医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 26という非常に長く、難解な診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症26型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE26(ディー・イー・イー・ニジュウロク)と呼ばれることが一般的です。
また、原因となる遺伝子の名前をとってKCNB1関連神経発達障害やKCNB1関連てんかん性脳症と呼ばれることも増えています。
この病気は、乳幼児期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れや、言葉の遅れが見られるという特徴があります。その原因として、KCNB1という特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳症という言葉や26型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症26型(DEE26)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きに影響が出る疾患です。
まず、この発達性およびてんかん性脳症という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE26は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この26型は、KCNB1(ケー・シー・エヌ・ビー・ワン)という遺伝子の変異によって引き起こされることが2014年頃の研究で明らかになりました。
DEE26は、KCNB1遺伝子の変異によって引き起こされる症状の中でも、特にてんかん発作を伴うタイプを指します。てんかん発作がない、あるいは軽微で、発達の遅れだけが見られるタイプもあり、それらは単にKCNB1関連神経発達障害と呼ばれることもあります。
この病気の頻度は非常に稀で、正確な統計はありませんが、10万人に1人よりも少ないと考えられています。しかし、近年の遺伝子解析技術の進歩により、原因不明のてんかんや発達障害と診断されていたお子さんの中から、KCNB1遺伝子の変異が見つかるケースが増えてきています。
主な症状
DEE26の症状は、特徴的なてんかん発作、発達の遅れ、そして行動や身体の特徴の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
多くの患者さんにおいて、生後6ヶ月頃から2歳頃までの間に最初てんかん発作が始まります。ただし、もっと早い時期に始まることもあれば、少し遅れて始まることもあります。
発作のタイプ
DEE26で見られるてんかん発作は非常に多彩で、一人のお子さんが複数のタイプの発作を持つことがよくあります。
全般強直間代発作:全身が硬直したあとにガクガクと震える大きな発作です。
欠神発作:意識が数秒間途切れ、動作が止まる発作です。呼びかけても反応がなくなります。
ミオクロニー発作:手足や体が一瞬ビクッとする発作です。
焦点発作:体の一部がピクピク動いたり、視線が偏ったりする発作です。
てんかん性スパズム:両手を広げてお辞儀をするような動作を繰り返す発作が見られることもあります。
特徴的な脳波異常(CSWS/ESES)
DEE26の重要な特徴の一つに、睡眠中の脳波異常があります。
睡眠時持続性棘徐波(CSWS)や睡眠時電気的重積(ESES)と呼ばれる状態で、寝ている間にてんかん性の異常な電気活動が持続的に発生してしまいます。
見た目にはけいれんしていなくても、脳の中ではずっと発作が起きているような状態になるため、これが長く続くと、言葉の発達の停滞や後退、認知機能への影響が出やすくなると考えられています。
難治性
DEE26のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬で完全にコントロールすることが難しい難治性の場合があります。しかし、いくつかのお薬を組み合わせることで、日常生活に支障がない程度まで発作を減らせることもあります。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、発達のゆっくりさが目立つようになります。
言葉の遅れ
特に言葉の発達に遅れが見られる傾向があります。言葉を理解する力は比較的育ちやすい一方で、自分から話すこと(表出言語)が苦手なお子さんが多いです。
発語がない場合でも、ジェスチャーや絵カードなどを使ってコミュニケーションを取ることができるお子さんもいます。
軽度から重度まで幅広いですが、多くのお子さんに知的な発達の遅れが見られます。
新しいことを覚えるのに時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが難しかったりすることがあります。
運動発達の遅れ
首がすわる、お座りをする、歩くといった運動面の発達もゆっくりになる傾向があります。
多くの患者さんは成長とともに歩行を獲得しますが、少しふらついたり、手先の不器用さが見られたりすることがあります。
筋緊張低下
赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることがあります。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。これにより、運動発達がさらにゆっくりになる傾向があります。
3. 行動面の特徴
DEE26のお子さんには、いくつかの行動の特徴が見られることがあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の傾向
視線を合わせにくい、こだわりが強い、同じ動作を繰り返す(常同行動)、人とのコミュニケーションが苦手といった特徴が見られることがあります。
多動と衝動性
じっとしているのが苦手で、常に動き回っていたり、気になったものにすぐに手を出してしまったりする注意欠如・多動症(ADHD)のような行動が見られることがあります。
感覚過敏
大きな音や特定の触り心地を極端に嫌がったり、逆に特定の感覚刺激を求めたりすることがあります。
攻撃性や自傷行為
自分の思い通りにならない時に、自分を叩いたり、他者を叩いたりしてしまう行動が見られることがありますが、これは言葉でうまく伝えられないもどかしさの表れであることも多いです。
原因
なぜ、てんかんが起きたり、言葉が遅れたりするのでしょうか。その原因は、脳の神経細胞にある電気信号の調整役の故障にあります。
KCNB1遺伝子の役割
DEE26の原因は、第20番染色体にあるKCNB1(ケー・シー・エヌ・ビー・ワン)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、電位依存性カリウムチャネル(Kv2.1チャネル)という、脳の神経細胞の表面にある小さな穴(通り道)を作るための設計図です。
脳の神経細胞は、電気信号を使って情報をやり取りしています。この電気信号を発生させたり、止めたりするために、細胞の内外でナトリウムやカリウムといったイオンが出入りします。
KCNB1遺伝子が作るカリウムチャネルは、興奮した神経細胞を鎮め、電気信号を止めるブレーキのような役割をしています。また、高い頻度で連続して電気信号を送ることができるように、細胞の状態をリセットする役割も担っています。
遺伝子の変化による影響
KCNB1遺伝子に変異が起きると、このカリウムチャネルがうまく作られなかったり、形がおかしくなったりします。
機能喪失型
チャネルがうまく働かず、カリウムイオンを通せなくなります。すると、神経細胞の興奮を鎮めるブレーキが効かなくなり、神経が過剰に興奮しやすくなります。
ドミナント・ネガティブ効果
変異したチャネルが、正常なチャネルの働きまで邪魔をしてしまい、全体としてブレーキの効きが極端に悪くなってしまう状態です。DEE26では、この効果によって症状が重くなるケースが多いと考えられています。
ブレーキが壊れた車が暴走してしまうように、脳の神経が過剰に興奮しててんかん発作が起きたり、神経ネットワークの形成が妨げられて発達の遅れが生じたりすると考えられています。
また、KCNB1は脳の発達段階において、神経細胞が正しい場所に移動したり、正しい形を作ったりするためにも重要であることが分かっており、この機能不全が発達障害の直接的な原因にもなっています。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、重症型であるDEE26のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にKCNB1遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
DEE26のお子さんの脳波では、てんかん性の突発波(スパイク)が見られます。
特に重要なのが睡眠時の脳波検査です。先ほど述べたESES(睡眠中の持続的な放電)がないかを確認することは、治療方針を決める上で非常に重要です。見かけ上の発作がなくても、発達の停滞が見られる場合には、睡眠時の脳波を詳しく調べることが推奨されます。
2. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
発症初期には、脳の形に明らかな異常は見られないことが多いです。しかし、年齢が進んでくると、脳が少し萎縮して小さくなっている様子が見られることがあります。これは他の病気を除外するためにも重要な検査です。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。
これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE26は症状だけでは他の発達障害やてんかん症候群と区別がつかないことが多いため、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてKCNB1遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。

治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。
1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
KCNB1変異に対する特効薬というものはまだ確立されていませんが、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
バルプロ酸、クロバザム、レベチラセタム、トピラマート、エトスクシミドなどが使われることが多いです。
特に、睡眠中の脳波異常(ESES)がある場合は、ベンゾジアゼピン系薬剤(クロバザムなど)やステロイド療法などが検討されることがあります。
一方で、一部のナトリウムチャネル遮断薬(カルバマゼピンなど)は、症状によっては慎重に使用する必要がある場合もあります。主治医はお子さんの発作タイプを見極めて、薬を選んでいきます。
お薬だけでコントロールが難しい場合は、ケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事療法)が選択肢に入ることもあります。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
言語聴覚療法(ST)
言葉の遅れが目立つDEE26のお子さんにとって、STは非常に重要です。言葉の理解を促すだけでなく、発語が難しい場合でも、絵カードやジェスチャー、タブレット端末などの代替コミュニケーション手段(AAC)を活用することで、意思疎通ができるようになります。自分の気持ちが伝わることは、かんしゃくや行動面の問題を減らすことにもつながります。
作業療法(OT)
手先の不器用さを改善するために、遊びを通じて手と目の協調運動を練習します。また、感覚過敏がある場合は、その調整を行ったり、日常生活の動作(食事、着替えなど)をしやすくする工夫を学んだりします。
理学療法(PT)
体のふらつきや筋緊張低下に対してアプローチします。体幹を鍛える運動や、バランス感覚を養う遊びを取り入れ、安定した歩行や運動を目指します。必要に応じて、足に合う靴やインソール(中敷き)を作成することもあります。
3. 教育と生活環境
就学に際しては、お子さんの理解度や特性に合わせた環境を選びます。
地域の学校の特別支援学級や、特別支援学校など、少人数で個別のサポートが受けられる環境が適していることが多いです。
視覚的な情報処理が得意なお子さんが多いため、言葉だけでなく絵や写真を使ってスケジュールを示すなどの視覚支援を行うと、安心して活動できることがあります。
また、多動や衝動性がある場合は、刺激の少ない落ち着いた環境を用意することも大切です。
4. 安全対策
てんかん発作による転倒や怪我を防ぐため、家具の角にクッションをつけたり、お風呂場での見守りを徹底したりします。
発作が起きた時の対応(時間を計る、動画を撮る、頓服薬を使うなど)について、主治医とあらかじめ相談し、マニュアルを作っておくと安心です。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症26型(DEE26)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
KCNB1遺伝子の変異により、神経細胞の興奮を鎮めるカリウムチャネルに異常が生じ、脳の過剰興奮や発達に影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴
乳幼児期のてんかん(多彩な発作タイプ)、言葉を中心とした発達の遅れ、睡眠中の脳波異常(ESES)、行動面の特徴などが挙げられます。
てんかん
難治性であることが多いですが、様々なお薬の調整やESESへの治療などでコントロールを目指します。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
発作のコントロールだけでなく、言語療法などの療育、コミュニケーション支援、安全対策など、全身をトータルでケアすることが大切です。
