不育症とは?原因や治療方法などを解説【医師監修】

不育症とは

不育症では妊娠と流産・死産を繰り返し、精神的に追い込まれたり辛い思いをすることがあります。原因が不明ということも多く、自責してしまう妊婦さんもいらっしゃいます。今回は不育症について詳しく解説します。

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この記事のまとめ

2回以上の流産(妊娠22週未満)・死産(妊娠22週以降)の既往がある場合、不育症と診断されます。不育症の原因の主なものとして、抗リン脂質抗体症候群、子宮の先天異常、両親いずれかの染色体異常、胎児の染色体異常、内分泌疾患などが挙げられます。治療法は不育症が起こっている原因によって異なります。

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不育症とは

日本産婦人科医会では、不育症をこのように定義しています。

2回以上の流産(妊娠22週未満)・死産(妊娠22週以降)の既往がある場合、不育症と診断されます。異所性妊娠や絨毛性疾患(胞状奇胎)、生化学的妊娠は、流産回数に含めません。

公益社団法人 日本産婦人科医会 – 「不育症について教えてください

流産・死産を繰り返してしまうことで「妊娠したらまた流産してしまうのではないか」と不安に駆られ精神的に追い込まれたり辛い思いをすることがあります。また原因が不明とされることも多く、自責してしまう妊婦さんも多くいらっしゃいます。

不育症の原因

不育症の原因の主なものとして、抗リン脂質抗体症候群、子宮の先天異常、両親いずれかの染色体異常、胎児の染色体異常、内分泌疾患などが挙げられます。

不育症のリスク因子

2019年の調査では、主な不育症のリスク因子は、抗リン脂質抗体陽性8.7%、子宮形態異常 7.9%、甲状腺機能異常9.5%、両親いずれかの染色体異常は3.7%でした。他にも第12因子(XII因子)欠乏症、プロテインS欠乏症などのリスク因子があります。

最も頻度が高いものは偶発的流産(胎児染色体異常)とリスク因子不明であり、これらは「原因不明」とされ、全体の65.2%にものぼります。不育症の原因として胎児の染色体異常の頻度が高いにもかかわらず、検査が実施されないために「原因不明」とみなされてしまっていたのです。

不育症のリスク因子

引用:厚生労働省 – 医学的見地からみた不育症治療の現状や問題点について

抗リン脂質抗体症候群

「抗リン脂質抗体」と呼ばれる自己抗体が母体の血液中に出現して血液が固まりやすくなり、血栓症や流産が生じやすくなる病気です。

子宮形態異常

子宮の形に異常がある状態で、先天性(生まれつき)であることがほとんどです。流産の原因になる子宮形態異常には、重複子宮、双角子宮、中隔子宮、単角子宮などの子宮奇形と、子宮粘膜下筋腫や後天的なものがあります。特に中隔子宮は流産率が高いといわれています。

両親いずれかの染色体異常

両親のいずれかに「均衡型転座」と呼ばれる染色体異常があると、流産の頻度が高くなります。均衡型転座とは、ある染色体の一部分が、別の染色体の一部分と入れ替わることです。遺伝子の過不足はないので、均衡型転座を持った人自身に問題は生じませんが、卵子や精子を作る際に、遺伝子に障害が起こり流産に繋がることがあります。

胎児の染色体異常

通常は2本であるはずの染色体が1本多くなる「トリソミー」など胎児の染色体の数に異常があると流産の原因となります。不育症の原因として頻度が高いのは、胎児の染色体異常です。

内分泌疾患

甲状腺機能低下症、糖尿病などの病気を持っている妊婦さんは流産を起こしやすいと考えられています。

不育症の検査

胎児の染色体異常を調べる「流産絨毛染色体検査(POC検査)」が2022年4月より保険適用になりました。ただし、すべての施設で保険適用になるわけではなく、要件を満たした施設のみ保険算定ができることになっています。検査費用は他の検査と合算しておおよそ2〜5万円程度のようです。

不育症の恐れがあることがわかったら、下記のリスク因子のスクリーニング検査を受け不育の原因を調べることが推奨されています。

リスク因子別の検査

抗リン脂質抗体検査

血液検査で、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなどを調べます。

子宮形態検査

子宮卵管造影検査、超音波(エコー)検査、子宮鏡検査、MRI検査などがあります。

両親いずれかの染色体検査

血液検査で染色体異常の有無を調べることができます。また検査と一緒に専門家による遺伝カウンセリングを受けることが望ましいです。

流産絨毛染色体検査(POC検査)

流産した赤ちゃんの絨毛(じゅうもう)という部分(妊娠初期の胎盤の一部)の組織を採取し、染色体異常の有無を調べます。赤ちゃん側の染色体異常であれば、今回の流産は偶発的に起こったものであると診断でき、次の妊娠・出産への可能性が高くなります。

内分泌検査

甲状腺ホルモン、糖尿病の検査などを血液検査で調べます。

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不育症の治療

不育症が起こっている原因によって、治療方法も異なってきます。まずは検査を受け、不育症の原因を調べる必要があります。

リスク因子別の治療

抗リン脂質抗体症候群

陽性であった場合、12週間以上の間隔をあけて再検査をうけます。低用量アスピリン+ヘパリンカルシウムの投与が基本的な治療法となり、妊娠中も十分なチェックをうけます。

子宮形態異常

中隔子宮は不育症で最も多くみられる子宮奇形で流産率が高いといわれており、流産を繰り返す場合は手術療法の対象になります。手術をすることで妊娠継続率は改善します。

次に多い双角子宮では流産はしにくいのですが、早産や赤ちゃんの発育が悪くなったり(胎児発育遅延)、難産になったりする場合があるため、その場合には手術を行うことがあります。

両親いずれかの染色体異常

直接治療を行うことはできませんが、遺伝カウンセリングを受けていくことが重要です。最終的に子どもを持てる割合は染色体正常カップルと比べ、決して低くはありません。

妊娠初期の流産のうち、約80%は胎児に偶発的に発生した染色体異常が原因ですが、流産を繰り返す場合は、夫婦どちらかに「均衡型転座」などの染色体構造異常がある可能性が高くなります。

均衡型転座は不育症のカップルの約5%で起こりますが、この染色体異常の場合であれば出産できる可能性は十分にあり、最終的には60〜80%が出産に至ることがわかってきました。

胎児の染色体異常

現在の医療では胎児に対して染色体異常の治療を行うことは不可能ですが、事前に胎児の染色体異常を知っておくことは可能です。

NIPT(新型出生前診断)とは、お母さんから採血した血液から胎児の21トリソミー(ダウン症候群)18トリソミー(エドワーズ症候群)13トリソミー(パトウ症候群)などの染色体異常を調べる検査のことです。従来の血液による出生前診断と比較しても、感度・特異度から見ると検査自体の精度がきわめて高いとされています。

NIPTはお母さんの腕からの採血で検査ができるため、流産のリスクがなく安全な検査と言えます。またエコー検査で妊娠が確認できたらすぐに受けることが可能なため、赤ちゃんの状態を早く知ることができます。

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内分泌異常

内科専門医の診療を受け、甲状腺機能亢進や低下症の場合には治療を行い正常機能となってから、糖尿病は十分に血糖値のコントロールしてから次の妊娠を望み、妊娠後も引き続き治療、定期的な検査を行います。

不育症のリスク因子

不育症の治療にかかる費用

2021年より不育症の検査、治療費用が保険適用、3割負担となりました。それに伴い多くの自治体は不育症の助成金を廃止しています。しかしながら現在も助成金を継続していることがあるようですので、一度お住まいの自治体へ問い合わせてみてください。

保険適用で治療できる?

不育症の一般的検査や治療の多くが保険適用されていますが、新しい治療方法や新しい検査では保険適用されていないものもあります。治療にかかる費用は不育症の原因により異なりますので、必ず医療機関にご確認ください。

助成金はある?

2021年より不育症の治療が保険適用となり、助成金は、廃止または一部助成を行なっていたり自治体によって助成制度の内容は異なります。一度連絡して聞いてみると良いでしょう。

流産の回数と次回妊娠成功率

2回以上の流産(妊娠22週未満)、死産(妊娠22週以降)の既往がある場合には不育症と診断されます。しかし異所性妊娠(子宮外妊娠)や絨毛性疾患(胞状奇胎)、生化学的妊娠(化学流産)は、流産回数に含めません。

すでに出産し第一子がいる女性でも、その後に2回以上の流産・死産があれば不育症に含まれます。日本には約3万人の不育症の方がいると推定され、決して珍しくはありません。

不育症と診断を受けても70%以上が出産が可能と言われています。

不育症のおよそ半数が偶発的流産と呼ばれる、偶然に胎児染色体異常の妊娠を繰り返しているタイプになります。これは妊婦さんの年齢が高ければ高頻度で起こります。不育症検査をしても異常が見つからず、次回の妊娠では出産まで至ることがあります。

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不妊治療と不育症

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、1年間妊娠しないものをいいます。不妊症と不育症は妊娠の有無により分けられます。

不妊治療で良好な胚を複数回移植しても着床しない、2回以上の流産・死産や、複数回移植しても妊娠に至らない場合、不妊症と不育症を伴う場合もあります。不妊症のカップルが不育症である割合は約20〜30%程度という報告もあるようです。

まとめ

治療が長期になることがある不育症ですので、ご自身でつらい時の過ごし方、対処方法を探してみることも重要です。精神的に大きな負担を伴う不育症ですが、不育症についての知識を深めることで気持ちが楽になり安心できることもあると思います。正しい知識を身につけるように心がけてみてください。

【参考文献】

Q&A
よくある質問

不育症についてよくある質問をいくつかまとめました。参考にしてみてください。

  • Q
    流産はどれくらいの頻度でおきますか?
    妊婦さんの年齢にも関係がありますが、妊娠が確認されたおよそ10〜20%が流産になるといわれています。

    年齢が35歳以上になると割合が上昇していきます。生化学的妊娠(化学流産)はより高率(30〜40%)で起こりますが、流産回数には含まれていません。

    妊娠12週未満、妊娠週数早期の流産は全流産の約90%を占め、妊娠22週未満、後期流産の頻度は低下します。
  • Q
    不育症治療をして出産した場合、次の妊娠も不育症治療が必要となりますか?
    不育症の原因によって異なってきます。次の妊娠時にも不育症治療が必要となることがありますので、次の妊娠の前に産婦人科へ受診されることをお勧めいたします。

不育症では妊娠と流産・死産を繰り返し、精神的に追い込まれたり辛い思いをすることがあります。原因が不明ということも多く、自責してしまう妊婦さんもいらっしゃいます。今回は不育症について詳しく解説します。

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記事の監修者


岡 博史先生

岡 博史先生

NIPT専門クリニック 医学博士

慶應義塾大学 医学部 卒業

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