と頻回の授乳・栄養:血糖を保つための基本です。胃に管を入れて持続的に栄養を入れることもあります
  • ジアゾキシド(のみ薬):インスリンの分泌をおさえる薬ですが、KATPチャネルそのものが欠けている場合は効きにくいことがあります
  • オクトレオチドなどの注射薬、グルカゴン:ジアゾキシドが効かない場合に使われます
  • 手術:局所型では病変部分を切り取ることで改善が期待できます。薬で血糖が保てないびまん型では、すい臓の大部分を切除することがありますが、将来の糖尿病などに注意が必要です
  • 発達の見守りと療育:低血糖の影響がないか、成長に合わせて確認します

年齢とともに低血糖が起きにくくなり、治療を減らせるお子さまもいます。専門の医療機関で、長期にわたって経過をみていくことが大切です。

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる KCNJ11 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、KCNJ11 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

KCNJ11 は内向き整流性カリウムチャネル Kir6.2 をコードし、SUR1(ABCC8)とともに4:4のヘテロ八量体として膵β細胞のKATPチャネルを構成する。ATP/ADP比の上昇でチャネルが閉じ、膜の脱分極から電位依存性カルシウムチャネルが開いてインスリン分泌が起こる。機能喪失型変異ではチャネルが閉じたままとなり、血糖値に依存しないインスリン分泌が持続する。両アレル性変異によるびまん型は、チャネルが作用点であるジアゾキシドに不応性であることが多い。

KCNJ11 と ABCC8 はいずれも11p15に位置し、局所型の機序が共通する——父由来の片アレル変異に加え、病変部で母由来の11p15領域が体細胞レベルで失われる(父性片親性ダイソミー)ことで局所的な腺腫様過形成が生じる。局所型は散発的に起こり、部分切除で治癒が期待できる一方、次子再発率は低い。また KCNJ11 には、比較的軽症でジアゾキシドに反応しやすい顕性(優性)遺伝の高インスリン血症を起こす変異も報告されている。反対に活性化型変異は永続性新生児糖尿病を起こし、重症例では発達遅滞とてんかんを伴う(DEND症候群)。この病型ではスルホニル尿素薬への切り替えが有効な例が多く、同一遺伝子で病態と治療が正反対になる好例である。

鑑別としては、家族性高インスリン血症性低血糖症1型(ABCC8)、グルタミン酸脱水素酵素(GLUD1)異常による高インスリン血症・高アンモニア血症症候群、GCK・HADH・HNF4A などによる高インスリン血症、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群、糖尿病母体児の一過性高インスリン血症が挙がる。遺伝形式(潜性・顕性・散発性)、びまん型か局所型か、ジアゾキシド反応性がそれぞれ異なるため、遺伝子診断は治療方針と遺伝カウンセリングの双方に直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. 両方の親から変化を受け継いで発症した場合、ご両親はどちらもキャリアのため、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。一方、局所型は父方の変化に偶然の変化が重なって起こるため、次のお子さまで同じことが起こる確率は低いとされています。見通しが大きく異なるため、原因遺伝子と病型を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 超音波検査で赤ちゃんが大きめと言われることはありますが、それだけでこの病気と分かることはほとんどありません。前のお子さまで原因の変化が分かっている場合は、出生前に遺伝学的検査を検討できます。あらかじめ分かっていれば、生まれてすぐに血糖を確認できる施設での出産を準備できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で糖尿病になることもあると聞きました。

A. はい。KCNJ11 遺伝子は、はたらきが弱まるとインスリンが出すぎ(この病気)、はたらきが強まりすぎるとインスリンが出なくなり、新生児糖尿病になります。同じ遺伝子でも変化のしかたによって病気も治療も大きく異なります。また、すい臓を大きく切除する手術を受けた場合には、成長してから糖尿病になることがあります。

Q. 大きくなってからも低血糖は続きますか。

A. 経過には個人差がありますが、年齢とともに低血糖が起こりにくくなり、治療を減らせるお子さまもいます。ただし、乳児期の低血糖の影響が残ることもあるため、血糖の管理とあわせて発達を長く見守っていくことが大切です。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • OMIM #601820 Hyperinsulinemic hypoglycemia, familial, 2; HHF2. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Thomas P, Ye Y, Lightner E. Mutation of the pancreatic islet inward rectifier Kir6.2 also leads to familial persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy. Hum Mol Genet. 1996;5(11):1809-1812.
  • Gloyn AL, Pearson ER, Antcliff JF, et al. Activating mutations in the gene encoding the ATP-sensitive potassium-channel subunit Kir6.2 and permanent neonatal diabetes. N Engl J Med. 2004;350(18):1838-1849.
  • Snider KE, Becker S, Boyajian L, et al. Genotype and phenotype correlations in 417 children with congenital hyperinsulinism. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(2):E355-E363.
  • Rosenfeld E, Ganguly A, De Leon DD. Congenital hyperinsulinism disorders: Genetic and clinical characteristics. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2019;181(4):682-692.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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