概要
免疫不全・動原体不安定性・顔面奇形症候群1型(ICF症候群1型)は、体を感染から守る抗体(免疫グロブリン)が十分につくられないために感染をくり返し、あわせて特徴的なお顔立ちと、染色体の一部が不安定になる性質をもつ病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、DNMT3B(20q11.21)遺伝子の変化が原因となります。
病名の「ICF」は、この病気の3つの特徴である免疫不全(I)・動原体(セントロメア)付近の不安定性(C)・顔の特徴(F)の頭文字です。多くは乳児期から幼児期に、肺炎や中耳炎、長引く下痢などの感染症をくり返すことで気づかれます。妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。
ICF症候群には原因遺伝子の違いによって1型から4型までがあり、1型は DNMT3B 遺伝子が原因の型で、ICF症候群のなかでもっとも多く、全体のおよそ半数を占めます。2型(ZBTB24)、3型(CDCA7)、4型(HELLS)は別の遺伝子が原因です。1型では、染色体の変化が「動原体のすぐ周り」の領域に限られることが特徴で、知的発達の遅れは2〜4型と比べると目立たないことが多いと報告されています。
原因
DNMT3B は、DNAに「メチル化」という目印をつける酵素(DNAメチル基転移酵素)の設計図となる遺伝子です。
DNAのメチル化は、遺伝子のスイッチを切ったり、染色体の形を安定させたりする大切なしくみです。DNMT3B のはたらきが弱まると、1番・9番・16番染色体の動原体のすぐ周りにある、同じ配列がくり返す領域にメチル化の目印がつかなくなります。その結果、この部分がほどけやすくなり、染色体がちぎれたりくっついたりする「動原体付近の不安定性」が起こります。あわせて、抗体をつくる細胞(B細胞)が十分に成熟できなくなり、抗体が不足すると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- くり返す感染症:肺炎・気管支炎・中耳炎・副鼻腔炎などが乳幼児期から何度も起こります。この病気でもっとも注意が必要な症状です
- 抗体(免疫グロブリン)の低下:血液検査で免疫グロブリンが低い、またはほとんど無いことがわかります
- 長引く下痢と体重の増えにくさ:腸の感染などにより、成長がゆっくりになることがあります
- 特徴的なお顔立ち:目と目の間が広い、鼻の付け根が低い、内眼角の皮膚のひだ、耳の位置が低い、舌が大きい、あごが小さいなど(目立たない方もいます)
- 発達の遅れ:運動や言葉の発達がゆっくりなことがありますが、1型では軽いか、見られない方も少なくありません
- そのほか、低身長、貧血や血小板の減少などが見られることがあります
検査・診断
乳幼児期のくり返す感染症と、血液検査での免疫グロブリンの低下から免疫不全症が疑われます。そのうえで、血液のリンパ球を培養して染色体を調べると、1番・9番・16番染色体の動原体付近に、ほどけたり複数の染色体がつながったりした特徴的な変化が見つかり、ICF症候群の診断の手がかりとなります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ICF症候群1型では DNMT3B 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。ICF症候群は1〜4型で原因遺伝子が異なるため、どの遺伝子が原因かを確定することは、ご本人の見通しと次のお子さまの検査の両方に大きな意味があります。
治療
現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。ただし、不足している抗体を補い、感染を防ぐ治療によって、感染症を減らし経過を改善できることがわかっています。早く診断して治療を始めることが大切です。
- 免疫グロブリン補充療法:点滴または皮下注射で、定期的に抗体を補います。治療の中心となるものです
- 感染症の予防と早めの治療:必要に応じて抗菌薬を予防的に使い、感染が起きたときは早めに治療します
- 造血幹細胞移植:重い感染をくり返す場合などに検討されることがあり、有効だった報告があります。一方で合併症の危険もあるため、専門施設で慎重に判断します
- 栄養の支援:下痢や体重の増えにくさに対して、栄養状態を整えます
- 発達への支援:発達の遅れがある場合は、療育やリハビリテーションで成長を支えます
- ご家族への遺伝カウンセリングと継続的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる DNMT3B 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、DNMT3B 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
DNMT3B は新規(de novo)DNAメチル化を担うDNAメチル基転移酵素で、胚発生期にゲノムのメチル化パターンを確立する。ICF1では1・9・16番染色体傍動原体領域の古典的サテライト(サテライト2・3)の低メチル化が生じ、刺激リンパ球の染色体標本で傍動原体ヘテロクロマチンの脱凝縮、切断、多放射状構造(multiradial configuration)が観察される。
ICF症候群は遺伝的異質性をもち、ICF1(DNMT3B)、ICF2(ZBTB24)、ICF3(CDCA7)、ICF4(HELLS)に分類される。ICF2〜4では傍動原体サテライトに加えて動原体のαサテライトも低メチル化を示すのに対し、ICF1ではαサテライトのメチル化は保たれる点が分子レベルの鑑別点となる。臨床的にはICF2〜4で知的障害の頻度が高い傾向が報告されている。ICF1の病的バリアントは触媒ドメインのミスセンス変異が多く、複合ヘテロ接合が多い。マウスでは Dnmt3b の完全欠損が胎生致死となることから、患者では残存酵素活性が保たれていると考えられる。
鑑別としては、分類不能型免疫不全症(CVID)、X連鎖無ガンマグロブリン血症(BTK)などの抗体産生不全症、および染色体不安定性を示すナイミーヘン症候群(NBN)、毛細血管拡張性運動失調症(ATM)が挙がる。抗体産生不全の乳幼児で顔貌の特徴や発達遅滞を伴う場合はICF症候群を念頭に染色体検査・遺伝子検査を行うべきであり、免疫グロブリン補充の早期導入が予後を左右する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。キャリアのお子さまは、通常は症状がありません。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査ではほとんど見つかりません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 1型とほかの型はどう違いますか。
A. どの型も感染をくり返す免疫不全が中心ですが、原因となる遺伝子が異なります。1型は DNMT3B 遺伝子が原因でもっとも多い型です。2〜4型と比べると、知的発達の遅れが目立たないことが多いと報告されていますが、症状の出方には個人差があります。
Q. 治療をすれば普通に生活できますか。
A. 免疫グロブリン補充療法を続けることで、感染症を減らし、通園・通学など日常生活を送れる方もいます。ただし、治療は長く続ける必要があり、重い感染症や合併症に注意が必要です。経過には個人差があるため、主治医とよく相談してください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Xu GL, Bestor TH, Bourc’his D, et al. Chromosome instability and immunodeficiency syndrome caused by mutations in a DNA methyltransferase gene. Nature. 1999;402(6758):187-191.
- Hansen RS, Wijmenga C, Luo P, et al. The DNMT3B DNA methyltransferase gene is mutated in the ICF immunodeficiency syndrome. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(25):14412-14417.
- de Greef JC, Wang J, Balog J, et al. Mutations in ZBTB24 are associated with immunodeficiency, centromeric instability, and facial anomalies syndrome type 2. Am J Hum Genet. 2011;88(6):796-804.
- Thijssen PE, Ito Y, Grillo G, et al. Mutations in CDCA7 and HELLS cause immunodeficiency-centromeric instability-facial anomalies syndrome. Nat Commun. 2015;6:7870.
- Weemaes CM, van Tol MJ, Wang J, et al. Heterogeneous clinical presentation in ICF syndrome: correlation with underlying gene defects. Eur J Hum Genet. 2013;21(11):1219-1225.
- OMIM #242860 Immunodeficiency-centromeric instability-facial anomalies syndrome 1; ICF1. Online Mendelian Inheritance in Man.
