お腹の中にいる赤ちゃんについて、障害の可能性を考え、不安な気持ちを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
とくに「知的障害」という言葉は耳にしたことがあっても、具体的な内容や発達障害との違いについては、はっきりとわからないことも多いかもしれません。
遺伝的なものなのか、それとも他の原因があるのか、妊娠中に知ることはできるのか、さまざまな疑問が浮かんでくることでしょう。
本記事では、知的障害の基本的な知識から原因、種類や発達障害との関連性を解説します。
ぜひ正しい知識を得て、ご自身の選択や将来の準備にお役立てください。
知的障害とは
知的障害とは、おおむね18歳までの発達期に生じる知的機能の遅れにより、日常生活や社会生活で支援が必要となる状態のことです。
医学的な診断では、標準化された知能検査で測るIQ(知能指数)がおおむね70以下であることが1つの目安とされます。
しかし、単にIQが低いことだけを指すのではなく、以下の困難があるかどうかを、総合的にみて判断されます。
- 読み書きや計算などの「概念的領域」
- 対人関係を築く「社会的領域」
- 身の回りの管理などを行う「実用的領域」
知能の遅れだけでなく、生活上の困難さも合わせて評価されるのが特徴です。

2. 知的障害の原因
知的障害が起こる原因はさまざまで、1つの要因だけでは説明できないことも少なくありません。
ここでは、知的障害のおもな原因とされる3つの要因を解説します。
- 遺伝的・染色体要因
- 周産期の環境的要因
- 出生後の後天的要因
詳しく見ていきましょう。
① 遺伝的・染色体要因
知的障害の原因としてもっともよく知られているのが、遺伝子や染色体の変化によるものです。
これらは、受精の段階や胎児が成長する過程で偶然起こることが多く、ご両親からの遺伝が原因とは限りません。
知的障害を伴う代表的な遺伝性・染色体性の疾患として、以下4つを紹介します。
これらの疾患は、それぞれ特徴が異なります。
ダウン症(21トリソミー)
ダウン症候群は、通常2本である21番目の染色体が3本になることで起こる染色体異数性疾患です。
約700人に1人の割合で出生するといわれています。
多くの場合、軽度から中等度の知的障害を伴い、ゆっくりとした発達が特徴です。
多くの人は、特別支援教育や療育を通じて社会生活を送ることが可能です。
心臓の疾患などを合併することもありますが、近年は医療の進歩により平均寿命も延びています。
フラジャイルX症候群(Fragile X syndrome)
フラジャイルX症候群は、性別を決めるX染色体にあるFMR1遺伝子の異常によって起こる遺伝性疾患です。
男性では中等度から重度の知的障害が見られることが多く、自閉スペクトラム症(ASD)に似た行動特性を示すこともあります。
女性の場合は症状が軽いか、ほとんど現れないこともあります。
遺伝子の変化が世代を重ねるごとに大きくなるという特徴を持つため、遺伝カウンセリングが重要になる疾患です。
ウィリアムズ症候群(Williams syndrome)
ウィリアムズ症候群は、7番染色体の一部が欠失することで起こる疾患です。
軽度から中等度の知的障害を伴います。
「エルフのような」と表現される特徴的な顔立ちや、社交的で人懐っこい性格、音楽的な才能を示すことがあるなど、個性的な特徴を持ちます。
一方で、生まれつき心臓や血管に問題を抱えていることが多く、生涯にわたる医学的なフォローアップが必要です。
その他の遺伝子異常や染色体欠失
知的障害の原因となる遺伝子や染色体の変化は、ほかにも数多く知られています。
たとえば、18番染色体が3本になる18トリソミー(エドワーズ症候群)や、13番染色体が3本になる13トリソミー(パトウ症候群)などです。
また、染色体の一部が失われる微小欠失症候群といったものもあります。
これらの多くは、出生前診断の1つであるNIPT(新型出生前診断)でそのリスクを調べることが可能です。
② 周産期の環境的要因
周産期とは、妊娠中から出産、そして生後間もない期間を指します。
この時期に、お母さんや赤ちゃんに何らかの問題が起こることで、脳の機能に影響が及び、知的障害の原因となることがあります。
たとえば、妊娠中のお母さんが風疹などのウイルスに感染したり、アルコールを多量に摂取したりすることによる影響などです。
また、出産時に赤ちゃんが低酸素状態になったり、脳内で出血が起きたりすることも原因の1つです。
ただし、これらの出来事が必ずしも知的障害につながるわけではありません。
③ 出生後の後天的要因
知的障害は、生まれてからの出来事が原因で起こることもあります。
これは、脳が発達する途中である乳幼児期に、脳がダメージを受けることによって生じます。
代表的な原因として、交通事故などによる頭の怪我(頭部外傷)や、脳炎・髄膜炎といった感染症などです。
また、栄養失調や、適切な養育が受けられないといった極端に不適切な環境(ネグレクト)も、脳の発達に影響を与える可能性があると考えられています。
これらの後天的な要因による知的障害は、原因が比較的はっきりしているのが特徴です。
知的障害の程度
知的障害の程度は、知能指数(IQ)と日常生活での支援の必要性をもとに、一般的に以下の4段階に分類されます。
| 障害の程度 | IQの目安 | 日常生活の支援 |
| 軽度 | 50~69 | 部分的な支援で自立した生活や就労が可能 |
| 中等度 | 35~49 | 日常生活において、ある程度の支援が必要 |
| 重度 | 20~34 | 食事や着替えなど、生活全般で多くの支援が必要 |
| 最重度 | 20未満 | 常に手厚い支援や、医療的なケアが必要な場合がある |
この分類は、どのような支援が必要かを考えるうえでの目安となります。
ただし、IQの数値だけで判断されるのではなく、個々の生活能力やコミュニケーション能力なども含めて総合的に評価されるものです。
同じ程度の知的障害であっても、得意なことや苦手なことは一人ひとり大きく異なります。
発達障害とは
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、行動面や情緒面に特徴が現れる状態のことです。
知的障害が知能全体の発達の遅れであるのに対し、発達障害は能力の凸凹(でこぼこ)が特徴です。
代表的なものに、以下などがあります。
特定の分野は得意でも、ある分野は極端に苦手といったアンバランスさが見られます。
発達障害の原因
発達障害は、生まれつきの脳機能の特性が原因で起こると考えられており、親の育て方やしつけが直接の原因ではありません。
知的障害と同様に、その原因は1つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っているとされています。
ここでは、発達障害のおもな原因と考えられている要因を解説します。
- 遺伝的・染色体要因
- 周産期の環境的要因
- 出生後の後天的要因
それぞれ見ていきましょう。
①遺伝的・染色体要因
発達障害のもっとも大きな要因は、遺伝的なものであると考えられています。
これは、親から子へ必ず遺伝するという意味ではありません。
体質が似るのと同じように、脳の特性が受け継がれやすい傾向があることです。
多くの場合は、複数の遺伝子が複雑に影響し合って、発達障害の特性として現れるとされています。
特定の遺伝子だけが原因となることは稀で、まだ解明されていない部分も多く残っています。
あくまで生まれ持った脳の機能的な特性が背景にあると、理解することが大切です。
②周産期の環境的要因
発達障害の原因として、遺伝的要因だけでなく、お腹の中にいるときから生まれてすぐまでの周産期の環境も影響する可能性が指摘されています。
たとえば、妊娠中のお母さんの栄養状態やストレス、喫煙・感染症、早産や出産時のトラブルなどが、何らかの影響を与えるのではないかと考えられています。
ただし、これらが直接的な原因となるわけではありません。
もともと持っている遺伝的な要因と組み合わさることで、発達障害の特性が現れやすくなる場合があると理解されています。
③出生後の後天的要因
発達障害は生まれつきの脳機能の障害であるため、出生後に発症することはありません。
しかし、乳幼児期の脳外傷や脳卒中、あるいは成人後の認知症などによって、発達障害とよく似た症状が現れることがあります。
たとえば、注意力が散漫になったり、感情のコントロールが難しくなったりする様子は、ADHDの特性と見分けがつきにくい場合があります。
これらの症状は、あくまで別の原因によるものであるため、正確な診断を受けることが肝心です。
発達障害の程度
発達障害には、知的障害のようなIQに基づく明確な重症度分類はありません。
障害の程度は、特性の強さや、それによって日常生活や社会生活でどのくらいの困難が生じているかによって判断されるからです。
たとえば、自閉スペクトラム症では、支援がどのくらい必要かに応じてレベル1~3で示されることがあります。
また、発達障害のある人が受けられる公的な支援として「精神障害者保健福祉手帳」があり、これは障害の程度によって1級から3級に区分されています。
あくまで生活上の支障の大きさが、判断基準です。
ダウン症と知的障害の関係
ダウン症の人のほとんどは、知的障害を伴います。
これは、21番染色体が1本多いことで、脳の発達、とくに神経細胞のつながり方に影響が出るためです。
知的障害の程度は軽度から中等度であることが多く、IQの目安としては35〜70の範囲に収まることが多いですが、個人差が大きいのが特徴です。
言語の理解はできても、言葉を話すのが苦手な傾向が見られます。
しかし、早期からの療育や個々の特性に合わせた教育を受けることで、多くの人が読み書きや計算を学び、社会の一員として豊かな生活を送ることが可能です。
知的障害と発達障害の違い
知的障害と発達障害は混同されがちですが、その本質は異なります。
もっとも大きな違いは、知的障害が「知能全体の発達の遅れ」であるのに対し、発達障害は「能力のアンバランスさ(凸凹)」が特徴である点です。
知的障害はIQがおおむね70未満で、年齢相応の日常生活スキル全般に支援が必要な状態です。
一方、発達障害はIQが平均範囲内、あるいはそれ以上の場合も多く、特定の分野に著しい困難さを示します。
ただし、発達障害のある人が知的障害を併せ持つこともあり、その境界は明確に分けられない場合もあります。
知的障害と発達障害は妊娠中にわかる?
知的障害と発達障害では、出生前にわかること、わからないことがあります。
ここでは、それぞれのケースについて解説します。
- 知的障害の場合
- 発達障害の場合
この2つの障害について、出生前診断で何がどこまでわかるのかを見ていきましょう。
知的障害の場合
知的障害の原因となる疾患の一部は、出生前診断で調べることが可能です。
たとえば、ダウン症候群などの染色体異常が原因である場合、NIPT(新型出生前診断)や羊水検査でその可能性がわかります。
NIPTは、お母さんの血液を採取するだけで行えるリスクの低い検査です。
ただし、これらの検査でわかるのはあくまで一部の原因だけであり、すべての知的障害が妊娠中にわかるわけではありません。
周産期のトラブルや出生後の病気などが原因の場合は、出生前に予測することは困難です。
発達障害の場合
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害は、現在のところ妊娠中に診断できません。
発達障害は脳機能の偏りによるものですが、それを出生前に特定する検査方法は確立されていないためです。
診断は、生まれてからある程度成長し、行動やコミュニケーションの特徴がはっきりしてくる乳幼児期以降になります。
専門の医師がお子さんの様子を観察したり、保護者の方から詳しい話を聞いたりして総合的に行われます。
そのため、妊娠中に発達障害の有無を知ることはできないのが現状です。
妊娠・出産に際して障害の不安がある場合は
妊娠中、お腹の赤ちゃんに障害があるかもしれないという不安は、誰にでも起こりうる自然な感情です。
その不安を1人で抱え込まず、適切な行動をとることが大切です。
ここでは、不安を感じたときにできることとして、以下3つを紹介します。
- 出生前診断を受ける
- 周囲に相談する
- 出産後のことをきちんと考える
これらの選択肢について、1つずつ考えてみましょう。
出生前診断を受ける
赤ちゃんの状態について医学的な情報を得たいと考える場合、出生前診断を受けるという選択肢があります。
NIPT(新型出生前診断)や羊水検査など、さまざまな種類があり、それぞれ検査できる内容や時期、リスクが異なります。
検査を受けるかどうかは、ご夫婦の考え方や価値観が大きく影響するものです。
まずはどのような検査があるのか情報を集め、遺伝カウンセリングなどで専門家から詳しい説明を聞いたうえで、納得して決断することが賢明です。
周囲に相談する
障害に対する不安や悩みは、1人で抱え込まずに信頼できる人に打ち明けることが大切です。
まずはパートナーと話し合い、気持ちを共有しましょう。
また、ご両親や親しい友人に話すことで、気持ちが楽になることもあります。
専門的なアドバイスが必要な場合は、かかりつけの産婦人科医や助産師、地域の保健センターの保健師などに相談するのもよいでしょう。
専門のカウンセラーや支援団体など、客観的な立場で話を聞いてくれる窓口もあります。
出産後のことをきちんと考える
もし赤ちゃんに障害があることがわかった場合、あるいはその可能性がある場合に備えて、出産後の生活を具体的に考えておくことも不安の解消につながります。
どのような公的支援や福祉サービスが利用できるのか、療育(発達支援)はどこで受けられるのかなど、お住まいの地域の情報を集めてみましょう。
実際に障害のあるお子さんを育てている方の、ブログや書籍を読んでみるのも参考になります。
具体的な情報を得ることで、漠然とした不安が和らぎ、前向きな気持ちで出産に臨めるようになるかもしれません。
知的障害を持つ子どもを育てていくうえでの心構え
知的障害のあるお子さんを育てることは、ときに戸惑うこともあるでしょう。
しかし、いくつかの心構えを持つことで、お子さんの成長をより豊かにサポートできます。
ここでは、お子さんと向き合ううえで大切にしたい5つのポイントを紹介します。
- 子どもの気持ちや考えを尊重する
- コミュニケーションを工夫する
- 成功体験を積ませる
- 自信を持たせる
- 療育機関を利用する
これらの心構えは、お子さんとの信頼関係を築くための土台となります。
子どもの気持ちや考えを尊重する
知的障害のあるお子さんは、自分の気持ちを言葉でうまく表現するのが苦手なことがあります。
しかし、言葉にならないサインや行動の中に、その子なりの思いが隠されています。
まずは「この子は何を伝えたいのだろう」と、お子さんの視点に立って気持ちを汲み取ろうとする姿勢が大切です。
お子さんの意思や選択を尊重し、1人の人間として向き合うことで、自己肯定感が育まれ、のびのびと成長していくことにつながります。
コミュニケーションを工夫する
お子さんとコミュニケーションをとる際は、少しの工夫で伝わりやすさが大きく変わります。
たとえば、抽象的な言葉ではなく、具体的で短い言葉を選んで話しかけてみましょう。
「あれを片付けて」ではなく、「赤いブロックを箱に入れてね」のように伝えます。
言葉だけでなく、絵や写真などの視覚的な情報を一緒に使うことも有効です。
お子さんが理解しやすい方法を見つけ、焦らずに何度も繰り返し伝えることが、円滑なコミュニケーションの秘訣です。
成功体験を積ませる
知的障害のあるお子さんにとって、「できた!」という成功体験を積み重ねることは、自信と意欲を育むうえで重要です。
最初から難しい課題を与えるのではなく、少し頑張れば達成できるような小さな目標を設定してあげましょう。
たとえば、着替えであれば「ズボンに片足を通す」というように、1つの動作を細かく分解し、1つできたら多く褒めてあげます。
スモールステップで課題をクリアしていく経験が、次の挑戦へのエネルギーになります。
自身を持たせる
お子さんの自信を育むためには、結果だけでなく、頑張った過程を具体的に褒めることが大切です。
「上手にできたね」だけでなく、「最後まで諦めずに頑張ったね」といった言葉が、お子さんの自己肯定感を高めます。
お子さんが自分でできることや得意なことを見つけ、それを存分に発揮する機会を作ってあげることも有効です。
周囲から認められる経験は、お子さんにとって大きな喜びとなり、自分自身を肯定的に捉える力につながります。
療育機関を利用する
子育ての悩みや不安を、ご家族だけで抱え込む必要はありません。
知的障害のあるお子さんを支援するための専門機関である「療育機関」を積極的に利用しましょう。
地域の児童発達支援センターなどでは、専門のスタッフがお子さん一人ひとりの発達段階や特性に合わせたプログラムを提供してくれます。
また、同じような悩みを持つ保護者と交流する機会も得られます。
専門家や仲間とつながることで、保護者自身の心の負担が軽くなり、より前向きにお子さんと向き合えるはずです。
まとめ
高齢での妊娠や出産には、さまざまな不安がつきものです。
しかし、事前にリスクや備えについて正しく知ることで、安心して新しい命を迎える準備ができます。
お腹の赤ちゃんの健康状態について、より詳しく知りたいと考える方にとって、NIPTは有力な選択肢の1つとなるでしょう。
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