この記事のまとめ
NIPTは母体の血液で胎児の「染色体の数の変化」を調べる非確定的検査であり、知的障害や発達障害そのものを見つける検査ではありません。調べる中心は21トリソミー(ダウン症)・18トリソミー・13トリソミーで、施設によっては微小欠失や全染色体を追加できます。一方で、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害は原因が多様で、染色体の数だけでは決まりません。陽性が出たときは、羊水検査などの確定検査で確かめる流れになります。この記事では、NIPTでわかること・わからないことの線引きと、受ける前に整理しておきたいことを、当事者やご家族への配慮を大切にしながらまとめました。
この記事でわかること
NIPTは何を調べる検査か
NIPTは、母体の血液を使って胎児の「染色体の数の変化」を調べる非確定的検査です。知的発達の中身そのものを測る検査ではありません。まず、この前提から確認します。
妊婦さんの血液には、胎盤を通じて赤ちゃん由来のDNAの断片が流れています。NIPTは、この断片の量から、特定の染色体が通常より多い・少ないといった数の変化を読み取ります。採血だけで受けられて、お腹の赤ちゃんに負担をかけません。仕組みをもう少し知りたい方はNIPTの原理をやさしく解説した記事もあわせてご覧ください。
基本の対象は、13トリソミー・18トリソミー・21トリソミーという、数に関わる染色体の変化です。数の変化があるかを確率で示す検査であり、その場で診断が確定するわけではありません。ここが出発点。
私は妊婦さんのご相談を聞いていて、「NIPTを受ければ、生まれてくる子のことが全部わかる」と受け止めている方が少なくないと感じます。実際に調べているのは染色体の数という一部分です。この線引きを知っておくと、結果の受け止め方が落ち着きます。結果の見方はNIPTの検査結果の読み方の記事でも整理しました。
NIPTでわかること・わからないこと
NIPTでわかるのは染色体の数の変化に関わる一部の疾患で、知的障害や発達障害そのものはわかりません。まず全体像を表で整理します。
| 区分 | NIPTの守備範囲 | 具体例 |
|---|---|---|
| わかること | 特定の染色体の数の変化(確率での判定) | 21トリソミー(ダウン症)・18トリソミー・13トリソミーなど |
| 条件つきでわかること | 性染色体の数の変化、追加検査での微小欠失など | 施設や検査プランにより対象が異なる |
| わからないこと | 発達障害そのもの・多くの原因による知的障害 | 自閉スペクトラム症・注意欠如・多動症(ADHD)・学習障害 |
| わからないこと | 出産時や生まれた後の要因による障害 | 分娩時のトラブル・生後の病気や事故など |
NIPTは染色体の数の変化を調べる検査で、発達障害そのものは対象外です
表のとおり、NIPTは染色体の数の変化という切り口で赤ちゃんの情報を知る検査です。知的発達や行動の特性そのものを判定する検査ではありません。「陰性だったから発達の心配はもうない」とは言い切れない、という点だけは覚えておいてください。
宣伝の言葉に迷う方もいます。私は「たくさんの項目が調べられる=安心が増える」とは限らないと感じています。実在の投稿でも、@sakurako202001さんが、出生前診断で正確にわかるのはダウン症候群(21トリソミー)・エドワード症候群(18トリソミー)・パトウ症候群(13トリソミー)の3つで、他の染色体異常がわかると宣伝する病院もあるが基本は調べない、脳性麻痺や発達障害はもちろんわからない、と書いていました。まず基本の3つが軸だという整理は、検査を選ぶときの土台になります。
なぜ知的障害・発達障害そのものはわからないのか
知的障害や発達障害は原因が多様で、染色体の数の変化だけで決まるものではないため、NIPTでは検出できません。ここが検査のいちばんの限界です。
知的障害や発達障害の背景には、多くの遺伝的な要因や、妊娠中・出産後の環境要因が複雑に組み合わさっていると考えられています。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害なども、ひとつの染色体の変化で説明できるものではありません。だからこそ、染色体の数を見るNIPTでは、こうした特性を胎児の段階で判定できないのです。発達障害の背景をもっと知りたい方は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターの解説も落ち着いて確認できる材料になります。
この線引きは、医療者の間でも繰り返し語られてきました。実在の投稿でも、@berrietterさんが、出生前診断で分かるのは染色体関連だけで知的障害や発達障害はわからない、21トリソミー・18トリソミー・13トリソミー由来の話なら別だが、と指摘していました。私も同じ感覚です。検査の対象を正しく知ることが、過度な期待や不安を手放す第一歩になります。
発達の特性は、生まれた後の成長やコミュニケーションの様子の中で、少しずつ気づかれていくものでもあります。妊娠中の検査で先に線を引けるものではありません。自閉スペクトラム症・注意欠如・多動症(ADHD)・学習障害といった発達障害は、NIPTでは検出できません。発達障害とNIPTの関係をさらに詳しく知りたい方は自閉症・発達障害とNIPTの記事をご覧ください。
染色体疾患と知的発達の関係(陽性=重症の確定ではない)
ダウン症など一部の染色体疾患では知的発達の遅れを伴うことがありますが、その程度には個人差が大きく、NIPT陽性がそのまま知的障害の確定や重症を意味するわけではありません。ここを誤解しないでください。
21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー、13トリソミーでは、知的発達や身体の合併症を伴うと知られています。ただし、同じ疾患名でも、発達の様子や生活の広がりは一人ひとり違います。早い時期からの療育や、周囲の理解、教育や支援の環境によって、育ちの姿は変わっていきます。
大切なのは、NIPTが示すのは「染色体の数の変化があるかどうかの可能性」であって、「知的障害の重さ」まで測るものではない、という点です。染色体疾患のある子がどんな発達をたどるかを、数値で先取りできるわけではありません。陽性という結果を、そのまま将来の断定として受け取らないでください。ダウン症そのものについてはダウン症と妊娠・検査の記事もあわせて参考にしてください。
微小欠失検査を足しても発達障害全般はわからない
微小欠失検査を追加しても、調べられるのは特定の染色体領域の欠けであり、発達障害全般がわかるわけではありません。検査の幅を広げても、限界の性質は変わりません。
施設によっては、染色体の一部が欠けている状態を調べる微小欠失検査を選べます。特定の領域に関わる疾患を対象に含める検査です。ただし、対象は決まった染色体領域に限られます。自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)のような発達障害の全体をカバーするものではありません。
実在の投稿でも、@omannokata40696さんが、出生前診断でわかる障害はトリソミー系くらいで、出産時の事故や自閉症などの発達障害はわからない、と書いていました。私も、追加項目を増やすほど安心が積み上がると考えるより、何を知りたいのかを先に整理するほうが役立つと感じます。対象を広げるほど、まれな変化ほど「陽性と出ても実際には当てはまらない」ことが起こりやすくなります。ここでも、発達障害そのものはNIPTでは検出できないという前提は変わりません。
陽性が出たら確定検査(羊水検査など)が必要
NIPTは非確定的検査なので、陽性が出た場合は羊水検査などの確定検査で診断を確かめる必要があります。陽性=確定ではありません。
NIPTは胎盤を通じて流れてくるDNAの断片を見ています。そのため、赤ちゃん自身には変化がなくても、胎盤側の事情で陽性と判定されることがあります。陽性という結果が出ても、それだけで診断が決まるわけではありません。次の一歩が、羊水検査などの確定検査です。
NIPTの結果は、確定検査と専門家への相談へつなげて受け止めます
結果に動揺してすぐ大きな決断へ進むのではなく、まず確定検査と専門家への相談という順番を思い出してください。検査の位置づけは、出生前検査認証制度等運営委員会の情報でも確認できます。費用の目安を知りたい方は出生前診断の費用の記事も参考になります。
受ける前に考えたいことと遺伝カウンセリング
NIPTを受ける前に、何を知りたいのか、結果をどう受け止めたいのかを整理し、遺伝カウンセリングで専門家と一緒に考えてみてください。準備が心の支えになります。
検査を受けると決める前に、ご夫婦やパートナーと話しておきたいことがあります。「何がわかって、何がわからないのか」「もし予想と違う結果だったらどうしたいか」。この問いに、正しい答えはありません。それでも先に言葉にしておくと、結果を受け取ったときの支えになります。
遺伝カウンセリングでは、検査でわかること・わからないことの線引きや、結果の意味を、専門の医療者と一緒に確認できます。特定の選択を勧めたり誘導したりする場ではありません。あなた自身の価値観で考えていくための伴走です。妊娠と知的障害というテーマを広く知りたい方は知的障害と妊娠について詳しくまとめた記事もご覧ください。
生まれてから気づく発達の特性への向き合い方
発達の特性は成長の中で気づかれることが多く、健診や身近な支援につながっていける道があります。妊娠中にすべてを知る必要はありません。
先にも触れたとおり、発達障害そのものはNIPTでは検出できません。多くの場合、ことばや遊び、人との関わりの様子を通じて、乳幼児健診や日々の暮らしの中で少しずつ気づかれていきます。気づきは「遅れた発見」ではなく、支援につながる入り口。
地域には、子育て世代を支える窓口や相談先があります。障害のあるお子さんへの支援はこども家庭庁の障害児支援で、発達障害の相談先は発達障害情報・支援センターで確認できます。頼れる先を知っておくと、生まれてからの毎日が少し軽くなります。特性は、その子らしさの一部でもあります。焦らず、周囲と一緒に育ちを見守っていきましょう。

よくある質問
NIPTと知的障害・発達障害について、妊婦さんからよく寄せられる疑問をまとめました。参考にしてください。
Q. NIPTで知的障害や発達障害はわかりますか?
NIPTは染色体の数の変化を調べる検査で、知的障害や発達障害そのものはわかりません。自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害は原因が多様で、染色体の数だけでは決まらないためです。検査の性質を理解したうえで受けてください。
Q. NIPTが陰性なら発達障害の心配はないですか?
いいえ、陰性は「発達障害の心配なし」を意味しません。NIPTは対象の染色体の数の変化について調べる検査であり、発達障害は対象の外です。発達の特性は生まれた後の成長の中で気づかれることが多く、健診や地域の相談窓口につながっていけます。
Q. NIPTでダウン症が陽性だと必ず重い知的障害になりますか?
そうとは限りません。ダウン症など一部の染色体疾患では知的発達の遅れを伴うことがありますが、その程度には個人差が大きく、陽性がそのまま知的障害の確定や重症を意味するわけではありません。まず羊水検査などの確定検査と、遺伝カウンセリングで確認してください。
Q. 微小欠失検査を追加すれば発達障害もわかりますか?
わかりません。微小欠失検査で調べられるのは特定の染色体領域の欠けであり、発達障害全般をカバーするものではありません。検査の幅を広げても、発達障害そのものは検出できないという前提は変わらないと考えてください。
Q. 出生前診断で脳性麻痺はわかりますか?
わかりません。脳性麻痺は分娩前後の要因などが関わるとされ、染色体の数を見るNIPTでは判定できません。NIPTが対象とするのは、あくまで特定の染色体の数の変化です。心配なことは、遺伝カウンセリングで一つずつ確認してください。
Q. NIPTを受ける前に何を準備すればよいですか?
何を知りたいのか、予想と違う結果だったらどうしたいかを、パートナーと先に話しておいてください。そのうえで遺伝カウンセリングを利用すると、わかること・わからないことを専門家と一緒に整理できます。迷うときはLINEなどで気軽に相談してみてください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
