アルポート症候群

COL4A5|Alport Syndrome, X-Linked

健診で「アルポート症候群」という診断名を告げられたり、ご親戚の診断をきっかけにご自身やお子さまのことが心配になっていらっしゃるかもしれません。

結論からお伝えします。アルポート症候群は、腎臓の糸球体基底膜をつくるコラーゲンIVの遺伝子変異が原因で起こる指定難病218で、国内の患者数は約1,200人と報告されています。約9割はCOL4A5遺伝子の変異によるX連鎖性アルポート症候群(XLAS)で、無症候性の血尿から始まり、進行すると末期腎不全にいたることがあります。ただし経過は遺伝形式や性別によって大きく異なり、一律に悲観する病気ではありません。

この記事では、原因遺伝子と3つの遺伝形式、年代別に現れやすい症状、診断が確定するまでの流れ、治療の選択肢、そして気になるNIPT(新型出生前診断)との関係までを、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター・学術論文などの公的情報にもとづいて整理します。当事者・ご家族の会の発信も交えながら、一つずつ確認していきましょう。

💡 この記事でわかること

  • アルポート症候群の原因遺伝子と3つの遺伝形式の違い
  • 年代別に現れやすい症状のサインと見つかり方
  • 診断を確定するための検査の流れ
  • 治療の選択肢と腎移植後の見通し
  • 次のお子さまへの遺伝の考え方とNIPTでわかること・わからないこと
  • 患者会など当事者・ご家族とつながる方法

アルポート症候群とは|コラーゲンIVの遺伝子変異が原因の指定難病

アルポート症候群は、腎臓の糸球体基底膜(GBM)や内耳、眼のコラーゲンIVネットワークをつくる遺伝子の変異によって起こる進行性の遺伝性腎疾患です。厚生労働省の指定難病218に指定されており、難病情報センターによると国内の患者数は約1,200人と報告されています。

原因となるのはCOL4A5・COL4A3・COL4A4という3つの遺伝子で、このうち約9割はCOL4A5遺伝子の変異によるX連鎖性アルポート症候群(XLAS)です。小児慢性特定疾病情報センターは有病率を約5,000人に1人としており、遺伝性腎疾患のなかでも比較的頻度の高い疾患に位置づけられます。主な症状は血尿・蛋白尿といった腎症状に加え、難聴や眼の異常を伴うことが特徴です。

3つの遺伝形式|X連鎖性・常染色体潜性・常染色体顕性の違い

アルポート症候群には、原因遺伝子と伝わり方が異なる3つの型があり、次のお子さまへの影響を考えるうえで型の見きわめが重要になります。下記の表に主な違いをまとめました。

原因遺伝子遺伝形式患者に占める割合重症化しやすい傾向
X連鎖性(XLAS)COL4A5X連鎖約9割男性で早期・重症化
常染色体潜性(AR型)COL4A3・COL4A4常染色体潜性比較的まれ男女とも重症化しやすい
常染色体顕性(AD型)COL4A3・COL4A4常染色体顕性比較的まれ血尿中心で軽症が多い

X連鎖性は、COL4A5遺伝子の変異が片方のX染色体にあることで起こります。男性はX染色体を1本しか持たないため症状が強く出やすく、女性はもう一方の正常なX染色体があるため、X染色体の不活性化のかたより次第で症状の重さに幅が出ます。常染色体潜性は両親それぞれから変異を受け継ぐ場合に発症し、常染色体顕性は片方の変異だけで発症しますが血尿にとどまることが多いとされています。

私自身、外来では次のお子さまの妊娠を考えるご家族から「同じ病気になる確率はどのくらいか」というご相談を受けることがあります。答えは遺伝形式によって大きく変わるため、まずご自身やお子さまがどの型に当てはまるのかを、遺伝子検査の結果とあわせて確認することが欠かせません。

年代別にあらわれる症状のサイン

アルポート症候群の症状は、腎・聴覚・眼の3系統にわたり、年代を追って段階的に現れることが多いのが特徴です。幼少期は自覚症状に乏しく、学校検尿がきっかけで見つかるケースも少なくありません。

10歳以下の小児期は、無症候性の顕微鏡的血尿だけが唯一のサインであることが多く、この段階での診断は容易ではありません。思春期に近づくにつれて蛋白尿が加わり、ネフローゼ症候群を呈する例も報告されています。聴覚障害は思春期ごろから高音域を中心に始まることが多く、進行すると会話音域にも影響します。眼の異常としては、水晶体の菲薄化と膨隆を伴う前部円錐水晶体が本症候群に特異的な所見です。

成人期以降は、腎機能が徐々に低下し、最終的に末期腎不全(ESKD)へと進行することがあります。ただし進行のスピードには個人差が大きく、同じ型であっても症状の組み合わせは一人ひとり異なります。

診断までの流れ|尿検査から遺伝子解析まで

診断は、尿検査・腎生検・聴力検査・眼科検査・遺伝子検査を組み合わせて総合的に確定します。単独の検査だけで診断がつくわけではありません。

まず尿検査でほぼ全例に顕微鏡的血尿が確認されます。腎生検では、電子顕微鏡による超微細構造解析で糸球体基底膜の菲薄化や層板構造の乱れ、いわゆる「網目状変化」が観察され、免疫組織化学検査ではコラーゲンIVα5鎖の染色欠損が診断の手がかりになります。聴力検査では高音域の感音性難聴が、眼科検査では前部円錐水晶体や網膜異常が確認されることがあります。

最終的な確定には遺伝子検査が欠かせません。小児慢性特定疾病情報センターによると、近年の遺伝子解析技術の進歩により、現在ではほぼ100%の患者で原因遺伝子の変異が同定できるとされています。全エクソーム解析やターゲット遺伝子パネルが用いられ、型の判定や家族内でのリスク評価に役立ちます。

治療法と日常生活の工夫|根治療法はまだ確立されていません

現時点でアルポート症候群を根本的に治す治療法はなく、腎保護療法による進行の抑制が治療の中心です。早期に治療を始めるほど、腎機能を長く保てる可能性が高まります。

中心となるのは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)といったレニン-アンジオテンシン系阻害薬です。蛋白尿を減らし、腎不全への進行を遅らせる効果が確認されています。近年ではSGLT2阻害薬が腎機能低下をさらに抑制する可能性も報告されており、選択肢が広がりつつあります。聴覚障害には補聴器での対応が必要になることがあり、定期的な尿検査・腎機能検査・血圧管理を続けることも欠かせません。

末期腎不全に至った場合は、腎移植が最も有効な治療選択肢です。小児慢性特定疾病情報センターは、若年患者における腎移植の成績を「比較的良好」と評価しています。一部の患者では移植後に抗GBM病を発症することがあるため、移植後も慎重な経過観察が必要です。遺伝子治療やスプライシング異常を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド療法など、新しい治療法の研究開発も進められています。

予後の見通し|型と性別によって大きく変わります

予後は遺伝形式・遺伝子型・治療開始の時期によって大きく異なり、一つの数字だけで語れるものではありません。下表に代表的な報告値をまとめました。

型・性別末期腎不全(ESKD)にいたる目安
XLAS男性約90%が40歳までにESKDへ進行
XLAS女性40歳までに約12%、60歳までに15〜30%程度
常染色体潜性(AR型)XLAS男性と同様に若年成人期までに進行しやすい
常染色体顕性(AD型)多くはESKDに至らず血尿にとどまる

私がこれまでの診療のなかで感じるのは、早期にRAS阻害薬による腎保護療法を始め、定期的な通院で腎機能をフォローし続けることで、進行のスピードに差が出てくるということです。数値はあくまで報告例の目安であり、担当医と相談しながら経過を見ていくことが大切です。

次のお子さまへの遺伝とNIPT・出生前診断でわかること・わからないこと

NIPTは21トリソミー・18トリソミー13トリソミーなど染色体の数の変化を調べる非確定的なスクリーニング検査で、アルポート症候群のような単一遺伝子の変異そのものを直接調べる検査ではありません。この点を誤解されている方が少なくありません。

私たちヒロクリニックNIPTにも、「血縁者にアルポート症候群の方がいるが、NIPTで調べられますか」というご相談が寄せられることがあります。まずお伝えしたいのは、標準的なNIPTの検査項目にCOL4A5などの遺伝子変異は含まれていないという点です。出生前診断でわかること・わからないことで整理しているとおり、NIPTが対象とするのは染色体の数や大きな構造の変化が中心です。

一方で、X連鎖性アルポート症候群ではNIPTでわかる胎児の性別情報が、次のお子さまへの見通しを考えるうえで参考になることがあります。母親がCOL4A5変異の保因者である場合、男児は発症・重症化しやすく、女児は保因者にとどまることが多いためです。ただし性別がわかっても変異の有無そのものが確定するわけではありません。家系内で原因となる変異がすでに特定されている場合は、絨毛検査羊水検査での遺伝子解析、体外受精を伴う着床前診断(PGT)まで選択肢に含めて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けてください。

患者会・当事者の声|一人で抱え込まないために

希少疾患ゆえに、診断直後は身近に相談できる相手が見つからず孤独を感じやすいものですが、当事者・ご家族による患者会がいくつも活動しています。SNS上でも実体験にもとづく発信が続けられています。

あるお子さんのお母さまは、「アルポート症候群という同じ病を持つ男の子がこんなにもたくましく、前向きに生きている姿を見せてくれることが、一人の母親としてどれほど心強く、希望になるか分かりません」と発信しています。@AlportJapan氏も同様に、同じ病気を持つ子ども同士のつながりが家族の支えになっていることを伝えています。

当事者ご本人からは、「『出来ない』と選択肢を消すのでもなく『何でも挑戦させる』のが常に正解でもない。今の状況でどこまで形を変えて楽しめるかを子どもと一緒に考えて選択していくことが、心を守り共に前を向くヒントになる」という言葉も届いています。@Alport_202206氏のこうした発信は、透析や腎移植と向き合いながら生活する当事者の実感がこもった言葉として、多くの家族の支えになっています。診断後は、こうした患者会やSNSコミュニティを通じて同じ立場の方とつながることも、長く付き合っていく病気との向き合い方の一つになります。

血縁者の診断をきっかけにご自身の妊娠・出産について検討される場合、遺伝形式によって次のお子さまへの影響やNIPTの位置づけが変わります。ご自身に合うプランが分からない場合は、プラン診断をお試しください。お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

アルポート症候群とはどのような病気ですか。

腎臓の糸球体基底膜をつくるコラーゲンIVの遺伝子(COL4A5・COL4A3・COL4A4)の変異が原因で起こる指定難病218です。血尿・蛋白尿などの腎症状に加え、難聴や眼の異常を伴うことがあります。国内の患者数は約1,200人と報告されています。

遺伝性の病気ですか。次の子にも影響しますか。

遺伝性の病気で、X連鎖性・常染色体潜性・常染色体顕性の3つの型があります。次のお子さまへの影響は型によって大きく異なるため、ご自身やお子さまの遺伝子検査の結果をもとに、遺伝カウンセリングで確認してください。

アルポート症候群はNIPTでわかりますか。

標準的なNIPTの検査項目にCOL4A5などの原因遺伝子変異は含まれておらず、直接判定することはできません。NIPTでわかる胎児の性別情報は、X連鎖性の場合の見通しを考える材料にはなりますが、変異の有無そのものの確定にはなりません。家系内で変異が判明している場合は羊水検査などでの遺伝子解析が選択肢になります。

どのような検査で確定診断されますか。

尿検査・腎生検・聴力検査・眼科検査に加え、遺伝子検査で確定します。近年の解析技術の進歩により、現在ではほぼ100%の患者で原因遺伝子の変異を同定できるとされています。

治療法はありますか。

根本的に治す治療法はまだありませんが、ACE阻害薬やARBによる腎保護療法で進行を遅らせることができます。末期腎不全にいたった場合は腎移植が有効な選択肢で、若年患者での成績は比較的良好と報告されています。

女性でも重症化しますか。

女性はX染色体を2本持つため男性より軽症で経過することが多いものの、X染色体の不活性化のかたより次第では重症化する例もあります。40歳までに末期腎不全にいたる割合は約12%、60歳までで15〜30%程度と報告されており、油断はできません。

監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター・学術論文などの公的機関・学会情報を参照して作成しています。記載の頻度・数値は報告例により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。

遺伝子・疾患名

COL4A5|Alport Syndrome, X-Linked

引用文献|References

キーワード|Keywords

アルポート症候群, X連鎖性アルポート症候群, XLAS, COL4A5, COL4A3, COL4A4, 遺伝性腎疾患, 血尿, 蛋白尿, 末期腎不全, 感音性難聴, 眼異常, 腎移植, NIPT, 出生前診断

医師監修 監修日:2022年7月11日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2022年7月11日
水田 俊 (医師・医学博士/ヒロクリニック岡山駅前院 院長)

日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2022年7月11日
新田 啓三 (医師/ヒロクリニック札幌駅前院 院長)

日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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