人工授精とは生殖医療技術のひとつです。運動率の良好な精子を採取し、直接子宮内に注入することによって着床(妊娠)の実現を目指します。なお、人工授精は他の生殖医療技術とくらべ、最も自然妊娠に近い不妊治療といわれています。
この記事のまとめ
人工授精は、調整した精子を排卵に合わせて子宮内へ注入する体への負担が比較的少ない不妊治療で、1周期あたりの妊娠率はおおむね5〜10%です。タイミング法で授かれないときの次のステップとして選ばれ、2022年4月から保険適用になりました。数回(目安として5〜6回)を区切りに体外受精・顕微授精への切り替えを検討します。人工授精そのものが染色体異常を増やすという明確な根拠はなく、その頻度は自然妊娠と同じく年齢とともに上がります。
この記事でわかること
- 不妊症の定義と、タイミング法から人工授精、体外受精・顕微授精へ進むステップの全体像
- 人工授精(AIH/IUI)の具体的な流れと、向いている人の条件
- 1周期あたりの妊娠率の目安・回数の考え方・2022年4月からの保険適用
- 妊娠したときの初期症状と、染色体異常・NIPTとの関わりの正しい理解
不妊症とは?検査から治療までのステップ
不妊症とは、避妊せず性交渉を続けても1年以上妊娠しない状態を指し、検査のあとタイミング法から段階的に治療を進めていきます。まずは全体の地図を頭に入れておくと、いま自分がどこにいるのかが見えてきます。
妊娠の可否は、女性側だけの問題ではありません。原因が男性側にあることも、双方にあることも同じくらいあります。だからこそ検査は二人で受けるものだと、私はいつも受診相談で感じてきました。
不妊症の定義と受診の目安
一般的な定義は、健康なカップルが避妊をせずに1年間妊娠に至らない状態です。女性が35歳以上の場合は、加齢とともに妊娠しにくくなるため、1年を待たずに早めの受診を考えてください。妊娠を望み始めた段階でできる準備は、妊活前・妊娠前に知っておきたいことにもまとめています。
不妊の主な原因
原因は一つとはかぎりません。検査で複数の要因が重なって見つかることもよくあります。代表的なものを挙げます。
- 無精子症・乏精子症などの男性側の要因
- 排卵障害(多嚢胞性卵巣など)
- 子宮・卵管・骨盤内の異常
- 頸管粘液(おりもの)の異常
- 年齢(とくに35歳以上)
治療のステップアップという考え方
不妊治療は、体への負担が軽い方法から順に試すのが基本です。タイミング法で授かれなければ人工授精へ、それでも難しければ体外受精・顕微授精へと段階を上げていきます。日本産科婦人科学会も、こうした標準的な治療の進め方について日本産科婦人科学会の情報を公開しています。
| 段階 | 治療法 | 体への負担 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 1 | タイミング法 | ごく軽い | 排卵日に合わせて性交渉を行う |
| 2 | 人工授精(AIH/IUI) | 比較的軽い | 調整した精子を子宮内へ注入 |
| 3 | 体外受精 | やや大きい | 採卵し体外で受精させ胚を移植 |
| 4 | 顕微授精 | やや大きい | 精子を卵子に直接注入して受精 |
妊娠までの時間が読めない不安は、当事者にとって本当につらいものです。私も相談を受けるたびに、その焦りに寄り添うことの大切さを痛感します。Xでも@ao88hkさんが「1年タイミングを取って人工授精もしたのに、まだ授かれていない。早く授かりたい」と気持ちを書いていました。焦りは自然な感情です。だからこそ、次の一手を医師と一緒に決めていく姿勢が支えになります。
人工授精とは(AIH/IUI)
人工授精とは、あらかじめ調整した運動性の良い精子を、排卵のタイミングに合わせて細いカテーテルで子宮内へ注入する不妊治療です。体への負担が比較的少なく、自然妊娠にいちばん近い治療のひとつ。英語ではAIH、注入部位が子宮内であればIUIと呼ばれます。
1回で必ず授かるわけではありません。年齢や卵巣の状態によって適した回数は変わり、数周期にわたって行うことも珍しくないのです。
タイミング法との違い
どちらも自然妊娠に近い一般不妊治療です。違いは、精子が卵子にたどり着くまでの距離にあります。タイミング法は排卵日に性交渉を行い、精子が膣から子宮、卵管へと自力で進みます。人工授精は調整した精子を子宮内へ直接届けるため、移動距離が短くなり、卵子に到達しやすくなります。
排卵日の予測には、基礎体温だけでなくエコー検査や尿中の黄体ホルモン検査を組み合わせます。月経が不順な方でも、医療機関の検査を使えば排卵のタイミングを高い精度で読めるようになります。人工授精の基本的な仕組みは、日本産婦人科医会 解説ノートでも一般向けに説明されています。

人工授精の流れ
人工授精は、排卵の予測から採精・精子の調整、子宮内への注入、黄体期の管理という順で進み、注入自体は数分で終わります。一日の通院で完結する治療。全体像をつかんでおくと、当日も落ち着いて臨めます。
排卵の予測と実施計画
月経2〜4日目にエコー検査やホルモン検査を行い、その周期に人工授精が可能かを確認します。卵胞の育ち方を見ながら、排卵前日または当日に注入日を決めます。
採精と精子の調整
精液は院内での採取が基本で、事前に採取したものを持ち込む方法もあります。採取後は不要な細菌や白血球を取り除き、運動性の良い精子だけを回収します。この工程を精子の調整と呼びます。デリケートな内容を含むため、二人でよく話し合って進めてください。
子宮内への注入
調整した精子(およそ0.2〜0.5ml)を、細く柔らかいカテーテルで子宮内へ注入します。子宮腔内に注入する方法が一般的で、この方法をIUIと呼びます。注入そのものは数分で終わり、痛みはほとんどありません。前後の準備や安静を含めても、1時間ほどで帰宅できます。
黄体期の管理
注入後は、受精卵が着床しやすい環境を整える黄体期に入ります。必要に応じて黄体ホルモンを補う薬が処方されることがあります。指示された通院や服薬を守り、次の月経予定日まで過ごしてください。
人工授精が向いている人
人工授精は、精子を卵子に届きやすくする治療のため、軽度の男性因子や頸管の要因、タイミング法で授かれない方に向いています。一方で、卵管が詰まっている場合など、精子が届く以外の要因が主なときは効果が限られます。
向いているケースを整理します。医師の検査結果とあわせて判断してください。
- 乏精子症(精子の数が少ない)や精子無力症(動く精子が少ない)などの軽度の男性因子
- 性交障害があるが採精は可能な場合
- 頸管粘液の異常で、精子が子宮へ進みにくい場合
- 抗精子抗体が軽度の場合
- タイミング法を続けても妊娠に至らない場合
抗精子抗体が強いときや、卵管の通過性に大きな問題があるときは、人工授精ではなく体外受精を検討します。どの段階が合うのかは体質や年齢で変わるため、自己判断せず主治医と相談してください。
人工授精の妊娠率と回数の目安
人工授精の妊娠率は1周期あたりおおむね5〜10%で、数回(目安として5〜6回)を区切りに次のステップを検討するのが一般的です。1回でうまくいかなくても、落ち込みすぎないでください。回数を重ねて授かる方も多くいます。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 1周期あたりの妊娠率 | おおむね5〜10%(幅があります) |
| 次の治療を検討する回数 | 数回(目安5〜6回) |
| 妊娠に至る時期の傾向 | 比較的早い周期に集中しやすい |
この数値には幅があります。年齢や卵巣機能、精子の状態によって前後するため、一つの数字にとらわれる必要はありません。人工授精の位置づけや回数の考え方は、日本産婦人科医会 解説ノートの一般向け解説もあわせて確認してください。
人工授精を数回続けても授かれないとき、次のステップへ進む決断はとても勇気がいります。私は、その切り替えを前向きな一歩として受け止めてほしいと考えています。Xでも@e8xwkjさんが「多嚢胞性卵巣が分かって26歳から不妊治療を始め、7回の人工授精ではうまくいかず、結局は顕微授精の2回目で妊娠できた」と経過を書いていました。人工授精から体外受精・顕微授精へ進んで授かる方は、けっして少なくありません。回数の目安は、あきらめの線引きではなく次を考えるきっかけです。
2022年4月からの保険適用
人工授精は2022年4月から公的医療保険の対象になり、原則3割の自己負担で受けられるようになりました。体外受精・顕微授精も一定の要件のもとで保険適用となり、費用を理由にためらっていた方の選択肢が広がっています。
それまで人工授精は自費で数万円程度かかることが一般的でした。保険適用によって負担が下がったぶん、早い段階で治療を始めやすくなっています。自治体によっては独自の助成もあるため、お住まいの制度も確認してください。妊娠・出産に関わる公的な支援は、こども家庭庁 母子保健にも情報がまとまっています。
妊娠したときの初期症状
人工授精での妊娠は自然妊娠と同じ経過をたどるため、初期症状も基礎体温の高温期の持続や生理の遅れなど、自然妊娠と変わりません。着床のサインは個人差が大きく、はっきり感じない方もいます。焦らず体のサインを見ていきましょう。
受精卵が子宮の壁に着くことを着床といいます。着床のころに現れやすい変化を挙げます。
- 高温期が続く(基礎体温の変化)
- 生理予定日を過ぎても月経がこない
- さらさらとした白っぽいおりものが増える
- ごく少量の着床出血が1〜2日みられることがある
- 軽い腰の重さやだるさを感じる
これらは月経前の不調と見分けがつきにくいものです。高温期が2週間以上続くときは、妊娠の可能性を考えてください。基礎体温を毎日記録しておくと、変化に気づきやすくなります。

妊娠検査薬に反応が出る時期
人工授精でも、妊娠検査薬が反応する時期は自然妊娠と同じです。一般的な検査薬は、生理予定日の1週間後ごろから反応します。早期妊娠検査薬なら、生理開始予定日の3〜4日前から反応が出ることもあります。妊娠が分かったら、赤ちゃんの神経管の発育のために葉酸を意識した食事も心がけてください。
人工授精と染色体異常の関係
人工授精そのものが胎児の染色体異常を増やすという明確な根拠はなく、その頻度は自然妊娠と同じように母体の年齢とともに上がります。治療法が原因ではないという事実を、まず知っておいてください。
染色体は、遺伝子の情報が収められた構造体です。その本数や構造の変化によって、ダウン症(21トリソミー)などの先天性の疾患が起こることがあります。人工授精は、調整した精子を人為的に届けるだけで、受精から着床の過程は自然妊娠と同じ。だからこそ、染色体異常の起こりやすさも治療法では変わりません。
染色体異常の頻度と年齢
染色体異常のなかで頻度が高いのが、ダウン症(21トリソミー)です。こうした染色体の変化が起こる頻度は、自然妊娠でも人工授精でも、母体の年齢が上がるほど高くなる傾向が知られています。これは加齢に伴う卵子の変化によるもので、治療をしたから増えるわけではありません。過度に不安を抱え込まないでください。
NIPTという選択肢
赤ちゃんの染色体を気にかける方に向けて、出生前診断という選択肢があります。NIPT(新型出生前診断)は、母体の採血だけで胎児の染色体の状態を調べる検査です。ここで大切な前提が一つあります。NIPTは13・18・21トリソミーなど対象となる染色体に限定した非確定的な検査であり、結果を確定するには羊水検査などの確定的検査が必要です。
受けるか受けないかに、正解はありません。検査の意味や結果の受け止め方を含めて、二人で納得してから決めることが何より大切です。ヒロクリニックNIPTでは、人工授精で授かった方の検査も同じように行えます。分からないことは、遠慮なくご相談ください。
よくある質問
人工授精について、相談の場でよく寄せられる疑問をまとめます。気になる点があれば主治医にも確認してください。
Q. 人工授精は痛いですか?
注入に使うカテーテルは細く柔らかいため、痛みはほとんどありません。処置自体は数分で終わります。前後の準備や安静を含めても短時間で、当日中に帰宅できます。
Q. 人工授精の妊娠率はどのくらいですか?
1周期あたりおおむね5〜10%が目安です。年齢や卵巣機能、精子の状態によって幅があります。数回(目安5〜6回)を区切りに、体外受精・顕微授精への切り替えを検討します。
Q. 人工授精は保険適用ですか?
2022年4月から公的医療保険の対象になり、原則3割の自己負担で受けられます。体外受精・顕微授精も一定の要件のもとで保険適用です。自治体独自の助成がある場合もあるため、お住まいの制度も確認してください。
Q. 人工授精だと染色体異常が増えますか?
人工授精そのものが染色体異常を増やすという明確な根拠はありません。染色体異常の頻度は、自然妊娠でも人工授精でも母体の年齢とともに上がる傾向があります。治療法が原因ではないため、必要以上に不安を抱えないでください。
Q. 人工授精で授かってもNIPTは受けられますか?
受けられます。NIPTは13・18・21トリソミーなど対象を限定した非確定的な検査で、確定には羊水検査などが必要です。受けるかどうかは、検査の意味を理解したうえで二人で決めてください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
人工授精とは生殖医療技術のひとつです。運動率の良好な精子を採取し、直接子宮内に注入することによって着床(妊娠)の実現を目指します。なお、人工授精は他の生殖医療技術とくらべ、最も自然妊娠に近い不妊治療といわれています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
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- 日本生殖医学会. 生殖医療ガイドライン 2021年度版. 東京: 日本生殖医学会; 2021. (人工授精の適応および実施基準に関するガイドライン)

