異なる臨床像を持つ42910人の妊婦(単胎)における異数性及び全染色体全領域部分欠失・重複疾患をNIPTで検出するコホート試験

文献

この記事のまとめ

42,910例の妊婦さんを調べた大規模な研究では、NIPTで異常が疑われた割合は約1.24%で、陽性的中率(PPV)は21トリソミーで約79%、13トリソミーで約14%と、対象によって大きく差がありました。この研究は中国・寧波の医療機関が2019年ごろに報告したもので、NIPTの実力を数字で示した貴重なデータです。大切なのは、NIPTが「陽性でも確定ではない」非確定的検査だという点。PPVは調べる病気や妊婦さんの年齢などで変わります。確定診断は羊水検査絨毛検査で行います。この記事では、専門的な数字をやさしくかみくだいてお伝えします。

この記事でわかること

  • 42,910例を調べた大規模研究からわかったNIPTの「異常が見つかる割合」
  • 陽性的中率(PPV)とは何か、なぜ病気ごとにこんなに差が出るのか
  • 21・18・13トリソミー、性染色体、微小欠失・重複それぞれのPPVの実際
  • 陽性はゴールではない理由と、確定診断(羊水検査絨毛検査)への流れ

42,910例の大規模研究でわかったNIPTの実力

この研究では42,910例の単胎妊娠のうち、NIPTで異常が疑われたのは534例、割合にして約1.24%でした。数にすると、およそ80人に1人。決して多くはありませんが、ゼロでもない数字です。まずは、この研究がどんなものかを整理します。

もとになったのは、中国・寧波の医療機関が2019年ごろに報告した大規模なデータです。おなかの赤ちゃんが1人(単胎)の妊婦さんを対象に、母体の血液を使ってNIPTを行いました。編集部が現行の論文データを読み解くと、母体の年齢が35歳以上の方は全体の約25%。日本の受検者とくらべると、やや若い集団という印象です。

NIPTは、お母さんの血液の中を流れる細胞外を流れるDNA(cfDNA)を調べる検査です。この中には、胎盤由来の赤ちゃん側のDNAもわずかに混ざっています。採血だけで済むため、体への負担がほとんどありません。そのうえで染色体の数の変化を推定する。それがNIPTの基本的な仕組みです。検査の原理はNIPTの仕組みを解説した記事でも詳しくまとめています。

研究で異常が疑われた割合 検査を受けた妊婦さん 42,910例 陽性 約1.24% 534例が「異常の疑い」。残りの大多数は陰性でした
研究で異常が疑われた割合のイメージ(全体の約1.24%)

NIPTで調べられる病気の全体像を知りたい方は、NIPTでわかる病気をまとめた記事もあわせてご覧ください。まずは「どんな検査なのか」を押さえておくと、これから出てくる数字が理解しやすくなります。

陽性的中率(PPV)とは|陽性でも確定ではない

陽性的中率(PPV)とは、NIPTで「陽性」と出た人のうち、実際にその病気だった人の割合のことです。言いかえると、陽性という結果がどれくらい当たるかを示す数字。ここを誤解すると、必要以上に不安になってしまいます。ていねいに説明します。

たとえばPPVが約79%なら、陽性と出た10人のうち、およそ8人が本当に該当し、2人は該当しなかった(偽陽性だった)という意味です。NIPTは精度の高い検査ですが、それでも100%ではありません。陽性は「その可能性が高まったサイン」であって、「確定」ではないのです。

陽性的中率(PPV)の考え方 NIPTで「陽性」と出た人 本当に該当する人 =この割合がPPV 該当しない人 (偽陽性)
陽性的中率(PPV)の考え方のイメージ(陽性の中に偽陽性も含まれる)

PPVという言葉自体は少しむずかしいので、もっと基本から知りたい方はNIPTの精度と陽性的中率をやさしく解説した記事も参考にしてください。ここでは「陽性=確定ではない」という一点だけ、しっかり覚えておいてください。

病気ごとに違う陽性的中率|研究の数字を見る

この研究では、同じNIPTでも調べる病気によってPPVが約14%から約79%まで大きく異なりました。ひとくちに「NIPTの精度」とまとめられない理由が、ここにあります。研究で示された数字を表で見ていきましょう。

調べる対象陽性数陽性的中率(PPV)
21トリソミー(ダウン症候群)155例約79%
18トリソミー44例約55%
13トリソミー33例約14%
性染色体の数の変化147例約33%
微小欠失・重複109例約29%

この研究(42,910例)の結果より。数値は概数で示しています。

いちばん高いのが21トリソミー、いわゆるダウン症候群のPPVで約79%でした。陽性と出た約8割の方が実際に該当したことになります。NIPTがもっとも得意とする領域です。

いっぽうで、13トリソミーのPPVは約14%と、ぐっと低い数字でした。陽性と出ても、本当に該当する方は多くありません。同じNIPTなのに、これほど差が出る。数字を見て、編集部も改めてPPVの読み方の大切さを感じました。

性染色体の数の変化は約33%、微小欠失・重複は約29%でした。なぜここまで差が出るのか。次の見出しで、その理由をひもといていきます。

なぜPPVに差が出るのか

差が生まれる大きな理由は、それぞれの病気の「もともとの起こりやすさ」がちがうからです。まれな病気ほど、陽性と出ても偽陽性が混じりやすくなります。13トリソミーがその代表例。頻度が低い分、PPVも低くなりやすいのです。

もうひとつの理由が、胎盤特有の現象です。NIPTは胎盤由来のDNAを調べるため、胎盤だけに染色体の変化があって赤ちゃん本体には無い、というケースが偽陽性につながります。これは検査の欠点というより、仕組み上どうしても起こりうる限界。だからこそ確定検査が用意されています。

微小欠失・重複のPPVは欠失の大きさで変わる

微小欠失・重複では、欠けている部分の大きさによってPPVが約21%から約50%まで変わりました。ひとまとめにできない領域です。研究では欠失の大きさで3つに分けてPPVを示しています。

欠失・重複の大きさ陽性的中率(PPV)
5Mb以下(小さい)約21%
5〜10Mb約50%
10Mbを超える(大きい)約27%

この研究の結果より。Mbはゲノム上の長さの単位(メガベース)です。

ここで注目したいのは、5Mb以下の小さな欠失ではPPVが約21%にとどまった点です。小さな変化ほど検出がむずかしく、偽陽性が増える傾向がうかがえます。微小欠失・重複の検査は、まだ発展途上の領域。研究の報告者も、さらなる検証が必要だと述べています。

ここで一点、大切な注意があります。結節性硬化症やヌーナン症候群のような単一の遺伝子が原因の病気は、通常のNIPTの一般的な対象ではありません。これらを確実に調べるには、専門の遺伝学的検査が必要です。NIPTで何がわかり、何がわからないのか。その線引きを知っておくことが、落ち着いた判断につながります。

PPVは年齢など「有病率」で大きく変わる

PPVは検査の性能だけで決まるのではなく、妊婦さんの年齢など「その病気の起こりやすさ」によっても大きく変わります。同じ検査を受けても、条件がちがえば当たる確率が変わる。ここは特に誤解されやすいところです。

この研究でも、21トリソミーのPPVは全体で約79%でしたが、母体年齢が高い(35歳以上)グループにしぼると約89%まで上がっていました。年齢が上がるほど、もともとダウン症候群の頻度が高くなるためです。同じ陽性でも、背景によって意味の重みが変わります。

だからこそ、ネット上で見かける「NIPTの的中率は◯%」という一つの数字を、そのまま自分に当てはめないでください。あなたの年齢や妊娠の経過によって、実際のPPVは変わります。年齢と検査の関係はダウン症の発生リスクと検査を解説した記事でも触れています。数字は「この研究の条件での結果」として受け止めるのが正確です。

陽性はゴールではない|確定は羊水検査・絨毛検査

NIPTは非確定的検査なので、陽性という結果は「確定診断へ進むための入口」であり、そこがゴールではありません。確定には、羊水検査絨毛検査といった別の検査が必要です。この流れを知っておくと、陽性という言葉に過度に動揺せずにすみます。

実際に、NIPTで陽性が出たあとに確定検査へ進む方は少なくありません。私も相談の現場で、その一歩をためらう気持ちにたくさん触れてきました。SNSでも、NIPTで21トリソミー陽性となり後日に羊水検査を受ける予定だと、率直に情報を集めている@tetete_4649さんのような声が見られます。針を刺す痛みや結果までの日数を気にかける様子から、陽性のあとに確定検査という現実の流れが伝わってきます。

検査の選び方についても、いろいろな考え方があります。産婦人科で働いた経験から、クアトロ検査は羊水検査をすると偽陽性が多かった、自分が受けるならNIPTと羊水検査を選びたいと話す@muu7964さんの声も印象的でした。非確定的検査で当たりをつけ、必要に応じて確定検査で確かめる。この二段構えが、いまの出生前検査の基本的な形だと感じます。

羊水検査がどんな検査なのか不安な方は、羊水検査についてまとめた記事をご覧ください。ヒロクリニックNIPTでは、他院での羊水検査にも使える費用サポートを用意しています。陽性のあとに一人で抱え込まないよう、確定検査までの道筋を整えています。

公的な情報も、判断の支えになります。出生前検査の考え方については日本産科婦人科学会、遺伝カウンセリングや検査体制については出生前検査認証制度等運営委員会日本産婦人科医会の発信も参考にしてください。信頼できる情報にあたることが、落ち着いた選択につながります。

この研究から妊婦さんが受け取れること

この研究が教えてくれるのは、NIPTは21トリソミーで頼りになる一方、対象や条件によって精度が変わる検査だという事実です。数字を正しく知ることが、無用な不安をやわらげます。要点を整理します。

ひとつめは、NIPTがスクリーニング検査だという位置づけです。ふるい分けをして、確定検査へつなぐ役割。陰性なら安心の材料になり、陽性なら次の一歩へ進む合図になります。役割を知れば、結果との向き合い方も変わります。

ふたつめは、数字を一般化しすぎないことです。この研究のPPVは、寧波の医療機関で、その時期に、その集団で得られた結果。あなたの状況にそのまま当てはまるとは限りません。気になる数字があれば、担当医や遺伝カウンセリングで自分の条件に合わせて確かめてください。

みっつめは、迷ったときに専門家へ相談することです。検査を受けるかどうか、陽性のあとどうするか。一人で決めなくて大丈夫です。ヒロクリニックNIPTでは医師による遺伝カウンセリングを用意しています。気軽に相談してください。

よくある質問

Q. NIPTで陽性が出たら、赤ちゃんは必ずその病気ですか?

必ずではありません。NIPTは非確定的検査で、陽性は「可能性が高まったサイン」です。この研究では、21トリソミーの陽性的中率が約79%、13トリソミーが約14%と、対象によって差がありました。陽性でも該当しない偽陽性のケースがあります。確定するには、羊水検査絨毛検査といった確定検査が必要です。結果が出たら、自己判断せず担当医や遺伝カウンセリングに相談してください。

Q. 陽性的中率(PPV)とは何ですか?

PPVは、陽性と出た人のうち実際にその病気だった人の割合です。たとえばPPVが約79%なら、陽性の約8割が本当に該当した計算になります。PPVは検査の性能だけでなく、その病気の起こりやすさ(有病率)によっても変わります。年齢が上がるとダウン症候群のPPVが高くなるのはそのためです。一つの数字を自分にそのまま当てはめず、条件を踏まえて読むことが大切です。

Q. なぜ病気ごとにPPVがこんなに違うのですか?

主な理由は、それぞれの病気のもともとの頻度がちがうからです。まれな病気ほど陽性に偽陽性が混じりやすく、PPVが下がります。13トリソミーのPPVが低いのはこのためです。加えて、胎盤だけに染色体の変化があって赤ちゃん本体には無いケースも偽陽性の一因になります。これはNIPTが胎盤由来のDNAを調べる仕組みに由来する限界です。

Q. 微小欠失・重複もNIPTでわかりますか?

一部は対象になりますが、精度は欠けている部分の大きさで変わります。この研究では、5Mb以下の小さな欠失でPPVが約21%、5〜10Mbで約50%でした。小さな変化ほど検出がむずかしくなります。まだ発展途上の領域です。なお結節性硬化症やヌーナン症候群のような単一の遺伝子が原因の病気は、通常のNIPTの一般的な対象ではありません。確実に調べるには専門の遺伝学的検査が必要です。

Q. この研究の数字は、日本の私にもそのまま当てはまりますか?

そのまま当てはめないでください。この研究は中国・寧波の医療機関が、その時期に、その集団で得た結果です。対象者の年齢構成なども日本とは異なります。PPVは集団の有病率で変わるため、あなたの年齢や妊娠の経過によって実際の数字も変わります。数字は参考にしつつ、自分の条件に合わせて担当医や遺伝カウンセリングで確認してください。

Q. 陽性のあと、確定検査は何を受ければよいですか?

確定診断には羊水検査絨毛検査を用います。羊水検査はおなかに細い針を刺して羊水を採取し、赤ちゃんの染色体を直接調べる検査です。確定的な結果が得られる一方、わずかに流産のリスクもあるため、受けるかどうかは医師とよく相談してください。ヒロクリニックNIPTでは、他院での羊水検査にも使える費用サポートを用意しています。陽性のあとの道筋を一緒に考えていきます。

著者・監修

岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。

医師監修 監修日:2020年7月1日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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