臨月とは
臨月とは「もうすぐ出産を迎える時期」をさす言葉です。一般的に用いられている言葉で医学用語ではありません。
臨月はいつからいつまで?
臨月は出産予定日の1か月前を意味します。いわゆる「妊娠10か月」「在胎週数36週0日から39週6日」が臨月にあたるのです。
医学用語で出産の時期を意味する「正期産」は「在胎週数37週0日から41週6日」で、臨月とは時期が異なっています。

臨月の赤ちゃんの変化
臨月はもうすぐ出産を迎える時期です。赤ちゃんはいつ生まれても外の世界に適応できるように、脳や心臓・肺・肌などは新生児と変わらないくらいに成長しています。身長や体重もぐんぐん大きくなり、皮下脂肪もつきふっくらと赤ちゃんらしくなっていきます。
臨月の胎動
羊水の中でのびのびと動いていた赤ちゃんも生まれるための準備をはじめる時期です。胎動にも変化があります。
手足を体の前で組んで体を小さく丸め、少しずつ骨盤の中に降りていきます。頭が骨盤の中にすっぽりとはまったような姿勢になるので、胎動が少しずつ減ったように感じるのです。
しかし胎動には個人差があり、出産当日まで手足を活発に動かして胎動が激しい赤ちゃんもたくさんいます。
臨月だからといって赤ちゃんの胎動がまったくなくなるわけではありません。一般的に言われている「出産が近くなると胎動がなくなる」というのは間違った情報です。胎動は赤ちゃんが元気である証拠。胎動がなくなることは赤ちゃんの元気がなくなり、胎児仮死や死産などとても危険な状態に陥っている可能性があるのです。
「胎動が少なくなった」「いつもよりも胎動カウントに時間がかかる」という場合には、すぐにかかりつけの病院を受診しましょう。
臨月の妊婦さんの変化
臨月で変化するのは赤ちゃんだけではありません。妊婦さんの体にもさまざまな変化が起こります。
臨月はどんどん赤ちゃんの体重が増える時期。赤ちゃんの体重増加に伴なって、ママの内臓が圧迫され胃がムカムカする、吐き気がする、気持ちが悪いなどを自覚するケースがあります。
しかし、出産に近づくと赤ちゃんの位置が少しずつ下がってくるため、胃の圧迫感は少なくなる傾向があります。その他にも、胸の圧迫感や動悸・息切れ等も減っていきます。反対に膀胱が圧迫されるので、尿漏れや頻尿などを自覚しやすい時期です。
臨月によくある症状
臨月によくある症状を以下にまとめました。
前駆陣痛
出産の兆候である前駆陣痛(ぜんくじんつう)は、不規則な軽いお腹の張りが特徴です。お腹の張りだけでなく軽い腰痛や吐き気、胃の痛み・生理痛に似た痛みを自覚します。
胃がムカムカする、吐き気がする、気持ち悪い
妊娠中に多く分泌される「プロゲステロン」には、胃腸の働きを弱める作用があります。臨月にはお腹も大きくなってママの内臓が圧迫されます。その結果、内臓の働きが悪くなり消化不良や食欲不振、胃のむかつきや胃痛、吐き気が起こりやすくなるのです。
足の付け根や股関節痛・恥骨痛がある
臨月になるとお腹も大きくなり、赤ちゃんが徐々に下にさがってきます。赤ちゃんが降りてくると、女性ホルモンの働きで柔らかくなった骨盤周囲の関節が動きやすくなり、骨盤の骨の一部である恥骨(ちこつ)に負担がかかります。
さらに大きくなったお腹を支えるために、恥骨や股関節に負担がかかり足の付け根の痛みや股関節痛・恥骨痛・腰痛を発症しやすくなります。足もむくんだり、だるくなったりしやすいので無理をせず体を休めるようにしましょう。
おりものが増える
おりものは女性ホルモンの影響を受けやすく、臨月には出産に向けておりものが多くなる傾向があります。おりものと似た症状に「おしるし」と「破水」があります。
「おしるし」は粘液栓とも呼ばれていて、出産数日前から2週間前程度に透明やピンク、少し血が混じる、茶色っぽいなどのねばっとしたおりものが出る状態です。
量や性状には個人差がありますが、生理のような出血は異常です。おりものの量が明らかに増えた、ツーンとするにおいがするなど、普段とにおいや性状が異なるおりものの場合には速やかに医療機関を受診しましょう。
「破水」は羊水が流れ出ている状態です。さらさらとした水っぽいものが、体を動かすと出るときには破水の可能性が高いため速やかに医療機関を受診しましょう。
眠い・眠れない
臨月になると多く分泌される「エストロゲン」というホルモンには、妊娠を維持する働きだけではなく夜の寝つきが悪くなるという特徴があります。さらに、お腹が大きく・重くなると日常生活で体力を消耗してしまうため疲れやすくなり、眠気を感じます。
しかし、眠ろうとすると胎動を激しく感じたり、息苦しい感じや尿意などでぐっすり眠れないため、眠い・眠れないと感じる妊婦さんが多いようです。
便秘・下痢
妊娠中に分泌される「プロゲステロン」は妊娠8〜9か月をピークに出産に向けて分泌量が減っていきます。プロゲステロンには腸の運動を抑える働きがあり、プロゲステロンが多く分泌されている時期には便秘になりやすく、プロゲステロンの分泌が減少すると便秘が解消されたり、下痢になりやすくなったりします。それ以外にも、大きくなった赤ちゃんが腸を圧迫し腸の働きが鈍くなり便秘や下痢になるケースもあります。
臨月の過ごし方
いつ赤ちゃんが生まれてきてもおかしくない「臨月」。赤ちゃんが大きくなるに従ってママの体にも負担がかかります。疲れやすくなってゆったりと過ごすママの中には「暇だな」「寝てばかりで大丈夫かな」と思うかもしれません。けれども一番大切にしたいのは、ママと赤ちゃんの健康です。自分の体と相談しながら無理のないように過ごしましょう。
体調がよい時には家事やウォーキング・軽い運動などで体を動かしたり、出産・産後に向けた準備をすすめるとよいでしょう。また、産後は写真を撮る機会も増えます。子育てに忙しく美容院に行く暇も取れなくなるため美容院で髪を整えたり、美味しいものを食べるなど、ゆったりとした時間を過ごすのもおすすめです。
臨月にやってはいけない事
臨月は赤ちゃんにもママにも無理のない時間を過ごしたいもの。臨月にやってはいけないことをまとめました。
重いものを持つ
重いものを持つとお腹に力が入りすぎたり、バランスを崩したりする可能性があります。疲れやすくもなりますので、避けるようにしましょう。
強くお腹を圧迫する
満員電車や混雑した場所など、強くお腹を圧迫したり強い衝撃が加わるリスクがある状況は避けましょう。
長距離・長時間の旅行
いつ出産になってもおかしくない臨月は、かかりつけ産院から離れた場所への移動はさけましょう。遠方や過疎地は医療体制が充実していない場合も多く、慣れない場所で受診先を探すのも大変です。赤ちゃんの命を守るためにも、長距離・長時間の旅行は避けましょう。
車や自転車等の運転
臨月の車や自転車の運転はおすすめできません。いつ陣痛が起こってもおかしくないからです。さらに自転車はバランスを崩して転んだり、けがをするリスクも高くなります。臨月の移動手段は混雑していない時間帯に公共交通機関を利用したり、家族の運転する車や公共交通機関を利用したりしましょう。

出産前の準備
出産前に準備しておきたいことは3つあります。出産前・出産後に困らないように、少しずつすすめていきましょう。
陣痛バッグ・入院バッグの準備
臨月はいつ陣痛が起こってもおかしくありません。陣痛が起こったら最低限持参したいものを、自分ひとりで持参できるバッグに詰めたものを陣痛バッグといいます。母子手帳や診察券、筆記具、フェイスタオルやペットボトルストロー、マスクや消毒薬などのコロナ対策グッズ、病院から指定されている出産時・直後に必要なものをまとめます。
入院バッグは入院中から退院後に使用するものをまとめたバッグです。産褥ショーツや授乳ブラ・母乳パッド、円座や授乳クッション、退院時のママの洋服と赤ちゃんのセレモニードレスなどを揃えます。スキンケアセットやメイク道具も忘れずに入れるようにしましょう。
赤ちゃんグッズの準備
いつ赤ちゃんが生まれてもよいように、赤ちゃんグッズの準備を整えておきましょう。購入するだけでなく肌着やリネン類を洗い、布団を干すなどいつでも使えるように準備します。
出産後の連絡や内祝いの準備
出産後は何かとバタバタしてしまうもの。出産後には誰に連絡するのか、また内祝いは誰に何を揃えるのかなど、事前に調べておきましょう。
NIPT(新型出生前診断)はいつまで受けられる?
一般的にNIPT(新型出生前診断)は妊娠10週0日から受けられ、ママの血液で赤ちゃんの染色体異常の可能性があるかを調べられます。非侵襲性出生前遺伝学的検査/非侵襲的出生前遺伝学的検査ともいい、赤ちゃんへの負担なくリスクを調べられる検査です。
スクリーニング検査(非確定的検査)ですので、結果が陽性の場合、診断を確定するためには⽺⽔検査などの確定検査を受ける必要があります。羊水検査を受けられる時期は妊娠15〜18週目頃ですので、NIPT(新型出生前診断) は妊娠15,16週目頃までに受けることが推奨されています。
妊娠18週を過ぎていても、赤ちゃんの染色体異常について心配があり、出産前に検査を受けておきたい場合、ヒロクリニックNIPTでは、胎児がお腹にいる限り検査を受けることが可能ですので、ご予約についてご相談ください。ただし臨月で受けた場合は、検査結果が出る前に出産という可能性もあります。
まとめ
臨月はいつ出産になってもおかしくない時期です。
出産に向けてママと赤ちゃんに起こる変化を正しく理解し、無理をせずに臨月を過ごしましょう。
【参考文献】
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会・公益社団法人 日本産婦人科医会 – 産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2020
記事の監修者

川野 俊昭先生
ヒロクリニック博多駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科医として25年以上、主に九州で妊婦さんや出産に向き合ってきた。経験を活かしてヒロクリニック博多駅前院の院長としてNIPT(新型出生前診断)をより一般的な検査へと牽引すべく日々啓発に努めている。
略歴
1995年 九州大学 医学部卒業
1995年 九州厚生年金病院 産婦人科
1996年 九州大学医学部付属病院 産婦人科
1996年 佐世保共済病院 産婦人科
1997年 大分市郡医師会立アルメイダ病院 産婦人科
1998年 宮崎県立宮崎病院 産婦人科 副医長
2003年 慈恵病院 産婦人科 医長
2007年 日本赤十字社熊本健康管理センター診療部 副部長
2018年 桜十字福岡病院 婦人科
2020年 ヒロクリニック博多駅前院 院長
資格
日本産科婦人科学会専門医
検診マンモグラフィ読影認定医
日本スポーツ協会公認 スポーツドクター
厚生労働省認定臨床研修指導医
日本抗加齢医学会専門医