コフィン・ローリー症候群

Coffin-Lowry Syndrome, RPS6KA3

概要

コフィン・ローリー症候群は、知的発達の遅れ、特徴的な顔立ち、やわらかく先細りの指、低身長や背骨の変形などがみられる生まれつきの病気です。X連鎖性の遺伝の形式をとり、X染色体上(Xp22.12)にある RPS6KA3 遺伝子の変化が原因となります。

原因遺伝子がX染色体にあるため、男の子では症状がはっきり現れ、中等度から重度の知的発達の遅れを伴うことが多い一方、女の子では症状がないこともあれば、軽い症状がみられることもあります。頻度はおよそ5万〜10万人に1人と考えられています。

生まれたときには目立った特徴がないことが多く、乳幼児期の筋肉のやわらかさ(筋緊張低下)や発達の遅れをきっかけに気づかれ、年齢とともに顔立ちや体つきの特徴がはっきりしてきます。また、患者さんの多く(およそ7〜8割)はご家族に同じ病気の方がおらず、お子さまの代で新たに起きた遺伝子の変化(新生突然変異)によるものです。

RPS6KA3 遺伝子の変化は、コフィン・ローリー症候群のほかに、顔立ちや体つきの特徴を伴わず、知的発達の遅れだけがみられる病気(X連鎖性知的障害の一つ)を起こすこともあります。コフィン・ローリー症候群は、遺伝子のはたらきがほぼ失われる変化で起こり、知的発達の遅れに加えて顔・手・骨格の特徴がそろう点が特徴です。

原因

RPS6KA3 遺伝子は、RSK2 と呼ばれる酵素の設計図です。RSK2 は、細胞の外から届いた「成長しなさい」「はたらきを変えなさい」という合図を細胞の核まで伝える情報の中継役で、ほかのたんぱく質にリン酸をつける(スイッチを入れる)ことで、さまざまな遺伝子のはたらきを調節しています。

RSK2 は脳の神経細胞や骨をつくる細胞で大切な役割を担っています。RSK2 がうまくはたらかないと、記憶や学習にかかわる神経のはたらきや、骨の成長が妨げられ、知的発達の遅れや骨格の特徴につながると考えられています。

男性はX染色体を1本しか持たないため、その1本の RPS6KA3 遺伝子に変化があると発症します。女性はX染色体を2本持つため、もう1本が補うことで症状がないか軽くすむことが多いものの、どちらのX染色体がはたらくかの偏りによって、女性でも症状が出ることがあります(X連鎖性遺伝)。お母さまが変化を持っている場合と、お子さまの代で新たに変化が起きた場合があります。

症状

  • 知的発達の遅れ:男の子では中等度から重度のことが多く、ことばの遅れが目立ちます。女の子では症状がないことから軽度まで幅があります
  • 特徴的な顔立ち:広く突き出た額、離れ気味で外側が下がった目、大きめの鼻、厚い唇と大きな口などで、年齢とともにはっきりしてきます
  • 手の特徴:手のひらが大きくやわらかく、指が先に向かって細くなります。乳児期からみられることがあり、診断の手がかりになります
  • 骨格の変化:低身長、小さめの頭、背骨の変形(後側弯)、胸の形の変化(鳩胸・漏斗胸)
  • 刺激で誘発される脱力発作:突然の音や驚きをきっかけに、意識はあるまま急に体の力が抜けて倒れてしまう発作で、一部の患者さんに学童期から思春期ごろに現れます
  • 難聴(感音難聴)、乳幼児期の筋緊張低下
  • 心臓の弁の異常や心筋の病気がみられることがあります

検査・診断

乳幼児期の筋緊張低下や発達の遅れに加え、特徴的な顔立ち、やわらかく先細りの指、骨格の変化から疑われます。X線検査では骨の成熟の遅れや背骨の変形、聴力検査では難聴がわかることがあります。妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。

確定診断は遺伝学的検査で行い、RPS6KA3 遺伝子に変化が見つかります。遺伝子の一部がまとまって欠けている場合もあるため、検査方法を組み合わせることがあります。お母さまが変化を持っているかどうかで次のお子さまの見通しが大きく変わるため、原因を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療と、早い時期からの療育・生活の支援によって、お子さまの力を伸ばし、暮らしやすさを高めることを目指します。

  • 早期からの療育:言語療法・理学療法・作業療法などで発達を支えます。ことばが難しい場合は、身ぶりや絵カードなどの伝える手段も活用します
  • 聴力の定期的な確認:難聴があれば補聴器などを検討します
  • 背骨の変形への対応:定期的に経過をみて、必要に応じて装具や手術を検討します
  • 脱力発作への対応:薬で発作が軽くなることがありますが、効果には個人差があります。転倒によるけがを防ぐ工夫も大切です
  • 心臓の定期検査:心臓の弁や心筋の異常がないかを確認します
  • ご家族への支援:福祉制度の利用や、学校・地域との連携を含め、継続的に支えます

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる RPS6KA3 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、RPS6KA3 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患はX連鎖性の遺伝形式をとり、お母さまが RPS6KA3 遺伝子の変化を持っている場合、男の子では2分の1の確率で発症します(女の子では2分の1の確率で変化を受け継ぎ、症状がないか軽い症状がみられることがあります)。ただし、この疾患の多くはお子さまの代で新たに起きた変化によるものです。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

RPS6KA3(Xp22.12)は、Ras-MAPK 経路の下流で ERK により活性化されるセリン/スレオニンキナーゼ RSK2 をコードする。RSK2 は N 末端・C 末端の2つのキナーゼドメインを持ち、CREB やヒストン H3 などのリン酸化を介して転写を制御する。海馬での記憶形成や、骨芽細胞の分化(ATF4 のリン酸化)への関与が示されている。

病的バリアントはミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライス異常、欠失など多様で、遺伝子全体に散在し、ホットスポットはない。コフィン・ローリー症候群の多くはキナーゼ活性がほぼ失われる機能喪失型であるのに対し、残存活性を保つミスセンス変異では、身体的特徴を伴わない非症候群性X連鎖性知的障害(MRX19)を呈しうる。新生突然変異が約7〜8割を占めるが、母体の性腺モザイクの報告もあり、母親の解析で変異が見つからなくても次子再発率はゼロとはいえない。女性保因者の表現型は X 染色体不活化の偏りに影響され、正常から軽度の知的障害・顔貌の特徴まで幅がある。

刺激誘発性脱力発作は本症の約2割にみられ、てんかん発作とは異なる病態とされる。進行すると転倒を恐れて車椅子を要することもある。鑑別としては、脆弱X症候群(FMR1)、ATR-X 症候群(ATRX)、ウィリアムズ症候群(7q11.23 欠失)、ボルイェソン・フォルスマン・レーマン症候群(PHF6)などが挙がる。これらは遺伝形式や再発率が異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. お母さまが遺伝子の変化を持っている場合は、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率で変化を受け継ぎます。一方、多くはお子さまの代で新たに起きた変化で、その場合の再発率は低くなります。ただし、卵子のもとになる細胞にだけ変化がある(性腺モザイク)可能性もあるため、ゼロとは言い切れません。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は妊娠中の超音波検査ではほとんど見つかりません。ご家族で原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前検査で調べることを検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 女の子でも症状が出ますか。

A. はい、出ることがあります。女の子では症状がまったくないこともあれば、軽い知的発達の遅れや顔立ちの特徴がみられることもあり、幅があります。一般に男の子より軽いことが多いですが、個人差があります。

Q. 急に倒れる発作があると聞きました。

A. 一部の患者さんでは、突然の音や驚きをきっかけに体の力が抜けて倒れる発作が、学童期から思春期ごろに現れることがあります。薬で軽くなることがありますが、効果には個人差があります。転倒によるけがを防ぐ工夫も含め、主治医とご相談ください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Hanauer A, Young ID. Coffin-Lowry Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
  • OMIM #303600 Coffin-Lowry syndrome; CLS. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • Trivier E, De Cesare D, Jacquot S, et al. Mutations in the kinase Rsk-2 associated with Coffin-Lowry syndrome. Nature. 1996;384(6609):567-570.
  • Pereira PM, Schneider A, Pannetier S, Heron D, Hanauer A. Coffin-Lowry syndrome. Eur J Hum Genet. 2010;18(6):627-633.
  • Merienne K, Jacquot S, Pannetier S, et al. A missense mutation in RPS6KA3 (RSK2) responsible for non-specific mental retardation. Nat Genet. 1999;22(1):13-14.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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