概要
シャルコー・マリー・トゥース病 軸索型2A2Bは、手足の末梢神経(運動神経と感覚神経)の「軸索」と呼ばれる部分が少しずつ傷み、手足の先から筋力が落ちて筋肉がやせていく遺伝性の神経の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MFN2(1p36.22)遺伝子の変化が原因となります。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は遺伝性の末梢神経の病気をまとめた呼び名で、原因遺伝子は100種類以上知られています。そのなかでこの型は、多くが乳幼児期から小児期の早い時期に発症し、症状が比較的重くなりやすいことが特徴です。歩き始めの遅れや転びやすさ、足首の変形などで気づかれることが多く、成長とともに症状が進み、車いすが必要になる方もいます。一方で、知能は通常保たれます。
MFN2 遺伝子の変化は、遺伝のしかたが異なる複数の病気を起こします。もっとも多いのは、変化した遺伝子が1つあるだけで発症する常染色体顕性(優性)の「軸索型2A2A」で、この「軸索型2A2B」は、ご両親の両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症する潜性の型です。症状はよく似ていますが、次のお子さまへの影響(再発率)が大きく異なるため、どちらの型かを正しく見分けることが大切です。
原因
MFN2(マイトフュージン2)は、細胞のなかでエネルギーをつくる「ミトコンドリア」どうしを融合させ、形や配置を整えるたんぱく質です。
末梢神経の軸索は、脊髄から足の先まで1メートル近くにもなる、体のなかでもっとも長い細胞の突起です。その先端まで元気なミトコンドリアを運び、エネルギーを届け続ける必要があります。MFN2 がはたらかないと、ミトコンドリアの融合や輸送がうまくいかず、長い神経の先端ほどエネルギーが足りなくなって傷みやすくなります。そのため、症状は足先、続いて手先から現れます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 乳幼児期〜小児期の早い発症:歩き始めの遅れ、転びやすさ、走るのが苦手といった様子で気づかれます
- 足先からの筋力低下と筋萎縮:足首を持ち上げにくくなり(下垂足)、つま先が引っかかりやすくなります
- 手の筋力低下:病気が進むと、ボタンをかける・字を書くなどの細かい動作が難しくなります
- 足の変形:土踏まずが高くなる凹足(おうそく)や、足の指が曲がる変形がみられます
- 手足の先の感覚の低下、腱反射の低下・消失
- 背骨の曲がり(側弯症)、関節のかたさ
- 一部の方では視神経の萎縮による視力の低下がみられることがあります
- 症状の重さには個人差が大きく、成人まで歩行を保つ方もいれば、小児期に車いすが必要になる方もいます
検査・診断
手足の筋力低下や足の変形などの症状と、神経伝導検査から疑われます。軸索型では、神経を伝わる速さ(伝導速度)は正常またはわずかな低下にとどまる一方、伝わる信号の大きさ(振幅)が小さくなることが特徴で、神経を包む髄鞘が傷む「脱髄型」と区別されます。
確定診断は遺伝学的検査で行い、軸索型2A2Bでは MFN2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。MFN2 の変化が1つだけ見つかった場合は顕性の型(2A2A)の可能性もあるため、ご両親の検査もあわせて行い、遺伝のしかたを確かめることが、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで大きな意味を持ちます。
治療
現時点で、この病気を治す治療や、進行を止める治療はありません。治療の中心は、筋力や関節の動きをできるだけ保ち、日常生活を送りやすくするためのリハビリテーションと支援です。ミトコンドリアのはたらきを補う薬の研究も進められていますが、まだ実用化の段階にはありません。
- リハビリテーション:理学療法・作業療法で筋力や関節の柔らかさを保ち、動作の工夫を身につけます
- 装具:短下肢装具などで足首を支え、歩きやすくし、転倒を防ぎます
- 整形外科的治療:足の変形や側弯症が進んだ場合に、手術を検討することがあります
- 移動の支援:必要に応じて杖・車いすなどを使い、活動の範囲を保ちます
- 神経に負担をかける薬への注意:一部の抗がん剤など、末梢神経を傷めやすい薬は主治医と相談のうえ使用します
- 視力・痛みへの対応、学校生活や就労の支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MFN2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MFN2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
MFN2(mitofusin 2)はミトコンドリア外膜に局在するダイナミン関連GTPaseで、ミトコンドリア外膜の融合、ミトコンドリア-小胞体接触部位の形成、軸索内のミトコンドリア輸送に関与する。長大な末梢神経軸索では遠位部へのミトコンドリア供給が障害され、長さ依存性の軸索変性が生じる。2004年に Züchner らが CMT2A の原因遺伝子として同定した。
MFN2 関連ニューロパチーの大半は常染色体顕性の CMT2A2A(OMIM #609260)であり、軸索型 CMT のなかで最も頻度が高く、新生変異の割合も高い。これに対し本症 CMT2A2B(OMIM #617087)は両アレル性(ホモ接合または複合ヘテロ接合)変異による潜性型で、多くは小児期早期に発症し、遠位優位の筋力低下・筋萎縮、感覚障害、腱反射消失を呈し、重症例では若年で歩行不能となる。潜性型の変異は、ヘテロ接合では病原性の弱いミスセンス変異が多く、キャリアは通常無症状だが、軽微な神経学的所見を示した例も報告されている。同一遺伝子では、視神経萎縮を伴う遺伝性運動感覚ニューロパチー6A型(HMSN VIA、顕性)や、特定変異(p.Arg707Trp)のホモ接合による多発性対称性脂肪腫症(潜性)も知られる。
鑑別としては、他の早期発症軸索型 CMT(GDAP1 によるものなど)、脱髄型 CMT(PMP22 重複による CMT1A など)、脊髄性筋萎縮症、遠位型遺伝性運動ニューロパチーが挙がる。MFN2 にヘテロ接合変異が1つのみ検出された場合、顕性型(新生変異を含む)か、未検出の第2アレルを持つ潜性型かで次子再発率が大きく異なる(顕性:罹患親由来なら50%、新生変異ならごく低率/潜性:25%)ため、両親の解析による変異の由来(相)の確認が遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この型は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。同じ MFN2 遺伝子でも顕性の型(2A2A)では、ご両親のどちらかが発症している場合は2分の1、お子さまに新たに生じた変化(新生突然変異)の場合はごくわずかと、再発率が大きく異なります。どちらの型かを確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は生まれたあとに症状が現れるため、妊娠中の超音波検査で気づかれることはほとんどありません。ご両親がキャリアと分かっている場合や、前のお子さまで診断がついている場合は、遺伝学的な出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 2A2A型と2A2B型はどう違うのですか。
A. どちらも MFN2 遺伝子が原因で、症状もよく似ています。違いは遺伝のしかたで、2A2A型は変化した遺伝子が1つあれば発症する顕性遺伝、2A2B型は両親から1つずつ受け継いだときに発症する潜性遺伝です。2A2B型は、幼いころに発症し比較的重くなりやすいことが特徴です。
Q. 歩けなくなってしまうのですか。
A. 進み方には個人差が大きく、装具や杖を使いながら長く歩行を保つ方もいれば、小児期から車いすが必要になる方もいます。早くからリハビリテーションや装具を取り入れることで、できることを保ち、学校生活や社会生活を送りやすくすることを目指します。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Bird TD. Charcot-Marie-Tooth Hereditary Neuropathy Overview. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #617087 Charcot-Marie-Tooth disease, axonal, type 2A2B. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #609260 Charcot-Marie-Tooth disease, axonal, type 2A2A. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Züchner S, Mersiyanova IV, Muglia M, et al. Mutations in the mitochondrial GTPase mitofusin 2 cause Charcot-Marie-Tooth neuropathy type 2A. Nat Genet. 2004;36(5):449-451.
- Polke JM, Laurá M, Pareyson D, et al. Recessive axonal Charcot-Marie-Tooth disease due to compound heterozygous mitofusin 2 mutations. Neurology. 2011;77(2):168-173.
