家族性高インスリン血症性低血糖症4型

Hyperinsulinemic hypoglycemia, familial, 4, HADH

概要

家族性高インスリン血症性低血糖症4型は、血糖を下げるホルモンであるインスリンが、必要のないときにも出すぎてしまい、低血糖をくり返す病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、HADH 遺伝子の変化が原因となります。

新生児期から乳児期に、けいれん、ぐったりする、哺乳が弱いといった低血糖の症状で気づかれることが多い病気です。低血糖をくり返すと脳に後遺症が残ることがあるため、早く見つけて血糖を保つことがもっとも大切です。一方で、この型では飲み薬(ジアゾキシド)がよく効くことが多く、早めに治療を始めれば、低血糖を防ぎながら成長していけることが期待できます。

家族性高インスリン血症性低血糖症には、原因遺伝子の違いによっていくつもの型があります。4型の特徴は、脂肪をエネルギーに変える酵素の遺伝子(HADH)が原因であること、たんぱく質の多い食事のあとに低血糖が起こりやすいこと、そして薬が効きやすいことが多い点です。もっとも多い1型・2型(ABCC8・KCNJ11 遺伝子)では薬が効かず、膵臓の手術が必要になることがあり、ここが大きな違いです。

原因

HADH は、細胞のなかのミトコンドリアで脂肪酸を分解してエネルギーをつくる過程の一段階を担う酵素(短鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素)の設計図です。この酵素は、膵臓でインスリンをつくる細胞(β細胞)に特に多く含まれています。

β細胞のなかでこの酵素は、アミノ酸に反応してインスリン分泌を強める別の酵素(グルタミン酸脱水素酵素)に「ブレーキ」をかける役割も持っています。HADH がはたらかないとこのブレーキが外れ、食事のたんぱく質(特にロイシンというアミノ酸)に反応してインスリンが出すぎてしまいます。その結果、血糖が下がりすぎます。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • くり返す低血糖:空腹時だけでなく、食後(特にたんぱく質の多い食事のあと)にも起こりやすいのがこの型の特徴です
  • けいれん:低血糖が強いときに起こり、最初に気づかれるきっかけになることが多い症状です
  • ぐったりする、哺乳が弱い、反応が鈍い、ふるえ、顔色が悪い、汗をかく
  • 発症の時期には幅があります:生後数日で見つかることもあれば、離乳食が進んだ乳児期以降に気づかれることもあります
  • 発達の遅れやてんかん:低血糖が長く続いたり、くり返したりした場合に残ることがあります
  • 同じご家族のなかでも症状の重さに差があり、軽い場合は気づかれにくいことがあります

検査・診断

低血糖が起きているときの血液検査で、血糖が低いにもかかわらずインスリンが抑えられていないこと、ケトン体や遊離脂肪酸が上がっていないことから、高インスリン血症が疑われます。グルカゴンの注射で血糖がよく上がることも手がかりになります。

この型では、血液の「3-ヒドロキシブチリルカルニチン」や尿の「3-ヒドロキシグルタル酸」が高くなることがあり、診断の手がかりになります。ただし、これらがはっきり上がらない例もあります。また、たんぱく質(ロイシン)を負荷する検査で低血糖が起こりやすいことも特徴です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、4型では HADH 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。原因遺伝子によって薬の効きやすさ、手術が必要かどうか、次のお子さまの見通しが変わるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

治療の目標は、低血糖を防いで脳を守ることです。この型ではジアゾキシドという飲み薬がよく効くことが多いとされていますが、効き方や副作用には個人差があるため、専門の医師のもとで量を調整します。

  • 低血糖が起きたときの対応:ブドウ糖の点滴やグルカゴンの注射で血糖を上げます
  • ジアゾキシド:インスリンの分泌を抑える飲み薬です。むくみや毛深くなるなどの副作用に注意しながら使います
  • 食事の工夫:空腹の時間を長くしないこと、たんぱく質の多い食事のとり方などを、医師・栄養士と相談します
  • ご家庭での血糖測定:体調を崩したときや食事が十分にとれないときの対応を、あらかじめ決めておきます
  • 発達の定期的な確認:必要に応じて療育やリハビリテーションの支援を受けます

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる HADH 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HADH 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

HADH はミトコンドリアβ酸化の短鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(SCHAD)をコードし、膵β細胞で高発現する。SCHAD 欠損症は脂肪酸酸化異常症に分類されるが、主な臨床像は低ケトン性の高インスリン性低血糖であり、心筋症・骨格筋症状・肝障害を伴うことは一般的でない点で、ほかのβ酸化異常症と異なる。

高インスリン血症の機序はβ酸化障害そのものではなく、SCHAD とグルタミン酸脱水素酵素(GDH)のたんぱく質間相互作用の消失による。SCHAD は GDH を抑制的に制御しており、欠損するとGDH 活性が亢進し、ロイシン刺激によるインスリン分泌が過剰になる。このため、GLUD1 活性化変異による高インスリン血症・高アンモニア血症症候群(6型)と同様にたんぱく質誘発性低血糖を示すが、4型では高アンモニア血症を伴わない点が鑑別に役立つ。生化学的には血漿3-ヒドロキシブチリルカルニチン(C4-OH)と尿中3-ヒドロキシグルタル酸の上昇が手がかりとなるが、正常範囲の例も報告されている。

鑑別としては、1型(ABCC8)・2型(KCNJ11)の KATP チャネル異常症(ジアゾキシド不応例が多く、局所型では膵部分切除が根治的となる)、3型(GCK、顕性)、6型(GLUD1、顕性)、7型(SLC16A1、運動誘発性)が挙がる。HADH 変異は、血族婚の多い集団でジアゾキシド反応性の持続性高インスリン血症の原因として比較的多く同定されており、病変は膵全体に及ぶびまん性である。遺伝形式と治療反応性が型ごとに異なるため、遺伝子診断は治療方針と遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。高インスリン血症には顕性遺伝の型や、偶発的に起こるものもあり、型によって再発率が異なります。原因遺伝子を確定することが、正確な見通しにつながります。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は妊娠中の超音波検査では見つけにくく、多くは生まれたあとの低血糖で気づかれます。前のお子さまで原因遺伝子が分かっている場合は、出生前の遺伝学的検査を検討できます。また、あらかじめ分かっていれば、生まれてすぐから血糖を確認し、低血糖を早く防ぐ準備ができます。

Q. ほかの型とはどう違いますか。

A. 4型は HADH 遺伝子が原因で、たんぱく質の多い食事のあとに低血糖が起こりやすく、飲み薬(ジアゾキシド)が効きやすいことが特徴です。もっとも多い1型・2型では薬が効かずに膵臓の手術が必要になる場合があり、6型では血液中のアンモニアも高くなります。

Q. 大きくなれば治りますか。

A. 成長とともに低血糖が起こりにくくなり、薬を減らせる方もいますが、経過には個人差があります。治療を続けているあいだも、成長に合わせて薬の量や食事を見直していきます。低血糖をくり返さないよう管理を続けることが、将来の発達を守ることにつながります。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Clayton PT, Eaton S, Aynsley-Green A, et al. Hyperinsulinism in short-chain L-3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase deficiency reveals the importance of beta-oxidation in insulin secretion. J Clin Invest. 2001;108(3):457-465.
  • Molven A, Matre GE, Duran M, et al. Familial hyperinsulinemic hypoglycemia caused by a defect in the SCHAD enzyme of mitochondrial fatty acid oxidation. Diabetes. 2004;53(1):221-227.
  • Flanagan SE, Patch AM, Locke JM, et al. Genome-wide homozygosity analysis reveals HADH mutations as a common cause of diazoxide-responsive hyperinsulinemic-hypoglycemia in consanguineous pedigrees. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(3):E498-E502.
  • Thornton PS, Stanley CA, De Leon DD, et al. Recommendations from the Pediatric Endocrine Society for evaluation and management of persistent hypoglycemia in neonates, infants, and children. J Pediatr. 2015;167(2):238-245.
  • OMIM #609975 Hyperinsulinemic hypoglycemia, familial, 4; HHF4. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

AIチャットで相談する AIチャット