NIPTの微小欠失検査でわかること・わからないこと|精度と限界

虫眼鏡で染色体を調べるイメージのイラスト
この記事でわかること
  • 微小欠失(マイクロデリーション)検査が、基本の3つのトリソミー検査と何が違うのか
  • この検査で「わかること」と「わからないこと」の線引き
  • 感度・特異度が高くても陽性的中率(PPV)が低くなる理由
  • 「陽性」だったときに確定診断へ進むまでの流れ
  • 受けるかどうかを、遺伝カウンセリングを使いながら考えるヒント

微小欠失検査とは?〜NIPTの追加オプションの一つ

微小欠失検査は、染色体の「ごく一部分(微小な欠失)」が生まれつき失われていないかを調べる、NIPTの追加オプションの一つです。

NIPTと聞いて多くの方が思い浮かべるのは、21トリソミー(ダウン症候群)・18トリソミー13トリソミーの3つを調べる基本の検査でしょう。これらは染色体が1本まるごと多い状態を対象にします。

一方で微小欠失検査が見ているのは、もっと小さなレベルです。染色体を1冊の本にたとえると、トリソミーは「本が1冊多い」状態。微小欠失は「本の中の数ページが抜け落ちている」状態を探すイメージになります。

私自身、相談の場で「トリソミーだけでいいのか、微小欠失まで付けるべきか」と聞かれる回数が年々増えていると感じます。検査メニューが広がったぶん、選ぶ側の迷いも深くなっているのでしょう。

ここで押さえておきたいのは、微小欠失検査もあくまで非確定的検査(スクリーニング)であるという点です。結果が「陽性」でも、それだけで病気が確定するわけではありません。この性質は基本のトリソミー検査とまったく同じです。

基本のトリソミー検査との違いを表で整理

2つの検査の位置づけを、同じ土俵で並べてみます。範囲と目的が違うだけで、どちらも「確定ではない」点は共通しています。

比較項目基本のトリソミー検査微小欠失検査
調べる対象染色体が1本多い状態(21・18・13など)染色体の一部分が欠けている状態
変化の大きさ染色体まるごとごく小さな領域
検査の性質非確定的(スクリーニング)非確定的(スクリーニング)
対象疾患の頻度比較的よく知られている個々の疾患はまれ
陽性後の対応確定診断が必要確定診断が必要

表のとおり、微小欠失検査は「より細かいところまで見る」ぶん、後述するように結果の読み方に注意が必要です。範囲を広げれば安心という単純な話ではありません。

何が「わかる」のか〜代表的な対象

微小欠失検査でわかるのは、その検査プランが対象として設定している特定の微小欠失症候群だけです。

代表としてよく挙げられるのが22q11.2欠失症候群です。これは22番染色体の一部が欠けることで起こり、微細欠失症候群のなかでは最も多いとされています。頻度は報告により幅がありますが、およそ2,000〜4,000人に1人と言われています。

ほかにも、検査プランによっては別の微小欠失を対象に加えている場合があります。たとえば10p欠失に関連するディジョージ症候群2型のように、施設やプランごとに扱う疾患が異なります。

ここで最も大切な前提を一つ。微小欠失検査」という単一の決まった検査があるわけではなく、対象疾患は検査プランによって異なります。微小欠失も調べます」という説明を聞いたら、具体的にどの疾患が含まれるのかを必ず確認してください。

また、22q11.2欠失症候群のように心臓の構造に関わる病気もあり、染色体の変化と体の発生は無関係ではありません。染色体と先天的な体の変化のつながりは、先天性心疾患と染色体の関係のコラムでも触れています。

「対象に入っている=すべて見つかる」ではない

対象疾患であっても、100%見つけられるわけではない点も知っておいてください。検査には後述する感度の限界があり、対象疾患でも一定の割合で見逃しが起こり得ます。

私が診療で意識しているのは、「わかる範囲」を過大にも過小にも伝えないことです。検査の看板だけを見て「これで細かい病気まで全部わかる」と受け取ってしまう方が、実際に少なくありません。

何が「わからない」のか〜すべての病気は分からない

微小欠失検査でわからないことは、わかることよりもはるかに多く、生まれてくる赤ちゃんの健康すべてを保証する検査ではありません。

この検査が見ているのは、あくまで「設定された特定の微小欠失」だけです。次のようなものは、原則として対象外になります。

  • 多くの知的障害・発達障害の原因となる、対象外の遺伝的変化
  • 1つの遺伝子の変化で起こる単一遺伝子病
  • 妊娠中の環境要因や、生まれてからの後天的な要因
  • 心臓や神経管などの、染色体とは別の理由で起こる形態の異常

つまり「陰性(低リスク)」という結果が出ても、それは「対象疾患の可能性が低い」という意味にとどまります。赤ちゃんに何の心配もないと保証するものではありません。

この線引きは、検査を受ける前にこそ理解しておきたいところです。結果が出てから「そこまでは調べていなかったのか」と戸惑う声を、私は何度も聞いてきました。

「わかること」と「わからないこと」の対比

両者を並べると、この検査の守備範囲がはっきりします。範囲を正しく知ることが、過度な安心も過度な不安も防いでくれます。

わかること(対象)わからないこと(対象外)
プランが定めた特定の微小欠失症候群の可能性対象外のあらゆる先天異常
22q11.2欠失など、頻度が知られた領域の欠失多くの知的障害・発達障害の原因
染色体の一部が欠けているかどうかの傾向単一遺伝子病・多因子疾患
あくまで「可能性の高低」生まれてからの環境要因・後天的な病気

精度の正しい読み方〜感度・特異度と「陽性的中率」はなぜ違うのか

感度や特異度が高くても、対象疾患がまれなために、微小欠失検査では「陽性でも実際には病気でない」ことが起こりやすくなります。

ここが本記事でいちばん伝えたいところです。少しだけ言葉を整理します。難しく見えますが、順を追えば理解できます。

  • 感度:本当に病気の人を「陽性」と拾える割合。報告により幅があり、およそ75〜95%とされています。
  • 特異度:病気でない人を正しく「陰性」と判定できる割合。こちらは約99%前後と高い水準です。
  • 陽性的中率(PPV):「陽性」と出た人のうち、実際に病気だった人の割合。

ここで多くの方がつまずきます。「特異度99%なら、陽性ならほぼ確定では?」と感じてしまうのです。ところが、そうはなりません。

なぜPPVは低くなりやすいのか

カギは「対象疾患の有病率が低い」ことにあります。もともと病気の人がとても少ない集団を調べると、たとえ特異度が高くても、わずかな偽陽性が相対的に目立ってしまうからです。

イメージしてみてください。1万人のうち、実際に対象疾患を持つ人がごく少数だとします。特異度が99%でも、残る大多数の「病気でない人」の1%が偽陽性になります。少人数の真の陽性に対し、この偽陽性が数のうえで無視できなくなるのです。

その結果、「陽性」と出た人を集めると、そのなかに病気でない人がかなり含まれる状況が生まれます。これがまれな疾患ほど陽性的中率(PPV)が下がるという原理です。有病率が低いほど、この傾向は強まります。

具体的な数字はプランや対象疾患で変わるため、ここでは特定の%を示しません。大切なのは、「特異度が高い=陽性なら確定」ではないという考え方そのものです。私はこの点を、相談のたびに時間をかけて説明しています。

基本のトリソミー検査と比べると

実は同じ理屈は、基本のトリソミー検査にもあてはまります。ただ、微小欠失の対象疾患はトリソミーよりさらにまれなことが多く、PPVの低さがより際立ちやすいのです。範囲を広げるほど、この読み方の注意はいっそう重くなります。

「陽性」だったら〜確定診断までの流れ

微小欠失検査で「陽性」が出ても、それは確定ではなく、確定診断には羊水検査絨毛検査と染色体マイクロアレイ(CMA)が必要です。

非確定的検査の結果を受け止める段階では、落ち着いて次の一歩を選ぶことが何より大切です。流れを知っておくと、いざというとき慌てずにすみます。

  1. 結果の説明を受け、遺伝カウンセリングで意味を整理する
  2. 確定診断に進むかどうかを、パートナーと相談して決める
  3. 羊水検査または絨毛検査で、赤ちゃん由来の細胞を採取する
  4. 採取した細胞を染色体マイクロアレイ(CMA)などで詳しく調べる

羊水検査絨毛検査は、細い針を使う検査のため、ごくわずかですが流産などのリスクを伴います。数字の目安や考え方は羊水検査のリスクと確率のコラムで詳しく解説しています。進むかどうかは、任意の選択です。

非確定的検査と確定的検査の違い

両者は役割が異なります。前者は「可能性を絞り込む」入口、後者は「診断を確定する」出口です。この関係を表にまとめました。

比較項目NIPT微小欠失を含む)羊水・絨毛検査+CMA
位置づけ非確定的(スクリーニング)確定的(診断)
検体妊婦さんの採血羊水・絨毛(子宮内から採取)
体への負担採血のみ穿刺に伴うわずかなリスクあり
結果の意味可能性の高低診断の確定

この2段構えを理解しておくと、「陽性」という言葉に必要以上に飲み込まれずにすみます。NIPTはあくまで最初のふるい分けです。

受けるかどうか、どう考える?〜費用・対象範囲・遺伝カウンセリングの活用

微小欠失検査を受けるかどうかは、費用と対象範囲、そして「結果をどう受け止めたいか」を、遺伝カウンセリングを使いながら考えることが助けになります。

まず前提として、NIPTも微小欠失検査も任意の検査です。受けない選択も、基本のトリソミーだけにする選択も、どれも尊重されるべき判断です。

費用は検査プランや施設によって異なります。範囲を広げるほど費用も上がる傾向があるため、金額だけでなく「その情報を自分たちが本当に必要とするか」をあわせて考えてください。ここでは具体的な金額は示しませんが、プランにより異なる点は覚えておくとよいでしょう。

Xなどでも、「3種類のトリソミーだけにするか、微小欠失まで全部やるか、費用も上がるし本当に迷う」といった、検査範囲の選択に悩む声が実際に多く見られます。これは誰もが通る自然な迷いです。

考えるときの3つの視点

迷いを整理するために、私は次の3つの視点を挙げるようにしています。順に自問すると、判断の軸が見えてきます。

  • 結果が「陽性」でも確定ではない、という性質を受け入れられるか
  • その結果を受けて、確定診断まで進む気持ちがあるか
  • わかる情報の範囲と、追加の費用が見合うと感じるか

この3つに正解はありません。大切なのは、夫婦やパートナーで前もって話し合っておくことです。結果が出てから初めて考え始めると、限られた時間で難しい判断を迫られてしまいます。

そして忘れてほしくないのが、遺伝カウンセリングの存在です。認定遺伝カウンセラーは、検査の数字を説明するだけの役割ではありません。ある専門職は「出生前検査の悩みはその瞬間だけで終わらない。病気が分かってからの子育ての不安まで視野を広げる対話が大切」という趣旨を語っています。検査を受ける前の対話が、その後の安心につながります。

実際の声と、監修医師からのメッセージ

実際の相談現場で聞かれるのは「検査を受けること」より「結果とどう向き合うか」への不安であり、そこに寄り添うのが遺伝カウンセリングの役割です。

検査範囲の選択に迷う声は、本当に多く聞かれます。「トリソミーだけで十分なのか」「微小欠失まで付けて後悔しないか」。こうした揺れは、赤ちゃんを大切に思うからこそ生まれるものです。

専門職のあいだでも「NIPTありきではない。検査で解決しない不安をていねいに解きほぐすのがカウンセリング」という声が聞かれます。検査は目的ではなく、あくまで選択のための手段だという考え方です。

私が診療で強く感じるのは、数字の説明だけでは人の不安は解けない、ということです。同じ「陽性の可能性」でも、受け止め方は一人ひとり違います。だからこそ、検査の前後で対話の時間を持つことを大切にしています。

もう一つ、臨床の場でよく実感するのは、「わからないことがある」と正直に伝えられたほうが、かえって落ち着かれる方が多いという点です。検査の限界を隠さず共有することが、信頼につながると考えています。過度に不安をあおらず、かといって安易な安心も与えない。その中庸を保つことを、いつも心がけています。

よくある質問

微小欠失検査について、相談の場でよく寄せられる質問をまとめました。判断の参考にしてください。

Q. 微小欠失検査を受ければ、赤ちゃんの病気はすべてわかりますか?

A. いいえ。わかるのは、その検査プランが対象とする特定の微小欠失症候群だけです。多くの知的障害・発達障害や単一遺伝子病、環境要因などは対象外です。「陰性」でも赤ちゃんの健康すべてを保証するものではありません。

Q. 特異度が99%と高いのに、なぜ「陽性でも確定ではない」のですか?

A. 対象疾患の有病率が低いためです。もともと病気の人がとても少ない集団では、わずかな偽陽性でも相対的に目立ち、陽性的中率(PPV)が下がります。特異度の高さと、陽性なら確定という話は別物だと考えてください。

Q. 「陽性」と言われたら、次に何をすればよいですか?

A. まず遺伝カウンセリングで結果の意味を整理してください。そのうえで、確定診断(羊水検査絨毛検査+染色体マイクロアレイ)に進むかどうかを、パートナーと相談して決めます。進むかどうかは任意の選択です。

Q. 基本のトリソミー検査だけでは足りないのでしょうか?

A. 足りないというわけではありません。微小欠失検査は範囲を広げる追加オプションであり、受けるかどうかは任意です。費用や対象範囲、結果の受け止め方を考え、必要と感じる場合に選ぶものだと考えてください。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 検査プランや施設により異なります。一般に範囲を広げるほど費用は上がる傾向があります。金額だけでなく、その情報を本当に必要とするかもあわせて検討してください。詳しい料金は各施設にご確認ください。

Q. 感度が75〜95%と幅があるのはなぜですか?

A. 対象とする疾患や検査手法、報告する研究によって結果に幅があるためです。数値は目安として捉え、いずれにしても「見逃しがゼロではない」非確定的検査である点を前提にしてください。

監修:ヒロクリニック 岡博史 医師 / 水田俊 医師 / 新田啓三 医師

医師監修 監修日:2026年7月29日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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