メチルマロニルCoAエピメラーゼ欠損症

Methylmalonyl-CoA epimerase deficiency, MCEE

概要

メチルマロニルCoAエピメラーゼ欠損症は、たんぱく質や一部の脂肪を分解する途中の段階がうまく進まず、「メチルマロン酸」という物質が尿に増える先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MCEE(2p13.3)遺伝子の変化が原因となります。

この病気は「メチルマロン酸血症」と呼ばれる病気のグループに含まれますが、代表的なメチルマロン酸血症と比べて、メチルマロン酸の増え方は軽度〜中等度にとどまることが多いのが特徴です。まったく症状のない方がいる一方で、かぜや胃腸炎、絶食をきっかけに、体が酸性に傾く発作(代謝性アシドーシス)を起こす方もいます。報告されている患者さんは世界でもまだ少なく、分かっていないことも残されています。

メチルマロン酸血症には、原因となる遺伝子が異なるいくつかの型があります。もっとも多く重症になりやすいのはメチルマロニルCoAムターゼ(MMUT 遺伝子)の欠損で、この型はその一つ手前の段階の酵素が欠けている点が異なります。また、ビタミンB12の投与で改善する型とは違い、この型ではビタミンB12は効果を示さないと考えられています。

原因

MCEE は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアではたらくメチルマロニルCoAエピメラーゼという酵素の設計図です。

食べ物に含まれる一部のアミノ酸(イソロイシン、バリン、メチオニン、トレオニン)や奇数の長さの脂肪酸などは、分解されると「プロピオン酸」を経て「メチルマロニルCoA」になります。メチルマロニルCoAには左右の手のように形が鏡写しになった2種類があり、エピメラーゼは一方の形をもう一方の形へ変える役目を持っています。次の段階の酵素は変換されたあとの形しか使えないため、エピメラーゼがはたらかないと分解が滞り、メチルマロン酸などがたまります。

ただし、この形の変換は酵素がなくてもわずかに自然に起こると考えられており、これが他の型に比べて症状が軽いことが多い理由の一つとされています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

症状の出方には大きな個人差があります。同じ遺伝子の変化を持つごきょうだいでも、症状のある方とない方がいることが報告されています。

  • 無症状:新生児マススクリーニングや、ごきょうだいの検査で偶然見つかり、症状がないまま過ごす方もいます
  • 代謝性アシドーシス・ケトアシドーシスの発作:感染症や絶食、嘔吐などをきっかけに起こりやすく、この病気でもっとも注意すべき症状です
  • 嘔吐、哺乳不良、ぐったりする、意識がぼんやりする
  • 血液中のアンモニアが上がる、血糖が下がるなどの検査値の異常
  • 神経の症状:一部の方で、歩行のふらつき、話しにくさ、足のつっぱり、けいれんなどが報告されています
  • 発達の遅れが見られた例もありますが、この病気との関係がはっきりしないものも含まれます

検査・診断

日本では、生まれて数日の赤ちゃんに行う新生児マススクリーニングで、血液中のプロピオニルカルニチン(C3)の上昇からメチルマロン酸血症の仲間として見つかることがあります。ただし、この型では数値の上がり方が軽いため、スクリーニングで見つからない場合もあります。

精密検査では、尿中有機酸分析で、メチルマロン酸の軽度〜中等度の増加と、メチルクエン酸などの増加が確認されます。血液中のビタミンB12やホモシステインは通常正常で、ビタミンB12の不足や他の型との区別に役立ちます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、メチルマロニルCoAエピメラーゼ欠損症では MCEE 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。メチルマロン酸血症は原因遺伝子によって治療の方針や見通しが異なるため、型を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。症状のない方も多く、どこまでの管理が必要かは一人ひとり異なります。代謝疾患の専門医と相談しながら、発作を防ぐことを中心に方針を決めていきます。

  • 長い絶食を避ける:特に体調を崩したときは、糖分を中心に早めに栄養をとります
  • 体調不良時の対応(シックデイ対策):嘔吐が続く・食べられないときは早めに受診し、必要に応じてブドウ糖の点滴を受けます。主治医からの説明書を持っておくと安心です
  • 食事の調整:症状や検査値に応じて、たんぱく質のとり方を栄養士と相談することがあります
  • L-カルニチンの補充:たまった物質を体の外へ出しやすくする目的で使われることがあります
  • 定期的な通院:成長・発達や神経の症状、検査値を継続して確認します

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる MCEE 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MCEE 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

MCEE はミトコンドリアマトリックスに局在するメチルマロニルCoAエピメラーゼ(ラセマーゼ)をコードする。プロピオニルCoAカルボキシラーゼが生成する (S)-メチルマロニルCoA を (R)-メチルマロニルCoA へ変換し、後者がアデノシルコバラミン依存性のメチルマロニルCoAムターゼ(MMUT)によりスクシニルCoAへ異性化される。本酵素はコバラミンを補酵素としないため、ヒドロキソコバラミン投与への反応は期待されない。

2006年に2つのグループが独立して、軽度メチルマロン酸尿症の患者で MCEE のホモ接合性ナンセンス変異 c.139C>T(p.Arg47*)を報告し、以後もこの変異が多くの症例で繰り返し見つかっている。生化学的には尿中メチルマロン酸の軽度〜中等度の上昇に加え、メチルクエン酸、プロピオニルカルニチン(C3)の上昇を示す。非酵素的なラセミ化や代替経路により一定の代謝流が保たれることが、ムターゼ欠損(mut0)に比べ表現型が軽い理由と推定されているが、急性代謝不全や痙性対麻痺・失調などの神経症状を呈した例もあり、報告数が少なく自然歴は確立していない。症例の多くは有症状例やその同胞の解析から見つかっており、遺伝型と表現型の関係にも不明な点が多い。

鑑別としては、ムターゼ欠損(MMUT)、コバラミン代謝異常の cblA(MMAA)・cblB(MMAB)・cblD 変異型2(MMADHC)、ホモシスチン尿症を伴う cblC(MMACHC)、スクシニルCoAリガーゼ欠損(SUCLA2、SUCLG1)、ACSF3 関連の CMAMMA、さらに母体または児のビタミンB12欠乏が挙がる。いずれもメチルマロン酸が上昇しうるが、治療反応性(B12反応性の有無)と予後が大きく異なるため、遺伝子診断による病型の確定が管理方針の決定に直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。キャリアの方は通常、症状がありません。

Q. 症状がないと言われました。治療は必要ですか。

A. この病気では、症状がないまま過ごす方も少なくありません。ただし、体調を崩したときに発作を起こす可能性は否定できないため、体調不良時の対応を主治医と決めておき、定期的に経過を確認することが勧められます。

Q. ほかのメチルマロン酸血症とは何が違うのですか。

A. 原因となる酵素が違い、この型は一般に軽症で、ビタミンB12は効かないと考えられています。もっとも多いムターゼ欠損症では、新生児期から重い発作や腎臓の障害などが起こりうるため、より厳格な治療が必要です。どの型かによって見通しや治療が変わるため、遺伝子で確かめることが大切です。

Q. 新生児マススクリーニングで見つかりますか。

A. 見つかることはありますが、数値の上がり方が軽いため、見つからない場合もあります。ご家族にこの病気の方がいる場合は、スクリーニングの結果にかかわらず、主治医にお伝えください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Bikker H, Bakker HD, Abeling NG, et al. A homozygous nonsense mutation in the methylmalonyl-CoA epimerase gene (MCEE) results in mild methylmalonic aciduria. Hum Mutat. 2006;27(7):640-643.
  • Dobson CM, Gradinger A, Longo N, et al. Homozygous nonsense mutation in the MCEE gene and siRNA suppression of methylmalonyl-CoA epimerase expression: a novel cause of mild methylmalonic aciduria. Mol Genet Metab. 2006;88(4):327-333.
  • Baumgartner MR, Hörster F, Dionisi-Vici C, et al. Proposed guidelines for the diagnosis and management of methylmalonic and propionic acidemia. Orphanet J Rare Dis. 2014;9:130.
  • Manoli I, Sloan JL, Venditti CP. Isolated Methylmalonic Acidemia. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #251120 Methylmalonic aciduria due to methylmalonyl-CoA epimerase deficiency. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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