この記事のまとめ
出生前診断を法律で「義務(強制)」とする国は、基本的に存在しません。フランスや英国、デンマークなどの先進国では、公的な医療のなかで検査が妊婦に広く提供・案内され、受検率も高い傾向にあります。ただし受けるかどうかは本人が決めるインフォームド・チョイスであり、受けない自由も守られています。日本は日本医学会の認証施設を中心に、本人の希望で受ける仕組みで、費用は自費が中心。この記事では、海外と日本の制度・費用・受検率の違いを中立に整理し、「義務化」と「強制」は違うという点をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
出生前診断が「義務」の国はあるのか
出生前診断を法律で義務づけ、受けなければ罰する国は、基本的に存在しません。「海外では義務らしい」という言葉を見かけると不安になりますが、まずは前提を整理します。
多くの先進国が行っているのは、妊婦健診のなかで検査を広く提供・案内することです。全員に情報を届け、希望すれば受けられる体制を整える。これは「案内が行き届いている」状態であって、「受けなければならない」という強制とは意味がちがいます。
私は妊婦さんの相談を受けるなかで、「義務」という言葉だけがひとり歩きしていると感じます。実際には、検査を受けるかどうかは本人が決めるインフォームド・チョイス(十分な説明を受けたうえでの選択)が世界的な原則です。受けない選択も、等しく尊重されます。
「事実上の義務」という表現を見かけることもあります。案内が徹底され、周囲の多くが受けている環境では、断りにくさを感じる場面があるのは事実です。ただし、それは空気の問題であって、法的な強制とは異なります。受けない選択が制度上守られているかどうかを、まず切り分けて考えてください。
制度の考え方は、日本産科婦人科学会などの公的な情報でも確認できます。まずは、日本の学会の見解を日本産科婦人科学会でご覧ください。次の章から、検査そのものと各国の実情を順に見ていきます。
そもそも出生前診断とは何か
出生前診断は、おなかの赤ちゃんの染色体や体の状態を、妊娠中に調べる検査の総称です。ひとくちに出生前診断といっても種類があり、わかることの範囲も異なります。
なかでも注目されるのがNIPT(新型出生前診断)です。母体の血液に含まれる胎児由来のDNAを分析し、主に21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーといった特定の染色体の変化を調べます。妊娠10週前後から受けられます。
ここで大切な点があります。NIPTは対象の疾患を「調べる」検査であって、それだけで診断が確定するわけではありません。NIPTは非確定的検査で、確定診断には羊水検査や絨毛検査が必要です。陽性が出たら、次の確定検査で確かめる流れになります。
精度についても注意がいります。「感度99%」のような数値を見かけますが、陽性が出た人のうち本当に該当する割合(陽性的中率)は、受ける方の年齢やその疾患の頻度によって変わります。数値をひとり歩きさせず、意味を理解して受けることが大切です。検査の仕組みはNIPTの原理・仕組みで、種類ごとのちがいは出生前診断の種類と選び方でくわしく解説しています。
提供体制が整う国々(フランス・英国・デンマーク)
フランス・英国・デンマークなどは、妊婦へのスクリーニングを公的に案内する体制が整い、受検率が高い傾向にあります。ただし、いずれも受けない自由が保障されている点は共通です。まずは全体像を図で確認します。
フランスでは、妊婦健診の一環として超音波検査や血液を使ったスクリーニングが広く案内されます。英国も、公的医療のなかで希望者にスクリーニングを提供する体制が整っています。デンマークは早くから全妊婦への案内を始めた国として知られ、受検率が高い水準にあります。
ここで見落としたくないのは、受検率の高さは「強制されているから」ではないという点です。情報が行き届き、費用の負担が小さく、相談の窓口があるから、結果として多くの人が受けている。受検率が高いことと、義務であることはイコールではありません。いずれの国でも、説明を受けたうえで「受けない」を選べます。
「義務化」と「強制」はどう違うのか
「義務化」という言葉は、多くの場合「全員に提供・案内する体制づくり」を指し、「受けさせる強制」とは別ものです。ここを分けて考えると、海外の情報を落ち着いて読み解けます。
本来の「強制」とは、断ると不利益がある、あるいは受けないと妊娠を続けられないといった状態を指します。世界の主要な学会や倫理指針は、こうした強制を明確に否定しています。検査は、赤ちゃんや自分の状態を知りたい人が、自分の意思で選ぶものだからです。
だからこそ、案内が丁寧であるほど、断りやすさも大切になります。「受けて当然」という空気ではなく、「受けないのも自然な選択」と伝わる説明が求められます。私自身、相談の場では受けない理由も否定せず、まず気持ちを聞くよう心がけています。制度の考え方を知りたい方は出生前検査認証制度等運営委員会の情報も参考になります。
海外と日本の費用・制度のちがい
海外では公費補助で自己負担が小さい国がある一方、日本は自費が中心で、費用の感じ方に差があります。この差が、受けやすさや受検率にも影響します。まずは大枠を表で比べます。
| 国・地域 | 提供のかたち | 費用の負担 | 受けるかどうか |
|---|---|---|---|
| フランス・英国・デンマークなど | 公的医療で広く案内 | 公費補助があり自己負担が小さい傾向 | 本人の自己決定(受けない自由あり) |
| 日本 | 認証施設を中心に実施 | 自費が中心 | 本人の希望で受ける |
費用の感覚は、当事者の受けやすさに直結します。Xでも@konkatsu_mochiさんが、海外ではNIPTを1500円ほどで受けられる所もあるのに、日本では3種類のトリソミーを調べるだけで10万円以上かかり、結局受けなかった、1500円なら確実に受けていた、という率直な思いをつづっていました。費用の壁を前に迷う方は、決して少なくありません。
私も、費用を理由にためらう相談をよく受けます。値段だけで決めるのではなく、何がわかる検査で、そのあとどうしたいのかを一緒に整理すると、納得のいく判断につながりやすいと感じています。費用の内訳や施設ごとの差は出生前検査の費用で具体的にまとめています。
海外との普及状況の差と、その背景
日本は出生前検査の普及度そのものが海外より低く、施設ごとの検査数や経験にも差があります。この差は、制度の歴史や案内のしかたのちがいから生まれています。

医療者の視点からも、この差は実感されています。Xでは、産婦人科医の@drsushi6さんが、国際学会で出生前診断の発表をするのは簡単ではない、そもそも日本での検査の普及度が低く、一つのクリニックの立場では海外のハイボリュームセンターと数でも経験でも見劣りする、それでも注目に値する視点があるはず、と綴っていました。現場の率直な声だと受け止めています。
普及度に差がある理由は、単純ではありません。公費で広く案内する国と、本人の希望を起点にする国とでは、そもそも受ける人数のスケールが変わります。検査数が多いほど経験が積み上がり、体制も厚くなる。この積み重ねの差が、国際的な立ち位置にも表れます。
日本で普及がゆるやかに進んできた背景には、命の選別につながりかねないという慎重な議論の歴史があります。技術の進歩を急いで制度に落とし込むのではなく、説明とカウンセリングを土台に据える。その方針が、認証施設を中心とする今のかたちにつながっています。慎重さは、当事者を守るための工夫でもあります。
とはいえ、普及度の高さが良し悪しを決めるわけではありません。大切なのは、受けたい人が正確な情報にたどり着き、安心して相談できること。数の多さよりも、一人ひとりの選択が守られる仕組みのほうが、当事者にとっては意味があると私は考えています。
日本で出生前診断を受けるには
日本では、日本医学会の認証を受けた施設を中心に、本人の希望にもとづいて出生前診断を受けられます。強制されるものではなく、あくまで自分で選ぶ検査です。手順を整理します。
受けるかどうかを考えるときは、まず「何を知りたいのか」を整理してください。次に、対象の疾患や検査でわかる範囲、非確定的検査であること、費用を確認します。そのうえで、遺伝カウンセリングなどの相談を受けながら決めていく流れです。
認証施設という言葉が、少しかたく感じられるかもしれません。かんたんに言えば、検査前後の説明やカウンセリングの体制が一定の基準を満たしていると確認された施設のことです。結果をどう受け止めるかまで支える前提があるため、安心して相談できます。海外の「広く案内する」体制とは入り口が違いますが、本人が納得して選ぶという到達点は同じです。
- 知りたいことを整理:何のために受けたいのか、結果をどう受け止めたいか
- 検査の範囲を確認:対象疾患・わかる範囲・確定検査が別に必要な点
- 費用と施設を比較:自費が中心のため、施設ごとの内容と料金を確認
- 相談しながら決める:遺伝カウンセリングで疑問を解消してから判断
施設選びに迷ったら、認証の有無やカウンセリング体制を目安にしてください。結果が出たあとの受け止め方まで支えてくれる施設だと、安心して臨めます。施設の選び方はNIPTの医療機関の選び方でくわしく解説しています。妊娠期の公的なサポートは、こども家庭庁 母子保健の情報もあわせてご覧ください。ひとりで抱え込まず、まず相談から始めてみてください。
よくある質問
出生前診断と海外の制度について、よく寄せられる疑問をまとめました。参考にしてください。
Q. 出生前診断が義務の国はありますか?
法律で受検を義務づけ、受けないと罰する国は基本的にありません。フランスや英国などは公的に検査を広く案内していますが、受けるかどうかは本人の自己決定です。受けない自由も守られています。
Q. フランスや英国では全員が受けるのですか?
案内が行き届き受検率は高い傾向ですが、全員が受けるわけではありません。情報が届き費用負担が小さいため、結果として多くの人が受けています。受検率の高さと強制はイコールではありません。
Q. 日本では出生前診断は義務ですか?
義務ではありません。日本は日本医学会の認証施設を中心に、本人の希望にもとづいて受ける仕組みです。費用は自費が中心で、受けるかどうかは自分で選べます。
Q. 海外と日本で費用はどれくらい違いますか?
公費補助のある国では自己負担が小さい一方、日本は自費が中心です。金額は国や施設で幅があるため、日本で受ける場合は施設ごとに検査内容と料金を確認してください。
Q. NIPTだけで診断は確定しますか?
確定しません。NIPTは21・18・13トリソミーなど対象疾患を調べる非確定的検査です。陽性の場合は、羊水検査や絨毛検査といった確定検査で確かめる必要があります。
Q. 受けたくない場合、断っても大丈夫ですか?
もちろん大丈夫です。受けない選択も等しく尊重されます。迷うときは、遺伝カウンセリングで疑問を整理してから決めてください。答えを急がず、自分の気持ちを大切にしてください。
著者・監修
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Gadsbøll K, Petersen OB, Gatinois V, et al. Current use of noninvasive prenatal testing in Europe, Australia and the US: a chronological review. Ultrasound Obstet Gynecol. 2020;56(1):22-32.
- Allyse M, Minear MA, Berson E, et al. Non-invasive prenatal testing: a review of international implementation and guidelines. Int J Womens Health. 2015;7:113-126.
- American College of Obstetricians and Gynecologists' Committee on Practice Bulletins—Obstetrics, Committee on Genetics, Society for Maternal-Fetal Medicine. Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities: ACOG Practice Bulletin, Number 226. Obstet Gynecol. 2020;136(4):e48-e67.
