人工授精による不妊治療と妊娠の兆候について【医師監修】

妊活で男性がやるべきこと

人工授精とは生殖医療技術のひとつです。運動率の良好な精子を採取し、直接子宮内に注入することによって着床(妊娠)の実現を目指します。なお、人工授精は他の生殖医療技術とくらべ、最も自然妊娠に近い不妊治療といわれています。

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はじめに

人工授精とは生殖医療技術のひとつです。生殖医療技術とは、人為的に精子や卵子を採取し、着床(妊娠)を目指す不妊治療とされています。また、2022年4月より一部の不妊治療が保険適用となったことにより、これまで高額な費用を理由に妊娠をあきらめていた方にも門戸が広がったといえるでしょう。

保険適用の不妊治療は「人工授精」「タイミング法」「体外受精」「顕微授精」が挙げられ、これらは各関係学会により、安全性と有用性が認められた治療法となります。本記事では人工授精の仕組みや人工授精後の妊娠の兆候について、また他の生殖医療技術との違いなどを医師が解説いたします。

不妊症の診断と治療の流れ

不妊の原因はさまざまです。その原因はカップルの男性・女性のいずれかに、または男女両方にあるとされています。

不妊症とは一般的に「避妊をせずに繰り返し性交を行うカップルが、1年以上妊娠できずにいる状態」と定義され、医師の診断により男性と女性双方の検査後、不妊原因の治療を行います。しかし女性の年齢が35歳以上の場合、加齢とともに妊娠の確率がより難しくなることから、人工授精など早期の生殖医療が行われます。

不妊症のおもな原因

  • 無精子症などの男性不妊
  • 排卵障害
  • 子宮や卵管および骨盤内の障害
  • 頸管粘液の異常
  • 年齢(35歳以上)

保険適用となる不妊治療

〈一般不妊治療〉

  • 人工授精:運動率の良好な精子を回収し子宮内に注入する不妊治療
  • タイミング法:妊娠しやすい最適な日に性交渉を行うタイミングを医師が指導する不妊治療

〈生殖補助医療〉

  • 体外受精:卵巣から卵子を採取し卵子が熟成するための培養後、培養皿に精子を加え受精を行う
  • 顕微授精:卵巣から卵子を採取し卵子が熟成するための培養後、精子を卵子の中に直接注入し受精を行う

※体外受精・顕微授精の場合、着床前の胚盤胞の状態になるのを待ち、子宮内へ戻す「胚移植」が行われる

人工授精とは

人工授精とは男性の精液を採取し、運動率の良好な精子を回収します。その後、最も妊娠のしやすい期間に専用の細く柔らかいカテーテルで子宮内へ注入を行う治療法です。そのため、タイミング法と並び、自然妊娠に近い不妊治療といわれています。

なお、人工授精は1回の治療で必ず妊娠が成功するとはかぎりません。人工授精を行う回数は女性の年齢や卵巣機能の状態などによって異なります。そのため数回の人工授精を行うことも少なくありません。

人工授精とタイミング法の違いとは

人工授精とタイミング法は、どちらも自然妊娠に近い一般不妊治療とされています。妊娠を成功させるためには精子が卵子に接触し、受精する必要があります。

タイミング法とは、医師の診断により最も妊娠しやすい日に性交渉を行うことで、妊娠の確率を上げる不妊治療です。自身で行う基礎体温での排卵日予測は、月経不順などがあると実際の排卵タイミングにずれが生じることも少なくありません。タイミング法では基礎体温計のほかに、エコー検査(超音波検査)や、尿中LH(黄体ホルモン)検査などによって正確な排卵日を予測します。

タイミング法は通常の性交渉によって妊娠を目指す不妊治療です。精子は、膣内→子宮→卵管→卵管膨大部と移動し、卵管膨大部で精子と卵子が接触することで受精となります。

人工授精の場合、人為的に回収した精子を専用カテーテルで注入を行うため、子宮から卵管への移動となります。これらのことからタイミング法とくらべ、人工授精は精子の移動距離を短くし、卵子に到達しやすいといえるでしょう。

人工授精で授かった命

人工授精の流れ

人工授精は男性の精液を採取し、女性が最も妊娠しやすい日に注入することで妊娠の確率を上げる不妊治療です。精液は院内でのマスターベーションによる採取が基本とされています。または、あらかじめ採取した精液を、パートナーである女性により持ち込みとなります。

いずれもデリケートな問題を含む不妊治療とされています。医師のアドバイスのもと、パートナー同士でしっかり話し合いを重ねた上で治療を行うことが大切です。

人工授精の実施計画と検査

月経2〜4日目にエコー検査(超音波検査)やホルモン検査などを行い、人工授精が可能な周期を調べます。その後、卵胞の発育状態を確認し排卵前日、または排卵当日に人工授精を行います。

精液の採取と精子の回収

精液は採取された後、不要な細菌や白血球などの除去を行います。そこから受精能力が高いとされる、運動率の良好な精子のみを回収します。

子宮内へ精子を注入

回収した精子(約0.2〜0.5ml)を専用カテーテルにより子宮内へ注入します。精子の注入部位は医療機関によって異なります。

  • 子宮腔内注入(IUI:intrauterine insemination):子宮腔内へ精子を注入
  • 頸管内注入(ICI: intracervical insemination):子宮頸管内へ精子を注入
  • 腹腔内注入(DIPI:direct intraperitoneal inseminatin):骨盤内の卵管に近い部位へ精子を注入
  • 卵管内注入(FSP: fallopian tube sperm perfusion):卵管へ精子を注入

いずれも注入処置にかかる時間は数分程度とされ、痛みもほとんどないといわれています。しかし、精子の調整や注入後の安静時間を含めると、1時間から1時間30分ほどかかるでしょう。

人工授精はどんな人に向いている?

人工授精は精子の子宮内進入のサポートと、精子と卵子の接触の確率を高めることを目的としています。そのため、加齢など不妊症の原因が女性にある場合、人工授精の有効性は低いといえるでしょう。なお、人工授精に向いているケースとして以下が挙げられます。

  • 乏精子症(ぼうせいししょう)
  • 精子無力症(せいしむりょくしょう)
  • 性交障害
  • 精子頸管粘液不適合(せいしけいかんねんえきふてきごう)
  • 抗精子抗体の保有

乏精子症

精子の数が少ない症状です。精液1ccあたりの精子の数が1500万以下、または一度の射精で数えられる精子の量が、3900万以下であっても、乏精子症とされます。

精子無力症

よく動く精子の数が足りない症状です。精子が動かなければ、卵子までたどりつけず、妊娠には至りません。具体的には、動いている精子が40%未満または、活発に前進する精子が25%未満の場合、精子無力症とされます。

性交障害

性交障害とは、痛みや精神的な問題(性交渉に対する不安・嫌悪感・EDなど)により性交渉が困難なことです。性交渉ができないだけでマスターベーションによる射精が可能な場合は、人工授精に向いているといえるでしょう。

頸管粘液の異常

頸管粘液は一般的に「おりもの」といわれ、細菌など子宮内への侵入を防ぐ働きをもちます。また、おりものは精子が卵子にたどり着けるようサポートする機能があります。頸管粘液の異常とは、精子を卵子まで運ぶための機能が低下していることです。頸管粘液の量が少なかったり、運ぶ機能が低下していると妊娠は難しいとされています。

抗精子抗体の保有(軽度)

抗精子抗体の保有とは、精子を細菌やウイルスと同じと認識し、働きを阻害または排除する抗体をもっている状態です。この場合、精子が卵子へ到達する前に体内から排除されてしまうため、妊娠には至りません。抗精子抗体が軽度であれば、人工授精による妊娠の可能性はあるといわれています。なお、抗精子抗体が強い場合、人工授精ではなく体外受精の検討を必要とします。

人工授精を考えている方へ

人工授精は自然妊娠に近い不妊治療といわれています。しかし、人工授精には有用性による向き不向きがあるため、医師の診断によっては他の生殖医療を検討する必要があります。また、精液の採取などデリケートな問題を含むことから、パートナーとの話し合いも大切です。

人工授精のメリット

  • 自然妊娠に近い
  • 母体へのダメージが少ない(低侵襲治療)
  • 保険適用

自然妊娠と人工授精の違いは、精子を注入する位置のみです。妊娠・出産は人工授精も自然妊娠も同じ過程をたどります。なお、人工授精は低侵襲の不妊治療です。精子を注入する専用カテーテルは細く柔らかな素材となり、施術時の痛みはほとんどありません。

人工授精にかかる費用は、これまで3万円程度とされていました。しかし、2022年4月より人工授精は保険適用、患者3割自己負担額となります。

人工授精のデメリット

  • 人工授精の副作用
  • 原因不明妊娠症には適さない
  • 精神的プレッシャー

人工授精の副作用は少ないとされています。しかし、注入時の出血や腹痛、発熱の報告が挙げられています。

原因不明妊娠症とは、精子が卵子に到達しないこと以外の原因をもつ不妊のことです。そのため、精子を卵子に到達させるための人工授精では、妊娠の確率の上昇を期待できないとされています。また、男性の精液採取の精神的なプレッシャーなども挙げられるため、パートナーとの話し合いが大切です。

着床の確率をあげるために必要なこと

人工授精の成功率を上げるためには正確な排卵日を知ることが重要です。卵子の受精能力が高いのは、排卵日の前日か当日とされています。

排卵日とは卵巣から卵子が排出される日のことです。人工授精は医師の検査と診断により受精能力のもっとも高い日に、精子の注入を行うことで着床(妊娠)を目指します。

排卵日は医師の診断により以下のデータを参考に調べます。

  • 基礎体温
  • 頸管粘液
  • 卵胞の大きさ
  • 尿やホルモンの値

人工授精は精子の質も大切

人工授精は精子の質がとても重要となります。人工授精を行う際は精液を採取するため、射精をしない期間を2、3日設けるのが望ましいとされています。なお、射精を7日以上しないでいると、精子の質が下がるため注意が必要です。

人工授精とタイミング法との併用

性交障害でない限り、人工授精とタイミング法の併用は可能です。タイミング法による性交渉が、人工授精の妊娠確率を下げる、もしくは妨げるという報告はありません。

人工授精に成功する確率

日本産婦人科医会によると、人工授精1回あたりの妊娠率は約5〜10%と報告されています。

人工授精に成功する人は、4回以内で妊娠する傾向があります。若年女性で5回以上の人工授精をした場合、わずか3〜5%しか妊娠を期待できないとされています。これらのことから人工授精を行い、4回目までに妊娠できなかった場合、体外受精を検討する必要があるでしょう。

人工授精で妊娠が成功した場合の兆候とは

人工授精による妊娠はもっとも自然妊娠に近いとされています。妊娠の兆候も自然妊娠と同様です。基礎体温計や妊娠検査薬を使用し、着床のサインに注意しましょう。

着床のサイン

精子と卵子が受精し受精卵になった後、卵管膨大部から子宮へと移動します。子宮に移動後、子宮の壁に受精卵がつくことを着床といいます。着床のサインとして以下の変化に注意しましょう。

  • 腰痛
  • 「おりもの」の量と性質の変化
  • 着床出血
  • 基礎体温の変化
  • 生理がこない
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腰痛

腰痛の原因は、着床により子宮内膜の変化によって起こります。また、リラキシンの分泌も腰痛の原因とされています。リラキシンとは、骨盤まわりの靭帯を柔らかくするホルモンです。リラキシンによって産道が確保され、赤ちゃんが骨盤をスムーズに通ることができます。

なお、リラキシンが骨盤まわりの靭帯を柔らかくした影響により、まわりの筋肉に負担をかけ、腰痛が起こるとされています。リラキシン分泌は出産後ひと月ほどで治まりますが、腰や関節に違和感が続くようであれば担当医に相談しましょう。

「おりもの」の量と性質の変化

おりものはエストロゲンの分泌とともに量が増減します。受精卵が着床に成功すると、エストロゲン分泌量が増えることから、さらさらとした白っぽいおりものが増えるとされています。

おりものの量が異常に多い、また異臭がある場合は、感染症のおそれがあります。すみやかに診察を受けましょう。

着床出血

着床出血は受精卵の着床によって、子宮内膜が傷つくことが原因とされています。なお、すべての妊婦さんに着床出血が認められるとは限りません。出血するのは1〜2日と短く、出血量はごく少量のため、気がつかないことも少なくありません。

基礎体温の変化

着床すると高体温が続き、これを「高温期」と呼びます。目安として、高温期が2週間以上続くときは妊娠の可能性が考えられます。高温期に気がつくため、基礎体温を記録するようにしましょう。

生理がこない

生理開始予定日から1週間程度遅れても、生理が開始されない場合、妊娠の可能性が高いでしょう。ただし生理不順の可能性もあるため、基礎体温計で記録し体温変化に注意しましょう。

基礎体温の変化

人工授精と自然妊娠の兆候の違いとは

人工授精と自然妊娠の違いは、精子の注入部位のみです。着床(妊娠)の兆候に違いはなく、人工授精の場合も妊娠から出産まで、自然妊娠と同じ経過となります。

妊娠検査薬に反応があるのはいつから?

人工授精であっても、妊娠検査薬の反応する時期などに変化はありません。通常、生理予定日から1週間経過したころ、妊娠検査薬に反応がでます。早期妊娠検査薬であれば、生理開始予定日の3〜4日前から反応がでるでしょう。

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人工授精による胎児の染色体異常の確率

染色体とは細胞の中にあり、複数の遺伝子が記録された構造体のことです。染色体異常は染色体の欠失や重複などの変異によって、ダウン症(21トリソミー)などの先天性疾患を引き起こすとされています。

人工授精は採取した精液から質の良い精子を回収し、最も受精率の高い日に人為的に注入を行う生殖医療となります。自然妊娠と同様の着床(妊娠)となり、染色体異常をもつ赤ちゃんが生まれる確率は人工授精も自然妊娠も変わらないといえるでしょう。

染色体異常で最も多い病気はダウン症

ダウン症(21トリソミー)とは、21番目の染色体が1本多いことで引き起こる先天性疾患です。染色体異常の中で最も高い確率で発症するとされています。

ダウン症(21トリソミー)は、外見的な特徴や言語・IQの発達の遅れが見られます。また、ダウン症(21トリソミー)のある小児の中で約半数が心疾患とされ、さまざまな合併症のリスクも少なくありません。

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NIPT(新型出生前診断)でわかるダウン症リスク

NIPT(新型出生前診断)とは、母体血液のみで胎児の染色体異常リスクを調べるスクリーニング検査のことです。胎児への直接的な侵襲(ダメージ)はないことから安全性が高く、ダウン症(21トリソミー)に関しては、感度・特異度ともに99.9%と、とても高精度な検査といえるでしょう。

ヒロクリニックNIPTNIPT(新型出生前診断)はエコー検査で妊娠が確認できればどなたでも実施可能です。もちろん、人工授精による妊娠であってもNIPT(新型出生前診断)を行うことができます。なお、胎児の染色体異常は先天性疾患だけでなく、流産や早産を引き起こすとされています。NIPT(新型出生前診断)は、生まれてくる赤ちゃんを最適な環境で迎えるための備えだけでなく、母体の健康と生命を守る検査ともいえるでしょう。

人工授精で授かった赤ちゃんの染色体異常の不安や、NIPT(新型出生前診断)について分からないことはヒロクリニックNIPTにご相談ください。NIPT(新型出生前診断)に精通した医師とスタッフが丁寧にご説明いたします。

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新型出生前診断(NIPT)とは、「お母さんから採血した血液から胎児の、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、1...

【参考文献】

人工授精とは生殖医療技術のひとつです。運動率の良好な精子を採取し、直接子宮内に注入することによって着床(妊娠)の実現を目指します。なお、人工授精は他の生殖医療技術とくらべ、最も自然妊娠に近い不妊治療といわれています。

NIPT(新型出生前診断)について詳しく見る

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記事の監修者


岡 博史先生

岡 博史先生

NIPT専門クリニック 医学博士

慶應義塾大学 医学部 卒業

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