概要
X連鎖性症候性知的障害 クリスチャンソン型(クリスチャンソン症候群)は、重い知的障害、言葉の遅れ、てんかん、歩くときのふらつき(運動失調)、生まれたあとに頭の成長がゆっくりになる小頭症を主な特徴とする、脳の発達の病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、X染色体上のSLC9A6(Xq26.3)遺伝子の変化が原因となります。
おもに男の子に発症します。生まれたときには目立った異常がないことが多く、乳児期から幼児期にかけて、発達の遅れやてんかんで気づかれます。よく笑って機嫌がよく見える様子や、てんかん・小頭症などがアンジェルマン症候群とよく似ているため、はじめはアンジェルマン症候群が疑われることが少なくありません。
「X連鎖性知的障害」には、原因遺伝子の異なる多くの型があり、報告者の名前が付いた型ごとに原因も特徴も異なります。クリスチャンソン型は SLC9A6 遺伝子が原因の型です。この型ならではの特徴は、①てんかんと運動失調を伴う重い知的障害、②生まれたあとに進む小頭症、③脳のMRIで小脳が年齢とともに小さくなっていく(小脳萎縮)こと、④一部のかたで、思春期以降に歩く力などが少しずつ落ちていくことです。
原因
SLC9A6 は、「NHE6」というたんぱく質の設計図です。NHE6 は、細胞の中で物を運んだり仕分けたりする小さな袋(エンドソーム)の膜にあり、ナトリウムと水素イオンを入れ替えることで、袋の中の酸性の度合いをちょうどよく保つはたらきをしています。
神経細胞は長い突起を伸ばし、ほかの神経細胞とつながることで脳のネットワークをつくります。NHE6 がはたらかないと、袋の中が酸性に傾きすぎ、物の運搬や分解がうまく進まなくなります。その結果、神経細胞の突起の伸びや、神経どうしのつながり(シナプス)がつくられにくくなり、脳の発達が妨げられると考えられています。また、年齢とともに一部の神経細胞が傷みやすくなることもわかってきています。
男の子はX染色体を1本しかもたないため、変化した SLC9A6 遺伝子を受け継ぐと発症します。多くは、症状のない、または症状の軽いキャリア(保因者)のお母さまから受け継ぎます(X連鎖潜性遺伝)。一方で、ご両親のどちらももっていない新しい変化(新生突然変異)によって起こることもあります。
症状
- 重い知的障害と発達の遅れ:首のすわり、お座り、歩きはじめが遅れます
- 言葉がほとんど出ない:多くは話し言葉をもちませんが、表情や身ぶりで気持ちを伝えます
- てんかん:多くは幼児期までに始まり、薬が効きにくいこともあります
- 運動失調:体がふらつき、歩き方が不安定です。歩けるようになるのが遅く、歩けないままのこともあります
- 生まれたあとに進む小頭症:生まれたときの頭の大きさはふつうでも、成長とともに小さめになります
- 落ち着きのなさ(多動)、よく笑う・機嫌のよい様子、手を口に入れるなどの行動、自閉的な傾向
- 体重が増えにくい・やせ、よだれ、目の動きの異常(眼球運動障害)や斜視
- 一部のかたで、思春期以降に歩く力が落ちたり、筋肉のこわばりが強まったりします
- キャリアの女性:症状がないことが多いものの、学習の困難や行動面の特徴がみられることがあります
検査・診断
妊娠中の超音波検査では特徴的な所見がほとんどないため、生まれる前に気づかれることはまれです。生まれたあとの発達の遅れ、てんかん、小頭症、ふらつきなどから疑われます。脳のMRIで小脳の萎縮(年長になるほど目立ちます)、脳波でてんかんに伴う異常がみられることが手がかりになります。
アンジェルマン症候群などと症状が重なるため、症状だけで区別するのは難しく、確定診断は遺伝学的検査で行います。クリスチャンソン型では SLC9A6 遺伝子に変化が見つかります。あわせてお母さまがキャリアかどうかを調べることで、次のお子さまの見通しを正しくお伝えすることができます。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。研究は進められていますが、実際の治療として使える段階には至っていません。小児神経科を中心に、多くの専門職が協力して、症状に合わせた治療と発達の支援を長く続けていくことが大切です。
- てんかんの治療:抗てんかん薬を使います。複数の薬の組み合わせや調整が必要になることがあります
- リハビリテーション:理学療法・作業療法で、姿勢を保つ力、歩く力、手の動きを支えます
- コミュニケーションの支援:言語聴覚療法や、絵カード・機器など言葉以外で伝える手段を取り入れます
- 栄養と食事の支援:体重の増えにくさや飲み込みの問題に対し、食事の形の工夫や栄養管理を行います
- 睡眠・行動面の支援、療育・特別支援教育
- 定期的な診察:成長、歩く力の変化、目の動き、背骨の曲がり(側弯)などを確認します
- ご家族への支援:福祉制度の利用、遺伝カウンセリング、心理的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SLC9A6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SLC9A6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患はX連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとるため、お母さまがキャリア(保因者)の場合、男の子では2分の1の確率で発症します(女の子では2分の1の確率でキャリアとなります)。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SLC9A6 は Xq26.3 に位置し、エンドソーム型ナトリウム/水素イオン交換輸送体 NHE6 をコードする。NHE6 は初期エンドソームおよびリサイクリングエンドソームの内腔 pH を調節しており、欠損では内腔の過酸性化、エンドソーム成熟と膜輸送の障害、神経突起の分枝・シナプス形成の低下、リソソーム機能障害が生じる。剖検例では神経細胞・グリアの脱落とタウ蓄積が報告されており(Garbern ら、2010年)、神経発達障害に加えて神経変性の要素をもつ点が特徴である。
本症は1999年に Christianson らが南アフリカの大家系で報告し、2008年に Gilfillan らがアンジェルマン症候群様の表現型を示す男性で SLC9A6 変異を同定した。変異の多くはナンセンス、フレームシフト、スプライス異常、欠失などの機能喪失型である。主要所見は重度知的障害、話し言葉の欠如、てんかん、運動失調、後天性小頭症、多動、進行性小脳萎縮で、一部では思春期以降に運動機能の退行がみられる。ヘテロ接合の女性は無症状から軽度の学習障害・行動特性まで幅があり、X染色体不活化の偏りの影響が考えられている。
鑑別としては、アンジェルマン症候群(UBE3A、15q11-q13 のインプリンティング異常を含む)、レット症候群(MECP2)、ピット・ホプキンス症候群(TCF4)、モワット・ウィルソン症候群(ZEB2)、他の X連鎖知的障害が挙がる。アンジェルマン症候群のメチル化検査が陰性で、男児に後天性小頭症・てんかん・運動失調・小脳萎縮を認める場合は本症を考慮する。次子再発率は、母が保因者であれば男児で50%、新生突然変異であれば低いが、性腺モザイクの可能性があるため0%とはいえない。遺伝形式と再発率が鑑別疾患ごとに異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気はX連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率でキャリアとなります。お母さまがキャリアでなく新生突然変異で起きた場合、再発の可能性は低くなりますが、ゼロとはいえません。お母さまがキャリアかどうかを調べることが、見通しを考えるうえで重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 妊娠中の超音波検査では、ほとんどの場合わかりません。ご家族で原因となる遺伝子の変化がすでにわかっている場合は、出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 女の子も発症しますか。
A. 典型的な症状が出るのは、おもに男の子です。女の子はX染色体を2本もつため、多くは症状がないか軽くすみます。ただし、学習の困難や行動面の特徴がみられることがありますので、気になることがあればご相談ください。
Q. アンジェルマン症候群とは違うのですか。
A. 症状はよく似ていますが、原因となる遺伝子も遺伝のしかたも異なり、次のお子さまへの影響も違います。アンジェルマン症候群の検査で異常が見つからなかった男の子では、この病気を含めて遺伝子を調べることに意味があります。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Christianson AL, Stevenson RE, van der Meyden CH, et al. X linked severe mental retardation, craniofacial dysmorphology, epilepsy, ophthalmoplegia, and cerebellar atrophy in a large South African kindred is localised to Xq24-q27. J Med Genet. 1999;36(10):759-766.
- Gilfillan GD, Selmer KK, Roxrud I, et al. SLC9A6 mutations cause X-linked mental retardation, microcephaly, epilepsy, and ataxia, a phenotype mimicking Angelman syndrome. Am J Hum Genet. 2008;82(4):1003-1010.
- Garbern JY, Neumann M, Trojanowski JQ, et al. A mutation affecting the sodium/proton exchanger, SLC9A6, causes mental retardation with tau deposition. Brain. 2010;133(Pt 5):1391-1402.
- Pescosolido MF, Stein DM, Schmidt M, et al. Genetic and phenotypic diversity of NHE6 mutations in Christianson syndrome. Ann Neurol. 2014;76(4):581-593.
- OMIM #300243 Intellectual developmental disorder, X-linked syndromic, Christianson type. Online Mendelian Inheritance in Man.
