概要
プロピオン酸血症は、たんぱく質などを分解する途中でできる「プロピオン酸」をうまく処理できず、体に酸性の物質がたまってしまう先天代謝異常症(有機酸代謝異常症)です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PCCA(13q32)または PCCB(3q22)遺伝子の変化が原因となります。
重い型では、生まれて数日のうちに、哺乳が弱い・吐く・ぐったりする・意識が悪くなるといった症状で急に具合が悪くなります。一方、症状が軽い、またはほとんど出ないまま成長する方もいます。日本では、新生児マススクリーニング(生まれてすぐの血液検査)の対象疾患になっており、症状が出る前に見つかることが増えています。
PCCA と PCCB は、どちらも同じ酵素の部品をつくる遺伝子で、どちらの遺伝子に変化があっても同じプロピオン酸血症になります。病気の重さは、どちらの遺伝子かよりも、酵素のはたらきがどのくらい残っているかによって決まります。日本では、PCCB 遺伝子の特定の変化による軽症型が比較的多いことが知られています。
原因
PCCA と PCCB は、「プロピオニルCoAカルボキシラーゼ」という酵素の2種類の部品をつくる遺伝子です。この酵素は、ビタミンの一種であるビオチンの助けを借りてはたらきます。
食事のたんぱく質に含まれる一部のアミノ酸(イソロイシン、バリン、メチオニン、スレオニン)や、一部の脂肪酸が分解されると、プロピオン酸のもと(プロピオニルCoA)ができます。腸内細菌もプロピオン酸をつくります。通常はこの酵素が次の段階へ変換し、エネルギーとして利用されます。酵素がはたらかないと、プロピオン酸やその関連物質が体にたまり、血液が酸性に傾き(代謝性アシドーシス)、アンモニアも上がりやすくなります。これらが脳や心臓などに負担をかけます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。PCCA の変化と PCCB の変化を1つずつ持っていても発症はせず、同じ遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化がそろったときに発症します。
症状
- 新生児期の急な発症(重症型):生後数日で哺乳不良、嘔吐、元気のなさ、呼吸の乱れ、けいれん、意識障害が現れます。早く治療しないと命に関わります
- 代謝の急な悪化(代謝クライシス):かぜ・胃腸炎・発熱・絶食・たんぱく質のとりすぎなどをきっかけに、乳幼児期以降もくり返すことがあります
- 高アンモニア血症、代謝性アシドーシス、低血糖:血液検査で見つかる重要な異常です
- 成長の遅れ、食べる量が少ない・吐きやすい、筋肉の張りの弱さ
- 発達の遅れ・知的障害:発作のくり返しや重さによって程度はさまざまです
- 心臓の合併症:心筋症や不整脈(心電図のQT延長)が、症状の軽い方や成長してから現れることもあります
- そのほか、膵炎、白血球や血小板の減少、脳の基底核の障害による運動の異常、視神経の萎縮などが報告されています
軽症型では、乳幼児期にはほとんど症状がないこともあります。ただし、軽症型でも年齢が上がってから心臓の合併症が見つかることがあるため、定期的な診察と検査を続けることが大切です。
検査・診断
日本では、新生児マススクリーニング(タンデムマス法)で、血液中のプロピオニルカルニチン(C3)の上昇から疑われます。発症した場合は、血液のアンモニア・酸性度・血糖、尿の有機酸分析(3-ヒドロキシプロピオン酸やメチルクエン酸の増加)などで診断を進めます。
確定診断は、酵素活性の測定や遺伝学的検査で行い、PCCA または PCCB 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。原因となる変化がわかると、次のお子さまの出生前検査やご家族のキャリア検査が可能になり、見通しをより正しくお伝えできます。
治療
現時点で、病気そのものを根本から治す薬はありません。しかし、早く見つけて食事療法や薬を続けることで、発作を減らし、合併症を防ぐことが期待できます。治療は先天代謝異常症の専門医のもとで、生涯にわたって続けます。
- 急性期の治療:たんぱく質をいったん止め、ブドウ糖の点滴で体の分解を抑えます。アンモニアが非常に高いときは血液浄化療法(透析)を行います
- 食事療法:成長に必要な量を守りながらたんぱく質を調整し、原因となるアミノ酸を除いた特殊ミルクを使います。栄養士と相談しながら進めます
- 薬物療法:たまった物質の排出を助けるL-カルニチン、腸内細菌がつくるプロピオン酸を減らす抗菌薬、高アンモニア血症に対するカルグルミン酸などが使われます
- 体調をくずしたときの対応(シックデイ対策):発熱や嘔吐のときは早めに受診し、点滴などで悪化を防ぎます
- 肝移植:発作をくり返す重症例では選択肢となることがあります。代謝の安定が期待できますが、病気が完全になくなるわけではなく、移植に伴う負担もあるため慎重に検討します
- 心臓・発達の定期的な評価と、療育・ご家族への支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる PCCA, PCCB 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PCCA, PCCB 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
プロピオン酸血症は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)は、PCCA がコードするαサブユニット(ビオチン結合部位をもつ)と PCCB がコードするβサブユニット(カルボキシル基転移活性をもつ)からなるα6β6の十二量体で、ミトコンドリアでプロピオニルCoAをD-メチルマロニルCoAへ変換する。欠損によりプロピオニルCoAが蓄積し、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸、プロピオニルグリシン、プロピオニルカルニチンが増加する。プロピオニルCoAはN-アセチルグルタミン酸合成酵素を阻害するため尿素回路が障害され、高アンモニア血症をきたす。また、メチルクエン酸によるクエン酸回路の障害など、ミトコンドリアのエネルギー代謝障害が心筋症や基底核障害に関与すると考えられている。
PCCA 型と PCCB 型の間で臨床像に明確な違いはなく、重症度は残存酵素活性に依存する。βサブユニットはαサブユニットより過剰に合成されるため、PCCB のヘテロ接合保因者の酵素活性は正常に近く、PCCA 保因者より酵素学的な保因者診断が難しい。日本では新生児マススクリーニングで発見される例の多くが PCCB の p.Tyr435Cys(Y435C)をもつ軽症型であり、スクリーニング導入前に考えられていたより頻度が高いことが報告されている。軽症型でも成長後に心筋症やQT延長を呈した例があり、長期の心機能評価が推奨される。
鑑別としては、メチルマロン酸血症(MMUT ほか)、多種カルボキシラーゼ欠損症(HLCS、BTD)、尿素サイクル異常症が挙がる。多種カルボキシラーゼ欠損症はビオチン投与に反応するのに対し、プロピオン酸血症はビオチンへの反応がほとんどみられない点が重要である。いずれも常染色体潜性遺伝であり、原因遺伝子の確定は出生前診断や保因者診断の前提となる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でご両親と同じキャリアとなり、4分の1の確率で変化を受け継ぎません。前のお子さまで原因となる変化がわかっていれば、次の妊娠で出生前検査を検討できます。
Q. 新生児マススクリーニングで見つかりますか。
A. 日本では新生児マススクリーニングの対象疾患で、多くは症状が出る前に見つかります。ただし、重い型では結果が出る前に発症することもあります。生後まもなく哺乳が弱い、吐く、ぐったりしているなどの様子があれば、すぐに受診してください。
Q. 「軽症型」と言われました。治療は必要ですか。
A. 日本では、症状がほとんど出ない軽症型が比較的多く見つかっています。軽症型でも、成長してから心臓の合併症が見つかることがあるため、定期的な診察と検査を続けることが大切です。治療の必要性や内容は、主治医と相談して決めます。
Q. 普段の生活で気をつけることはありますか。
A. 決められた食事療法とお薬を続けること、そして発熱・嘔吐・食欲がないときには早めに受診することが重要です。長い時間食べられない状態は発作のきっかけになります。主治医から体調をくずしたときの対応を書面でもらっておくと、救急受診の際にも役立ちます。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
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- OMIM #606054 Propionicacidemia. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Baumgartner MR, Hörster F, Dionisi-Vici C, et al. Proposed guidelines for the diagnosis and management of methylmalonic and propionic acidemia. Orphanet J Rare Dis. 2014;9:130.
- Forny P, Hörster F, Ballhausen D, et al. Guidelines for the diagnosis and management of methylmalonic acidaemia and propionic acidaemia: First revision. J Inherit Metab Dis. 2021;44(3):566-592.
- Yorifuji T, Kawai M, Muroi J, et al. Unexpectedly high prevalence of the mild form of propionic acidemia in Japan: presence of a common mutation and possible clinical implications. Hum Genet. 2002;111(2):161-165.
