医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 54という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。
まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していないような難病の診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は世界的に見ても報告数がまだ少なく、希少疾患の一つに数えられるため、日本語で書かれた詳しい情報はインターネット上でもほとんど見当たりません。医師であっても、てんかんや遺伝の専門家でなければ詳しく知らないことも珍しくない、比較的新しい疾患概念です。
この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症54型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE54(ディー・イー・イー・ゴジュウヨン)と呼ばれることが一般的です。
また、原因となる遺伝子の名前をとってHNRNPU関連神経発達障害やHNRNPU関連てんかんと呼ばれることも増えています。
この病気は、乳児期にてんかん発作が始まり、それとともに全体的な発達の遅れや、体の柔らかさ(筋緊張低下)が見られるという特徴があります。その原因として、HNRNPUという特定の遺伝子に変化が起きていることが分かっています。
脳症という言葉や54型という数字に圧倒されてしまうかもしれませんが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。
また、原因が遺伝子にあることが分かったということは、これから起こりうることへの対策が立てやすくなり、お子さんに合った療育やケアのプランを考えるための地図を手に入れたということでもあります。
概要:どのような病気か
発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)は、生まれつきの遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きや脳の構造に影響が出る疾患です。
まず、この発達性およびてんかん性脳症という病名グループの意味を理解することが大切です。
発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。つまり、てんかん発作があるから発達が遅れるだけでなく、発作がなくても発達に課題が生じる体質であることを示しています。
てんかん性とは、頻繁なてんかん発作や、脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる悪影響を与えている状態を指します。
脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。
つまり、DEE54は遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担の二つの要素が合わさって、発達や神経の症状が現れる病気です。
この54型は、HNRNPU(エイチ・エヌ・アール・エヌ・ピー・ユー)という遺伝子の変異によって引き起こされることが2017年頃の研究で明らかになりました。以前は原因不明の発達遅滞やてんかんとされていたお子さんの中に、この遺伝子変異を持つ方が一定数いることがわかってきています。
この遺伝子は、てんかんだけでなく、脳の形(脳梁など)を作る上でも重要な役割を果たしているため、MRI検査などで脳の構造的な特徴が見つかることもあります。
主な症状
DEE54の症状は、てんかん発作、発達の遅れ、そして身体的な特徴の三つに大きく分けられます。お子さんによって症状の重さや出方は異なりますが、これまでに報告されている代表的な特徴について詳しく見ていきましょう。
1. てんかん発作
多くの患者さんにおいて、生後数ヶ月から3歳頃までの乳幼児期にてんかん発作が始まります。ただし、中にはてんかん発作を起こさない患者さんも報告されており、症状の幅は広いです。
発作のタイプ
発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。
全般強直間代発作:全身が硬直したあとにガクガクと震える大きな発作です。
欠神発作:意識が数秒間途切れ、動作が止まる発作です。
焦点発作:体の一部が動いたり、視線が偏ったりする発作です。
てんかん性スパズム:両手を広げてお辞儀をするような動作を繰り返す発作が見られることもあります。
発熱時のみに発作が起きる熱性けいれんを繰り返すケースもあります。
難治性
DEE54のてんかん発作は、一般的な抗てんかん薬が効きにくい難治性であることが多いです。複数の薬を組み合わせても発作を完全に止めることが難しい場合があり、発作の回数を減らし、生活に支障が出ないようにコントロールしていくことが目標になります。
2. 発達と神経の症状
発作と並んで、あるいは発作が始まる前から、発達のゆっくりさが目立つようになります。
重度の発達遅滞
首がすわる、目でものを追う、お座りをする、ハイハイをするといった運動面の発達と、あやすと笑う、言葉を理解するといった精神面の発達の両方が、一般的なペースよりもかなりゆっくりになります。
多くの場合、中等度から重度の知的障害を伴います。言葉によるコミュニケーションが難しい場合もありますが、ジェスチャーや表情で感情を伝えたり、こちらの言っていることを理解していたりするお子さんもいます。歩行に関しては、遅れながらも数歳で歩けるようになるお子さんもいれば、車椅子などのサポートが必要なお子さんもいます。
筋緊張低下
赤ちゃんの頃に、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が見られることが非常に多いです。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。これにより、運動発達がさらにゆっくりになる傾向があります。
行動面の特徴
自閉スペクトラム症(ASD)のような行動特徴が見られることがあります。
視線を合わせにくい、同じ動作を繰り返す(常同行動)、こだわりが強いといった特徴です。
また、人懐っこく明るい性格である一方で、多動や衝動性が見られることもあります。
睡眠障害(寝付きが悪い、夜中に何度も起きる)に悩まされるご家族も少なくありません。
3. 身体的な特徴
DEE54のお子さんには、神経以外の身体的な課題も見られることがあります。
脳の構造異常
MRI検査をすると、右脳と左脳をつなぐ神経の束である脳梁(のうりょう)が薄かったり、一部欠けていたりする脳梁欠損・低形成が見られることがよくあります。これはHNRNPU遺伝子変異の重要な特徴の一つです。また、小脳の形に特徴がある場合もあります。
小頭症
生まれた時の頭の大きさは正常範囲内でも、成長とともに頭囲(頭の大きさ)の増え方が緩やかになり、相対的に頭が小さくなる小頭症が見られることがあります。
顔つきの特徴
DEE54に特有の顔つきとして、眉毛がアーチ状に上がっている、目が大きい、上の唇が薄い、歯並びに特徴があるなどが報告されています。しかし、これらは非常にマイルドなものであり、パッと見ただけでは分からないことも多く、ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。
その他の症状
おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害や、心臓の構造的な問題(心室中隔欠損など)、腎臓の問題などが見られることもあります。
原因
なぜ、てんかんが起きたり発達が遅れたりするのでしょうか。その原因は、細胞の中にある遺伝子の編集長の不在にあります。
HNRNPU遺伝子の役割
DEE54の原因は、第1番染色体にあるHNRNPU(エイチ・エヌ・アール・エヌ・ピー・ユー)という遺伝子の変異です。
この遺伝子は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質Uというタンパク質を作るための設計図です。
少し難しい名前ですが、このタンパク質は細胞の中で非常に重要な編集長のような役割を果たしています。
私たちの体を作る遺伝子情報は、DNAからRNAというコピーに写し取られ、そこからタンパク質が作られます。このRNAができる過程で、不要な部分を切り取ったり、つなぎ合わせたりするスプライシングという編集作業が必要です。
HNRNPUタンパク質は、この編集作業に関わったり、染色体の構造を維持したりすることで、他のたくさんの遺伝子が正しく働くように調整しています。
特に、脳が発達する時期に、多くの遺伝子のスイッチを適切にコントロールするために不可欠な存在です。
遺伝子の変化による影響
HNRNPU遺伝子に変異が起きると、この編集長タンパク質がうまく作られなかったり、量が足りなくなったりします。これをハプロ不全といいます。
通常、遺伝子は両親から一つずつ受け継いで2つ持っていますが、片方がダメになってしまい、残りの一つだけでは仕事量が追いつかない状態です。
編集長が不在あるいは過労状態になると、脳の発達に必要な他の遺伝子の情報が正しく処理されなくなります。
その結果、脳の構造(脳梁など)がうまく作られなかったり、神経細胞の働きがおかしくなっててんかん発作が起きたり、発達全体に遅れが生じたりすると考えられています。
遺伝について
多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。
しかし、DEE54のほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。
これは、ご両親の遺伝子には全く異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精した直後の細胞分裂の段階で、偶然にHNRNPU遺伝子に変化が起きたことを意味します。
つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。また、妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してありません。誰にでも起こりうる、生命の誕生における偶然の現象なのです。
診断と検査
診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行われます。
1. 画像検査(MRI)
脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。
DEE54では、脳梁の異常(薄い、短いなど)が見つかることが多いため、診断の重要な手がかりになります。また、脳全体の発達具合や、髄鞘化(神経の伝達速度を上げるための被覆)の遅れがないかを確認します。
2. 脳波検査
てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために不可欠な検査です。
DEE54のお子さんの脳波では、てんかん性の突発波(スパイク)が見られるほか、脳全体の電気活動がゆっくりになっている徐波化が見られることがあります。発作のタイプを特定し、薬を選ぶためにも定期的に行われます。
3. 遺伝学的検査
確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。
近年急速に普及してきた次世代シーケンサーという技術を用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。
これは、遺伝子のうちタンパク質を作る重要な部分を網羅的にすべて解読する検査です。DEE54は症状だけでは他の発達障害やてんかん症候群と区別がつかないことが多いため、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてHNRNPU遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。
治療と管理
現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。
しかし、それぞれの症状に対して適切な治療(対症療法)とサポート(療育)を行うことで、お子さんの苦痛を和らげ、持っている力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を高めることは十分に可能です。

1. てんかんの治療
てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。
HNRNPU変異に対する特効薬というものはまだありませんが、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。
バルプロ酸、レベチラセタム、クロバザム、トピラマート、ラモトリギンなどが使われることが多いです。
一つのお薬で止まらない場合は、複数を組み合わせたり、難治性の場合はケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を極端に少なくした食事療法)が検討されたりすることもあります。
2. 発達支援と療育(リハビリテーション)
早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定にとって非常に重要です。
理学療法(PT)
体の柔らかさ(筋緊張低下)に対して、姿勢を保つための練習や、筋肉をつける運動、関節が硬くならないようなストレッチを行います。歩行が難しい場合は、座位保持装置(座るための椅子)や車椅子、バギー、足底板(インソール)など、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。
作業療法(OT)
手先の感覚を養ったり、遊びを通じて外界への興味を引き出したりします。また、食事や着替えの介助方法など、日常生活をスムーズにするための工夫を学びます。感覚過敏がある場合は、その調整も行います。
言語聴覚療法(ST)
言葉の理解を促すだけでなく、コミュニケーションの方法(絵カード、ジェスチャー、スイッチなど)を探ります。また、食べる機能(摂食嚥下)の訓練も行います。飲み込みが難しい場合は、食事の形態(とろみの調整など)や介助の姿勢について指導を受けます。
3. 栄養と生活面の管理
摂食・嚥下管理
飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、お腹に小さな穴を開けて直接胃に栄養を入れる胃ろうを作ったりして、十分な栄養を確保します。これはお子さんの成長を促し、体力をつけるためにとても大切です。
睡眠の管理
睡眠障害がある場合は、生活リズムを整える工夫(朝に日光を浴びるなど)に加え、必要に応じてメラトニンなどの睡眠導入剤を使用することもあります。良質な睡眠は、てんかん発作の予防にもつながります。
心臓や腎臓のケア
合併症がある場合は、定期的な超音波検査などを行い、専門医による管理を受けます。
まとめ
発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)についての重要なポイントを振り返ります。
病気の本質
HNRNPU遺伝子の変異により、遺伝子の編集作業がうまくいかず、脳の構造形成(脳梁など)や神経の働きに影響が出る先天性の疾患です。
主な特徴
乳幼児期のてんかん、重度の発達遅滞、著しい筋緊張低下、脳梁の形成異常などが特徴です。
てんかん
難治性であることが多いですが、様々なお薬の調整でコントロールを目指します。
原因
多くは突然変異によるもので、親のせいではありません。
ケアの要点
発作のコントロールだけでなく、リハビリ、栄養管理、睡眠管理など、全身をトータルでケアすることが大切です。
