NIPT(新型出生前診断)は、高齢出産の方のためだけのものではありません。当院でNIPTを受けた方は、30代の方が圧倒的に多くなっています。今回は、年齢に関わらずNIPTを検討する価値があることを、データとともに解説します。
出生前診断とは
「出生前診断」とは、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの発育状態や形態異常などを調べる「出生前検査」の所見を、医師が総合的に判断する診断方法のことを言います。
特に、染色体異常を含めた生まれつきの病気があるかどうかを調べる目的で行われるものを「出生前診断」と呼ぶことが多いです。染色体異常があるかどうかを確認するための「出生前診断」に用いる検査には、非確定的検査と確定的検査があります。
非確定的検査は染色体や遺伝子の異常の可能性があるかどうかをスクリーニングするためのもので、NIPT(新型出生前診断)や母体血清マーカー検査(クアトロテスト)、超音波検査などが当てはまります。得られる情報量は限定的であり、あくまでも可能性が高いか低いかを示しているに過ぎません。
一方で、確定的検査は胎児に染色体や遺伝子の異常があるかどうかを正確に診断するためのもので、羊水検査や絨毛検査があります。これらの検査は一定の割合で破水や感染、そして流産などのリスクを伴いますが、得られる情報量は非常に多く、確定診断には必須となっています。
超音波検査(エコー検査)や母体血検査などは母体や胎児に与えるダメージが少ないため、非侵襲的検査と呼ばれています。一方で、羊水検査や絨毛検査は母体への穿刺や胎盤組織の採取などを必要とし、流産のリスクを伴うダメージの大きな検査となりますので、侵襲的検査と呼んで区別しています。

NIPT(新型出生前診断)とは
NIPT(新型出生前診断)とは、「お母さんから採血した血液から胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)などの染色体異常を調べる検査」のことです。非侵襲性出生前遺伝学的検査とも呼ばれており、母体血液中に存在する胎児由来のDNAから赤ちゃんの染色体異常を調べることができます。
NIPT(新型出生前診断)は妊娠10週0日から受けることが可能で、結果は平均1〜2週間でわかります。ダメージの少ない非侵襲的検査であり、出生前診断としてはスクリーニング検査に当たる非確定的検査となります。したがって、NIPT(新型出生前診断)の結果は、染色体異常の可能性が高い「陽性」もしくは可能性が低い「陰性」という形で現れます。
血液でできる出生前診断には、母体血清マーカー(クアトロテスト)やコンバインド検査などがありますが、これらの検査と比較しても、NIPT(新型出生前診断)は感度・特異度から見て検査自体の精度が高いことが特徴の一つです。例えば染色体異常の1つである21トリソミー(ダウン症候群)の場合、NIPT(新型出生前診断)の感度99.9%、特異度99.90%と非常に精度の高い結果となっています。
ただしNIPT(新型出生前診断)の結果だけで胎児の染色体異常を診断することはできず、陽性の場合は専門医による診察および遺伝的カウンセリング、そして確定検査である羊水検査もしくは絨毛検査を強くおすすめしています。
NIPT(新型出生前診断)の大きな目的の一つは「検査時に流産のリスクを伴う絨毛検査・羊水検査などの確定的検査の数を減らす」ことです。赤ちゃんの状態をいち早く知ることができるとともに、非確定的検査で異常が見られた場合にのみ絨毛検査や羊水検査などの確定的検査を行うことで、検査に伴う流産のリスクを減らすことができます。
NIPT(新型出生前診断)の歴史
NIPT(新型出生前診断)はまだ歴史の浅い検査ですが、海外では既に市民権を得ています。ここではNIPT(新型出生前診断)の歴史と海外での動向、また日本での歴史について簡単に振り返ってみましょう。
NIPT(新型出生前診断)の成り立ちと海外での動向
NIPT(新型出生前診断)は2011年にアメリカで開発された検査です。カリフォルニア州だけで、2009〜2012年の間に130万人の妊婦さんが検査を受けています。
米国では830人に1人が、ヨーロッパでは920人に1人が21トリソミー(ダウン症候群)を発症しており、もともと非侵襲的な検査や診断方法のニーズが非常に高いです。アメリカやヨーロッパでは、出生前診断については全ての妊婦さんに選択肢が提供されるべきであるという国の方針のもと、アメリカでは妊娠をするとまず出生前診断についてのパンフレットを渡され、特別拒否しない限りは受検をするのが一般的となっています。
少し古いデータにはなりますが、アメリカでは非確定的検査の受検率は70%、確定的検査の受検率は2010年時点で5〜10%となっています。非確定的検査の受検率が最も高いのはイングランド&ウェールズであり、2009年時点で88%もの割合で妊婦さんが非確定的検査を受検しています。
日本でのNIPT(新型出生前診断)
NIPT(新型出生前診断)が普及する前の日本では、出生前検査はクアトロ検査・絨毛検査・羊水検査などが主流でした。それぞれの検査の推奨時期と、結果が出るまでの期間は以下の通りです。
- クアトロ検査:推奨検査時期は妊娠15〜17週頃、結果が出るまでの期間は平均約10日~2週間
- 絨毛検査:推奨検査時期は11〜14週頃、結果が出るまでの期間は平均約2〜3週間
- 羊水検査:推奨検査時期は15〜18週頃。結果が出るまでの期間は平均約2〜4週間
クアトロ検査はNIPT(新型出生前診断)と同じく母体の血液から診断できる検査ですが、検査可能時期が遅く、クアトロ検査で染色体異常の疑いが判明してから確定検査を受けることは難しいです。
羊水検査や絨毛検査は基本的には1回の検査で染色体異常の有無を診断することができますが、前述の通り母体や胎児に一定のリスクがある検査です。つまり、気軽に受けられるスクリーニング目的の検査がなかったのです。
日本におけるNIPT(新型出生前診断)は、アメリカで検査が開始された2年後の2013年からスタートし、1年後の2014年には、日本国内の47施設で1万人の妊婦さんが検査を受けています。
日本でNIPT(新型出生前診断)の検査を受けられる妊婦さんの一番理由は「高齢出産」が多いとされています。ですが近年は妊婦さんの年齢に限らず、赤ちゃんに染色体異常がないか妊娠中に知っておきたい、不安を少しでも取り除きたいなど理由も様々です。
年齢と胎児の障害リスク
産まれてくる赤ちゃんに障害があるかどうかの確率は母体の出産年齢によって異なることがわかっており、出産年齢が高ければ高いほど、障害リスクは高くなります。これは出産年齢が高くなるほど、胎児が染色体異常を持つ確率が高くなるからです。
染色体異常とは
そもそも染色体とは、細胞の中の組織である「核」に存在する鎖状の構造体です。染色体の中には遺伝情報であるDNAが収納されています。1つの染色体の中には数百から数千個の遺伝子が存在しています。染色体は、お父さんとお母さんから半分ずつ受け継ぐため、2本の鎖が1セットとなっています。兄弟姉妹でも、どの遺伝情報を受け継ぐかは個人によって異なるため、一卵性双生児の場合を除いて全く同じ染色体を持つ人はいません。染色体は究極の個人情報であると言われる所以です。染色体の本数は生物種によって異なりますが、ヒトの場合は23対46本が正常です。
染色体異常は、数の異常(数的異常)と形の異常(構造異常)に分けられます。
数的異常とは、本来2本ペアである染色体が3本に増えてしまったり、逆に1本に減ってしまったりすることで生じます。21番染色体が3本になってしまうことで発症する21トリソミー(ダウン症候群)は、染色体の数的異常が原因です。トリプルX症候群(トリソミーX)は女性にのみ起こる染色体異常であり、性染色体であるX染色体が3本あることで起こります。
構造異常は、染色体の数は正常ですが、染色体の一部が欠けていたり重複したり、位置が入れ替わっていたりすることで遺伝子の働きに異常が生じるものです。例えば15番染色体の15q11-15q13領域に構造異常が起こるとUBE3A遺伝子がうまく働かなくなり、重度の精神発達の遅れ、てんかんなどを特徴とするアンジェルマン症候群を発症します。
さらに染色体異常は、流産とも大きく関連しています。流産と診断された50〜70%に染色体異常が伴うと考えられており、染色体の数的異常が起きた場合、75%が妊娠8週頃までに流産となることが知られています。構造異常の場合、10〜20%の確率で流産となるといった報告があります。
ただし21トリソミー(ダウン症)をはじめとした染色体異常による先天性の病気は非常に個人差が大きく、同じ染色体または遺伝子の異常がある場合でも、産まれてきた時の症状の重さや産まれてきた後の経過はお一人お一人全く異なります。
出産年齢とダウン症などの染色体異常との関係
引用:厚生労働省- 「不妊に悩む方への特定治療支援事業等の あり方に関する検討会」報告書 参考資料
出産時のお母さんの年齢が高くなればなるほど、産まれてくる赤ちゃんに染色体異常が見られる確率が高くなります。特に40代以上で出産する高齢出産の場合は飛躍的に確率が高くなるのが上のグラフからもみて取れます。
この理由は、主に卵子の高齢化にあります。精子は男性の体内で一生涯にわたって作られ続けるのに対し、卵子の元となる卵胞細胞は胎児期にのみ作られます。精子と卵子はともに結合して受精卵となるために、成熟の前に染色体を分けて減らす減数分裂を行います。卵子は減数分裂の途中の状態のまま卵巣の中で保存されており、排卵の直前に最終的な減数分裂を行います。高齢出産の場合、卵子が保存される期間が長すぎるため、染色体をうまく分けることができず、染色体の本数や構造の異常が出やすくなるのです。
その反面、出産年齢が若くても一定の確率で染色体異常は起こります。20代の妊婦さんから産まれたお子さんの500人に一人は染色体異常を持っていることがわかっています。NIPT(新型出生前診断)を受けなかったことで後悔してしまう、ということもあるかもしれません。
「40代じゃないから安心」「出生前診断は高齢出産の人が行うもの」というわけではなく、NIPT(新型出生前診断)は、どの年代の方でも受けておく意義があるものなのです。

実際にヒロクリニックNIPTでNIPT(新型出生前診断)を受けた年代分布と割合

受検者年齢の平均 | 35歳未満 | 35歳以上 |
---|---|---|
35.40歳 | 12,373人 | 16,897人 |
上記は実際にヒロクリニックNIPTで検査を受けられた29,269人の妊婦さんを年齢別に分け、割合を調べたものになります。(2023/2/16現在)
この数字を見ると、30代の妊婦さんが検査を受ける割合が高い事が目に留まるかと思います。
実際に日本の産婦人科でNIPT(新型出生前診断)の検査を推奨されているのは35歳以上の妊婦さんとされていますが、35歳未満の方でも検査を希望する方が多いのがわかります。
詳しくは、「10,000人以上の国内の妊婦さんのNIPT検査結果集計 」に記載がありますので、こちらも合わせてご覧ください。
まとめ
以上、出生前診断とは何か、NIPT(新型出生前診断)とは何か、そして染色体異常と出産年齢などについて詳しく解説するとともに、当院で出生前診断を受けた方の人数と割合を年代別にお示ししました。従来型の出生前診断はリスクが伴うものも多く、なかなか検査を受ける勇気が持てない方もおられたと思いますが、NIPT(新型出生前診断)は母体・胎児ともにほぼ負担なく、染色体異常の可能性が高いか低いかを判断できるという大きな特徴があります。
35歳以上の高齢出産や上のお子さんが染色体異常をお持ちの方はもちろんのこと、「産まれてくる我が子を万全の体制で迎えたい」という方は、ぜひ早い時期にNIPT(新型出生前診断)を受けることをご検討ください。
【参考文献】
- 新型出生前診断、染色体異常の2割見落とし 米研究(朝日新聞デジタル/2013年2月5日配信)
- 新型出生前診断、1万人が昨年度受診 1年目より増加(朝日新聞デジタル/2015年6月29日配信)
- 日本経済新聞夕刊 – 新・出生前診断の希望増加 3カ月で1000人超受診 情報提供・説明の充実が不可欠( 2013/7/5 6:30)
- 佐々木愛子,左合治彦ら – 日本における出生前遺伝学的検査の動向1998-2016,日本周産期・新生児医学会雑誌2018;54:101-107
- Sekiguchi M,Sasaki A et al – Impact of the introduction of Non-invasive pretanal genetic testing on invasive tests:2017;57:35-36
- あいち小児保健医療総合センター産科 – 出生前診断を検討しているご夫婦へ
- 難病情報センター – アンジェルマン症候群(指定難病201)
- 日本生殖医学会 – 一般のみなさまへ:生殖医療Q&A
- 厚生労働省 – 「不妊に悩む方への特定治療支援事業等の あり方に関する検討会」報告書 参考資料
NIPT(新型出生前診断)は、高齢出産の方のためだけのものではありません。当院でNIPTを受けた方は、30代の方が圧倒的に多くなっています。今回は、年齢に関わらずNIPTを検討する価値があることを、データとともに解説します。
記事の監修者

川野 俊昭先生
ヒロクリニック博多駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科医として25年以上、主に九州で妊婦さんや出産に向き合ってきた。経験を活かしてヒロクリニック博多駅前院の院長としてNIPT(新型出生前診断)をより一般的な検査へと牽引すべく日々啓発に努めている。
略歴
1995年 九州大学 医学部卒業
1995年 九州厚生年金病院 産婦人科
1996年 九州大学医学部付属病院 産婦人科
1996年 佐世保共済病院 産婦人科
1997年 大分市郡医師会立アルメイダ病院 産婦人科
1998年 宮崎県立宮崎病院 産婦人科 副医長
2003年 慈恵病院 産婦人科 医長
2007年 日本赤十字社熊本健康管理センター診療部 副部長
2018年 桜十字福岡病院 婦人科
2020年 ヒロクリニック博多駅前院 院長
資格
日本産科婦人科学会専門医
検診マンモグラフィ読影認定医
日本スポーツ協会公認 スポーツドクター
厚生労働省認定臨床研修指導医
日本抗加齢医学会専門医