モリブデン補酵素欠損症A型

Molybdenum Cofactor Deficiency A, MOCS1

概要

モリブデン補酵素欠損症A型は、体のなかでいくつかの酵素をはたらかせるのに必要な「モリブデン補酵素」をつくれないために、生まれてまもなく強いけいれんと脳の障害が起こる先天代謝異常症です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MOCS1(6p21)遺伝子の変化が原因となります。

多くは生後数日以内に、薬が効きにくいけいれん、哺乳不良、筋肉の緊張の異常で発症します。有害な物質(亜硫酸)が体にたまって脳を傷つけるため、治療をしなければ重い発達の障害が残り、乳幼児期に亡くなることも多い病気です。妊娠中の超音波検査では気づかれにくく、生まれてから見つかることがほとんどです。

モリブデン補酵素欠損症には、原因遺伝子によってA型(MOCS1)、B型(MOCS2・MOCS3)、C型(GPHN)があります。症状はよく似ていますが、A型は報告されている患者さんの多く(およそ3分の2)を占め、補酵素づくりの最初の段階が止まる型です。この型に限って、不足する物質を補う薬(ホスデノプテリン)による治療が開発されている点が、ほかの型との大きな違いです。

原因

MOCS1 は、モリブデン補酵素をつくる工程のいちばん最初の段階を担う酵素の設計図です。この段階では、材料から「環状ピラノプテリン一リン酸(cPMP)」という中間物質がつくられます。

モリブデン補酵素は、亜硫酸を無害な硫酸に変える酵素(亜硫酸酸化酵素)などに欠かせません。補酵素がつくれないと亜硫酸やその関連物質が体にたまり、とくに脳の神経細胞が強く傷つきます。また、尿酸をつくる酵素もはたらかなくなるため、血液や尿の尿酸がとても低くなることも特徴です。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 新生児期の難治性けいれん:生後数日以内に始まり、通常の抗てんかん薬が効きにくいことが多い最も代表的な症状です
  • 哺乳不良、嘔吐、ぐったりするなど、元気のなさ
  • 筋肉の緊張の異常:体がやわらかすぎる、または強くつっぱる
  • 脳の障害:MRIで、出生時の酸素不足(低酸素性虚血性脳症)に似た変化や、脳の萎縮・嚢胞が見られます
  • 重い発達の遅れ、頭が小さくなる(小頭症)
  • 目の水晶体のずれ(水晶体偏位):成長とともに見られることがあります
  • 特徴的な顔つき(幅の広い鼻すじ、ふっくらした頬など)が指摘されることがあります
  • まれに、症状が軽く、乳児期以降に発症する例も報告されています

検査・診断

新生児のけいれんや脳の画像の変化から疑われ、尿の亜硫酸やS-スルホシステインの増加、尿中キサンチンの増加、血液・尿の尿酸の著しい低下を調べることで診断に近づきます。出生時の酸素不足による脳症と見分けがつきにくいため、原因がはっきりしない新生児のけいれんでは、この病気を念頭に置いた検査が大切です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、A型では MOCS1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。A型かどうかで使える治療が変わるため、できるだけ早く型を確定することに大きな意味があります。

治療

A型では、つくれない中間物質(cPMP)を点滴で補う治療(ホスデノプテリン)が開発され、海外では承認されています。生後早い時期に始めることで、亜硫酸などの値が下がり、けいれんが落ち着いた例が報告されています。ただし、すでに起きた脳の障害をもとに戻すことは難しく、効果は治療を始める時期に大きく左右されます。また、生涯にわたって続ける必要があり、国や地域によって使える状況が異なります。B型・C型には効果が期待できない治療です。

  • cPMP補充療法:A型と確定(または強く疑われた)早期に検討されます
  • けいれんへの対応:抗てんかん薬などで症状をやわらげます
  • 栄養と食事の工夫:経管栄養や、含硫アミノ酸を控えた食事が試みられることがあります
  • リハビリテーションと療育:姿勢・呼吸・発達を支えます
  • ご家族への心理的支援:在宅での医療的ケアを含め、継続的な支えが必要です

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる MOCS1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MOCS1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

MOCS1 は二つの読み枠をもつ遺伝子で、ラジカルSAM酵素 MOCS1A と MOCS1B を産生し、GTP から環状ピラノプテリン一リン酸(cPMP)への変換というモリブデン補酵素(MoCo)生合成の第一段階を担う。MoCo は亜硫酸酸化酵素、キサンチン脱水素酵素、アルデヒド酸化酵素、mARCの活性に必須であり、神経障害の主因は亜硫酸酸化酵素欠損による亜硫酸・S-スルホシステインの蓄積と考えられている。

相補群による分類——A型(MOCS1、cPMP 合成障害)、B型(MOCS2・MOCS3、cPMP からモリブドプテリンへの変換障害)、C型(GPHN、モリブデン挿入障害)。臨床像はほぼ共通だが、A型のみ cPMP の外因性補充(ホスデノプテリン)が下流経路を回復させうる。前向きコホート研究では、早期開始例でバイオマーカーの正常化と神経学的転帰の改善が示された一方、発症後の開始例では既存の脳障害は改善しない。自然歴の解析では生存期間の中央値は数年程度と報告される。

鑑別としては、孤発性亜硫酸酸化酵素欠損症(SUOX、尿酸は正常)、低酸素性虚血性脳症、ピリドキシン依存性てんかん、非ケトーシス型高グリシン血症などが挙がる。尿酸低値は MoCD と孤発性亜硫酸酸化酵素欠損症を分ける手がかりとなり、さらに型の確定は治療適応に直結するため、遺伝子診断を速やかに行う意義が大きい。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。前のお子さまで原因遺伝子の変化がわかっていれば、次の妊娠で出生前検査や着床前検査を検討することができます。

Q. 妊娠中の超音波検査で分かりますか。

A. 多くの場合、妊娠中の超音波検査では目立った変化がなく、生まれてからのけいれんで気づかれます。そのため、ご家族歴がある場合などは、遺伝子を調べる検査が見通しを知る手がかりになります。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. B型やC型とは何が違うのですか。

A. 症状はよく似ていますが、原因となる遺伝子と、補酵素づくりの止まる段階が違います。A型は最初の段階が止まる型で、その段階でつくられる物質を補う治療が開発されています。B型・C型にはこの治療の効果は期待できないため、型を確かめることが大切です。

Q. 治療をすれば普通に育ちますか。

A. 生後早くに治療を始められたお子さまでは、けいれんが落ち着き、発達が比較的保たれた例も報告されています。ただし、効果には個人差があり、すでに起きた脳の障害を戻すことは難しいとされています。生まれる前から病気の可能性がわかっていると、早く治療を始める準備がしやすくなります。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Reiss J, Cohen N, Dorche C, et al. Mutations in a polycistronic nuclear gene associated with molybdenum cofactor deficiency. Nat Genet. 1998;20(1):51-53.
  • Veldman A, Santamaria-Araujo JA, Sollazzo S, et al. Successful treatment of molybdenum cofactor deficiency type A with cPMP. Pediatrics. 2010;125(5):e1249-e1254.
  • Schwahn BC, Van Spronsen FJ, Belaidi AA, et al. Efficacy and safety of cyclic pyranopterin monophosphate substitution in severe molybdenum cofactor deficiency type A: a prospective cohort study. Lancet. 2015;386(10007):1955-1963.
  • Mechler K, Mountford WK, Hoffmann GF, Ries M. Ultra-orphan diseases: a quantitative analysis of the natural history of molybdenum cofactor deficiency. Genet Med. 2015;17(12):965-970.
  • OMIM #252150 Molybdenum cofactor deficiency, complementation group A. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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