概要
痙性対麻痺11型は、両脚のつっぱり(痙縮)と筋力の低下が少しずつ進む「遺伝性痙性対麻痺」のひとつです。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SPG11(15q21.1)遺伝子の変化が原因となります。
遺伝性痙性対麻痺には多くの型がありますが、11型は常染色体潜性の型のなかでもっとも多い型のひとつです。脚の症状だけの「純粋型」ではなく、学習のつまずきなどの知的な面の症状や、MRIで脳梁(左右の脳をつなぐ部分)が薄く見える所見をともなう「複合型」であることが大きな特徴です。多くは小児期から思春期に症状が出はじめ、10〜20年ほどかけてゆっくり進行します。
SPG11 遺伝子は、この痙性対麻痺11型のほかに、若年性筋萎縮性側索硬化症(若年性ALS、ALS5型)や、末梢神経の病気であるシャルコー・マリー・トゥース病2X型も起こします。痙性対麻痺11型は、脚のつっぱりに加えて、脳梁が薄いことと知的な面の症状をともなう点が、ほかの2つと異なる特徴です。ただし、これらの症状は重なり合うことがあり、同じご家族のなかでも症状の出方が異なる場合があります。
原因
SPG11 遺伝子は、「スパタクシン」というたんぱく質の設計図です。スパタクシンは神経細胞のなかで、不要になった物質を分解・再利用する「リソソーム」という小さな器官を、正しく保つはたらきを担っています。
スパタクシンがつくられないと、リソソームのはたらきが乱れ、分解しきれない脂質などが神経細胞のなかにたまっていきます。とくに影響を受けやすいのが、脳から脊髄まで長くのびて脚の動きを指令する神経の線維です。この線維が少しずつ傷むことで、脚のつっぱりや歩きにくさが起こります。脳のほかの部分の神経細胞も影響を受けるため、知的な面の症状や脳梁の菲薄化があらわれます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 脚のつっぱりと歩きにくさ:つまずきやすい、つま先で歩く、走るのが遅いといった形で気づかれ、ゆっくり進行します
- 学習のつまずき・知的な面の症状:脚の症状より先に、学校の勉強の遅れとして気づかれることが多いのがこの型の特徴です。年齢とともに記憶や判断の力が低下していくことがあります
- 手足の筋肉のやせと筋力低下:進行すると、末梢神経の障害により手の筋肉もやせてくることがあります
- 話しにくさ(構音障害)、飲み込みにくさ
- 頻尿・尿もれなどの膀胱の症状
- 一部の方では、手のふるえや動作の遅さ(パーキンソン症状)、網膜の変化による視力の低下がみられます
- 発症から10〜20年ほどで、車いすが必要になることが多いです
検査・診断
神経の診察で、脚のつっぱり、腱反射の亢進、足の裏をこすると親指が反り返る反応(バビンスキー徴候)などを確認します。頭部MRIでは、脳梁、とくにその前の部分が薄くなっていることが手がかりとなり、脳の内側の白質に「オオヤマネコの耳」と呼ばれる特徴的な変化が見られることもあります。末梢神経の状態は神経伝導検査で調べます。
症状が似た病気が多く、はじめは脳性麻痺や発達の遅れと考えられていることもあります。確定診断は遺伝学的検査で行い、痙性対麻痺11型では SPG11 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。なお、この病気は妊娠中の超音波検査では見つけることができません。
治療
現時点で、この病気の進行を止めたり治したりする治療はありません。症状をやわらげ、できるだけ長く自立した生活を続けられるよう、症状に合わせた治療とリハビリテーション、生活面の支援を組み合わせます。
- つっぱりをやわらげる治療:筋肉の緊張をゆるめる飲み薬、ボツリヌス毒素の注射、脊髄の周りに薬を持続的に入れる治療などが検討されます
- リハビリテーション:ストレッチや筋力訓練で関節が固まるのを防ぎ、歩く力をできるだけ保ちます
- 装具・歩行補助具・車いす:進行に合わせて移動の手段を整えます
- 学習・就労の支援:知的な面の症状に合わせ、学校や職場と連携して環境を整えます
- 膀胱の症状、飲み込みにくさ、パーキンソン症状などへの対症療法
- ご本人・ご家族への心理的支援と、福祉制度の活用
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SPG11 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SPG11 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SPG11 は大型たんぱく質スパタクシン(spatacsin)をコードする。スパタクシンは SPG15 の原因遺伝子産物スパスティジン(ZFYVE26)および AP-5 複合体(AP5Z1、SPG48)と機能的に結びつき、オートファジー後のリソソーム再形成やエンドソーム・リソソーム系の輸送に関わる。欠損によりリソソームの恒常性が破綻し、ガングリオシドなどの脂質が蓄積して、皮質脊髄路をはじめとする神経細胞の変性に至ると考えられている。
病的バリアントの大半はナンセンス・フレームシフト・スプライス異常などの機能喪失型で、遺伝子全体に散在し明確なホットスポットはない。大きな欠失も報告されており、配列解析だけでなくコピー数の評価も必要になる。同じ遺伝子の機能喪失が、脳梁菲薄化をともなう複合型痙性対麻痺(SPG11)、緩徐進行性の若年性ALS(ALS5)、軸索型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT2X)という連続した表現型スペクトラムを形成し、遺伝型と表現型の対応は明瞭ではない。SPG11 は脳梁菲薄化をともなう常染色体潜性痙性対麻痺の最大の原因とされる。
鑑別としては、臨床像がほぼ区別できない SPG15(ZFYVE26、網膜変性をともなうものは Kjellin 症候群と呼ばれる)、SPG48(AP5Z1)、SPG7(SPG7)、SPG35(FA2H)、SPG54(DDHD2)、SPG21(ACP33、Mast 症候群)などの常染色体潜性痙性対麻痺のほか、白質ジストロフィーや脳性麻痺が挙がる。画像所見のみでの区別は難しく、遺伝子パネルやエクソーム解析による確定診断が、予後の説明と家系内の遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でキャリア、4分の1の確率で変化を受け継がないお子さまとなります。男の子・女の子で確率に違いはありません。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は生まれたあと、多くは小児期以降に症状が出るため、妊娠中の超音波検査では分かりません。ご家族で原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。SPG11 遺伝子の変化は、痙性対麻痺11型のほか、若年性筋萎縮性側索硬化症(ALS5型)やシャルコー・マリー・トゥース病2X型の原因にもなります。痙性対麻痺11型は、脚のつっぱりに加えて、知的な面の症状と脳梁の菲薄化をともなうことが特徴です。症状が重なることもあるため、診察と検査をあわせて判断します。
Q. 歩けなくなるのでしょうか。
A. 症状はゆっくり進行し、発症から10〜20年ほどで車いすが必要になる方が多いとされています。ただし、進み方には個人差があります。リハビリテーションや装具、つっぱりをやわらげる治療で、できるだけ長く動ける状態を保つことを目指します。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Stevanin G, Santorelli FM, Azzedine H, et al. Mutations in SPG11, encoding spatacsin, are a major cause of spastic paraplegia with thin corpus callosum. Nat Genet. 2007;39(3):366-372.
- Hehr U, Bauer P, Winner B, et al. Long-term course and mutational spectrum of spatacsin-linked spastic paraplegia. Ann Neurol. 2007;62(6):656-665.
- Orlacchio A, Babalini C, Borreca A, et al. SPATACSIN mutations cause autosomal recessive juvenile amyotrophic lateral sclerosis. Brain. 2010;133(Pt 2):591-598.
- Hedera P. Hereditary Spastic Paraplegia Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #604360 Spastic paraplegia 11, autosomal recessive; SPG11. Online Mendelian Inheritance in Man.
