妊娠中は免疫力やホルモンバランスの変化により、普段より病気にかかりやすくなります。風邪や感染症だけでなく、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、妊娠特有の病気が発症することも少なくありません。
こうした病気を正しく治療し、母子の健康を守るためには、適切な受診と安全な治療方法を知っておくことが大切です。本記事では、妊婦が病気になったときの治療の流れ、薬の選び方、生活面での注意点を詳しく解説し、最後に出生前診断(NIPT)の活用方法についても触れます。
この記事でわかること
妊娠中に病気になりやすい理由
妊娠中は胎児を守るために免疫の働きが抑えられ、感染症にかかりやすい状態になります。
妊娠中の女性の体は、普段とは大きく異なる変化を経験します。その中でも特に重要なのが免疫機能の変化です。胎児は母体にとって半分は「異物」ですが、それを拒絶しないように、妊娠中は免疫の働きが少し抑えられます。
その結果、外から入ってくるウイルスや細菌に対する防御力が弱まり、風邪やインフルエンザ、尿路感染症などにかかりやすくなります。
さらに、妊娠すると血液量が通常よりも大幅に増加し、心臓や腎臓などの臓器に負担がかかります。もともと持っていた持病、たとえば高血圧や腎臓病が悪化することもあるので注意が必要です。
また、ホルモンバランスの変化によって血糖値や血圧が不安定になりやすく、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群など、妊娠に特有の病気が起こるリスクも高まります。日本産科婦人科学会も、こうした妊娠特有の病気は早期発見と管理が母体・胎児の予後を左右すると位置づけています。
このように、妊娠中は身体の防御力が弱まり、同時に負担が大きくなるため、病気にかかりやすく重症化しやすい状態にあります。「妊婦だから少し休めば大丈夫」という自己判断は禁物です。体の変化を理解し、病気の予防や早めの受診につなげることが、母子の健康を守る第一歩になります。
代表的な病気と治療の考え方
妊娠中にかかりやすい病気には、それぞれ治療の考え方があります。代表的な4つを見ていきましょう。
風邪・インフルエンザ
軽い風邪でも、妊婦は油断せず早めの受診を心がけてください。
軽い風邪症状であっても妊婦は重症化しやすく、特にインフルエンザは肺炎や早産のリスクが高まります。妊娠中でも安全に接種できるワクチンがあるため、流行期前の予防接種が推奨されます。発熱や咳が続く場合に大切なのは、自己判断の市販薬より先の、早めの受診。
妊娠高血圧症候群(PIH)
妊娠20週以降に高血圧やタンパク尿が出た場合は、放置せず速やかに管理を始めましょう。
妊娠高血圧症候群は妊娠20週以降に発症し、高血圧やタンパク尿が見られる病気です。日本産科婦人科学会の資料では、およそ20人に1人程度の頻度でみられるとされる、決して珍しくない合併症です。
放置すると母体の臓器障害や胎児発育不全を招く危険性があるため、塩分制限や安静、必要に応じた降圧薬の使用が行われます。むくみや頭痛が急に強くなった場合は、次の健診を待たずに受診してください。
妊娠糖尿病
妊娠糖尿病は食事療法が基本ですが、血糖コントロールの負担は決して軽くありません。
ホルモンの影響でインスリンの働きが弱まり、血糖値が上昇するのが妊娠糖尿病です。治療は食事療法や運動療法が中心で、コントロールが難しい場合はインスリン注射が検討されます。放置すると巨大児や帝王切開のリスクが高まるため、指示された血糖測定は続けることが大切です。
実際にX(旧Twitter)でも、「一人目のとき妊娠糖尿病だったからまたなる可能性高いと思ってたけど、無事にクリアだった…!食事管理と1日に何度も行う血糖値の測定本当に辛かったもんなぁ」(@koyuyu0909さん)という投稿がありました。血糖測定を毎日続ける大変さがうかがえます。
食事制限だけでなく測定の頻度も含めて、無理のない範囲で継続できる方法を医師や管理栄養士と相談してください。
尿路感染症
妊娠中は尿路感染症が悪化しやすいため、無症状でも検尿を軽視しないことが重要です。
妊娠中は尿の流れが滞りやすく、細菌が繁殖しやすくなります。無症状でも腎盂腎炎に進行すると高熱や早産の原因になるため、検尿で早期発見し抗菌薬治療を行います。
ここまでの4つの病気について、症状と対応の目安を表にまとめました。当てはまる症状がないか確認してみてください。
| 病名 | 主な症状 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 風邪・インフルエンザ | 発熱、咳、のどの痛み | 予防接種+早めの受診。市販薬の自己判断使用は避ける |
| 妊娠高血圧症候群 | 高血圧、タンパク尿、むくみ | 塩分制限・安静。むくみや頭痛の急な悪化は即受診 |
| 妊娠糖尿病 | 血糖値の上昇(自覚症状は少ない) | 食事療法・運動療法。血糖測定を継続 |
| 尿路感染症 | 頻尿、排尿時の痛み(無症状のことも) | 検尿で早期発見し抗菌薬治療 |
妊娠中の薬の安全性と使い方
妊娠中の薬は、「使わないリスク」と「使うリスク」の両方を天秤にかけて判断します。
妊娠中に薬を使用する際は、必ず「胎児への影響」を考慮する必要があります。特に妊娠初期(4〜12週頃)は、赤ちゃんの心臓や脳、手足などの器官がつくられる大切な時期です。この時期に催奇形性、つまり奇形を引き起こす作用のある薬を使うと、胎児の発育に悪影響を与える可能性があるため注意が必要です。
しかし一方で、「薬を全部避けたほうが安全」と考えて治療を遅らせてしまうのも危険です。高血圧や糖尿病、感染症を放置すると、母体が重症化したり、胎児に酸素や栄養が届きにくくなったりする可能性があります。
「薬を使わないリスク」と「薬を使うリスク」の両方を考えながら、適切な判断をすることが大切です。
実際、当院に寄せられるご相談でも、体調不良を我慢して受診が遅れたケースは少なくありません。私自身、診療の場で「薬を使わずに我慢したら症状が悪化してしまった」という声を何度も耳にしてきました。
X(旧Twitter)でも「妊娠中、どうせ薬飲めないからと風邪を放置したら副鼻腔炎になって10日くらい頭痛に苦しんでいる。妊娠中でも飲める薬を処方してもらったよ、早く行けばよかった」(@ad8fjgxさん)という投稿がありました。まさに自己判断による受診の遅れが、症状を長引かせた例といえます。
薬の安全性は、
- 妊娠の時期(初期・中期・後期で影響が異なる)
- 薬の種類(抗菌薬、解熱鎮痛薬、降圧薬など)
- 投与量と使用期間
によって変わります。医師はこうした点を総合的に判断し、できるだけ胎児に影響が少なく、安全性が確立されている薬を選びます。さらに、必要最小限の量・期間にとどめることでリスクを下げます。妊娠中の薬に関する詳しい情報は、国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センターでも公開されています。
妊婦さん自身が注意すべきなのは、自己判断で薬を中止・変更しないことです。持病で長期間薬を飲んでいる人が「妊娠したから勝手にやめよう」とすると、病状が悪化してかえって危険になることがあります。
また、市販薬やサプリメントでも妊娠中は安全でないものがあるため、必ず医師や薬剤師に相談してから使用してください。
安心して治療を受けるためには、医師とよく相談しながら「使うべき薬」と「避けるべき薬」を理解し、正しく服薬管理を行うことが母子の健康を守る鍵となります。
自宅療養と日常生活での注意点
軽い症状の自宅療養では、体力を消耗させない工夫が回復の近道になります。
妊娠中に風邪などの軽い症状が出た場合でも、妊婦さんは体力の消耗を避けることが特に大切です。無理をすると症状が悪化したり、胎児に影響が及ぶ可能性があるため、日常生活の中でいくつかの工夫を心がけましょう。
- 安静と十分な睡眠
睡眠不足は免疫力を下げ、回復を遅らせる原因になります。横になって体を休め、夜はもちろん昼間も短時間の休養を取り入れると効果的です。 - 水分補給
発熱や下痢などがあると体内の水分が失われやすくなります。こまめに水や麦茶、経口補水液を飲み、脱水を予防しましょう。冷たい飲み物より常温や温かい飲み物の方が体に負担が少なく、発汗や体温調整にも役立ちます。 - 消化に良い食事
体調が優れないときは、脂っこい食事や刺激の強いものは避け、消化の良いおかゆ、うどん、スープなどを取り入れると胃腸への負担を減らせます。少量ずつ回数を分けて食べるのもおすすめです。 - 室内の環境管理
定期的に換気を行い、新鮮な空気を取り入れましょう。また、加湿器や濡れタオルを利用して湿度を保つと、のどや鼻の粘膜が守られ、ウイルスの繁殖を防ぐ効果があります。
体調が安定しているときでも体を冷やさない工夫や適度なリラックスを意識すると、免疫力の維持につながります。回復への近道は、無理をしない生活習慣です。
パートナーと家事や休養の分担をあらかじめ話し合っておくと、体調を崩したときにも慌てずに済みます。妊娠中にできるパートナーとの絆を深める工夫もあわせてご覧ください。

ただし、症状が数日たっても改善しない場合や、急に高熱が出た、お腹が張る、胎動が減ったといった異常がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診しましょう。
病気予防のための生活習慣
病気になってから治療するより、日頃の予防の積み重ねが母体と胎児を守ります。
妊娠中は病気になってから治療するよりも、日常生活の中で予防を意識することがとても大切です。小さな工夫を積み重ねることで、母体と胎児の健康を守ることにつながります。
- 栄養バランスの取れた食事
鉄分・葉酸・カルシウムは妊娠期に特に必要とされる栄養素です。貧血予防や胎児の神経・骨の発達に欠かせないため、毎日の食事で意識的に取り入れましょう。 - 感染症対策
人混みを避ける、マスクの着用、こまめな手洗いは基本的な予防策です。特にインフルエンザや胃腸炎などの流行期には、外出時の工夫が大きな差になります。 - 適度な運動
ウォーキングやマタニティヨガといった軽い運動は、血流を良くし、便秘や体重増加の予防にも役立ちます。無理のない範囲で続けることが大切です。 - ストレス管理と休養
妊娠中はホルモンの影響で気分が不安定になりやすいため、リラックスできる時間を意識的に確保しましょう。十分な睡眠と休養は、免疫力を高め病気に負けない体づくりにつながります。
こうした生活習慣を継続することで、病気の発症リスクを大きく減らすことができます。日常の中で無理なく実践し、母子ともに安心して過ごせる環境を整えていきましょう。
NIPT(新型出生前診断)の活用と妊婦健診の重要性
NIPTと妊婦健診をあわせて活用すると、母子の状態をより早い段階で把握できます。
妊娠10週以降に受けられる新型出生前診断(NIPT)は、母体の血液から胎児の染色体情報を解析する検査です。21トリソミー、つまり21番目の染色体が1本多いことで生じる状態など、特定の染色体数の変化について高い精度で調べられます。
採血のみで済み、母体・胎児への負担が少ないのが特徴です。ただし、NIPTはあくまで可能性を調べる非確定的検査です。確定には羊水検査などの確定検査が必要になります。
病気の有無に関わらず、将来の出産準備や医療的サポートを考えるうえで有用な情報となるのがNIPTです。結果は医師や遺伝カウンセラーと相談しながら活用してください。
妊婦健診は日本産婦人科医会も定期受診を推奨しており、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった病気の早期発見にも直結します。NIPTと妊婦健診の両方をあわせて受けることで、安心感を高められます。
よくある質問
妊婦さんからよく寄せられる質問を6つにまとめました。
Q1. 妊娠中に風邪をひいたら、市販薬を飲んでも大丈夫ですか?
自己判断での服用は避けてください。市販の風邪薬には妊娠中の使用が推奨されない成分が含まれることがあります。発熱や咳が続く場合は、産婦人科または内科を受診し、妊娠中でも使用できる薬を処方してもらいましょう。
Q2. 妊娠高血圧症候群はどんな症状で気づけますか?
高血圧やタンパク尿が主な指標で、自覚症状が乏しいこともあります。急なむくみや頭痛、目のちらつきがある場合は、次の健診を待たずに受診してください。
Q3. 妊娠糖尿病と診断されたら、必ずインスリン注射が必要ですか?
まずは食事療法と運動療法から始めます。血糖コントロールが難しい場合に限り、インスリン注射が検討されます。自己判断で食事量を極端に減らすのは危険なため、指導内容を守ってください。
Q4. 持病の薬を妊娠中も飲み続けて良いですか?
自己判断でやめず、必ず主治医に相談してください。持病を放置すると母体が悪化するリスクがあるため、妊娠中でも安全性が確認された範囲で服薬を継続するケースが多くあります。
Q5. NIPTはいつから受けられますか?
一般的に妊娠10週ごろから受けられます。採血のみで赤ちゃんへの負担がなく、妊婦健診とあわせて受ける方が増えています。
Q6. どのような症状があれば、すぐに病院へ行くべきですか?
高熱が続く、お腹の張りが強い、胎動が急に減った、といった症状があれば、自己判断せずすぐに医療機関へ連絡してください。夜間や休日でも、かかりつけの産婦人科や救急外来に相談することが大切です。
まとめ
妊娠中の体は普段と異なる特別な状態にあり、正しい知識があれば多くの病気は予防・早期対応が可能です。
妊娠中の体は、普段とは異なる特別な状態にあり、免疫力やホルモンバランスの変化によって病気にかかりやすくなったり、症状が急速に進行したりすることがあります。
風邪や感染症のような身近な病気だけでなく、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった妊娠特有の疾患が発症する可能性もあり、早期の気づきと正しい対応がとても大切です。
一方で、妊婦さん自身が日常生活でできる工夫も多くあります。十分な休養やバランスの取れた食事、適度な運動、感染症予防などを意識することで、病気の発症リスクを大きく減らすことができます。
また、薬の使用については「避けるべき」と考えがちですが、必要な治療を遅らせることは母子ともに危険を伴います。必ず医師の指示を守り、安全性を確認しながら適切に使ってください。
さらに、出生前診断(NIPT)を上手に活用することで、病気の診断そのものではなく、将来の準備や支援体制を整えるための一助とすることもできます。定期的な妊婦健診とあわせて医師や専門家に相談しながら、自分と赤ちゃんに合った最善の選択をしていきましょう。
妊娠中の病気は、決して特別に恐れるべきものではありません。大切なのは、正しい知識と早めの行動。小さな不調も軽視せず、医療機関や家族、地域の支援を頼りながら、安心して健やかな妊娠生活を送りましょう。
監修:岡博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業後、日本とアメリカ両国の医師国家試験に合格。国内に20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、厚生労働省・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会など公的機関の公表情報を参照して作成しています。記載内容は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

