ポトツキ・シャッファー症候群(PSS; Potocki-Shaffer syndrome)は11番染色体の一部欠失による稀な遺伝性疾患です。骨腫瘍や頭蓋顔面異常、発達遅延が主な特徴で、早期診断と多職種連携が重要です。
この記事のまとめ
ポトツキ・シャッファー症候群は、11番染色体の短い腕にある11p11.2という領域が失われて起こる、とても稀な染色体の病気です。複数の遺伝子がまとまって欠けるため、骨にできる良性のこぶ(多発性外骨腫)、頭蓋骨の一部が閉じにくい特徴、発達や知的の個人差、視覚や顔立ちの特徴などが組み合わさって現れます。欠けた範囲の大きさで症状の幅が変わり、診断は染色体マイクロアレイなどの遺伝学的検査で行います。NIPT(新型出生前診断)は主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体を調べる検査で、この微細な欠失は一般的な対象ではありません。気になることがあれば、自己判断せず産婦人科や遺伝カウンセリングへ相談してください。
この記事でわかること
- ポトツキ・シャッファー症候群とは何か、11p11.2の欠失で何が起こるのか
- 連続遺伝子欠失症候群のしくみと、症状に幅が出る理由
- 骨・頭蓋骨・発達など、組み合わさって現れる特徴と管理の考え方
- 診断の方法と、NIPTで分かる範囲の限界・確定診断との違い
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ポトツキ・シャッファー症候群とは|11番染色体短腕11p11.2の欠失
ポトツキ・シャッファー症候群は、11番染色体の短い腕にある11p11.2という領域が欠けることで起こる、非常に稀な遺伝性の病気です。この領域には複数の遺伝子が並んでいます。それらがまとまって失われるため、体のいくつもの部分に特徴が現れます。まずは全体像から見ていきましょう。
この病気は、いくつかの呼び名で語られてきました。11p11.2の欠失にちなんだ名称や、短腕の近位側が欠けることを指す言い方などです。いずれも同じ状態を指します。

主な特徴は、骨にできる複数の良性のこぶ(多発性外骨腫)です。加えて、頭蓋骨に開いた部分が残る特徴もよく知られます。発達や知的の個人差、視覚や顔立ちの特徴も伴います。ひとつの病気で、体のあちこちに影響が及ぶ点が特徴。
症状の重さや現れ方には、大きな個人差があります。ほとんど気づかれずに成長する方もいれば、丁寧な支援を必要とする方もいます。心臓や腎臓、尿路の特徴を伴う場合もあります。だからこそ、一人ひとりの状態に合わせた見守りが軸になります。

発生する頻度は、極めて低いと考えられています。推定では100万人に1人未満とされ、研究によっては5万人に1人未満というより控えめな見積もりも示されています。いずれにしても、日常でめったに出会わない稀な疾患。難病や発達に関する情報は、難病情報センターなど公的な情報源にあたると安心です。
なぜ起こるのか|連続遺伝子欠失症候群のしくみ
ポトツキ・シャッファー症候群は、11p11.2に並ぶ複数の遺伝子がまとめて失われることで起こる「連続遺伝子欠失症候群」です。ひとつの遺伝子ではなく、隣り合ういくつもの遺伝子が同時に欠けます。だから症状も複数の系統にまたがって現れます。ここではそのしくみを整理します。
失われる遺伝子の中には、骨の成長に関わるものがあります。この遺伝子が欠けると、骨に良性のこぶができる多発性外骨腫につながります。腫瘍を抑える働きにも関係すると考えられています。骨の特徴の背景には、こうした遺伝子の欠失。
頭蓋骨の形づくりに関わる遺伝子も、この領域に含まれます。この遺伝子が欠けると、頭蓋骨に開いた部分が残ったり、骨のつなぎ目が早く閉じたりする特徴が現れます。ほかにも脳の働きや目、代謝に関わる遺伝子が並んでいます。多彩な症状の理由は、この遺伝子の並びにあります。
症状がそろって現れるかどうかは、欠けた範囲の大きさで変わります。研究では、特定の目印となる領域の間で、およそ2.1メガベース(染色体上の長さの単位)以上が失われると、特徴がそろって出やすいと報告されています。欠失が小さければ、発達の遅れや筋緊張の低さなど一部の特徴にとどまることもあります。範囲の違いが、症状の幅を生み出します。

知的や発達の特徴について、より広く知りたい方もいるでしょう。関連する話題は妊娠と知的障害のリスクを整理した記事でもまとめています。頭蓋骨のつなぎ目が早く閉じる特徴については、頭蓋骨早期癒合症の解説記事も参考になります。
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どんな症状が現れるのか|骨・頭蓋骨・発達
症状は、骨格・頭蓋顔面・発達や神経・全身の4つの系統に大きく分けられ、これらが人によってさまざまに組み合わさって現れます。すべてがそろうわけではありません。どの特徴がどの程度出るかは、一人ひとり異なります。ここでは代表的な特徴を系統ごとに見ていきます。
骨格の特徴として代表的なのが、複数の骨にできる良性のこぶ(多発性外骨腫)です。長い骨や肋骨などに現れます。多くは良性ですが、大きくなると痛みや動かしにくさ、神経の圧迫につながることがあります。短い指、指どうしが皮膚でつながる特徴を伴う場合も。
頭蓋顔面の特徴では、頭蓋骨に開いた部分が残ることが知られます。新生児期の柔らかい部分が閉じずに残る状態です。広く短い頭の形、目立つ額、広い鼻すじ、小さめの顎などの顔立ちの特徴も報告されています。まぶたの下がりや、目の間隔の特徴を伴うこともあります。
発達や神経の面では、発達の遅れや知的の個人差が見られることがあります。言葉や運動、社会性の習得がゆっくり進む場合です。筋肉の緊張が弱い、けいれん発作が起こる、音を感じ取る力に関わる難聴などを伴うこともあります。目の動きの特徴が見られる場合もあります。

全身に関わる特徴として、甲状腺の働きの低下や、血圧の高さが報告される場合があります。思春期の進み方の違い、貧血、腎臓の腫瘍などを伴うこともあります。下の表に、4つの系統の代表的な特徴を並べました。医師の説明を受けるときの手がかりにしてください。
| 系統 | 代表的な特徴 | ケアの視点 |
|---|---|---|
| 骨格 | 骨の良性のこぶ・短い指 | 整形外科での定期的な確認 |
| 頭蓋顔面 | 頭蓋骨の開き・特徴的な顔立ち | 脳神経外科や形成の視点 |
| 発達や神経 | 発達の遅れ・筋緊張の低さ・けいれん | 発達支援・小児神経の関わり |
| 全身 | 視覚や聴覚・内分泌・腎臓の特徴 | 眼科・耳鼻科・内分泌の定期検査 |
視覚や聴覚は、早い段階での確認が支えになります。目の斜視や目の動きの特徴、耳の聞こえの特徴は、生活のしやすさに関わるためです。乳児期からの眼科・聴覚の検査が、早めの気づきにつながります。困りごとを減らす第一歩。
どうやって診断するのか|検査でわかる範囲の限界
診断は、染色体マイクロアレイなどの遺伝学的検査で11p11.2の欠失を確認し、画像検査で骨や頭蓋骨の特徴を調べて総合的に判断します。見た目の特徴だけでは、確定できません。遺伝子の欠失を直接とらえる検査が土台になります。ここで検査の種類と、分かる範囲の限界を整理します。

生まれた後の検査では、染色体の細かな欠失を調べる方法が使われます。特定の場所を光らせて確認する方法や、染色体全体を細かく調べる染色体マイクロアレイなどです。マイクロアレイは、微細な欠失をとらえる力にすぐれています。骨の状態は、画像検査で確認します。
ここで大切なのが、NIPT(新型出生前診断)で分かる範囲との違いです。NIPTは、主に21・18・13トリソミーなど、特定の染色体の本数の変化を調べる検査。妊婦さんの血液に含まれる、胎児由来のDNAのかけら(細胞外を流れるDNA、cfDNA)を分析します。あくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、非確定的な検査です。
11p11.2のような微細な欠失は、一般的なNIPTの対象ではありません。NIPTが調べる範囲は、原則として本数の変化が中心だからです。仮に陽性の結果が出ても、確定には羊水検査などの確定的検査が必要です。検査で分かることと分からないことを、あらかじめ知っておいてください。NIPTの結果の読み方はNIPTの検査結果の見方をまとめた記事で詳しく解説しています。
染色体の欠失や重複を広く知りたい方には、関連する疾患の解説も参考になります。ダウン症以外の知的障害との関わりはダウン症以外の知的障害とNIPTの記事で、別の欠失症候群の例は5q12欠失症候群の解説記事でまとめています。全体像を知ると、検査の位置づけが見えてきます。
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治療と管理|多職種チームで支える
根本的な治療法は今のところありませんが、症状に合わせたケアを組み合わせることで、生活のしやすさを高めていけます。ひとつの科だけで完結する病気ではありません。複数の専門家が連携して支えます。ここでは管理の考え方を紹介します。
整形外科・脳神経外科・眼科・耳鼻科・内分泌・発達支援など、多くの分野が関わります。骨のこぶが神経を圧迫したり動きを妨げたりする場合は、手術が検討されることもあります。定期的な検査で、状態の変化を早めにとらえます。多職種のチームで見守る体制が土台。
発達の遅れがある場合は、言語療法・理学療法・作業療法などが役立ちます。けいれん発作には、状態に応じた薬が使われることがあります。視覚や聴覚は、定期的な検査で管理します。甲状腺や思春期に関わる特徴には、ホルモンの治療が選ばれることも。一つひとつ、丁寧に対応していきます。

研究では、子どもへの早期の関わりが大切だと指摘されています。診断がついた段階で、発達や行動の専門家につながることがすすめられます。骨全体の詳しい検査や、目・耳の早期の検査も推奨されています。乳児期からの見守りが、困りごとを小さくする助けになります。
私は検査や相談の場に立ち会ってきて、家族が「何をどこに相談すればよいか」で悩む姿を何度も見てきました。窓口が分かるだけで、気持ちがずいぶん軽くなります。発達に関する支援制度は国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター、障害のあるお子さんへの支援はこども家庭庁 障害児支援の情報も参考にしてください。公的な窓口を知っておくと安心です。
将来の見通しと遺伝カウンセリング
将来の見通しには大きな個人差があり、正常に近い発達を示す方から、丁寧な支援を要する方まで幅があります。欠けた範囲の大きさや、伴う特徴によって道すじは変わります。早めの診断と定期的な見守りが、暮らしを支えます。ここでは予後と遺伝相談の意義を整理します。
欠失が大きい場合には、ほかの症候群が関わると報告されたケースもあります。一方で、特徴が軽く経過する方もいます。早い段階で状態を把握し、必要なケアにつなげることが、生活の質を保つ鍵。定期的なモニタリングで、変化に早く気づけます。

ご家族にとって心強いのが、遺伝カウンセリングです。染色体の再構成が関わる場合、次のお子さんでの起こりやすさを知る手がかりになります。両親の染色体を調べる検査がすすめられることも。専門家と一緒に情報を整理することで、落ち着いた判断につながります。
検査を受けるかどうか|夫婦で考える
出生前検査を受けるかどうかに、唯一の正解はなく、夫婦の価値観と納得のうえで決めることがいちばん大切です。受けても受けなくても、その選択は尊重されるべきものです。私は、迷う気持ちそのものが自然なことだと感じています。ここでは向き合い方を一緒に考えます。
結果をどう受け止めるかを、あらかじめ夫婦で話しておくと気持ちが定まります。実際に、結果にかかわらず産むと決めて検査を受けない選択をする方もいます。Xでも@d5nulさんが、夫婦で話し合い「陰性でも陽性でもどちらにしろ産むから」と考えてNIPTを受けないことにした、とつづっていました。二人で出した答えなら、それが正解。価値観を軸に決める姿勢が伝わってきます。
施設選びと相談の進め方
受けると決めたら、どこで受けるかも大事な検討点です。施設によって、対応や陽性だったときの流れが異なるためです。私は、遺伝カウンセリングを受けてから決める進め方を大切にしてほしいと考えています。事前の相談が、迷いを整理する助けになります。
認証を受けた施設かどうかで、確定検査への案内などに違いが出ることもあります。Xでも@okupanxc4oさんが、産院で遺伝カウンセリングを受け、非認可の施設と認定施設とで対応や精度が微妙に異なると知って、あらためて夫と相談することにした、と書いていました。情報を集めるほど迷うこともある。だからこそ、専門家と一緒に整理する時間が役立ちます。妊娠期の不安があれば、ひとりで抱え込まずに相談してください。
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よくある質問
Q. ポトツキ・シャッファー症候群はどれくらい稀な病気ですか?
非常に稀な染色体の病気です。推定では100万人に1人未満とされ、研究によっては5万人に1人未満というより控えめな見積もりも示されています。11番染色体の短い腕にある11p11.2という領域が失われて起こります。日常でめったに出会わない疾患のため、診断や管理は専門の医療機関で行われます。
Q. NIPTでポトツキ・シャッファー症候群は分かりますか?
一般的なNIPT(新型出生前診断)の対象ではありません。NIPTは主に21・18・13トリソミーなど、特定の染色体の本数の変化を調べる非確定的な検査です。11p11.2のような微細な欠失は、原則としてこの検査で調べる範囲に含まれません。欠失の診断には、染色体マイクロアレイなどの遺伝学的検査が用いられます。
Q. どうやって診断するのですか?
遺伝学的検査と画像検査を組み合わせて総合的に判断します。染色体マイクロアレイなどで11p11.2の欠失を確認し、骨や頭蓋骨の特徴を画像で調べます。見た目の特徴だけでは確定できません。NIPTなどのスクリーニングで疑いが生じた場合も、確定には羊水検査などの確定的検査が必要になります。
Q. 症状の重さには個人差がありますか?
大きな個人差があります。欠けた範囲の大きさによって、特徴がそろって現れることもあれば、発達の遅れや筋緊張の低さなど一部にとどまることもあります。正常に近い発達を示す方もいれば、丁寧な支援を必要とする方もいます。だからこそ、一人ひとりの状態に合わせた見守りとケアが大切になります。
Q. 治せる病気ですか?どんなケアをしますか?
根本的な治療法は今のところありませんが、症状に合わせたケアで生活のしやすさを高めていけます。整形外科・脳神経外科・眼科・発達支援など、多職種のチームで支えます。骨のこぶが神経を圧迫する場合は手術が検討され、発達の遅れには療育が役立ちます。早期の診断と定期的な検査が、困りごとを小さくする助けになります。
Q. 次の子どもにも起こりやすいですか?
染色体の再構成が関わる場合、起こりやすさが変わることがあります。両親の染色体を調べる検査で、背景を確認できることもあります。気になるときは、遺伝カウンセリングで専門家と一緒に情報を整理してください。個々の状況によって考え方が異なるため、自己判断せず、担当医や遺伝の専門外来に相談してください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
ポトツキ・シャッファー症候群(PSS; Potocki-Shaffer syndrome)は11番染色体の一部欠失による稀な遺伝性疾患です。骨腫瘍や頭蓋顔面異常、発達遅延が主な特徴で、早期診断と多職種連携が重要です。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

