概要
X連鎖性知的障害12型は、知的な発達がゆっくりで、ことばや学習、日常生活の技能の習得に支援が必要になる病気です。X連鎖という形式で遺伝し、THOC2 遺伝子の変化が原因となります。
X連鎖性知的障害は、男の子に症状が出やすいのが特徴です。X染色体を2本持つ女の子では、もう1本の正常な遺伝子がはたらくため、症状が出ないか軽くすむことが多くなります。原因遺伝子は150以上が知られています。
原因
THOC2 遺伝子はX染色体上にあり、脳の神経細胞が育ち、互いにつながり合う(シナプスを作る)ために必要なたんぱく質の設計図です。
神経細胞どうしのつながりは、学習と記憶の土台です。この遺伝子に変化があるとつながりの形成や調節がうまくいかず、知的な発達に影響が出ます。
THOC2 は、細胞の核のなかで作られたRNAを細胞質へ運び出す装置(THO/TREX複合体)の部品です。設計図の写しが届かないと、たんぱく質が作れません。
症状
- 知的な発達の遅れ(軽度から重度まで幅があります)
- ことばの発達の遅れ
- 運動発達の遅れ(おすわり、歩行が遅い)
- 低身長、筋緊張の低下、けいれん、発話の障害が目立つ
- 行動面の特性(多動、自閉的な傾向、こだわりなど)を伴うことがある
- てんかんを伴うことがある
- 男の子で症状が出やすく、女の子(保因者)では症状がないか軽いことが多い
- ※進行性に悪化する病気ではありません
検査・診断
発達の評価と、頭部MRI・脳波などの検査を行います。知的障害の原因は非常に多いため、まず染色体検査やマイクロアレイ検査を行い、原因が特定できない場合に遺伝学的検査へ進むのが一般的です。THOC2 遺伝子の解析によってX連鎖性知的障害12型と確定します。原因が分かることで、伴いやすい症状への備えと、ご家族への遺伝カウンセリングが可能になります。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 早期からの療育(理学療法・作業療法・言語療法)
- 教育面での支援(個別支援計画、特別支援教育)
- てんかんがある場合は抗てんかん薬
- 行動面の特性に対する支援(環境調整、必要に応じた薬物治療)
- 定期的な発達の評価と、成長に応じた支援の見直し
- ご家族への支援と、次のお子さまについての遺伝カウンセリング
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる THOC2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、THOC2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
この疾患はX連鎖で遺伝します。お母さまが保因者の場合、息子さんの2分の1が発症し、娘さんの2分の1が保因者になります。キャリアスクリーニングテストでは、お母さまが保因者かどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
X連鎖性知的障害12型は THOC2(Xq25-q26.2)の変異による。X連鎖性知的障害(XLID)は150を超える遺伝子が同定されており、知的障害全体の約10%、男性の知的障害では相当な割合を占めると推定される。
THOC2 はTHO/TREX複合体を構成し、mRNAの核外輸送とtranscription-coupled export を担う。臨床像は知的障害に加え、発話の著明な障害(無発語〜数語)、低身長、筋緊張低下、てんかんを伴い、症候性XLIDに分類される。同複合体のTHOC6は常染色体潜性のBeaulieu-Boycott-Innes症候群を生じ、RNA核外輸送の障害が知的障害を生むという共通機序を示す。
XLID全般に共通する臨床的留意点として、(1) 女性保因者の表現型はX染色体不活化の偏り(skewed XCI)に依存し、軽度の学習障害から無症状まで幅があること、(2) 家系内で男性のみに発症が集積する場合はXLIDを強く疑うこと、(3) de novo変異の割合も少なくないため、家族歴がなくても否定できないことが挙げられる。
遺伝カウンセリングでは、母が保因者の場合の再発率(息子の1/2が発症、娘の1/2が保因者)と、生殖細胞モザイクの可能性を説明する。原因遺伝子の同定は、合併症のサーベイランスと出生前診断の選択肢につながる。
よくある質問
Q. 進行して悪くなりますか?
A. 進行性の病気ではありません。発達はゆっくりですが、支援を続けることでできることを増やしていけます。
Q. 女の子でも症状が出ますか?
A. 多くの場合、女の子(保因者)では症状がないか軽くすみます。ただし、X染色体の使われ方の偏りによって、学習面の困難が出ることもあります。
Q. 次の子も同じ病気になりますか?
A. お母さまが保因者の場合、息子さんの2分の1が発症し、娘さんの2分の1が保因者になります。新しく生じた変化のこともあるため、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 療育はいつから始めるとよいですか?
A. できるだけ早くです。早期からの療育が、その後の発達に有効とされています。
Q. ことばの遅れが目立ちます。
A. この型では、発話の障害が目立つことが報告されています。言語療法と、必要に応じた代替コミュニケーション手段の導入が役立ちます。
参考文献
- Kumar R, Corbett MA, van Bon BW, et al. THOC2 Mutations Implicate mRNA-Export Pathway in X-Linked Intellectual Disability. Am J Hum Genet. 2015;97(2):302-310.
- Lubs HA, Stevenson RE, Schwartz CE. Fragile X and X-linked intellectual disability: four decades of discovery. Am J Hum Genet. 2012;90(4):579-590.
- Neri G, Schwartz CE, Lubs HA, Stevenson RE. X-linked intellectual disability update 2017. Am J Med Genet A. 2018;176(6):1375-1388.
- Vissers LE, Gilissen C, Veltman JA. Genetic studies in intellectual disability and related disorders. Nat Rev Genet. 2016;17(1):9-18.
