重症複合免疫不全症(X連鎖性)

Severe combined immunodeficiency, X-linked, IL2RG

概要

重症複合免疫不全症(X連鎖性)は、体を感染から守るT細胞がほとんどつくられず、B細胞もはたらかないために、生まれつき免疫のしくみが重くそこなわれる病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、IL2RG(Xq13.1)遺伝子の変化が原因となります。

重症複合免疫不全症にはいくつもの型がありますが、X連鎖性はそのなかでもっとも多い型の一つで、患者さんのほとんどが男の子です。生まれたときは元気に見えますが、お母さまから受け取った抗体が減ってくる生後数か月ごろから、重い感染症をくり返すようになります。治療をしなければ多くは乳児期に命にかかわります。一方で、早く見つけて造血幹細胞移植を行えば、多くのお子さまが助かるようになっています。

IL2RG 遺伝子の変化には、はたらきがほとんど失われるものと、一部が残るものがあります。典型的な重症型であるこの病気では、生後早期からT細胞とNK細胞がほとんど見られないのが特徴です。はたらきが一部残る場合には、発症が遅く症状も比較的軽い「X連鎖性複合免疫不全症」や、皮疹を伴う「オーメン症候群」に似た形をとることがあります。

原因

IL2RG は、「共通γ鎖」と呼ばれる、免疫細胞の受け取り口(受容体)の部品の設計図です。

免疫細胞は「インターロイキン」という信号物質を受け取って育ち、はたらきます。共通γ鎖は、T細胞を育てる信号、NK細胞を育てる信号、B細胞が抗体をつくるための信号など、複数の大切な信号の受け取り口に共通して使われる部品です。この部品がはたらかないと、T細胞とNK細胞がほとんど育たず、B細胞は数があっても十分な抗体をつくれません。その結果、ウイルス・細菌・カビ(真菌)のいずれにも抵抗できなくなります。

IL2RG 遺伝子はX染色体の上にあります。男の子はX染色体を1本しか持たないため、変化した遺伝子を受け継ぐと発症します。女の子はX染色体を2本持つため、1本に変化があっても通常は症状のないキャリア(保因者)となります。お母さまが症状のないキャリアで、その変化した遺伝子を男の子が受け継いだときに発症します(X連鎖潜性遺伝)。なお、お母さまがキャリアではなく、お子さまに新たに変化が生じて発症する場合もあります。

症状

  • 重い感染症のくり返し:多くは生後数か月以内に始まり、治りにくく長引きます
  • ニューモシスチス肺炎などの重い肺炎:健康な赤ちゃんではまれな病原体による感染が、最初の手がかりになることがあります
  • 治らない下痢と体重が増えないこと:成長の遅れにつながります
  • 口の中や皮膚のカンジダ(カビ)がしつこく続く
  • ウイルス感染の重症化:サイトメガロウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどの感染が重くなりやすくなります
  • 生ワクチンによる感染:BCGやロタウイルスワクチンなど、弱めた病原体を使うワクチンで、全身に広がる感染や長引く下痢を起こすことがあります
  • 皮疹や肝臓の障害:お母さまのT細胞が赤ちゃんの体内に入り込んで、反応を起こすことがあります
  • 治療をしなければ、多くは1歳前後までに重い感染症で命にかかわります

検査・診断

妊娠中の超音波検査では異常が見られないのがふつうで、生まれたときも元気なことがほとんどです。くり返す感染症や治らない下痢、体重の増えの悪さから疑われ、血液検査でリンパ球の数が少ないことがわかります。詳しい検査では、T細胞とNK細胞がほとんどなく、B細胞は保たれていることが確かめられます。胸のX線では、T細胞を育てる臓器である胸腺の影が見えないことがあります。

症状が出る前に見つけるための新生児スクリーニング(T細胞がつくられているかを、かかとから採った血液で調べる検査)が、日本でも一部の地域で行われるようになっています。感染症を起こす前、生ワクチンを受ける前に見つけられるかどうかが、治療の成績を大きく左右します。

確定診断は遺伝学的検査で行い、この病気では IL2RG 遺伝子に変化が見つかります。症状が似ていても、重症複合免疫不全症は型によって遺伝形式が異なります。そのため原因遺伝子を確定することは、ご家族の見通しや次のお子さまへの影響をお伝えするうえで大きな意味があります。

治療

根本的な治療は造血幹細胞移植です。健康な方の造血幹細胞(骨髄や臍帯血など)を移植し、免疫のしくみをつくり直します。生後早い時期に、重い感染症を起こす前に移植を行うほど、良い成績が報告されています。ただし、移植には合併症の危険もあり、ドナーの見つかり方やお子さまの状態によって結果は異なります。

  • 造血幹細胞移植:きょうだいなど型の合うドナーがいない場合も、ご親族や骨髄バンク・臍帯血からの移植が検討されます
  • 感染予防:移植までのあいだ、人混みを避け、ニューモシスチス肺炎やカビの感染を防ぐ薬を使います
  • 免疫グロブリン補充療法:足りない抗体を点滴や皮下注射で補います
  • 生ワクチンを受けない:BCGやロタウイルスワクチンなどは、診断がつくまで、または免疫が回復するまで控えます
  • 輸血時の注意:輸血が必要なときは、放射線を当てた血液製剤など、この病気に適した製剤を用います
  • 遺伝子治療:お子さま自身の造血幹細胞に正常な遺伝子を入れる治療が海外で研究されています。まだ研究段階の治療で、受けられる施設は限られます。
  • ご家族への支援:長期の入院や隔離生活を支える心理的・社会的な支援も大切です

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる IL2RG 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、IL2RG 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

X連鎖潜性(劣性)遺伝の疾患は、お母さまが症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、男の子の2分の1の確率で発症します。キャリアスクリーニングテストでは、この疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

IL2RG は共通γ鎖(γc、CD132)をコードし、γc は IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21 の各受容体に共有される。シグナルは γc に会合する JAK3 を介して伝達される。IL-7 シグナルの欠如により胸腺でのT細胞分化が、IL-15 シグナルの欠如によりNK細胞分化が障害され、典型的には T-B+NK- 型の重症複合免疫不全症を呈する。B細胞は数としては保たれるが、T細胞からの補助と IL-21 シグナルを欠くため、抗体産生は機能的に破綻している。

同一遺伝子内で表現型に幅がある——機能喪失型変異では古典的な重症型となる一方、残存機能を持つ低形質変異では、T細胞がある程度存在する非典型(leaky)型、オーメン症候群様の表現型、遅発性で軽症の X連鎖性複合免疫不全症を呈しうる。また、経胎盤的に移行した母体T細胞の生着によりT細胞数が見かけ上保たれることがあり、T細胞の由来や機能の評価が診断上重要となる。体細胞レベルで変異が復帰(リバージョン)したモザイクの報告もある。女性キャリアではリンパ球系で非ランダムなX染色体不活化がみられ、通常は無症状である。

鑑別としては、同じ T-B+NK- 型を示す JAK3 欠損症(常染色体潜性)、T-B+NK+ 型の IL7R 欠損症、T-B-NK+ 型の RAG1/RAG2 欠損症・DCLRE1C(Artemis)欠損症、T-B-NK- 型のアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症が挙がる。男児の T-B+NK- 型では本症をまず考えるが、JAK3 欠損症とは遺伝形式が異なり、同胞や次子への再発リスクの説明が変わるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。新生児スクリーニングでは TREC(T細胞受容体切除サークル)の低値が手がかりとなる。造血幹細胞移植の成績は、生後3.5か月以内の移植や、移植前に活動性の感染症がないことが良好な生存率と関連すると報告されている。初期のガンマレトロウイルスベクターによる遺伝子治療では挿入変異による白血病が問題となり、現在は自己不活化型レンチウイルスベクターを用いた臨床研究が進められている。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気はX連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率でキャリアになります。一方、お子さまに新たに変化が生じた場合は、お母さまはキャリアではないため、次のお子さまで再び起こる可能性は低くなります。お母さまがキャリアかどうかで見通しが大きく変わるため、遺伝学的検査で確かめることが重要です。

Q. 女の子も発症しますか。

A. 女の子はX染色体を2本持つため、変化を受け継いでもふつうは症状のないキャリアとなり、発症することはまれです。女の子に同じような免疫不全の症状がある場合は、常染色体潜性遺伝の別の型の重症複合免疫不全症が考えられます。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は妊娠中の超音波検査では見つかりません。ご家族に患者さんがいて原因の変化がわかっている場合や、お母さまがキャリアとわかっている場合は、出生前の遺伝学的検査を検討できます。出生前に分かっていれば、生まれてすぐに感染予防を始め、早期の移植の準備を進めることができます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 予防接種で気をつけることはありますか。

A. BCGやロタウイルスワクチンなどの生ワクチンは、この病気のお子さまでは重い感染を起こすおそれがあります。ご家族にこの病気の方がいる場合や、お母さまがキャリアとわかっている場合は、生ワクチンを受ける前に必ず主治医にお伝えください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Allenspach E, Rawlings DJ, Scharenberg AM. X-Linked Severe Combined Immunodeficiency. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #300400 Severe combined immunodeficiency, X-linked; SCIDX1. Online Mendelian Inheritance in Man.
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  • Kwan A, Abraham RS, Currier R, et al. Newborn screening for severe combined immunodeficiency in 11 screening programs in the United States. JAMA. 2014;312(7):729-738.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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