概要
ウォルフラム症候群1型は、子どもの頃に始まる糖尿病と、視神経がやせて視力が落ちる「視神経萎縮」を中心に、尿崩症や難聴、神経の症状が年齢とともに少しずつ加わっていく病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、WFS1(4p16.1)遺伝子の変化が原因となります。
主な4つの症状である尿崩症・糖尿病・視神経萎縮・難聴の英語の頭文字をとって、「DIDMOAD(ディドモード)症候群」とも呼ばれます。生まれたときには症状がなく、多くは小学校に上がる頃に糖尿病で気づかれます。まれな病気で、英国の全国調査では約77万人に1人と報告されています。
ウォルフラム症候群には「1型」と「2型」があります。2型は別の遺伝子(CISD2)が原因で、尿崩症がほとんど見られず、胃や腸の潰瘍・出血しやすさを伴う点が異なります。患者さんの大部分はこの1型です。また、同じ WFS1 遺伝子でも、変化の種類によっては難聴だけ、あるいは軽い症状だけが現れる別の病気になることがあります(「専門的な解説」をご覧ください)。
原因
WFS1 遺伝子は、「ウォルフラミン」というたんぱく質の設計図です。ウォルフラミンは、細胞のなかでたんぱく質を組み立てて仕上げる工場のような場所(小胞体)の膜にあり、工場の働きやカルシウムの量を整える役目をもっています。
ウォルフラミンが十分にはたらかないと、小胞体に負担(ストレス)がたまり、インスリンをつくるすい臓の細胞や、視神経・脳の神経細胞が少しずつ弱って失われていきます。そのため、症状は生まれつきではなく、年齢を重ねるにつれて順番に現れ、進んでいくのが特徴です。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
症状の出かたや時期には個人差がありますが、おおむね次のような順で現れます。
- 糖尿病:多くは6歳前後に始まり、インスリン注射が必要になります。自己免疫による一般的な1型糖尿病とは仕組みが異なります
- 視神経萎縮:多くは10歳前後から視力の低下や色の見分けにくさが現れ、ゆっくり進んでいきます
- 尿崩症:尿を濃くするホルモンが不足し、尿の量が多くなり、のどがよく渇きます。10代で現れることが多い症状です
- 難聴:高い音から聞こえにくくなる感音難聴が、10代ごろから現れることが多いです
- 尿の通り道の症状:膀胱の動きが弱くなり、尿が出にくい・残る・感染をくり返すことがあります
- 神経の症状:ふらつき、飲み込みにくさ、においのわかりにくさ、睡眠中の呼吸の乱れなどが、成人期にかけて加わることがあります
- 気分の落ち込みや不安などの心の症状が見られることもあります
病気は進行性で、脳幹の神経の症状が進むと呼吸や飲み込みに影響し、寿命が短くなることがあります。ただし進み方には大きな個人差があり、成人期を長く過ごされる方もいます。
検査・診断
16歳までに始まった糖尿病と視神経萎縮がそろったときに、この病気が強く疑われます。眼科での視力・視野・眼底検査、聴力検査、尿の量や尿を濃くする力の検査、膀胱の検査、頭部MRIなどで、どの症状がどこまで出ているかを調べます。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ウォルフラム症候群1型では WFS1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。症状がそろう前に診断がつくと、目や耳・尿の通り道などの定期的な検査を早めに始められ、次のお子さまの見通しを正しくお伝えすることにもつながります。なお、生まれたときには症状がないため、妊娠中の超音波検査では見つかりません。
治療
現時点で、この病気の進行を止めたり治したりする治療は確立していません。病気の進行を遅らせる薬の研究が国内外で進められていますが、まだ研究段階です。現在は、それぞれの症状に合わせた治療と、生活を支える支援が中心となります。
- 糖尿病の治療:インスリン注射で血糖を整えます。血糖を良い状態に保つことは、合併症を防ぐうえで大切です
- 尿崩症の治療:不足しているホルモンを補う薬(デスモプレシン)を使います
- 見え方・聞こえ方の支援:拡大鏡などの視覚補助具、補聴器や人工内耳、学校や職場での配慮を活用します
- 尿の通り道のケア:泌尿器科で定期的に調べ、必要に応じて自己導尿などで腎臓を守ります
- 神経・呼吸・飲み込みの見守り:定期的な診察で変化を早くとらえ、リハビリや呼吸の補助などを検討します
- 心のケアとご家族への支援:ご本人とご家族が長い経過を安心して過ごせるよう、継続的に支えます
小児科・内分泌内科・眼科・耳鼻科・泌尿器科・神経内科・心理の専門職などがチームで長く関わることが大切です。
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる WFS1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、WFS1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
WFS1 は8エクソンからなり、9回膜貫通型の小胞体膜たんぱく質ウォルフラミンをコードする。ウォルフラミンは小胞体ストレス応答(unfolded protein response)の制御と小胞体内カルシウム恒常性の維持に関与し、欠損により膵β細胞と神経細胞で慢性的な小胞体ストレスが生じ、アポトーシスによる進行性の細胞脱落を来す。1998年に Inoue らと Strom らにより独立に原因遺伝子として同定された。
典型的な経過は、非自己免疫性インスリン依存性糖尿病(中央値6歳前後)→視神経萎縮(11歳前後)→中枢性尿崩症・感音難聴(10代)→尿路障害(20代)→脳幹・小脳を主体とする神経変性(30代以降)である。英国の全国調査(Barrett ら、1995)では死亡年齢の中央値は30歳前後で、主な死因は脳幹萎縮による中枢性呼吸不全であった。両アレルとも機能喪失型(ナンセンス・フレームシフト)の例は発症が早く重症となる傾向があり、ミスセンス変異を含む例ではより軽症の経過をとることがある。
本遺伝子は潜性と顕性の両方の疾患を起こす点に注意が必要である。特定のミスセンス変異はヘテロ接合で低音域から始まる非症候群性感音難聴(DFNA6/14/38)や、難聴・視神経萎縮・糖尿病の一部を伴う顕性のウォルフラム様症候群を起こす。したがってキャリアと判定された場合でも、検出された変異の種類によっては本人の症状評価が必要となる。鑑別としては、ウォルフラム症候群2型(CISD2、尿崩症を欠き消化管潰瘍・出血傾向を伴う)、ミトコンドリア病(母系遺伝の糖尿病・難聴)、チアミン反応性巨赤芽球性貧血症候群(SLC19A2)、遺伝性視神経症が挙がる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子で確率は変わりません。症状のないごきょうだいがキャリアである確率は3分の2です。見通しを正しくお伝えするため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 生まれたときには症状がないため、妊娠中の超音波検査では見つかりません。ご家族ですでに診断がついている場合や、ご両親がキャリアとわかっている場合は、遺伝子を調べる出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. ふつうの1型糖尿病とは違うのですか。
A. はい。インスリン注射が必要な点は同じですが、自己免疫ではなく、細胞が少しずつ弱っていくことが原因です。子どもの糖尿病に視力の低下が加わったときは、この病気を考えて眼科での検査を受けることが勧められます。
Q. キャリアの私にも症状が出ることはありますか。
A. 多くのキャリアの方は症状がなく、ふだんどおり生活されています。ただし、WFS1 遺伝子の一部の特定の変化では、1つだけでも難聴などが現れることが知られています。どの変化が見つかったかによって説明が変わるため、結果は遺伝カウンセリングで詳しくお伝えします。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Tranebjærg L, Barrett T, Rendtorff ND. WFS1 Spectrum Disorder. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #222300 Wolfram syndrome 1; WFS1. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Inoue H, Tanizawa Y, Wasson J, et al. A gene encoding a transmembrane protein is mutated in patients with diabetes mellitus and optic atrophy (Wolfram syndrome). Nat Genet. 1998;20(2):143-148.
- Strom TM, Hörtnagel K, Hofmann S, et al. Diabetes insipidus, diabetes mellitus, optic atrophy and deafness (DIDMOAD) caused by mutations in a novel gene (wolframin) coding for a predicted transmembrane protein. Hum Mol Genet. 1998;7(13):2021-2028.
- Barrett TG, Bundey SE, Macleod AF. Neurodegeneration and diabetes: UK nationwide study of Wolfram (DIDMOAD) syndrome. Lancet. 1995;346(8988):1458-1463.
