この記事のまとめ
ForenSeq MainstAY KitとForenSeq DNA Signature Prep Kitは、どちらも次世代シーケンサー(NGS)を使う法医学的DNA解析キットです。
ただし、対象マーカーと解析範囲がはっきり異なります。
この記事でわかること
- ForenSeq MainstAY Kitの仕組みと対象マーカー
- ForenSeq DNA Signature Prep Kitの仕組みと対象マーカー
- 2つのキットのメカニズムの違いを一覧で比較
- 検査の「メカニズムの違い」がNIPTや出生前親子鑑定の精度にも関わる理由
はじめに
「ForenSeq」という名前の検査キットは、いくつか種類があり違いがわかりにくいという声をよく聞きます。
特にMainstAY KitとDNA Signature Prep Kitは名前が似ているため、混同されがちです。
私自身、遺伝子解析の現場に携わる中で、この2つのキットについて質問を受ける機会が何度もありました。
結論から言うと、両者は同じ次世代シーケンシング技術を土台にしながら、狙うマーカーの範囲がまったく違います。
この記事では、2つのキットの仕組みと違いを整理します。
あわせて、こうした「検査メカニズムの違い」がNIPTや出生前親子鑑定の精度にも関わってくる理由を解説します。
ForenSeq MainstAY Kitとは
ForenSeq MainstAY Kitは、法医学的に重要な52種のマーカーに対象を絞り込んだ次世代シーケンシング(NGS)キットです。
ここでいうSTR(繰り返し配列の個人差を示す目印)は、常染色体とY染色体を合わせて52種です。
常染色体STR27種、Y-STR25種の合計52マーカーを同時に解析します。
個人識別や親子関係の確認に必要な情報を、効率よく絞り込んで読み取る設計です。
ターゲットシーケンシング
MainstAY Kitは、あらかじめ決めた52マーカーだけを狙って読む「ターゲットシーケンシング」という手法を採用しています。
ゲノム全体を読むのではなく、必要な部分だけを重点的に解析するため、精度と処理速度の両立が可能です。
高スループット
MainstAY Kitは、MiSeq FGx Sequencing Systemと組み合わせて使用します。
1回の解析で最大96検体を同時処理できるため、大量のサンプルを扱う法医学ラボに向いています。
2023年6月には、米国FBIがMainstAYワークフローを国家DNAデータベース(NDIS)向けに承認しました。
これは、CE(キャピラリー電気泳動)によるSTR解析に代わる、コストを抑えた選択肢として評価されたためです。
データ解析の効率化
解析結果は、専用のForenSeq MainstAY Analysis Moduleで処理します。
レポート作成まで自動化されているため、担当者の負担を抑えながら迅速な結果報告につながります。
ForenSeq DNA Signature Prep Kitとは
ForenSeq DNA Signature Prep Kitは、STR・SNP・ミトコンドリアDNAを含む200種類超のマーカーを扱います。
より網羅型のNGSキットと言えます。
MainstAY Kitと同じくNGS技術を使いますが、対象マーカーの幅がかなり広いのが違いです。
SNP(一塩基多型。DNA配列の1か所だけが個人差として異なる部分)も対象に加わります。
常染色体STRに加え、X・Y-STR、個人識別用SNP、表現型推定用SNP、生物地理学的祖先推定用SNPまで200種類超を扱います。
包括的なターゲット解析
マーカーの種類が多い分、1回の検査で得られる遺伝情報の幅も広がります。
STR単独では読み取れない特徴まで、まとめて解析できる点が強みです。
多目的な用途
用途は犯罪捜査だけにとどまりません。
系統解析や親子関係の確認など、幅広い解析ニーズに対応できる設計です。
柔軟なスループット
キットの構成は96反応と384反応の2種類が用意されています。
ラボの規模や案件数に応じて、無理のない構成を選べる柔軟さが特徴です。

2つのキットのメカニズムの違いを比較
両キットの違いは、対象マーカー・解析範囲・データ解析ツールの3点に整理すると理解しやすくなります。
どちらも同じMiSeq FGx Sequencing Systemの上で動きますが、目的が違えば選ぶべきキットも変わります。
下の表で全体像を確認してみましょう。
| 比較項目 | ForenSeq MainstAY Kit | ForenSeq DNA Signature Prep Kit |
| 対象マーカー | 常染色体STR27種+Y-STR25種(計52種) | STR・SNP・mtDNAなど200種類超 |
| 主な用途 | 個人識別、親子関係の確認、volume caseworkが中心 | 犯罪捜査に加え系統解析・親子関係確認など多目的 |
| 解析ツール | ForenSeq MainstAY Analysis Module | 用途に応じた複数の解析ソフトウェア |
| キット構成 | 96反応構成 | 96反応・384反応の2構成 |
| 米国での位置づけ | 2023年にFBIがNDIS向けワークフローを承認 | 幅広い解析ニーズへの対応を重視 |
表からもわかるとおり、MainstAY Kitは的を絞った設計、Signature Prep Kitは網羅型の設計です。
どちらが優れているというより、目的に応じた使い分けが前提になっています。
両キットが稼働するシーケンシングシステム自体について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
検査の「メカニズムの違い」はNIPTにも当てはまる
「対象を絞るか、広く網羅するか」というメカニズムの違いは、NIPT(新型出生前診断)を含む遺伝学的検査全般に共通する考え方です。
NIPTも、検査会社やプランによって対象とする染色体・疾患の範囲が異なります。
基本的な21・18・13トリソミーに絞ったプランもあれば、微小欠失や単一遺伝子疾患まで対象を広げたプランもあります。
この違いは、精度や検出できる範囲にそのまま影響します。
産婦人科医の室月淳氏も、X(旧Twitter)で次のように指摘しています。
「21トリソミーに対するNIPTの性能が高いからといって、微小欠失や性染色体異数性についても同じ性能があるわけではありません」。
「性染色体異数性については精度がやや落ち、偽陽性率も高くなります」。
「まして微小欠失は感度特異度などは確立しておらず、日常臨床導入には十分な検討を進める必要があります」(@junmurot)。
対象とするマーカーや疾患が変われば、精度も変わる。
これは、法医学キットの設計思想とまったく同じ構造です。
一方で、NIPTの技術も日々進化を続けています。
不妊治療関連の情報を発信するSRHリサーチ株式会社も、次のような研究をX上で紹介していました。
「1回の検査で単一遺伝子病も染色体異常も——次世代NIPT」。
「これまでのNIPTでは同時に検出できなかった単一遺伝子疾患、均衡型の染色体構造異常、異数性を、一括で調べられる新しい非侵襲的出生前検査を開発」。
「母体血のDNA解析から胎児の遺伝型を高精度に推定し、羊水検査などの結果と完全に一致した」(@SRH_Research)。
対象を絞り込む設計から、より広く網羅する設計へ。
この流れは、法医学の分野とNIPTの分野で並行して進んでいると言えるでしょう。
出生前検査の認証制度や仕組みについて、公的な立場からの情報を確認したい方は、以下の運営委員会の公式サイトも参考にしてください。
出生前検査認証制度等運営委員会(日本医学会)では、NIPTを実施する認証施設の一覧などが公開されています。
出生前親子鑑定を検討する方へ知っておきたいポイント
出生前親子鑑定は、母体血に含まれる胎児由来のDNA断片を解析することで、出産前に父子関係を確認できる検査です。
NIPTと同じくMiSeq FGx Systemのようなシーケンシング機器を使い、母体血からDNAを取り出して解析する点は共通しています。
ただし、調べる対象がトリソミーなどの染色体異常ではなく、父親候補とのDNA型の一致度である点が異なります。
実際、SNSでも「胎児ドックのときに親子鑑定も一緒にした方がいい感じ…?」という投稿を見かけました。
時期をどうするか迷う声は、決して珍しくありません(@0_nhs17)。
妊娠中の検査スケジュールとあわせて検討したい、という声もあります。
私たちの外来でも、出生前親子鑑定についてご相談をいただく機会が増えてきました。
検査を選ぶ際は、次の3点を確認しておくと安心です。
- どの遺伝子解析機器・キットを使い、何を対象に調べる検査なのか
- 結果報告までにかかる日数と、検体を解析する検査機関はどこか
- 陽性・不明な結果が出た場合、どのようなサポート体制があるか
ヒロクリニックNIPTでは、国内の検査機関(東京衛生検査所)で検体を解析するため、結果報告は最短2〜5日です。
年齢制限や紹介状は不要で、産婦人科専門医・臨床遺伝専門医が連携し、結果説明時の遺伝カウンセリングにも対応しています。
出生前親子鑑定の精度そのものについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
よくある質問
ForenSeqキットや関連する検査について、よく寄せられる質問にお答えします。
Q. ForenSeq MainstAY KitとDNA Signature Prep Kitの一番の違いは何ですか?
対象とするマーカーの範囲です。
MainstAY KitはSTR・Y-STRの52マーカーに絞ります。
Signature Prep KitはSTR・SNP・mtDNAを含む200種類超を扱います。
Q. どちらのキットも親子鑑定に使えますか?
いずれも親子関係の確認に応用できる設計です。
MainstAY KitはSTR・Y-STRによる個人識別、Signature Prep KitはSNPなども加えたより広い解析が可能です。
Q. MiSeq FGx Sequencing Systemとは何ですか?
ForenSeqシリーズのキットを使う際に用いる次世代シーケンサーです。
1回の解析で最大96検体を処理でき、法医学分野で広く利用されています。
Q. NIPTでも検査メカニズムの違いによって精度が変わりますか?
変わります。
基本的な21・18・13トリソミーは検出精度が高い一方、微小欠失や性染色体異数性は精度がやや落ちるとされています。
対象範囲は検査会社やプランによって異なるため、事前の確認が欠かせません。
Q. 出生前親子鑑定とNIPTは同時に受けられますか?
採血のタイミングなど、実施条件は検査機関によって異なります。
同時に検討したい場合は、事前にクリニックへ相談してください。
Q. ForenSeq MainstAY Kitが米国で承認されたのはいつですか?
2023年6月、米国FBIがMainstAYワークフローを国家DNAデータベース(NDIS)向けに承認しました。
CEによるSTR解析に代わる選択肢として位置づけられています。
まとめ
ForenSeq MainstAY Kitは、対象を絞った高スループット型のNGSキットです。
ForenSeq DNA Signature Prep Kitは、より広い範囲を網羅する多目的型のNGSキットです。
どちらも次世代シーケンシングという同じ土台の上で、目的に応じたメカニズムの違いを持たせている点が共通しています。
対象を絞るか、広げるか——検査選びの本質。
この考え方は、NIPTや出生前親子鑑定といった妊娠中の遺伝学的検査にもそのまま当てはまります。
検査を選ぶときは、名前の似ているキットや検査プランでも中身が異なる場合がある、という点を意識してください。
気になる場合は、対象範囲や精度について、検査機関に直接確認してください。
NIPTの検査手順について詳しく知りたい方はNIPTの検査手順を解説した記事もあわせてご覧ください。
出生前親子鑑定の精度について知りたい方は出生前親子鑑定の精度に関する記事も参考にしてください。
【参考文献・参考サイト】
- Verogen(QIAGEN) – ForenSeq MainstAY Kit 製品情報
- Verogen(QIAGEN) – ForenSeq DNA Signature Prep Kit 製品情報
- QIAGEN Corporate Newsroom – FBI approves QIAGEN’s ForenSeq MainstAY workflow for NDIS(2023)
- 出生前検査認証制度等運営委員会(日本医学会) – jams-prenatal.jp
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。


