概要
マルチミニコア病は、生まれつき筋肉の力が弱く、筋肉の細胞のなかに「コア」と呼ばれる小さな変化が多数みられる先天性ミオパチーです。RYR1 遺伝子の変化が原因となる場合、多くは常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとります。
この病気でもっとも大切な注意点は、全身麻酔で「悪性高熱症」を起こすリスクがあることです。手術や歯科治療の際には、必ず病名を伝えてください。
原因
RYR1 遺伝子は、骨格筋の細胞にあるリアノジン受容体1というカルシウムの放出口の設計図です。筋肉は、この放出口からカルシウムが出ることで収縮します。
この遺伝子に変化があるとカルシウムの調節がうまくいかず、筋肉が十分に収縮できなくなります。また、特定の麻酔薬(揮発性吸入麻酔薬、スキサメトニウム)によって放出口が開きっぱなしになり、悪性高熱症を起こすことがあります。
症状
- 生まれたときからの筋緊張の低下(体がやわらかい)
- 運動発達の遅れ(首すわり、おすわり、歩行の遅れ)
- 体幹・肩・股関節まわりの筋力低下
- 脊柱側弯(進行することがあります)
- 呼吸機能の低下(夜間の低換気から始まることがあります)
- 関節の拘縮
- 眼球運動障害(眼筋麻痺)を伴う型がある
- 悪性高熱症のリスク
- 知能は保たれます
検査・診断
筋力低下の様子、血液検査(CKは正常〜軽度上昇)、筋MRI(特徴的な筋の障害パターン)、筋生検(多数のミニコア)から診断します。RYR1 遺伝子の解析によって確定します。SELENON(SEPN1) が原因の型もあり、区別が必要です。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 悪性高熱症を避けるための麻酔管理(もっとも重要です):揮発性吸入麻酔薬とスキサメトニウムを使わない麻酔を選びます
- 理学療法、装具による関節拘縮の予防
- 脊柱側弯に対する定期的な評価と、必要に応じた手術
- 呼吸機能の定期的な評価(夜間の低換気に対する非侵襲的換気療法)
- 栄養の管理、嚥下の評価
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる RYR1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、RYR1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
マルチミニコア病(multiminicore disease, MmD)は先天性ミオパチーの一群で、責任遺伝子として RYR1(19q13.2)と SELENON(SEPN1)(1p36.11)が主要である。RYR1関連例の多くは常染色体潜性遺伝で、中心コア病(多くは常染色体顕性)とは遺伝形式・臨床像が異なる。
RYR1は筋小胞体のCa2+放出チャネルで、興奮収縮連関の中心を担う。潜性型では発現量低下や機能低下により、Ca2+放出が減少して筋力低下をきたす。
臨床上もっとも重要なのは悪性高熱症(MH)感受性である。RYR1変異はMHの主要な原因であり、揮発性吸入麻酔薬・脱分極性筋弛緩薬の使用で致死的な高体温・筋強直・横紋筋融解を起こしうる。本症と診断された時点で、麻酔記録への明示とMH非誘発麻酔(TIVA)の準備が必須である。ダントロレンの常備も求められる。
RYR1関連例では眼筋麻痺の合併が報告される一方、SELENON関連例では早期からの脊柱硬直(rigid spine)と呼吸不全が前景に立つ。予後を規定するのは呼吸機能と側弯であり、定期的な評価が不可欠である。
よくある質問
Q. 手術を受けるときに注意することはありますか?
A. 必ずこの病気であることを、麻酔科の先生にお伝えください。特定の麻酔薬で悪性高熱症という重い合併症を起こすことがあり、別の麻酔方法を選ぶ必要があります。歯科治療でも同様です。
Q. 悪性高熱症とは何ですか?
A. 麻酔をきっかけに、急激な体温上昇、筋肉の硬直、筋肉の崩壊が起こる、命にかかわる状態です。あらかじめ分かっていれば、避けられる麻酔方法があります。
Q. 運動はできますか?
A. 筋力に応じた運動は可能です。ただし、激しい運動や高温の環境での運動は避けたほうがよい場合があります。担当の先生とご相談ください。
Q. 呼吸の検査はなぜ必要ですか?
A. 夜間の呼吸が浅くなることから始まることがあり、自覚しにくいためです。定期的に調べておくと、必要な時期に対応できます。
Q. 知的な発達に影響しますか?
A. 影響しません。この病気で弱くなるのは筋肉です。
参考文献
- Jungbluth H, Zhou H, Hartley L, et al. Minicore myopathy with ophthalmoplegia caused by mutations in the ryanodine receptor type 1 gene. Neurology. 2005;65(12):1930-1935.
- Jungbluth H, Treves S, Zorzato F, et al. Congenital myopathies: disorders of excitation-contraction coupling and muscle contraction. Nat Rev Neurol. 2018;14(3):151-167.
- Rosenberg H, Pollock N, Schiemann A, et al. Malignant hyperthermia: a review. Orphanet J Rare Dis. 2015;10:93.
- Ferreiro A, Estournet B, Chateau D, et al. Multi-minicore disease–searching for boundaries: phenotype analysis of 38 cases. Ann Neurol. 2000;48(5):745-757.
- OMIM #255320 Minicore myopathy with external ophthalmoplegia
