テンプル症候群は14q32.2のインプリンティング領域が母親由来に偏って起こる疾患です。小さく生まれ、筋緊張低下から低身長・思春期早発・肥満へと移り変わる経過、シルバー・ラッセル症候群との違い、NIPTで分かるかを解説します。
「小さく生まれた」「体がやわらかい」「おっぱいをうまく飲めない」——こうした経過からテンプル症候群という病名を聞かれたかもしれません。
結論からお伝えします。テンプル症候群(Temple syndrome)は、14番染色体の長腕32.2という刷り込み(インプリンティング)を受ける領域が、母親由来だけになってしまうことで起こる疾患です。小さく生まれ、乳児期は筋緊張が低く哺乳が難しく、その後は低身長・思春期早発・肥満へと経過が移っていくのが特徴です。
同じ領域が父親由来だけになると、まったく別の鏡-緒方症候群になります。またこの病気はシルバー・ラッセル症候群と臨床像が重なることが知られており、両者の区別は重要です。
💡 この記事でわかること
- テンプル症候群が「染色体の本数」の病気ではないこと
- 乳児期から思春期へと症状が移り変わっていくこと
- シルバー・ラッセル症候群との重なりと、見分け方
- 鏡-緒方症候群との関係(同じ領域で偏りの向きが逆)
- NIPTで分かるのか、分からないのか
- 確定診断に必要な検査
1. テンプル症候群とは
14番染色体長腕32.2(14q32.2)のインプリンティング領域が、母親由来に偏ることで起こります。インプリンティングとは、同じ遺伝子でも父親から受け継いだものと母親から受け継いだもので働き方が違う仕組みのことで、この領域は父方と母方の両方がそろって初めてバランスが取れます。
原因のうち約60〜75%は母性片親性ダイソミー14(upd(14)mat)で、14番染色体を2本とも母親から受け継いだ状態です。ほかに父方領域の欠失や、配列は変わらずメチル化だけが変わるエピミューテーションによっても起こります。
2. 年齢とともに移り変わる症状
この病気の特徴は、時期によって目立つ症状が変わっていくことです。
| 時期 | 目立つこと |
|---|---|
| おなかの中〜出生時 | 子宮内発育不全、在胎週数に比べて小さく生まれる(SGA) |
| 乳児期 | 筋緊張低下(体がやわらかい)、哺乳が難しい、体重が増えにくい |
| 幼児期〜学童期 | 低身長、手足が小さい |
| 思春期 | 思春期が早く始まる(思春期早発) |
| その後 | 体重が増えやすくなる(肥満傾向) |
「小さく生まれて食が細かったのに、途中から太りやすくなる」という経過は、この病気を疑う手がかりのひとつです。思春期が早く始まると最終身長が伸びにくくなるため、時期を逃さず小児内分泌科でご相談いただくことが大切です。
3. シルバー・ラッセル症候群との重なり
小さく生まれ、生まれた後も身長が伸びにくいという点で、両者はよく似ています。実際、シルバー・ラッセル症候群を疑って検査を進める中で、テンプル症候群と判明することがあります。
| テンプル症候群 | シルバー・ラッセル症候群 | |
|---|---|---|
| 関わる染色体 | 14番(14q32.2) | 11番(11p15.5)/7番(母性UPD) |
| 乳児期 | 筋緊張低下が目立つ | 哺乳困難が目立つ |
| 思春期 | 早発することが多い | 特徴的な傾向は乏しい |
| その後の体格 | 肥満傾向へ移りやすい | やせ型が続きやすい |
臨床所見だけで確実に区別することは難しく、最終的には検査で確かめます。どちらの可能性も残る場合、両方の領域を同時に調べることがあります。
4. NIPTでわかりますか
原則としてわかりません。最も多い原因である母性片親性ダイソミーでは、14番染色体は2本のままで量が変わらないため、コピー数を推定するNIPTでは区別できません。父方領域の欠失が原因の場合も、14q32.2は標準的なNIPTの対象外です。
妊娠中の入口は、多くの場合超音波検査での胎児発育不全(FGR)です。NIPTの対象範囲は検査プランによって異なります。迷われる場合はプラン診断もご利用ください。
5. 確定診断の検査
14q32.2領域のメチル化解析が中心です。あわせて片親性ダイソミーの検査と染色体マイクロアレイ検査(CMA)を組み合わせ、母性片親性ダイソミー・父方欠失・エピミューテーションのどれにあたるかを確かめます。原因が分かると、次のお子さまへの再発リスクの説明が変わります。
14番染色体の他の疾患については、鏡-緒方症候群、14番染色体長腕重複症候群、14q近位欠失症候群もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 染色体検査は正常でした。それでもこの病気の可能性はありますか。
あります。最も多い原因は14番染色体を2本とも母親から受け継ぐ母性片親性ダイソミーで、本数は2本のままです。メチル化解析など専用の検査が必要です。
Q. シルバー・ラッセル症候群と診断されましたが、テンプル症候群の可能性はありますか。
臨床像が重なるため、シルバー・ラッセル症候群を疑って検査を進める中でテンプル症候群と判明することがあります。担当医にご相談ください。
Q. 身長は伸びますか。
低身長を伴うことが多く、思春期が早く始まると伸びる期間が短くなります。時期を逃さないことが大切なので、小児内分泌科での経過観察をご検討ください。
Q. NIPTでわかりますか。
原則としてわかりません。コピー数が変わらない変化が主な原因のためです。
監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、GeneReviews(米国NIH)ほか公的機関・学会情報および査読済みの学術論文を参照して作成しています。記載の頻度・数値は文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
テンプル症候群は14q32.2のインプリンティング領域が母親由来に偏って起こる疾患です。小さく生まれ、筋緊張低下から低身長・思春期早発・肥満へと移り変わる経過、シルバー・ラッセル症候群との違い、NIPTで分かるかを解説します。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

