医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 92という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数がまだ少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症92型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE92(ディー・イー・イー・キュウジュウニ)と呼ばれることが一般的です。
この病気は、乳児期早期、時には生まれた直後からてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れが見られるという特徴があります。その原因として、GABRA5という特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳症という言葉や92型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症92型(DEE92)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きに影響が出る疾患です。
まず、この発達性およびてんかん性脳症という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE92は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この92型は、GABRA5(ギャブラ・ファイブ)という遺伝子の変異によって引き起こされることが近年の研究で明らかになりました。以前は原因不明とされていた乳児てんかんのお子さんの中に、この遺伝子変異を持つ方が一定数いることがわかってきています。
患者数は極めて少なく、正確な頻度は分かっていませんが、10万人に1人よりもさらに稀な超希少疾患と考えられています。
主な症状
DEE92の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして身体的な特徴の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
DEE92の最大の特徴は、生後数日以内の新生児期から、あるいは生後数ヶ月以内の乳児期早期という非常に早い時期にてんかん発作が始まることです。
発作のタイプ
発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。
強直発作:手足が突っ張って硬くなる発作です。
間代発作:手足がガクガクとリズミカルに震える発作です。
無呼吸発作:呼吸が一時的に止まってしまい、顔色が悪くなる発作です。
焦点発作:体の一部が動いたり、視線が偏ったりする発作です。
難治性
DEE92のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作をゼロにすることだけを目指すのではなく、生活の質を保ちながら発作とうまく付き合っていく視点が必要になることもあります。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、あるいは発作が始まる前から、発達のゆっくりさが目立つようになります。
重度の発達遅滞
首がすわる、目でものを追う、お座りをする、ハイハイをするといった運動面の発達と、あやすと笑う、言葉を理解するといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くの場合、重度の知的障害を伴います。言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、声のトーンや表情、身振りで感情を伝えることができるお子さんもいます。
筋緊張低下
赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。これにより、運動発達がさらにゆっくりになる傾向があります。
視覚的な反応の乏しさ
目そのものの構造には問題がなくても、脳が映像を処理することが苦手なために、おもちゃを目で追わなかったり、視線が合いにくかったりすることがあります。これを皮質視覚障害と呼ぶこともあります。
3. その他の身体症状
DEE92のお子さんには、神経以外の身体的な課題も見られることがあります。
哺乳障害と摂食障害
生まれた直後から、おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害が見られることがあります。また、離乳食が始まっても、食べ物を飲み込むのが苦手な嚥下障害が見られることがあります。栄養を十分に摂るために、鼻からチューブを入れたり、胃ろうを使ったりする医療的ケアが必要になることもあります。
呼吸の問題
発作に伴って呼吸が止まったり、浅くなったりすることがあります。また、筋緊張が弱いために呼吸をする力が弱く、風邪を引いたときに痰が出しにくいこともあります。
顔つきの特徴
DEE92に特有の顔つきというのはあまり明確ではありませんが、おでこが広い、鼻が少し短い、耳の位置が低いといった、ごく軽微な特徴が見られることがあります。しかし、これらはパッと見ただけでは分からないことも多く、ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
原因
なぜ、てんかんが起きたり発達が遅れたりするのでしょうか。その原因は、脳の神経細胞にあるブレーキシステムの故障にあります。
GABRA5遺伝子の役割
DEE92の原因は、第4番染色体にあるGABRA5(ギャブラ・ファイブ)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、GABA(ギャバ)受容体という、脳の中で非常に重要な役割を果たすタンパク質の部品を作るための設計図です。
GABAという物質の名前を聞いたことがあるかもしれません。GABAは、脳の神経細胞の興奮を抑える、いわばブレーキの役割をする神経伝達物質です。
神経細胞の表面には、このGABAを受け取るための受け皿、つまりGABA受容体があります。GABRA5遺伝子は、この受容体を構成する部品の一つ(アルファ5サブユニット)を作っています。
遺伝子の変化による影響
GABRA5遺伝子に変異が起きると、このGABA受容体の形が変わってしまったり、機能がおかしくなったりします。
具体的には、ブレーキが効きにくくなる機能喪失型の変化や、逆にブレーキが異常な形で効いてしまう機能獲得型の変化が起きることがあります。
どちらの場合でも、結果として脳の神経回路における興奮と抑制のバランスが大きく崩れてしまいます。
ブレーキが壊れた車が暴走してしまうように、脳の神経が過剰に興奮しててんかん発作が起きたり、正常な神経ネットワークの形成が妨げられて発達の遅れが生じたりすると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE92のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にGABRA5遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
DEE92のお子さんの脳波では、てんかん性の突発波(スパイク)が多発したり、脳全体の電気活動がゆっくりになっている徐波化が見られたりします。また、サプレッション・バーストと呼ばれる、脳波が平坦になる時期と激しい波が出る時期を繰り返す重篤なパターンが見られることもあります。
2. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
発症初期には、脳の形に明らかな異常は見られないことが多いです。しかし、発作が長く続いた後や、年齢が進んでくると、脳が少し萎縮して小さくなっている様子が見られることがあります。これは他の病気を除外するためにも重要な検査です。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。
これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE92は非常に稀な病気であるため、症状だけでは診断がつかず、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてGABRA5遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
GABRA5遺伝子の変異が原因であるため、GABAの働きに関連するお薬などが検討されることがありますが、特効薬といえるものはまだ確立されていません。
バルプロ酸、レベチラセタム、フェノバルビタール、クロバザム、トピラマートなど、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
お薬だけで発作が止まらない場合は、ケトン食療法という特殊な食事療法が検討されることもあります。これは脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事をとることで、脳のエネルギー源を切り替え、発作を抑制しようとする治療法です。

2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさ(筋緊張低下)に対して、姿勢を保つための練習や、関節が硬くならないようなマッサージを行います。座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギーなど、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。また、入浴や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫を学びます。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受け、誤嚥性肺炎を防ぎながら少しでも口から食べる楽しみを持てるようにサポートします。
3. 栄養と呼吸の管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。胃ろうは、誤嚥のリスクを減らし、お子さんとご家族の食事時間のストレスを軽減するための有効な手段です。
また、呼吸が弱い場合や、痰が出しにくい場合は、吸引器を使ったり、在宅酸素療法を行ったりすることもあります。夜間の呼吸状態を見守るためにモニターを使用することもあります。
4. 感染症対策
筋緊張が弱く、呼吸の力が弱いお子さんは、風邪をこじらせて肺炎になりやすい傾向があります。
手洗いなどの基本的な感染対策に加え、流行期には人混みを避ける、予防接種を計画的に受けるなどの対策が大切です。特にRSウイルスやインフルエンザなどには注意が必要です。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症92型(DEE92)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
GABRA5遺伝子の変異により、脳内のブレーキシステム(GABA受容体)に不具合が生じ、脳の過剰興奮や発達への影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴
新生児期から乳児期早期に始まる難治性てんかん、重度の発達遅滞、著しい筋緊張低下などが特徴です。
てんかん
薬が効きにくいことが多いですが、様々な薬の組み合わせや食事療法などの選択肢があります。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
発作のコントロールだけでなく、リハビリ、栄養管理、呼吸管理、感染症予防など、全身をトータルでケアすることが大切です。
