概要
メチルマロン酸血症・ホモシスチン尿症 cblD型は、ビタミンB12(コバラミン)を体のなかで使える形に変えるしくみがうまくはたらかないために、メチルマロン酸やホモシステインという物質がたまる先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MMADHC(2q23.2)遺伝子の変化が原因となります。
ビタミンB12の代謝異常には、原因遺伝子ごとに cblC型・cblD型・cblF型などいくつかの型があります。そのなかで cblD型は報告例が非常に少ないまれな型です。発症の時期は新生児期から学童期以降まで幅があり、発達の遅れ、筋力の低下、けいれん、貧血などで気づかれます。
cblD型のいちばんの特徴は、同じ MMADHC 遺伝子の変化でも、変化の場所によって「メチルマロン酸とホモシステインの両方がたまる型」「ホモシステインだけがたまる型」「メチルマロン酸だけがたまる型」の3つに分かれることです。このページの病名は両方がたまる型を指しますが、同じ遺伝子による3つの型をあわせて説明します。
原因
MMADHC 遺伝子は、細胞のなかに取り込まれたビタミンB12を、はたらく場所ごとに振り分ける「交通整理役」のたんぱく質の設計図です。
ビタミンB12は細胞のなかで2つの形に変えられて使われます。ひとつはミトコンドリアでメチルマロン酸の分解を助ける形(アデノシルコバラミン)、もうひとつは細胞質でホモシステインをメチオニンに戻す反応を助ける形(メチルコバラミン)です。MMADHC のはたらきが失われると、この振り分けができず、メチルマロン酸が分解されずにたまり、ホモシステインも高くなります。どちらの経路が強く妨げられるかによって、上で述べた3つの型が生じます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 発達の遅れ・知的障害:多くの方にみられ、程度はさまざまです
- 筋緊張の低下、けいれん、ふらつき(運動失調)
- 巨赤芽球性貧血:赤血球が大きく数が少なくなる貧血で、ホモシステインがたまる型で目立ちます
- 哺乳不良、体重が増えにくい
- 代謝の急な悪化(嘔吐、意識の低下、血液が酸性に傾く):メチルマロン酸がたまる型で、感染症などをきっかけに起こることがあります
- 行動の問題、視力の低下などが年長になってから現れることもあります
- 血栓(血のかたまり)ができやすくなること:ホモシステインが高い状態が続くと起こりえます
検査・診断
血液・尿の検査で、メチルマロン酸の増加、総ホモシステインの増加、メチオニンの低下がみられることから疑われます。新生児マススクリーニングでメチルマロン酸のたまる型が見つかることもありますが、ホモシステインだけがたまる型はマススクリーニングで見つかりにくいとされています。
ビタミンB12代謝異常には cblC型など症状の似た型が複数あるため、確定診断は遺伝学的検査で行い、cblD型では MMADHC 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。型によって治療の組み立てや見通しが変わり、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするためにも、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
遺伝子の変化そのものを治す治療はありませんが、早く診断して治療を続けることで、症状をやわらげたり、悪化を防いだりできる場合があります。効果には個人差があり、すでに起きた神経の障害が元に戻らないこともあります。治療は代謝の専門医のもとで、生涯にわたって続けます。
- ビタミンB12(ヒドロキソコバラミン)の注射:治療の中心となります
- ベタイン:ホモシステインをメチオニンに戻す別の経路を助け、ホモシステインを下げます
- 葉酸(またはフォリン酸)、カルニチンの補充
- メチルマロン酸がたまる型では、たんぱく質の摂り方の調整:栄養士と相談しながら、成長に必要な量を保ちます
- 体調をくずしたときの早めの受診と点滴:代謝の急な悪化を防ぎます
- 発達支援・リハビリテーション、けいれんの治療、眼科での定期的な診察
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MMADHC 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MMADHC 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
MMADHC がコードするたんぱく質(CblD)は、N末端にミトコンドリア移行シグナルをもち、細胞質では MMACHC(CblC)と相互作用して、脱アルキル化されたコバラミンをミトコンドリアのアデノシルコバラミン合成(メチルマロニルCoAムターゼの補酵素)と、細胞質のメチルコバラミン合成(メチオニン合成酵素の補酵素)へ振り分ける分岐点に位置すると考えられている。
cblD型は、1つの遺伝子で3つの生化学的表現型を示す点で、ビタミンB12代謝異常のなかでも特異である——①両経路が障害される複合型(メチルマロン酸血症+ホモシスチン尿症)、②メチルコバラミン経路のみが障害される単独ホモシスチン尿症型、③アデノシルコバラミン経路のみが障害される単独メチルマロン酸血症型である。N末端側の短縮型変異では下流の開始コドンから翻訳が再開され、細胞質機能が保たれるため単独メチルマロン酸血症型となり、C末端側のミスセンス変異などでは単独ホモシスチン尿症型、両経路の機能が失われる変異の組み合わせでは複合型になると報告されている。患者数は限られており、遺伝型と臨床経過の対応はなお蓄積段階にある。
鑑別としては、cblC型(MMACHC、複合型でもっとも頻度が高い)、cblF型(LMBRD1)、cblJ型(ABCD4)、単独ホモシスチン尿症を示す cblE型(MTRR)・cblG型(MTR)・MTHFR欠損症、単独メチルマロン酸血症を示すムターゼ欠損症(MMUT)や cblA型・cblB型が挙がる。生化学所見だけでは型を区別しにくく、治療方針と遺伝カウンセリングのために遺伝子診断が重要である。母体のビタミンB12欠乏による乳児の二次性異常も除外を要する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。同じご家族のなかでは、通常は同じ型(複合型・単独型)になると考えられますが、症状の重さには差が出ることがあります。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が確定している場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. ビタミンB12をたくさん摂れば防げますか。
A. 食事やサプリメントでビタミンB12を摂っても、体のなかで使える形に変えるしくみがはたらかないため、それだけでは防げません。治療では、医師の管理のもとで大量のビタミンB12を注射で補い、ほかの薬や食事の調整と組み合わせます。
Q. cblC型など、ほかの型とは何が違いますか。
A. 原因となる遺伝子が異なります。cblC型は MMACHC 遺伝子が原因で、この仲間のなかではもっとも多い型です。cblD型は MMADHC 遺伝子が原因で、変化の場所によってメチルマロン酸だけ、ホモシステインだけ、またはその両方がたまるという点が特徴です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Coelho D, Suormala T, Stucki M, et al. Gene identification for the cblD defect of vitamin B12 metabolism. N Engl J Med. 2008;358(14):1454-1464.
- Suormala T, Baumgartner MR, Coelho D, et al. The cblD defect causes either isolated or combined deficiency of methylcobalamin and adenosylcobalamin synthesis. J Biol Chem. 2004;279(41):42742-42749.
- Stucki M, Coelho D, Suormala T, et al. Molecular mechanisms leading to three different phenotypes in the cblD defect of intracellular cobalamin metabolism. Hum Mol Genet. 2012;21(6):1410-1418.
- Huemer M, Diodato D, Schwahn B, et al. Guidelines for diagnosis and management of the cobalamin-related remethylation disorders cblC, cblD, cblE, cblF, cblG, cblJ and MTHFR deficiency. J Inherit Metab Dis. 2017;40(1):21-48.
- OMIM #277410 Methylmalonic aciduria and homocystinuria, cblD type. Online Mendelian Inheritance in Man.
