この記事でわかること
ホモシスチン尿症(CBS欠損症)は、CBS遺伝子の変化によってホモシステインというアミノ酸が体にたまりやすくなる先天代謝異常です。日本では新生児期の血液検査で見つかることが多く、早期に治療を始めれば重い合併症を避けやすい病気として知られています。この記事では、原因の遺伝子から症状、検査、治療、そして出生前診断との関係まで、順を追って整理します。
ホモシスチン尿症(CBS欠損症)とは
ホモシスチン尿症は、体内でホモシステインを処理する酵素の働きが弱くなることで起こる遺伝性の代謝疾患です。正式名称は「シスタチオニンβ-シンターゼ欠損によるホモシスチン尿症」で、略称はCBSDです。別名として「古典的ホモシスチン尿症」とも呼ばれます。
国際疾病分類(ICD-11)では「アミノ酸代謝の先天異常」に分類される、まれな代謝性疾患のひとつです。両親のどちらかが保因者であっても、多くの場合は無症状のまま日常生活を送っています。
遺伝形式は常染色体潜性遺伝です。父親と母親の両方から変化した遺伝子を1つずつ受け継いだ子どもにだけ症状が現れ、片方だけの場合は保因者として発症しません。
原因遺伝子CBSとホモシステイン代謝のしくみ
原因となるCBS遺伝子は第21番染色体(21q22.3)に位置し、シスタチオニンβ-シンターゼという酵素の設計図です。この酵素はホモシステインとセリンからシスタチオニンを作る「トランススルフレーション経路」の入り口を担っています。
CBS遺伝子の染色体上の位置(21q22.3)

この酵素はビタミンB6の活性型であるピリドキサールリン酸を補因子として必要とします。酵素の働きが弱まると、ホモシステインが血液中に蓄積し、同時にメチオニンの濃度も上昇します。
たまったホモシステインは、血管の内側を傷つけて血栓ができやすい状態を作り、コラーゲンなどの結合組織にも影響を与えます。これが、後述する眼・骨格・血管・神経の症状につながる仕組みです。CBS遺伝子ではこれまでに260種類以上の病的変異が報告されており、多くはミスセンス変異と呼ばれるタイプです。
発症頻度と新生児マススクリーニングでの位置づけ
世界全体での発症頻度は、およそ10万人〜34万人に1人。地域差が大きい病気です。カタールでは近親婚の影響で1,800人に1人程度と高頻度である一方、アイルランドでは6万5千人に1人程度と報告されています。
日本では、生後4〜6日に採血する新生児マススクリーニング(タンデムマス法)の対象疾患のひとつに位置づけられています。かかとから採取したごく少量の血液でメチオニン濃度を測定し、基準を超えた場合に精密検査へ進む流れです。
ここで一つ注意したい点があります。ビタミンB6に反応するタイプは血中メチオニンの上昇が軽度です。そのため、初回スクリーニングだけでは見逃されやすい傾向が指摘されています。症状に気づいた時点で追加の代謝検査を検討する姿勢が大切です。
症状の特徴|ビタミンB6反応型と非反応型のちがい
症状の重さは、ビタミンB6(ピリドキシン)を服用したときに数値が改善するかどうかで大きく分かれます。私自身、遺伝カウンセリングの現場で「同じ病名でも経過が全く違う」と驚かれるご家族に何度もお会いしてきました。
| 比較項目 | ビタミンB6反応型 | 非反応型 |
|---|---|---|
| 症状の程度 | 比較的軽い傾向 | 多臓器に及びやすい |
| 発症時期 | 年長になってから気づかれることも | 乳幼児期から所見が出やすい |
| 知的発達 | 正常範囲を保ちやすい | 支援が必要になることがある |
| 治療の中心 | ビタミンB6補充 | メチオニン制限食が必須 |
代表的な眼の症状は、1〜8歳ごろに起こりやすい水晶体脱臼と強い近視。骨格では手足が長く身長が高い「マルファン様体型」、側弯症、骨がもろくなる骨粗しょう症がみられます。
血管系では静脈や脳・肺の血管が詰まる血栓塞栓症が最も重大な合併症です。妊娠・出産の前後は血栓リスクがさらに高まるため、産科と代謝専門医の連携した管理が欠かせません。
神経・精神面では発達の遅れ、てんかん発作、うつ症状や強迫性障害が知られています。皮膚や髪の色が薄くなる、頬が赤くなる(マラーフラッシュ)といった所見が出ることもあります。いずれも程度には個人差が大きく、治療開始の時期によって経過は変わります。
検査と診断の流れ
診断は、新生児マススクリーニングをきっかけに、血液・尿の生化学検査と遺伝子検査を組み合わせて確定します。
生化学検査では、通常15μmol/L未満とされる血漿総ホモシステインが、CBS欠損症では100μmol/Lを超えて検出されます。血中メチオニンの上昇、尿中ホモシスチンの増加も特徴的な所見です。
遺伝子検査ではCBS遺伝子の配列解析により、95〜98%程度の症例で原因となる変異を特定できます。特定の変異は民族的背景によって頻度が異なるため、家族歴とあわせて評価します。
ビタミンB6負荷試験も診断上重要な検査です。ピリドキシンを段階的に増やしながら内服し、48時間後にホモシステイン濃度が30%以上下がれば「反応型」と判断されます。この結果は、その後の治療方針を左右する大きな分かれ道になります。
治療と日常管理
治療の目標は、血漿ホモシステインを100μmol/L以下、できれば50μmol/L未満に保ち、血栓や発達への影響を防ぐことです。
ビタミンB6反応型では、医師の管理のもとピリドキシンを内服し、数値が大きく改善するケースが多く報告されています。一方、非反応型ではメチオニン制限食が治療の柱となり、メチオニンを含まない特殊なアミノ酸製剤で栄養バランスを補います。
ホモシステインをメチオニンへ再変換するベタインを用いる治療も、医師の指示のもとで広く行われています。葉酸やビタミンB12を必要に応じて併用し、代謝経路全体を支えます。
通院の頻度は、乳児期は月1回程度、1歳を過ぎると3か月に1回、学童期以降は半年〜1年に1回が目安です。酵素補充療法や遺伝子治療は研究段階にあり、今後の実用化が期待されています。
妊娠・出産時に注意したいポイント
ホモシスチン尿症をもつ方が妊娠・出産を迎える場合、血栓リスクの管理が最優先事項になります。
妊娠中から産褥期にかけては、低分子量ヘパリンやアスピリンを使った血栓予防が検討されます。メチオニン制限食やビタミンB6・ベタインの継続も基本的に続けながら、産科医と代謝専門医が連携して経過をみていく体制が望ましいとされています。
実際にご相談を受ける中では、「自分が保因者かもしれないが、パートナーはどうなのか」という不安を口にされる方が少なくありません。単一遺伝子疾患は片方の親だけが保因者であれば子どもへの影響は限定的なため、心配な場合は遺伝カウンセリングで一度整理してみてください。
NIPT(新型出生前診断)との関係
標準的なNIPTは13番・18番・21番染色体のトリソミーなど、染色体レベルの変化が主な対象です。ホモシスチン尿症のような単一遺伝子疾患・常染色体潜性疾患は、基本の検査項目には含まれません。
ヒロクリニックNIPTでは、基本の染色体検査に加えたプランも用意しています。単一遺伝子疾患200種類以上、キャリアスクリーニングへの対応が可能です。
ただし、CBS欠損症は出生後の新生児マススクリーニングで発見できる代謝疾患です。診断の中心はあくまで出生後の血液検査になります。
「両親のどちらかが保因者と分かっている」「近親者に同じ病気の方がいる」。こうした事情がある場合は、妊娠前・妊娠中の遺伝カウンセリングで検査の選択肢を相談すると見通しが立てやすくなります。
よくある質問
ホモシスチン尿症について、相談の場でよくいただく質問をまとめました。
Q1. ホモシスチン尿症は治りますか?
完治という概念ではなく、生涯にわたる管理が必要な病気です。ビタミンB6反応型では、服薬で数値が良好に保たれる例が多く報告されています。非反応型でも、食事療法とベタインの継続で血栓や発達への影響を防げるケースが多くあります。
Q2. 新生児マススクリーニングで必ず見つかりますか?
非反応型では比較的見つかりやすい一方、ビタミンB6反応型は数値上昇が軽度で見逃されることがあります。成長後に水晶体脱臼や血栓症をきっかけに診断されるケースも報告されています。
Q3. きょうだいにも同じ病気が出ますか?
常染色体潜性遺伝のため、両親がともに保因者の場合、次のお子さんが発症する確率は4分の1です。遺伝カウンセリングで詳しい確率や検査の選択肢を確認できます。
Q4. NIPTでホモシスチン尿症はわかりますか?
標準的なNIPTの対象ではありません。単一遺伝子疾患に対応した拡張プランで検討できる場合はあります。ただし確定診断は、出生後の新生児マススクリーニングと遺伝子検査が中心です。
Q5. 妊娠中に気をつけることはありますか?
血栓リスクの管理が最も重要です。産科医と代謝専門医が連携し、必要に応じて血栓予防の薬剤を用いながら、食事療法や服薬を継続する管理が行われます。
Q6. 大人になってから診断されることもありますか?
あります。ビタミンB6反応型を中心に、成人期に強度近視や血栓症の精査をきっかけに見つかる例が報告されています。心当たりがある場合は代謝専門の医療機関への相談が第一歩です。
まとめ
ホモシスチン尿症(CBS欠損症)は、CBS遺伝子の変化によってホモシステインが蓄積する常染色体潜性遺伝の代謝疾患。日本では新生児マススクリーニングで発見の糸口が得られ、ビタミンB6反応型か非反応型かによって治療の道筋が変わります。
妊娠・出産時は血栓リスクへの目配りが欠かせません。保因者かどうか気になる方、家族歴がある方は、まず遺伝カウンセリングで状況を整理することから始めてみてください。
NIPTの検査範囲や単一遺伝子疾患への対応について詳しく知りたい方は、下記からお気軽にご相談ください。
やさしい言葉の説明|Helpful Terms
- CBS遺伝子(CBS gene)
ホモシステインを処理する酵素の設計図となる遺伝子です。 - 常染色体潜性遺伝
両親から病気の原因となる遺伝子を1つずつ受け継いだときに発症する仕組みです。親が無症状でも子どもに出ることがあります。 - ホモシステイン
体内にたまりすぎると血管や神経に影響する物質で、通常は酵素によって処理されます。 - 反応型/非反応型
ビタミンB6を服用したときに数値が改善するかどうかによる分類です。治療方針に直結します。 - 新生児マススクリーニング
生まれたばかりの赤ちゃんの血液で、先天代謝異常などを早期に調べる検査です。 - メチオニン制限食
ホモシステインのもとになるメチオニンを控える食事療法です。
監修者
岡 博史(おか ひろし)|医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director
慶應義塾大学医学部卒業。日本・アメリカ両国の医師国家試験に合格し、臨床研修後2年で医学博士を取得。国内で20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有しています。産婦人科・小児科・臨床遺伝の専門医と連携しながら、NIPTと遺伝性疾患に関する情報発信を行っています。著書に『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。
引用文献|References
- Sacharow SJ, Picker JD, Levy HL. Homocystinuria Caused by Cystathionine Beta-Synthase Deficiency. GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- MedlinePlus Genetics. Homocystinuria. U.S. National Library of Medicine.
- 日本先天代謝異常学会. 診療ガイドライン一覧.
- 日本マススクリーニング学会.
- Majtan T, et al. Recent Therapeutic Approaches to Cystathionine Beta-synthase-deficient Homocystinuria. British Journal of Pharmacology. 2023.
- Gerrard A, Dawson C. Homocystinuria Diagnosis and Management: It Is Not All Classical. Journal of Clinical Pathology. 2022.
キーワード|Keywords
ホモシスチン尿症, CBS, cystathionine beta-synthase, ホモシステイン, メチオニン, ピリドキシン, ビタミンB6, ベタイン, トランススルフレーション, 水晶体脱臼, マルファン様体型, 血栓症, メチオニン制限食, 新生児マススクリーニング, 常染色体潜性遺伝, 高ホモシステイン血症, 葉酸, ビタミンB12, 遺伝性代謝疾患, NIPT, 遺伝カウンセリング
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
