この記事でわかること
ForenSeq DNA Signature Prep Kitは、QIAGEN社(旧Verogen社)が開発した試薬キットです。法医学向けの次世代シーケンシング(NGS)用として使われています。1回の解析で、STR・SNPあわせて約200種類のマーカーを調べられる点が特徴です。
この記事では、仕組みや検出マーカー、活用シーンを整理します。精度管理の考え方も、公式資料と公的情報をもとに解説します。
- ForenSeq DNA Signature Prep Kitとはどのようなキットか
- STR解析とSNP解析、それぞれで何がわかるのか
- MiSeq FGx Systemとの組み合わせによる解析の流れ
- 法医学・親子鑑定における具体的な活用シーン
- ヒロクリニックのNIPPTとの技術的な関係
ForenSeq DNA Signature Prep Kitとは
ForenSeq DNA Signature Prep Kitは、次世代シーケンシング技術を使う試薬キットです。法医学サンプルのDNAプロファイルを、一括で解析するために作られました。
米国Verogen社が開発し、現在はQIAGEN社の製品ラインに含まれています。従来のキャピラリー電気泳動法によるSTR型鑑定と比べてみましょう。一度に扱えるマーカーの種類が大幅に増えた点は、大きな進歩です。
MiSeq FGx Systemの構成要素のひとつ
このキットは単独で使う試薬ではありません。Illumina社(現Verogen/QIAGEN)の製品です。名称はMiSeq FGx Forensic Genomics Systemといいます。
本キットとMiSeq FGx試薬キット、シーケンサー本体、専用解析ソフトウェア。この4点で構成される、一体型のシステムです。
私自身、複数の検査機器の資料を読み比べました。試薬から解析ソフトまで一体で検証されている点は、珍しい設計だと感じました。
検出する主なDNAマーカー
このキットの中心的な特徴は、性質の異なる2種類のマーカーです。STR(短鎖反復配列)とSNP(一塩基多型)を、同時に解析できます。QIAGEN社の製品情報によると、1回のワークフローで扱えるマーカーは次のとおりです。
| マーカーの種類 | 件数 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 常染色体STR | 27座 | 個人識別・親子鑑定 |
| Y染色体STR | 24座 | 父系血縁の追跡 |
| X染色体STR | 7座 | 複雑な血縁関係の補助解析 |
| 個人識別用SNP(iiSNP) | 94カ所 | 個人識別の精度補強 |
| 祖先系統推定用SNP(aiSNP) | 56カ所 | 大陸系統の推定 |
| 表現型推定用SNP(piSNP) | 22カ所 | 目の色・髪の色などの推定 |
合計するとおよそ200種類のマーカーです。STRだけに頼る従来法よりも、多角的な照合が可能になります。
なぜマーカー数の多さが照合精度に関わるのか
照合に使うマーカーが増えるほど、偶然一致してしまう確率は理論上下がります。従来のSTR中心の型鑑定は、限られた座位数で血縁の可能性を評価してきました。
本キットはSTRに加えてSNPを組み合わせます。片方だけでは判断がつきにくい検体もあります。複数の解析方式を突き合わせることで、結論の確からしさを補強できます。マーカーの種類が増えれば増えるほど良い、というわけではありません。検体の状態や目的に合った組み合わせを選ぶ視点も必要です。
実際、SNSでも骨や歯からの識別能力の高さに驚く声を見かけます。ある方は、法医学の技術に興味を示していました(@Kage_shisu_i)。
白骨化した遺体でも、歯や骨の一部が残っていれば身長や年齢、顔立ちまで推定できるという内容です。piSNPによる表現型推定は、まさにこうした見た目の特徴の推定に使われる技術です。
解析の流れと必要な検体量
ForenSeq DNA Signature Prep Kitによる解析は、大きく4段階で進みます。抽出・ライブラリ調製・シーケンシング・データ解析という流れです。QIAGEN社の技術資料では、以下のような目安が示されています。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 推奨されるゲノムDNA量 | 1ng程度 |
| 解析可能な下限量 | 劣化・複雑な検体で100pg未満でも対応可能 |
| ハンズオン作業時間 | 約1時間45分 |
| ライブラリ調製の総所要時間 | 約7時間15分 |
| 反応数の規格 | 96反応用・384反応用の2種類 |
微量・劣化した検体にも対応できる設計です。骨や歯、毛根など、法医学の現場で扱いにくいとされてきた検体でも解析の道が開けます。
実際にSNS上にも、こうした技術を紹介する投稿がありました(@kouki_FreeWill)。死亡した人の血液・組織・骨・歯・毛根からDNAを採取し、Y-STR解析まで行えるという内容です。
時間の経過でDNAが劣化しても、骨や歯を試料として使う考え方は法医学では一般的です。
4段階のワークフロー
実際の作業は、大きく4段階に分かれます。各段階の役割を押さえておくと、全体像がつかみやすくなります。
- DNA抽出:検体から解析対象のDNAを取り出す最初の工程です。
- ライブラリ調製:本キットを使い、対象マーカー領域を増幅・標識します。
- シーケンシング:MiSeq FGx本体で塩基配列を読み取ります。
- データ解析:ForenSeq Universal Analysis Softwareが自動でレポートを作成します。
試薬・機器・ソフトウェアが一体で検証されているため、施設ごとに解析条件がばらつきにくい点も特徴です。

法医学・親子鑑定における活用シーン
ForenSeq DNA Signature Prep Kitの用途は、犯罪捜査だけではありません。身元確認や親子鑑定など、幅広い場面で使われています。用途ごとに整理すると、次のようになります。
- 犯罪捜査:現場に残された微量な検体からDNA型を割り出します。
- 身元不明遺体の身元確認:災害や事故の際、骨や歯から個人を特定します。
捜査分野では、DNA型記録をデータベース化して活用する取り組みも進んでいます。日本の警察庁も、DNA型鑑定を科学技術の活用策のひとつとして白書で説明しています。
- 親子鑑定・血縁鑑定:STRとSNPを組み合わせ、血縁関係の可能性を統計的に評価します。
- 系統解析・祖先由来の推定:aiSNPを用いて大陸系統の傾向を推定する研究にも応用されます。
いずれの用途も、マーカー数が多いほど照合の手がかりが増えます。次章では、この技術がNIPPT(出生前親子鑑定)とどうつながっているかを見ていきます。
ヒロクリニックのNIPPTとの技術的なつながり
ヒロクリニックのNIPPT(出生前親子鑑定)は、次世代シーケンサーを用いています。採用しているのはMiSeq FGx Systemです。同システムは、試薬キットとの組み合わせを前提に開発されました。
本キットも、その組み合わせのひとつです。解析そのものは、次世代シーケンサーを複数台備える国内の検査機関(東京衛生検査所)で行われています。
ここで誤解しやすい点があります。実際に解析を行っているのはヒロクリニックそのものではなく、国内の検査機関(東京衛生検査所)です。ヒロクリニックは、この検査機関の技術基盤を採用してNIPPTを提供する立場にあります。両者の役割分担を正しく理解しておくと、検査の仕組み全体を把握しやすくなります。
精度管理と第三者認定の考え方
法医学分野のDNA解析では、キットの性能だけでなく検査機関の品質管理体制も重要です。解析施設が第三者認定を受けているかどうかは、信頼性を見極める目安になります。代表例がISO/IEC17025です。
日本適合性認定協会(JAB)は、こうした試験所認定の考え方を公開しています。また厚生労働省も、遺伝子関連検査・染色体検査の品質と精度の確保について、検討会資料をまとめています。キットの技術力と、それを運用する検査機関の体制。両方をあわせて確認する姿勢が欠かせません。
私自身、検査機器の資料を確認する際は、性能の数字だけを見ません。第三者機関による定期的な外部精度評価の有無まで、あわせて確認しています。数字が優れていても、運用体制が伴わなければ意味が薄れてしまうからです。読者の方が検査機関を選ぶ際も、同じ視点を持っていただくと安心材料が増えます。
ForenSeq MainstAY Kitとの違い
QIAGEN社は、本キットのほかにも製品を展開しています。そのひとつがForenSeq MainstAY Kitです。どちらも法医学向けのNGS試薬キットですが、対応するマーカーの範囲や設計思想には違いがあります。詳しいメカニズムの比較は、以下の記事で解説しています。
まとめ
ForenSeq DNA Signature Prep Kitは、法医学向けの次世代シーケンシング用キットです。STRとSNPをあわせて、約200マーカーを解析できます。犯罪捜査や身元確認、親子鑑定など、幅広い場面で活用されています。
MiSeq FGx Systemという一体型の解析基盤の中核を担う存在です。ヒロクリニックのNIPPTも、この技術基盤を採用しています。解析そのものは、国内の検査機関(東京衛生検査所)に委ねる体制です。
まずは関連記事でMiSeq FGx Systemの仕組みを確認してみてください。NIPPTの精度についての記事もあわせて読むと理解が深まります。気になる点があれば、電話やWEBからお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
ForenSeq DNA Signature Prep Kitについてのよくある質問です。順番にお答えします。
ForenSeq DNA Signature Prep Kitとは何ですか?
QIAGEN社(旧Verogen社)が開発した試薬キットです。法医学サンプルのDNAプロファイリング向けの、次世代シーケンシング用キットです。STRとSNPをあわせて約200マーカーを解析できます。
STRとSNPはどう違うのですか?
STRは短い配列の繰り返し回数を比較するマーカーで、法医学分野で古くから使われてきました。SNPは一塩基単位の違いを比較する方式で、個人識別や祖先系統・表現型の推定に使われます。
1回の検査にどのくらいの検体量が必要ですか?
QIAGEN社の資料では、推奨量はゲノムDNA約1ngとされています。劣化した検体や複雑な検体では、100pg未満でも解析対応が可能とされています。
ForenSeq MainstAY Kitとの違いは何ですか?
どちらも法医学向けのNGS試薬キットですが、対応するマーカーの範囲や設計が異なります。詳しい比較は、上記の関連記事をご覧ください。
ヒロクリニックのNIPPTでもこのキットが使われていますか?
ヒロクリニックのNIPPTも、同じ解析基盤を採用しています。使っているのはMiSeq FGx Systemです。解析自体は、国内の検査機関(東京衛生検査所)が担当しています。
精度を確認する方法はありますか?
解析施設がISO/IEC17025のような第三者認定を受けているかどうかが、ひとつの目安になります。日本適合性認定協会(JAB)が試験所認定の情報を公開しています。
法医学以外の用途もありますか?
祖先系統推定用SNP(aiSNP)や表現型推定用SNP(piSNP)も含まれています。身元不明者の推定情報を得る捜査支援など、識別以外の目的にも活用されています。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、臨床研修後2年で医学博士を取得。
国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・メーカー公式情報を参照して作成しています。
参考:QIAGEN「ForenSeq DNA Signature Prep Kit」公式製品情報/QIAGEN「MiSeq FGx Sequencing System」公式製品情報/厚生労働省「遺伝子関連検査・染色体検査の品質・精度の確保について」
参考(続き):警察庁「令和元年版警察白書:科学技術の活用」/日本適合性認定協会(JAB)「試験所・校正機関(ISO/IEC17025)」
関連記事:MiSeq FGx Systemとは/ISO 17025とは/ForenSeq MainstAY Kitについて
関連記事(続き):QIAGEN ForenSeq MainstAY KitとForenSeq DNA Signature Prep Kitのメカニズムの違いについて/MiSeq FGx Systemを用いた出生前親子鑑定の精度について
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

