発達性およびてんかん性脳症54型(Developmental and epileptic encephalopathy 54)

赤ちゃん

この記事のまとめ

発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)は、第1番染色体長腕の末端(1q44)にあるHNRNPU遺伝子の変化によって、乳児期からのてんかん発作と発達の遅れが生じる、世界での報告例が100例に満たないごく希少な疾患です。HNRNPU遺伝子はRNAの編集や染色体構造の維持に関わる遺伝子で、同じ発達性およびてんかん性脳症でも原因遺伝子がSMC1AやGRIN2Bである他の型とは、遺伝子の働きも症状の出方も異なります。ほとんどが新生突然変異(de novo)によるもので、ご両親の妊娠中の行動が原因になることはありません。本記事は、GeneReviews・PubMed収載の学術論文など国内外の一次情報にもとづき、症状・原因・NIPTとの関係・診断・治療・ご家族へのサポートを解説します。

目次

この記事でわかること

  • DEE54(HNRNPU関連神経発達症)の長い診断名の意味と全体像
  • てんかん発作・発達の遅れ・身体的特徴など、報告されている症状と頻度
  • HNRNPU遺伝子の働きと、遺伝の仕組み(常染色体顕性・新生突然変異)
  • 妊娠中のNIPT(新型出生前診断)でDEE54がわかるのか、確定診断の方法
  • 原因遺伝子が異なる他の発達性およびてんかん性脳症(DEE85・DEE27・DEE17・DEE4)との違い
  • 治療・療育の選択肢と、ご家族が利用できる支援制度

医師からDevelopmental and epileptic encephalopathy 54という非常に長く、聞き慣れない診断名を告げられ、情報を求めてこのページにたどり着いたご家族の皆様へ。

まだ小さなお子様に、日本語の定まった呼び方もまだ浸透していない診断が下り、計り知れないショックと不安の中にいらっしゃることと思います。この病気は世界的に見ても報告数が少なく、希少疾患の一つです。日本語で書かれた詳しい情報は、インターネット上でもほとんど見当たりません。私自身、外来でこうした診断名を告げられたご家族から「調べても何も出てこない」というお声を伺うことが少なくありません。

この長い診断名を日本語に訳すと、発達性およびてんかん性脳症54型となります。医療現場では、頭文字をとってDEE54(ディー・イー・イー・ゴジュウヨン)と呼ばれることが一般的です。原因となる遺伝子の名前をとって、HNRNPU関連神経発達症と呼ばれることも増えています。

この病気は、乳児期にてんかん発作が始まり、それとともに発達の遅れや、体の柔らかさ(筋緊張低下)が見られるという特徴があります。原因は、HNRNPUという特定の遺伝子の変化です。

脳症という言葉や54型という数字に圧倒されてしまうかもしれません。ですが、この数字は発見された順番や遺伝子の種類を区別するための番号であり、重症度を表す数字ではありません。原因が遺伝子にあると分かったことは、お子さんに合った療育やケアのプランを考える地図を手に入れたということでもあります。

1. 概要:DEE54とはどのような病気か

発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)は、生まれつきのHNRNPU遺伝子の変化によって、脳の神経細胞の働きに影響が出る疾患です。まず、この長い病名の意味を整理しましょう。

発達性・てんかん性・脳症、それぞれの意味

発達性とは、生まれ持った遺伝子の変化そのものが、脳の発達や成長に影響を与えていることを意味します。てんかん発作がなくても発達に課題が生じる体質である、という点がポイントです。

てんかん性とは、頻繁な発作や脳波の激しい乱れが、脳の機能や発達にさらなる影響を与えている状態を指します。脳症とは、脳全体の働きに広範な影響が出ている状態を指す医学用語です。つまりDEE54は、遺伝子の影響による発達の遅れと、てんかん発作による脳への負担が合わさって症状が現れる病気といえます。

この54型は、HNRNPU(エイチ・エヌ・アール・エヌ・ピー・ユー)という遺伝子の変異によって引き起こされることが、2010年代の一連の研究で明らかになりました。以前は原因不明の発達遅滞やてんかんとされていたお子さんの中に、この遺伝子変異を持つ方が一定数いることが分かってきています。

同じ発達性およびてんかん性脳症でも、原因遺伝子で症状の出方が異なります

ヒロクリニックNIPTでは、発達性およびてんかん性脳症の他の型についても別記事で解説しています。番号が近い、あるいは似た名前だからといって、症状や経過が同じとは限りません。原因遺伝子ごとに、細胞の中での役割がまったく異なるためです。

原因遺伝子遺伝子の主な働き症状の傾向
DEE54(本記事)HNRNPURNAスプライシングの調整・染色体構造の維持乳児期発症のてんかん、中等度〜重度の知的障害、脳梁の菲薄化を伴うことがある
DEE85SMC1A(X染色体)コヒーシン複合体(染色体分配・転写調節)全前脳胞症など正中線の形成異常を伴うことがあるが必発ではない
DEE27GRIN2BNMDA型グルタミン酸受容体(興奮性シナプス伝達)てんかんに加え、筋緊張の異常が目立ちやすい
DEE17GNAO1Gタンパク質(神経内のシグナル伝達)てんかんに加え、突然の異常運動(ジスキネジア)を伴いやすい
DEE4STXBP1シナプス小胞の放出制御(神経伝達物質の放出)早期からの多彩な発作型、ウエスト症候群への移行が知られる

このように、同じ「発達性およびてんかん性脳症」という病名グループでも、遺伝子ごとに細胞内での役割が違うため、経過や合併症の出方に違いが生まれます。お子さんの診断書に記載された遺伝子名を確認し、該当する記事もあわせてご覧ください。

この遺伝子は、脳の形を作る上でも役割を果たしており、MRI検査で脳の構造的な特徴が見つかることもあります。次の章から、症状を一つずつ詳しく見ていきましょう。

2. 主な症状

DEE54の症状は、発達の遅れ・てんかん発作・その他の身体的な特徴の三つに大きく分けられます。症状の重さや出方はお子さんによって幅がありますが、学術文献にまとめられた頻度は次の通りです。

特徴報告されている頻度備考
発達の遅れ100%報告された全例に見られる中核症状
特徴的な顔つき97%非常にマイルドなものが多い
てんかん発作95%約90%が生後24か月未満で初発。全般強直間代発作が約60%、欠神発作が約44%
知的障害84%中等度〜重度が多い
言葉の遅れ80%発語が乏しい、または見られないことが多い
筋緊張低下79%先天性のものは半数弱
哺乳・摂食の困難57%経管栄養や胃ろうが必要になることがある
行動面の特徴50%うち約3割は自閉スペクトラム症の診断基準を満たす
眼の異常(斜視など)36%斜視が最も多い
心臓の構造異常30%心房中隔欠損・心室中隔欠損が多い
低身長約50%原因はまだ研究段階
腎臓の異常約8%腎低形成・腎盂拡張などが報告されている

この表の数字は、GeneReviewsに集積された報告例にもとづく参考値。世界での報告例がまだ100例に満たないため、今後の研究で数字が変わる可能性がある点にご留意ください。

1. てんかん発作

多くの患者さんで、生後24か月未満の乳幼児期にてんかん発作が始まります。発作がない患者さんも報告されており、症状の幅は広い病気です。

発作のタイプ

発作の形は様々ですが、以下のようなタイプが報告されています。

全般強直間代発作:全身が硬直したあとにガクガクと震える、約60%に見られる代表的な発作型。

欠神発作:意識が数秒間途切れ、動作が止まる、約44%に報告される発作型。

まれな発作型として、ウエスト症候群(点頭てんかん)、レノックス・ガストー症候群、ドゥーゼ症候群への進展も、それぞれ数例ずつ報告されています。

治療への反応

多くのお子さんで、標準的な抗てんかん薬に発作が反応します。ただし、複数の薬を組み合わせたり、ケトン食療法(脂肪分を多くした食事療法)を検討したりする例もあります。

2. 発達と神経の症状

発作と並んで、発達のゆっくりさが目立つようになります。

発達の遅れと知的障害

首がすわる、お座りをする、ハイハイをするといった運動面の発達が、一般的なペースよりゆっくりになります。言葉によるコミュニケーションが難しく、発語が乏しいか見られないお子さんが大半です。多くのお子さんが特別支援教育を必要としますが、支援体制のもとで通常級に通うお子さんも報告されています。成人した後も、一定の支援を受けながら生活する方がほとんどです。

筋緊張低下

赤ちゃんの頃、体がふにゃふにゃとして柔らかい筋緊張低下が高い頻度で見られます。抱っこした時にずっしりと重く感じたり、関節が柔らかすぎたりします。年齢を重ねると、一部のお子さんでは逆に体が硬くなる痙縮に移行することもあります。

行動面の特徴

半数程度のお子さんで、コミュニケーションや社会性の面での困難が報告されています。そのうち約3割は自閉スペクトラム症の診断基準を満たし、それ以外のお子さんにも自閉的な特徴が見られることがあります。一方で、人懐っこく穏やかな性格のお子さんも多いと報告されています。睡眠障害(寝付きが悪い、夜中に何度も起きる、睡眠時無呼吸)に悩まされるご家族も少なくありません。

3. 身体的な特徴

DEE54のお子さんには、神経以外の身体的な課題も見られることがあります。

脳の構造の特徴

MRI検査を行った報告例のうち、約6割に何らかの所見が見つかっています。最も多いのは脳室(脳の中の空間)がやや広がる脳室拡大で、次いで右脳と左脳をつなぐ脳梁(のうりょう)が薄い脳梁菲薄化です。ただし、MRIで明らかな異常が見つからないお子さんも一定数いるため、正常な画像所見であってもこの病気が否定されるわけではありません。

顔つきの特徴

額が前に張り出している、眉毛が細くアーチ状に上がっている、上まぶたや下まぶたの形に特徴がある、上唇が薄い、歯の間隔が広いなどが報告されています。ただし、これらはDEE54に特有のものではなく、非常にマイルドで、ご両親に似た可愛らしいお顔をしているお子さんがほとんどです。

その他の身体症状

おっぱいやミルクを飲む力が弱い哺乳障害(約57%)、心臓の構造的な問題(約30%)、腎臓の問題(約8%)、男児での停留精巣(約2割)などが見られることもあります。関節の柔らかさや、まれに手足の指の数・形の違いが報告された例もあります。

3. 原因:HNRNPU遺伝子の働き

DEE54の原因は、第1番染色体の長腕末端(1q44)にあるHNRNPU(エイチ・エヌ・アール・エヌ・ピー・ユー)という遺伝子の変化です。なぜ、てんかんが起きたり発達が遅れたりするのか、その仕組みを順に見ていきます。

HNRNPU遺伝子の役割

この遺伝子は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質Uというタンパク質を作るための設計図です。少し難しい名前ですが、このタンパク質は細胞の中で、DNAやRNAに結合する編集長のような役割を果たしています。

私たちの体を作る遺伝子情報は、DNAからRNAというコピーに写し取られ、そこからタンパク質が作られます。このRNAができる過程で、不要な部分を切り取ってつなぎ合わせるスプライシングという編集作業が必要です。

HNRNPUタンパク質は、この編集作業に加え、染色体の立体構造の維持、テロメアの長さの調節、細胞分裂の制御など、複数の役割を同時に担っています。脳・心臓・腎臓・肝臓・小脳など複数の臓器で働いており、なかでも小脳での発現が強いことが報告されています。

遺伝子の変化による影響

HNRNPU遺伝子に変化が起きると、この編集長タンパク質がうまく作られなかったり、量が足りなくなったりします。これをハプロ不全といいます。通常、遺伝子は両親から一つずつ受け継いで2つ持っていますが、片方がうまく働かなくなり、残りの一つだけでは仕事量が追いつかない状態です。学術研究では、この量不足こそが発症の主なメカニズムだと考えられています。

編集長が不在あるいは過労状態になると、脳の発達に必要な他の遺伝子の情報が正しく処理されず、神経細胞の働きに乱れが生じます。その結果として、てんかん発作が起きたり、発達全体に遅れが生じたりすると考えられています。

遺伝について

多くのご家族が、親から遺伝したのか、妊娠中の生活に問題があったのかとご自身を責めてしまわれます。HNRNPU関連神経発達症は、常染色体顕性遺伝という形式に分類されます。片方の遺伝子の変化だけで発症しうる、という意味です。

しかし、報告されているほとんどのケースは、新生突然変異(de novo変異)によるものです。これは、ご両親の遺伝子には異常がなく、精子や卵子が作られる過程、あるいは受精直後の細胞分裂の段階で、偶然にHNRNPU遺伝子に変化が起きたことを意味します。

つまり、ご両親のどちらかのせいで遺伝したわけではありません。妊娠中のお母さんの食事、お薬、ストレス、環境などが原因で起きるものでも決してなく、誰にでも起こりうる偶然の現象です。

ごきょうだいへの影響については、ご両親の血液検査で変異が見つからない場合でも、生殖細胞にのみ変化を持つモザイクという状態がまれにあるため、再発リスクは一般集団よりわずかに高いとされています。全体としては低い水準です。

お子さんご本人が将来お子さんを持たれる場合には、50%の確率で同じ遺伝子変化を受け継ぐ可能性があるとされていますが、これまでに生殖に至った報告例はまだありません。将来的な家族計画については、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで個別にご相談ください。

4. 妊娠中のNIPT(新型出生前診断)との関係

NIPTの基本検査でDEE54が直接わかることは、通常ありません。「妊娠中のNIPTで異常がなかったのに、なぜ生まれてから診断されたのか」と疑問を持つ方も多いため、ここで検査の対象範囲を整理します。

NIPTの基本検査は、21・18・13トリソミーなど、染色体の数の変化を調べる検査です。HNRNPU遺伝子の変化は、染色体そのものの数や大きな欠失・重複ではなく、遺伝子の中の一部分だけが変わる点変異や、小さな挿入・欠失、スプライス部位の変異が中心です。そのため、通常のNIPTの検査対象には含まれていません。

近年は、単一遺伝子疾患を対象に含む拡張型の出生前検査も登場していますが、対象となる疾患の範囲は検査会社や商品によって異なります。DEE54は世界での報告例がまだ100例に満たないごく希少な疾患概念のため、現時点で一般的な出生前スクリーニング検査の対象に含まれていることは多くありません。ご自身が検討されている検査プランの対象疾患は、検査を受ける施設に直接お問い合わせください。

確定診断は、生まれたお子さんの血液を用いた遺伝学的検査によって行われるのが一般的です。NIPTで分かる知的障害関連の確率や限界についてもあわせてご確認ください。すでにご家族にHNRNPU関連神経発達症の発症者がいる場合の次の妊娠に向けた検査の選択肢は、遺伝カウンセリングで個別にご相談いただく内容になります。

5. 診断と検査

診断は、症状の観察、脳波検査、画像検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。それぞれの検査で確認する内容を見ていきましょう。

1. 画像検査(MRI)

脳の形や構造を詳しく調べるためにMRI検査が行われます。DEE54では、脳室拡大や脳梁の菲薄化が見つかることがあり、診断の手がかりの一つになります。ただし前述の通り、画像に異常が見つからない患者さんも一定数いる点には注意が必要です。

2. 脳波検査

てんかん発作の診断や、脳の活動状態を調べるために欠かせない検査です。DEE54のお子さんの脳波では、てんかん性の突発波(スパイク)が見られるほか、脳全体の電気活動がゆっくりになる徐波化が見られることがあります。発作のタイプを特定し、薬を選ぶためにも定期的に行われます。

3. 遺伝学的検査

確定診断のためには、血液を採取してDNAを調べる検査が必要です。近年普及してきた次世代シーケンサーを用いた全エクソーム解析(WES)や、てんかん関連遺伝子パネル検査が行われることが一般的です。これは、遺伝子のうちタンパク質を作る部分を網羅的に解読する検査です。DEE54は症状だけでは他の発達性てんかん性脳症と区別がつかないことが多く、この網羅的な遺伝子検査を行って初めてHNRNPU遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースがほとんどです。まれに、遺伝子の一部が欠けている変化として見つかる例も報告されています。

6. 治療と管理

現在の医学では、遺伝子の変化そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。それぞれの症状に対する対症療法とサポート(療育)を積み重ねることで、お子さんの負担を和らげ、生活の質(QOL)を保つことは十分に可能です。

発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)のお子さんを見守るご家族のイメージ

1. てんかんの治療

てんかん発作を減らすために、抗てんかん薬による治療を行います。学術文献では、バルプロ酸が最も使用頻度の高い、効果的な薬とされています。そのほか、レベチラセタム、クロバザム、トピラマート、ラモトリギンなど、発作のタイプに合わせて様々なお薬が試されます。

一つのお薬で止まらない場合は、複数を組み合わせたり、難治性の場合はケトン食療法(脂肪分を多く、糖質を少なくした食事療法)や新しい抗てんかん薬が検討されたりすることもあります。バルプロ酸を使う場合は、肝機能や行動面の変化を定期的に確認してください。

2. 発達支援と療育(リハビリテーション)

早期からの療育が、お子さんの成長と生活の安定につながります。

理学療法(PT)

体の柔らかさ(筋緊張低下)や、成長後の体の硬さ(痙縮)に対して、姿勢を保つ練習、筋肉をつける運動、関節が硬くならないストレッチを行います。座位保持装置や車椅子、バギー、足底板(インソール)など、お子さんの体に合った福祉用具を作る際にも専門的なアドバイスを受けます。

作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)

手先の感覚を養い、遊びを通じて外界への興味を引き出します。言葉の理解を促すだけでなく、絵カード・ジェスチャー・スイッチなどコミュニケーションの方法を探ります。飲み込む力(摂食嚥下)の訓練も行い、食事の形態や介助の姿勢について指導を受けます。

3. 栄養と生活面の管理

飲み込む力が弱く、口から十分に栄養が摂れない場合は、鼻からチューブを入れたり、胃ろうを作ったりして栄養を確保します。これはお子さんの成長を促し、体力をつける土台になります。

睡眠障害がある場合は、朝に日光を浴びるなど生活リズムを整える工夫に加え、必要に応じてメラトニンなどの睡眠導入剤を使用することもあります。心臓や腎臓に合併症がある場合は、定期的な超音波検査など、専門医による管理を受けてください。

7. 発達支援とご家族へのサポート

DEE54のような希少疾患のお子さんを育てる中では、医療面のケアに加えて、ご家族の生活全体を支える制度の活用も大切な視点です。私自身、外来で難治性のてんかんを持つお子さんのご家族から、通院の負担や将来への不安についてご相談を受けることが少なくありません。

希少疾患の患者さんとご家族向けの情報や相談窓口としては、難病情報センターが疾患情報や医療費助成制度をまとめています。発達の遅れやてんかんに関する療育・支援の相談先としては、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターが地域の窓口を紹介しています。障害児の通所支援や相談支援など公的な福祉サービスの枠組みは、こども家庭庁が施策として整理しています。

きょうだいがいるご家庭では、きょうだい児のケアも見過ごせないテーマです。遺伝カウンセリングの現場では、「なぜ自分の子どもに」という問いを数多くお聞きします。ほとんどが新生突然変異という遺伝学的な特徴が背景にあるとお伝えすると、少し安心される方が多いというのが実感です。過度な期待を持ちすぎず、専門職と一緒に「今できること」を積み重ねていく姿勢が、長く付き合っていくうえでの支えになると感じています。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してください。

8. まとめ

発達性およびてんかん性脳症54型(DEE54)についての重要なポイントを振り返ります。

病気の本質

HNRNPU遺伝子の変化により、RNAの編集や染色体構造の維持がうまくいかず、神経の働きや脳の一部構造に影響が出る先天性の疾患です。

主な特徴

乳幼児期のてんかん、発達の遅れ、著しい筋緊張低下、脳室拡大や脳梁の菲薄化などが特徴です。ただし脳画像は正常なお子さんも一定数います。

てんかんと原因遺伝子

バルプロ酸を中心とした薬の調整でコントロールを目指します。原因はHNRNPU遺伝子で、SMC1AやGRIN2Bなど他の型とは細胞内での役割が異なります。

原因とNIPTとの関係

多くは新生突然変異によるもので、親のせいではありません。染色体の数の変化を調べる通常のNIPTでは、検出対象になりません。

ケアの要点

発作のコントロールだけでなく、リハビリ、栄養管理、睡眠管理など全身をトータルでケアする視点が欠かせません。あわせて、ご家族向けの相談窓口や支援制度も活用してください。

今回、DEE54について国内での実体験に基づく投稿をX(旧Twitter)で探しましたが、直近の投稿では見当たりませんでした。世界での報告例がまだ100例に満たないごく希少な疾患であるため、一次情報が乏しいのは自然なことです。本記事では代わりに、GeneReviewsに掲載された国際的な症例集積論文や、PubMed収載の学術論文など、国内外の学術・公的情報を根拠としています。

お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

DEE54とはどのような病気ですか。

正式には「発達性およびてんかん性脳症54型」といい、第1番染色体長腕末端(1q44)にあるHNRNPU遺伝子の変化によって、乳児期からのてんかん発作と発達の遅れが生じる希少疾患です。脳室拡大や脳梁の菲薄化を伴うことがありますが、必発ではありません。

どのくらいの頻度で見られますか。

人口内での発生頻度はまだ算出されていません。GeneReviewsに集積された学術報告では、これまでに83例が確認されています。遺伝子解析技術の普及とともに報告が増えてきた、比較的新しい疾患概念のため、今後さらに症例が明らかになっていくと考えられます。

てんかん発作にはどのような治療がありますか。

バルプロ酸を中心とした抗てんかん薬による治療が基本です。発作のタイプに応じて複数の薬を組み合わせることもあり、難治性の場合はケトン食療法が検討されることもあります。

脳梁の異常は必ず見られますか。

必発ではありません。MRI検査を行った報告例の約6割に何らかの所見があり、そのうち最も多いのは脳室拡大で、脳梁の菲薄化はそれに次ぐ頻度です。画像に異常がなくても、この病気が否定されるわけではありません。

親から遺伝しますか。次の子どもにも影響しますか。

報告されている症例のほとんどは、お子さんの代で初めて生じた新生突然変異(de novo変異)です。ご両親から遺伝したものではなく、妊娠中の生活習慣が原因になることもありません。きょうだいへの再発リスクはまれな生殖細胞モザイクの可能性からごく一般よりわずかに高いとされますが、全体としては低い水準です。次のお子さんへの影響については、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで個別にご確認ください。

妊娠中のNIPTでこの病気はわかりますか。

21・18・13トリソミーなど、染色体の数の変化を調べる通常のNIPTでは検出対象になりません。DEE54の原因は染色体の数の変化ではなく、HNRNPU遺伝子内の点変異などが中心のためです。確定診断は、出生後の遺伝学的検査(全エクソーム解析など)によって行われるのが一般的です。

他の発達性およびてんかん性脳症とはどう違いますか。

同じ「発達性およびてんかん性脳症」という病名グループでも、原因遺伝子が異なれば細胞内での役割も異なります。DEE54はRNAスプライシングや染色体構造に関わるHNRNPUが原因ですが、DEE85はコヒーシン複合体のSMC1A、DEE27はNMDA受容体のGRIN2B、DEE17はGタンパク質のGNAO1が原因です。診断書に記載された遺伝子名を確認し、該当する記事もご参照ください。

監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・学会・学術論文の情報を参照して作成しています。記載の数値は限られた報告例に基づくものであり、症例数が少ないため今後の知見により変わる可能性があります。診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。

参考情報:HNRNPU-Related Neurodevelopmental Disorder|GeneReviews(NCBI Bookshelf・米国国立医学図書館)Clinical and molecular characterization of de novo loss of function variants in HNRNPU|American Journal of Medical Genetics Part A(PubMed・米国国立医学図書館)難病情報センター発達障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター)障害児支援施策|こども家庭庁

医師監修 監修日:2026年1月16日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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