αサラセミア

Thalassemia, alpha-, HBA1, HBA2

概要

αサラセミアは、赤血球のなかで酸素を運ぶヘモグロビンの部品「α(アルファ)グロビン」が十分につくられないために、貧血が起こる遺伝性の血液の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、16番染色体(16p13.3)に並んでいる HBA1 と HBA2 の2つの遺伝子の変化が原因となります。

αグロビンの遺伝子は、父方・母方から2つずつ、合わせて4つあります。はたらかない遺伝子がいくつあるかによって、症状の重さが大きく変わるのがこの病気の特徴です。1つ欠けているだけなら症状はほとんどなく、2つでは軽い貧血にとどまります。3つ欠けると「HbH(ヘモグロビンH)病」と呼ばれる慢性の貧血となり、4つすべてがはたらかないと「ヘモグロビンバーツ胎児水腫」という、おなかの中で重い貧血と全身のむくみを起こすもっとも重い状態になります。

αサラセミアは東南アジア、中国南部、地中海沿岸、中東、アフリカなどで多くみられ、日本では比較的まれな病気です。ただし、ご夫婦のどちらかのご家系がこれらの地域にルーツをお持ちの場合などは、とくに知っておいていただきたい病気です。なお、名前の似た「βサラセミア」は別の遺伝子(HBB)が原因の別の病気です。

原因

大人のヘモグロビンは、αグロビン2本とβグロビン2本が組み合わさってできています。HBA1 と HBA2 は、このαグロビンの設計図です。

αサラセミアの多くは、これらの遺伝子が染色体から抜け落ちる「欠失」によって起こります。遺伝子の一部が書き換わる小さな変化(点変異)が原因のこともあります。αグロビンが足りなくなると、余ったβグロビン(胎児期にはγグロビン)が4本ずつでかたまりをつくります。このかたまりは酸素をうまく手放せないうえに、赤血球を傷つけて壊れやすくするため、貧血が起こります。

お父さま・お母さまは、症状がないか、ごく軽い貧血があるだけのキャリア(保因者)であることがほとんどです。お子さまの状態は、遺伝子がいくつ欠けた染色体を、ご両親それぞれから受け継ぐかで決まります(常染色体潜性遺伝)。とくに、1本の染色体上で2つの遺伝子がまとめて欠けているタイプのキャリアどうしのご夫婦では、お子さまが4つすべてを失い、ヘモグロビンバーツ胎児水腫となる可能性があります。

症状

  • 1つ欠けている(無症候性キャリア):症状はなく、血液検査でもほとんど異常が出ません
  • 2つ欠けている(αサラセミア形質):赤血球が小さくなり、軽い貧血がみられることがあります。鉄欠乏性貧血と間違えられやすいので注意が必要です
  • 3つ欠けている(HbH病):中等度の貧血、黄疸、脾臓の腫れ、胆石がみられます。感染症や発熱、一部の薬をきっかけに、急に貧血が進むことがあります
  • 4つすべてがはたらかない(ヘモグロビンバーツ胎児水腫):おなかの中で重い貧血となり、心不全と全身のむくみ(胎児水腫)を起こします
  • 胎児水腫の場合、胎盤の腫れや羊水の量の異常が超音波検査で指摘されます
  • お母さまにも、妊娠高血圧症候群や分娩時の大量出血などの合併症が起こりやすくなります
  • 胎児水腫では、治療を行わない場合、多くは死産または生後まもなく亡くなります

検査・診断

大人やお子さまでは、血液検査で赤血球が小さく(平均赤血球容積の低下)、鉄が不足していないのに貧血があることから疑われます。ヘモグロビンの種類を調べる検査(ヘモグロビン分析)を行うと、HbH病ではヘモグロビンHが見つかります。キャリアの方はヘモグロビン分析では見つけにくいことが多く、遺伝子を調べる検査が必要になります。

妊娠中は、超音波検査で胎児の心臓が大きい、胎盤が厚い、胎児水腫がある、胎児の脳の血流が速い(貧血の目安)といった所見から疑われます。ご両親がどちらもキャリアであることがわかっている場合は、絨毛検査や羊水検査で胎児の遺伝子を調べることができます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、HBA1・HBA2 遺伝子の欠失や変化を調べます。次のお子さまの見通しは、欠失のタイプや、欠けた遺伝子が同じ染色体上にあるか別々の染色体上にあるかで大きく変わります。そのため、ご夫婦それぞれの遺伝子の状態を確かめることには大きな意味があります。

治療

キャリアの方の多くは治療を必要としません。ただし、鉄欠乏性貧血と誤って鉄剤を長く飲み続けることがないよう、ご自身がキャリアであることを知っておくことが大切です。HbH病やヘモグロビンバーツ胎児水腫では、症状に応じた治療と継続的な管理が必要です。

  • HbH病の日常管理:葉酸の補充や定期的な血液検査を行います。感染症や発熱のときは急な貧血に注意し、貧血が強いときは輸血を行います
  • 避けたい薬の確認:赤血球を傷つけやすい一部の薬について、主治医に確認します
  • 鉄の蓄積への対応:輸血を繰り返す場合などは、体にたまった鉄を減らす薬(鉄キレート療法)を使います
  • 胎児水腫に対する胎児輸血:妊娠中に胎児へ輸血を行うことで、生まれてくることができるお子さまもいます。ただし、出生後も定期的な輸血が生涯必要になることが多く、発達に影響が残ることもあります
  • 造血幹細胞移植:輸血が欠かせない重い場合に、根本的な治療として検討されることがあります。合併症の可能性もあるため、専門施設で慎重に判断します
  • お母さまの合併症への備え:胎児水腫が疑われる場合は、お母さまの安全を最優先に考え、周産期医療の整った施設で管理します
  • ご家族への心理的支援と遺伝カウンセリング

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる HBA1, HBA2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HBA1, HBA2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。αサラセミアでは、ご両親がどちらも「1本の染色体上で2つの遺伝子がまとめて欠けた」タイプのキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率でヘモグロビンバーツ胎児水腫となります。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

αグロビン遺伝子クラスターは16番染色体短腕の末端(16p13.3)に位置し、HBZ(ζ)、HBA2(α2)、HBA1(α1)の順に並ぶ。発現は上流約40 kbにある主要な調節領域(MCS-R2、旧称HS-40)が制御する。HBA2はHBA1のおよそ2〜3倍のαグロビンを産生するため、HBA2の変異はHBA1の変異より表現型への影響が大きい。

原因の大部分は欠失であり、1遺伝子欠失(α+:-α3.7、-α4.2)と、2遺伝子をシスに欠く欠失(α0:–SEA、–MED、–FIL、–THAIなど)に大別される。α0/α0(–/–)はヘモグロビンバーツ胎児水腫、α0/α+(–/-α)は欠失型HbH病となる。一方、トランス型の2遺伝子欠失(-α/-α)のキャリアからはα0アレルが伝わらないため、バーツ胎児水腫は生じない。したがって、キャリアがシスかトランスかの区別が遺伝カウンセリングの要点となる。非欠失型(αTα)、とくにHb Constant Spring(HBA2の終止コドン変異)を伴うHbH病は欠失型より重症で、輸血依存となる例がある。

検査上の注意として、主体となる欠失はエクソームなどの塩基配列解析では評価が難しい場合があり、gap-PCRやMLPAなど欠失を対象とした手法の併用が重要である。また、HBA1とHBA2は配列の相同性が高く、解析では両者の区別に配慮を要する。αサラセミア形質は鉄欠乏性貧血との鑑別が必要であり、βサラセミア形質(HBB、HbA2上昇)を合併すると表現型が修飾される。

同じ領域が関わる別の病態として、16p13.3の大きな欠失によりαグロビン遺伝子とともに隣接遺伝子も失うATR-16症候群(αサラセミアに知的障害・形態異常を伴う)がある。名前の似たATR-X症候群はX連鎖性のATRXが原因で、原因遺伝子も遺伝形式も異なる。また、骨髄異形成症候群に関連してHbH封入体がみられる後天性αサラセミアとも区別される。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝で、ご両親がどのタイプのキャリアかによって見通しが変わります。お二人とも「1本の染色体で2つの遺伝子がまとめて欠けた」タイプのキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率でヘモグロビンバーツ胎児水腫となります。片方がこのタイプで、もう片方が1つだけ欠けたタイプの場合は、お子さまがHbH病となる可能性があります。ご夫婦それぞれの遺伝子の状態を確かめることが大切です。

Q. 健康診断で「小球性貧血」と言われました。関係ありますか。

A. 鉄が足りているのに赤血球が小さい場合は、αサラセミアやβサラセミアのキャリアである可能性があります。キャリアであれば、ご本人の健康にはほとんど影響しません。ただし、妊娠を考えている場合は、パートナーの方の検査も含めてご相談されることをおすすめします。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. ヘモグロビンバーツ胎児水腫の多くは、妊娠中期の超音波検査で、胎児の心臓の拡大、胎盤の厚み、むくみから気づかれます。ご両親がキャリアとわかっている場合は、妊娠早期に絨毛検査や羊水検査で調べることも検討できます。お母さまの合併症にも関わるため、早めに遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. HbH病と診断されたら、普通の生活は送れますか。

A. HbH病の方の多くは、定期的に通院して体調を管理しながら、学校や仕事などの日常生活を送っています。ただし、発熱や感染症のときに急に貧血が進むことがあり、タイプによっては定期的な輸血が必要になることもあります。主治医とよく相談しながら管理していきます。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Tamary H, Dgany O. Alpha-Thalassemia. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #604131 Thalassemias, alpha-. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Harteveld CL, Higgs DR. Alpha-thalassaemia. Orphanet J Rare Dis. 2010;5:13.
  • Piel FB, Weatherall DJ. The α-thalassemias. N Engl J Med. 2014;371(20):1908-1916.
  • Chui DHK, Fucharoen S, Chan V. Hemoglobin H disease: not necessarily a benign disorder. Blood. 2003;101(3):791-800.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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