概要
ネザートン症候群は、生まれたときから全身の皮膚が赤くなって皮がむけ、髪の毛がもろく折れやすく、強いアレルギー体質をあわせもつ病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SPINK5(5q32)遺伝子の変化が原因となります。
この病気は「全身の皮膚の赤みと皮むけ」「髪の毛の異常(竹節状毛)」「アレルギー体質」の3つがそろうことが特徴です。皮膚のバリアがとても弱いため、とくに生まれてすぐの時期には、脱水や体温の乱れ、重い感染症が起こりやすく、注意深い管理が必要です。乳児期を乗り越えると症状が少しずつ落ち着くことも多いものの、皮膚の症状やかゆみは生涯にわたって続くことがほとんどです。
頻度は出生20万人に1人程度と推定されていますが、軽い方では乳児期のアトピー性皮膚炎と見分けがつきにくく、診断されていない方も少なくないと考えられています。SPINK5 遺伝子には、この病気とは別に、ありふれた遺伝子の違い(多型)がアトピー性皮膚炎や喘息のなりやすさに関係するという報告もあります。ネザートン症候群は、この遺伝子のはたらきが両方とも大きく失われたときに起こる、はっきりとした遺伝性の病気である点が異なります。
原因
SPINK5 は、LEKTI(レクティ)と呼ばれる「たんぱく質分解酵素のブレーキ役」の設計図です。LEKTI は皮膚のいちばん外側(表皮の角層)や毛でつくられます。
皮膚の表面では、古い角層の細胞をはがして入れ替えるために、カリクレインというたんぱく質分解酵素がはたらいています。ふつうは LEKTI がこの酵素のはたらきすぎを抑えています。LEKTI がないと酵素がはたらきすぎて、角層の細胞どうしをつなぐ「のり」が早く壊され、角層が薄くはがれやすくなります。その結果、皮膚のバリアが壊れて水分が逃げ、細菌やアレルギーの原因物質が入り込みやすくなります。さらに、はたらきすぎた酵素そのものが炎症やアレルギー反応を引き起こす信号を出すことも分かっています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 生まれたときからの全身の赤みと皮むけ:先天性魚鱗癬様紅皮症と呼ばれ、薄い膜のような皮膚がはがれます
- 新生児期の脱水・体温の乱れ・感染症:皮膚から水分が失われて血液中のナトリウムが高くなる(高ナトリウム血性脱水)ことや、敗血症など命にかかわる合併症が起こることがあります
- 体重が増えにくい:皮膚からの水分や熱の喪失、腸の吸収不良、下痢などが重なります
- 髪の毛の異常(竹節状毛):髪が竹の節のようにくびれて折れやすく、短くまばらになります。眉毛やまつ毛にもみられ、診断の手がかりになります
- 曲折線状魚鱗癬:幼児期以降、ふちが二重になったような輪や曲線の形の赤い皮疹が、出たり消えたりしながら場所を変えて現れます
- アレルギー体質:食物アレルギー、じんましん、喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎に似た湿疹などがみられ、血液中の IgE が非常に高くなることが多いです
- 強いかゆみ:眠りや生活の質に大きく影響します
- 皮膚の感染症を繰り返しやすく、成人期には皮膚がん(有棘細胞癌)が若いうちから起こるとの報告があります
検査・診断
生まれたときからの全身の赤みと皮むけ、髪の異常、アレルギー症状の組み合わせから疑われます。髪の毛や眉毛を顕微鏡で調べて竹節状毛が見つかれば、診断の大きな手がかりになりますが、乳児期にははっきりしないこともあり、繰り返し調べることがあります。皮膚の一部をとって、LEKTI たんぱく質があるかどうかを特殊な染色で調べる検査も有用です。
確定診断は遺伝学的検査で行い、SPINK5 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。妊娠中の超音波検査では、ふつう異常は見つかりません。そのため、前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合に、その変化を調べる方法で出生前診断を検討することになります。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。皮膚を守り、合併症を防ぎ、かゆみやアレルギーをやわらげる治療が中心です。とくに新生児期は、皮膚科・小児科・新生児科が連携して慎重に管理することが大切です。
- 新生児期の集中的な管理:湿度を保った保育器での管理、水分・塩分(電解質)の補正、栄養の補給、感染の予防と早期治療を行います
- 毎日のスキンケア:保湿剤をこまめに塗り、刺激の少ない入浴で皮膚を清潔に保ちます
- 塗り薬は慎重に:皮膚のバリアが弱く、塗り薬が体の中に吸収されやすいため、ステロイドや免疫を抑える塗り薬は、範囲や量に注意し、必要に応じて血液中の濃度を確認しながら使います
- かゆみとアレルギーへの対応:かゆみ止めの飲み薬、食物アレルギーの診断と食事の調整、喘息の治療などを行います
- 重い場合の追加治療:免疫グロブリン製剤の補充や、炎症にかかわる物質を抑える注射薬(生物学的製剤)で改善したという報告がありますが、まだ研究段階のものも多く、効果には個人差があります
- 定期的な皮膚の診察:感染症や皮膚がんの早期発見のために続けます
- ご本人・ご家族への心理的・社会的支援:見た目の悩みや毎日のケアの負担に寄り添う支援が大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SPINK5 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SPINK5 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。なお、この疾患は228種類のキャリアスクリーニングテストの対象には含まれていません。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SPINK5 は15個の Kazal 型様阻害ドメインをもつセリンプロテアーゼ阻害因子 LEKTI をコードし、LEKTI は前駆体として分泌されたのち切断され、角層でカリクレイン関連ペプチダーゼ(KLK5、KLK7、KLK14)を pH 依存的に阻害する。LEKTI が欠損すると KLK5 を起点とするプロテアーゼカスケードが過剰に活性化し、デスモグレイン1などのコルネオデスモソーム構成たんぱくが早期に分解されて角層剥離が亢進し、重度のバリア障害を生じる。
KLK5 は PAR2(プロテアーゼ活性化受容体2)を活性化して TSLP などの産生を促し、皮膚を起点とした Th2 型のアレルギー炎症を誘導する。これがバリア障害に加えて、高 IgE 血症や多彩なアレルギー症状を説明すると考えられている。近年は Th17 系の炎症の関与も示され、IL-17 や IL-23 を標的とする生物学的製剤の使用報告が増えている。変異の多くはナンセンス変異やフレームシフト変異などの機能喪失型で、LEKTI の発現がまったく失われる例ほど重症になる傾向があるが、同じ変異でも重症度に幅がある。
鑑別としては、常染色体潜性先天性魚鱗癬(TGM1、ALOX12B など)、剥脱性皮膚症B型(CDSN)、SAM 症候群(DSG1)、重症のアトピー性皮膚炎、紅皮症を伴う原発性免疫不全症(オーメン症候群など)が挙がる。とくに新生児期の紅皮症では、毛髪所見と LEKTI 免疫染色、遺伝学的検査を組み合わせて早期に確定することが、免疫不全症との区別や外用薬の安全な選択、次子の遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。発症しないお子さまの多くはキャリアになりますが、キャリアの方に症状は出ません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が確定していれば、次の妊娠での検査を具体的に検討できます。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は、妊娠中の超音波検査ではふつう異常として見つかりません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合には、その変化を調べることで出生前に診断できる可能性があります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. アトピー性皮膚炎とはどう違うのですか。
A. ネザートン症候群は、生まれたときから全身が赤く皮がむけていることや、髪の毛が竹の節のように折れやすいことが大きな違いです。乳児期には区別が難しいこともあり、ふつうのアトピー性皮膚炎の治療で改善しにくい場合や、髪の毛の異常がある場合には、この病気を考えて詳しく調べることがあります。
Q. 大きくなるにつれて症状はどうなりますか。
A. もっとも危険なのは生まれてすぐの時期で、乳児期を乗り越えると全身の状態は落ち着いてくることが多いです。ただし、皮膚の赤みや皮むけ、かゆみ、アレルギーは程度に差はあっても続くことがほとんどで、毎日のスキンケアと定期的な診察が必要です。症状の重さには個人差があり、学校や仕事など社会生活を送っている方も多くいらっしゃいます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Chavanas S, Bodemer C, Rochat A, et al. Mutations in SPINK5, encoding a serine protease inhibitor, cause Netherton syndrome. Nat Genet. 2000;25(2):141-142.
- Bitoun E, Chavanas S, Irvine AD, et al. Netherton syndrome: disease expression and spectrum of SPINK5 mutations in 21 families. J Invest Dermatol. 2002;118(2):352-361.
- Descargues P, Deraison C, Bonnart C, et al. Spink5-deficient mice mimic Netherton syndrome through degradation of desmoglein 1 by epidermal protease hyperactivity. Nat Genet. 2005;37(1):56-65.
- Hovnanian A. Netherton syndrome: skin inflammation and allergy by loss of protease inhibition. Cell Tissue Res. 2013;351(2):289-300.
- OMIM #256500 Netherton Syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
