概要
エーラス・ダンロス症候群VI型(脊柱後側弯型)は、体を支えるたんぱく質「コラーゲン」の仕上げがうまくいかないために起こる病気です。生まれたときから筋肉がやわらかく(筋緊張低下)、背骨が早くから曲がって(後側弯)だんだん強くなります。関節がゆるく、皮膚は伸びやすく傷つきやすくなります。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、PLOD1(1p36.22)遺伝子の変化が原因となります。
エーラス・ダンロス症候群にはいくつもの型があり、型ごとに原因遺伝子も症状も異なります。この型の大きな特徴は、赤ちゃんのころから体がぐにゃっとやわらかく、首すわりや歩き始めが遅れることです。また、背骨の曲がりが乳幼児期から現れ、成長とともに強くなります。まれに、目の白い部分(強膜)の弱さや、血管が裂けやすいことが問題になります。知的な発達はふつう保たれます。
現在の国際分類では、「脊柱後側弯型」は原因遺伝子によって2つに分けられます。そのうち PLOD1 遺伝子によるものが、昔から「VI型」と呼ばれてきたこの病気です。もう一方の FKBP14 遺伝子による型は、難聴を伴いやすいなど症状に違いがあります。尿の検査で見られる特徴的な異常(後述)は、PLOD1 による型にだけ現れます。
原因
PLOD1 遺伝子は、「リシルヒドロキシラーゼ1」という酵素の設計図です。
コラーゲンは、細い糸が何本も束になったものです。糸どうしを「橋渡し(架橋)」でしっかりつなぎとめることで、強さが生まれます。リシルヒドロキシラーゼ1は、この橋渡しの足場をつくる仕上げ作業を担っています。酵素がはたらかないと、コラーゲンの橋渡しが弱くなります。その結果、皮膚・靱帯・血管・目の壁など、コラーゲンに支えられた組織が伸びやすく、こわれやすくなります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 生まれたときからの強い筋緊張低下:体がやわらかく、首すわり・おすわり・歩き始めなどの運動の発達が遅れます
- 早くから現れて強くなる背骨の後側弯:生まれたときや乳児期から見られ、成長とともに強くなりやすい、この型の中心となる症状です
- 全身の関節のゆるさ:肩・股関節・膝などがはずれやすく(脱臼・亜脱臼)なります
- 皮膚の伸びやすさとこわれやすさ:あざができやすく、傷あとが薄く広がりやすい傾向があります
- 目の症状:角膜が小さい、強膜が青みがかって見えるなど。まれに、軽いけがで眼球が傷つくことがあります
- 血管のもろさ:起こることは多くありませんが、中くらいの太さの動脈が裂けたり破れたりすることがあり、もっとも注意が必要な合併症です
- 骨量の低下、手足が長く見える体つき、呼吸のはたらきの低下(背骨の曲がりが強い場合)
検査・診断
赤ちゃんの強い筋緊張低下と、早くから見られる背骨の曲がりに、関節のゆるさや皮膚の様子が加わると、この病気が疑われます。妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどなく、多くは生まれてから乳幼児期に気づかれます。筋肉の病気と見分けるのが難しいこともあります。
PLOD1 による型では、尿に出るコラーゲンの分解物(ピリジノリン)の割合が大きく変わるという特徴があり、尿検査が診断の大きな手がかりになります。確定診断は遺伝学的検査で行い、PLOD1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。症状に合わせた治療と、合併症を防ぐための定期的な診察が中心になります。整形外科・眼科・循環器科・リハビリテーション科など複数の診療科が連携して、長く見守っていくことが大切です。
- 理学療法:筋力をつけて関節を安定させ、運動の発達を支えます
- 背骨の曲がりへの対応:装具による治療を行い、曲がりが強くなった場合は手術を検討します。手術では、組織や血管のもろさに十分な配慮が必要です
- 目の定期検査:強膜の弱さや近視などを確認します。目をぶつけるような激しい運動は避けます
- 血管と血圧の確認:画像検査で動脈の状態を調べ、血圧を適切に保ちます
- 日常生活での工夫:けがの予防や傷の丁寧な手当てを心がけます。ご本人が将来妊娠・出産を考えるときは、事前に相談します
- ご家族への心理的支援と、保育・教育の場での支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる PLOD1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PLOD1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
PLOD1 はリシルヒドロキシラーゼ1(LH1)をコードし、コラーゲン三重らせん領域のリジン残基のヒドロキシル化を担う。欠損するとヒドロキシリジンが減少し、ヒドロキシリジン由来の分子間架橋(ヒドロキシリシルピリジノリン)が低下して、コラーゲン線維の引っ張り強度が損なわれる。本酵素の補因子はアスコルビン酸である。
2017年国際分類では、脊柱後側弯型(kEDS)は kEDS-PLOD1 と kEDS-FKBP14 に分けられる。大基準は先天性筋緊張低下、先天性または早期発症の進行性後側弯、関節弛緩(脱臼・亜脱臼)である。kEDS-PLOD1 に特異的な検査所見として、尿中リシルピリジノリン/ヒドロキシリシルピリジノリン比(LP/HP比)の著明な上昇があり、HPLC で測定できる。遺伝子レベルでは、Alu 配列間の組換えによるエクソン10〜16の重複が比較的多く報告されているため、配列解析に加えてコピー数の評価が必要である。kEDS-FKBP14 では LP/HP 比は正常で、感音難聴やミオパチーが目立つ点で区別される。
鑑別としては、筋拘縮型(CHST14、DSE)、角膜脆弱症候群(ZNF469、PRDM5)、血管型(COL3A1、顕性)、マルファン症候群(FBN1、顕性)、さらに先天性ミオパチーや脊髄性筋萎縮症など乳児期の筋緊張低下をきたす疾患が挙がる。歴史的に「VI型」とされた症例のうち LH 活性が正常なもの(旧VIB型)の一部は、のちに別遺伝子による別疾患と判明している。そのため、遺伝形式の確認と再発率の説明には遺伝子診断が欠かせない。動脈破裂は頻度こそ低いが生命予後に関わるため、診断後は血管評価と血圧管理が推奨される。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。エーラス・ダンロス症候群には顕性遺伝の型も多く、型によって再発率が大きく異なります。正しい見通しをお伝えするために、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この型が妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。多くは、生まれたあとの筋緊張低下や背骨の曲がりから気づかれます。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. ほかの型のエーラス・ダンロス症候群とは何が違いますか。
A. この型は、赤ちゃんのころからの強い筋緊張低下と、早くから強くなる背骨の曲がりが目立つ点が特徴です。関節や皮膚の症状が中心の型、血管の症状が中心の型など、型ごとに原因遺伝子・遺伝形式・注意すべき合併症が異なります。
Q. 日常生活でどんなことに気をつければよいですか。
A. 関節や目、血管に強い衝撃が加わらないようにすることが大切です。ぶつかり合うような激しい運動は控え、無理のない範囲で体を動かして筋力を保ちます。急な強い痛みがあるときや、目をけがしたときは、早めに受診してください。主治医と相談しながら、お子さまに合った過ごし方を見つけていきましょう。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Yeowell HN, Steinmann B. PLOD1-Related Kyphoscoliotic Ehlers-Danlos Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #225400 Ehlers-Danlos syndrome, kyphoscoliotic type, 1. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Malfait F, Francomano C, Byers P, et al. The 2017 international classification of the Ehlers-Danlos syndromes. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2017;175(1):8-26.
- Brady AF, Demirdas S, Fournel-Gigleux S, et al. The Ehlers-Danlos syndromes, rare types. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2017;175(1):70-115.
- Rohrbach M, Vandersteen A, Yiş U, et al. Phenotypic variability of the kyphoscoliotic type of Ehlers-Danlos syndrome (EDS VIA): clinical, molecular and biochemical delineation. Orphanet J Rare Dis. 2011;6:46.
