発達障害は出生前にわかる?遺伝子検査の位置づけ

Satam, H., Joshi, K., Mangrolia, U., Waghoo, S., Zaidi, G., Rawool, S., Thakare, R. P., Banday, S., Mishra, A. K., Das, G., & Malonia, S. K. (2023). Next-Generation Sequencing Technology: Current Trends and Advancements. Biology, 12(7), 997. https://doi.org/10.3390/biology12070997

「発達障害はNIPT(新型出生前診断)や出生前検査でわかりますか」というご相談を、私自身よくお受けします。

結論からお伝えします。自閉スペクトラム症(ASD)やADHD、知的障害の多くは、複数の遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合う「多因子疾患」であり、NIPTを含む出生前検査だけで診断することはできません。一方で、染色体の微小欠失や特定の単一遺伝子疾患に伴う「症候性」の発達障害については、家族歴などから疑いがある場合に限り、出生前検査や出生後の遺伝学的検査で手がかりが得られることがあります。

この記事では、発達障害(神経発達症)と遺伝子検査の関係を、出生前にわかる範囲と、出生後に行うエクソーム解析・全ゲノム解析の位置づけの両面から整理します。断定を避けつつ、公的機関・学会のガイドラインにもとづいて正確にお伝えします。

💡 この記事でわかること

  • 発達障害(神経発達症)とはどのような状態を指すのか
  • NIPTや出生前検査で発達障害がわかるのか・わからないのか
  • 「症候性」の発達障害と「多因子性」の発達障害の違い
  • 出生後に行うエクソーム解析・全ゲノム解析の位置づけと診断率
  • 遺伝子の変化が見つかること・見つからないことの意味
  • 出生前検査と出生後の遺伝学的検査をどう使い分けるか

発達障害(神経発達症)とは|まず知っておきたい基礎知識

発達障害(神経発達症、Neurodevelopmental Disorders)とは、脳の発達の仕方に生まれつきの特徴があり、社会生活や学習に困難が生じやすい状態の総称です。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害(ID)、限局性学習症、てんかんを伴うケースなどが含まれます。

症状の現れ方は一人ひとり異なります。言葉の発達がゆっくりな子もいれば、対人関係の築き方に特徴が出る子、特定の分野に強い関心を示す子もいます。国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センターによれば、こうした特性の背景にあるのは生まれつきの脳機能の違い。育て方が原因ではないと、同センターは説明しています。

発達障害の原因は、単一ではありません。多くの研究で、複数の遺伝子の組み合わせと、妊娠中や出生後の環境要因が重なって発症に至ると考えられています。まれに、特定の染色体異常や単一遺伝子の変化だけで説明できる「症候性」のケースもありますが、これは全体の一部にとどまります。

発達障害はNIPTや出生前検査でわかるのか

NIPTをはじめとする出生前検査でわかるのは、21トリソミー(ダウン症候群)・18トリソミー13トリソミーなど特定の染色体異常が中心であり、発達障害そのものを判定する検査ではありません。この点は、SNSでも実体験とともに繰り返し指摘されています。

私自身、出生前検査の相談を受けていると、「陰性だったから発達も心配ない」と誤解されている方に時々出会います。しかし染色体の数の異常が見つからないことと、将来の発達の様子は、切り離して考える必要があります。

X(旧Twitter)でも@sakurako202001さんが、出生前検査でわかるのはダウン症候群・エドワーズ症候群・パトウ症候群の3つが中心で、発達障害や自閉症、脳性麻痺はわからないと投稿しており、多くの反響を集めていました。

実際に、出生前検査で問題が見つからなかった後に発達の特性がわかったという声も見られます。@1y8m245さんは、出生前診断で何も問題がなく、0歳のうちは発育も順調だったものの、1歳8か月健診で指摘があり、2歳で自閉スペクトラム症知的障害の診断がついたという経過を投稿していました。

この投稿には2万件を超える「いいね」が集まっています。出生前検査の結果と、その後の発達の様子は、別のものとして受け止めていただく必要があります。

なお、NIPTには染色体の微小欠失や単一遺伝子疾患を対象とした検査項目もあります。ただしこれらは、ご家族に同じ疾患の方がいるなど特定の疾患が疑われる場合に選ぶ検査です。原因のわからない発達障害全般を網羅的に調べる検査ではない、あくまで限定的な位置づけ。

NIPTと発達障害の関係をさらに詳しく知りたい方は、NIPTで発達障害・自閉症はわかる?検査の限界と遺伝の真実で検査項目ごとの対象範囲を解説していますので、あわせてご覧ください。

「症候性」と「多因子性」の違い|遺伝子検査でわかるケース・わからないケース

発達障害は、原因の見え方によって大きく「症候性」と「多因子性」の2つに分けて考えることができます。この違いを理解しておくと、遺伝子検査で何がわかり、何がわからないのかが整理しやすくなります。

区分特徴遺伝子検査での判定
症候性の発達障害脆弱X症候群、レット症候群、22q11.2欠失症候群など、既知の染色体異常・単一遺伝子疾患に伴って発達障害の症状が現れる原因となる遺伝子や染色体領域を絞った検査で見つかることがある
多因子性の発達障害多くのASD・ADHD・特発性知的障害。多数の遺伝子の組み合わせと環境要因が関与単一の検査で原因を特定することは難しい

症候性のケースでは、原因となる遺伝子や染色体領域があらかじめ絞り込めるため、その部分を狙った検査で診断につながりやすくなります。一方、多因子性のケースは原因となる遺伝子の組み合わせが人によって異なり、環境要因の影響も大きいため、検査だけで「原因はこれです」と言い切ることが難しい状態です。

実際に子どもの発達障害の大半は、この多因子性に分類されます。遺伝子検査を受ける前に、まずどちらのタイプに近いのかを、医師や臨床遺伝専門医と一緒に見極めることが出発点になります。

出生後に行う遺伝学的検査(エクソーム解析・全ゲノム解析)の位置づけ

出生前検査とは別に、発達の遅れなど症状が確認された後に行われるのが、エクソーム解析や全ゲノム解析といった出生後の遺伝学的検査です。これは胎児の段階で行うNIPTとは目的も対象も異なり、すでに症状のある子どもの原因を調べるための検査です。

エクソーム解析は、遺伝情報のうちタンパク質をつくる設計図にあたる部分(エクソン領域)を中心に調べる方法です。日本医学会の遺伝学的検査・診断に関するガイドラインでも、すでに発症している患者さんの診断を目的とした検査として、遺伝学的検査の代表的な位置づけの一つに挙げられています。

研究によって幅はありますが、エクソーム解析ではおよそ25〜36%程度に診断につながる遺伝子の変化が見つかるとされています。従来の染色体マイクロアレイ検査(12〜20%程度)より高い数字です。

そのため、原因がはっきりしない発達の遅れに対して、第一に検討される検査に位置づけられることが増えています。

全ゲノム解析は、エクソーム解析よりもさらに広い範囲、たとえば遺伝子の働きを調節する領域まで含めて調べる方法です。エクソーム解析で原因が見つからなかった場合の次の一手として検討されることがあります。

検査はどのような順序で進むのか|出生後の精査の流れ

出生後の遺伝学的検査は、いきなり全ゲノム解析から始めるのではなく、段階を踏んで進められるのが一般的です。次のような順序で検討されることが多くなっています。

  1. まずコピー数の変化まで含めて調べられるエクソーム解析を検討します。
  2. エクソーム解析が難しい場合は、代わりに染色体マイクロアレイ検査を行うことがあります。
  3. 知的障害自閉スペクトラム症の症状がある場合には、FMR1遺伝子の変化を調べる脆弱X症候群の検査が広く勧められています。
  4. 症状や身体所見によっては、DNAメチル化検査や染色体の構造を見る核型分析などを追加することもあります。
  5. ここまでの検査で原因が見つからない場合、全ゲノム解析を補完的に検討します。

子どもの発達について相談を受ける中で、検査を重ねても原因がわからないまま療育を始めるご家庭にも、これまで多く出会ってきました。原因が特定できるかどうかにかかわらず、療育や支援は並行して進めていただくものです。検査の結果を待つ間も、お子さんの困りごとに合わせた対応を止める必要はありません。

遺伝子の変化が見つかること・見つからないことの意味

原因となる遺伝子の変化が見つかった場合、今後の見通しを立てやすくなったり、症状に応じた治療の選択肢が広がったりする利点があります。特定の遺伝子の異常がわかれば、関連する合併症に注意しながら経過を見ていくことができます。

ごきょうだいへの遺伝的な影響を確認するための検査(カスケード検査)や、今後の妊娠・出産の計画を考えるうえでも、診断名は判断材料の一つになります。原因不明のまま検査や受診を繰り返す状態が短縮され、ご家族の負担が和らぐと期待されている点も見逃せません。

一方で、遺伝子の変化が見つかったとしても、必ず同じ症状が出るとは限りません。同じ変化を持っていても症状が軽い方、逆にほとんど症状が出ない方もいます。これは「不完全浸透性」と呼ばれる現象で、診断名だけで将来の様子を決めつけることはできません。

また、検査を受けても原因の変化が見つからない例は珍しくなく、多くの研究で半数以上のケースが診断未確定のまま残ると報告されています。診断がつかないことは、検査の失敗を意味するわけではありません。

現在の医学でもまだ解明されていない領域が残っているためです。今後の再解析で新たに原因がわかることもあるため、検査結果は大切に保管しておいてください。

代表的な症候群と原因遺伝子|同じ遺伝子でも現れ方はさまざま

症候性の発達障害の中には、同じ遺伝子の変化の種類によって、まったく異なる症状が現れるケースがあります。代表的な例を確認しておきましょう。

MECP2遺伝子に変化があると、女児では「レット症候群」を発症することがあります。一方、同じ遺伝子が重複した場合は「MECP2重複症候群」となり、主に男児でより重い症状が出る一方、女児では症状が現れないこともあります。

RAI1遺伝子の欠失は「スミス・マジェニス症候群」として知られ、逆に同じ遺伝子が重複すると「ポトッキ・ルプスキー症候群」という別の症状が現れます。UBE3A遺伝子も、変化の種類によってアンジェルマン症候群やプラダー・ウィリ症候群など複数の疾患に関わることがわかっています。

このように、遺伝子の「変化の種類」によって現れ方が大きく変わる点は、発達障害の診断や説明において欠かせない視点です。同じ遺伝子名を聞いても、欠失なのか重複なのかで見通しが変わることを、まず知っておいていただきたいと思います。

出生前と出生後、遺伝子検査をどう使い分けるか|位置づけのまとめ

出生前検査と出生後の遺伝学的検査は、目的も対象も異なる別の検査だと理解しておくことが、遺伝子検査の位置づけを正しくとらえる近道です。

項目出生前検査(NIPTなど)出生後の遺伝学的検査(エクソーム解析・全ゲノム解析)
実施時期妊娠中発達の遅れなど症状が確認されてから
主な対象染色体の数的異常、家族歴等で疑われる特定の微小欠失・単一遺伝子疾患知的障害・ASD・てんかんなど症状の原因となりうる遺伝子の変化全般
発達障害そのものの判定原則としてできない(多因子性のため)症候性の一部で原因が特定できることがある
検査の位置づけ非確定的なスクリーニング検査医師による発達評価とあわせて総合的に判断

妊娠中に受けるNIPTは、染色体の数的異常を中心とした非確定的なスクリーニング検査です。発達障害そのものを対象とした検査ではないため、結果が陰性であっても発達の特性が現れないことを保証するものではありません。

子どもの発達に気になる様子が見られた際は、出生前検査の結果にかかわらず、小児科や発達外来で相談していただく流れになります。

そのうえで、家族歴などから特定の疾患が疑われる場合は、遺伝カウンセリングを通じて出生前・出生後どちらの検査が適しているかを一緒に考えていくことになります。

妊娠中の検査についてご不安があれば、まずはプラン診断で検査項目の対象範囲を確認してみてください。お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。

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よくある質問

発達障害はNIPTでわかりますか。

いいえ。多くの発達障害は多数の遺伝要因と環境要因が関わる多因子疾患のため、NIPTを含む出生前検査だけで判定することはできません。

出生前検査で発達障害に関連してわかることはありますか。

家族歴などから特定の染色体微小欠失や単一遺伝子疾患が疑われる場合は、その疾患に絞った検査で手がかりが得られることがあります。ただし対象はごく一部の症候性のケースに限られます。

子どもに発達の遅れがあり、遺伝子検査を勧められました。何を調べるのですか。

一般的には、エクソーム解析や染色体マイクロアレイ検査などで、原因となりうる遺伝子や染色体の変化を広く調べます。症状に応じて脆弱X症候群の検査などが追加されることもあります。

遺伝子検査で原因がわかる割合はどのくらいですか。

研究によって幅がありますが、エクソーム解析ではおよそ25〜36%程度に診断につながる変化が見つかるとされています。染色体マイクロアレイ検査の12〜20%程度より高い数字です。

検査で原因となる変化が見つからなかった場合はどうなりますか。

診断がつかない場合も少なくありません。将来の再解析や別の検査方法の検討につながることがあり、療育や発達支援は診断の有無にかかわらず並行して受けていただけます。

発達障害は遺伝するのでしょうか。

一部は特定の遺伝子の変化が強く関わりますが、大半は複数の遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合っており、単純に遺伝する・しないと言い切れるものではありません。

監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センター、日本医学会、日本人類遺伝学会、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会、こども家庭庁などの公的機関・学会ガイドラインを参照して作成しています。記載の数値・技術動向は研究の進展により変わることがあるため、お子さんの発達に関するご心配は、かかりつけの小児科医・臨床遺伝専門医にご相談ください。

引用文献|References

医師監修 監修日:2025年7月30日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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