オルブライト症候群様中手骨・中足骨短縮(2q37.3欠失症候群) について【医師監修】

オルブライト症候群様中手骨・中足骨短縮(2q37.3欠失症候群)

オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮は染色体の一部が欠損する事で、体の様々な箇所に異常が現れる遺伝子疾患です。本記事では、当該疾患の症例報告に基づいて、発症の原因や症状、診断法などについて解説します。

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概要

2q37欠失症候群は、起因する遺伝子によって様々な症状等が見られます。オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮はその代表的な症状です。

オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮は、染色体2番長腕末端部(2q37.3)の一部が欠失することに起因する遺伝子疾患です。1989年に最初の症例が報告され、現在までに世界中で少なくとも115症例が報告されている極めて稀な疾患です。罹患者の約半数は手・足の指が短いという身体的特徴があり、特に第4指が異常に短いことが報告されています。その他にも特徴的な顔貌や薄毛などの身体的特徴も現れます。また、神経科学的な異常としては立つ・座る・歩くといった運動技能に発達遅延が見られる事があり、この内の約25%は社会的コミュニケーションや社会的相互作用に障害を持つ、自閉症スペクトラム障害を持っています。他には炎症性の皮膚疾患を発症したり、脳・心臓・消化器系・腎臓・生殖器等の奇形が現れたり、極稀にWilms腫瘍と呼ばれる極めて稀な肝臓がんを発症したりすることもあります。以上の特徴から、2q37全常染色体全領域部分欠失疾患、オルブライト遺伝性骨異栄養症様症候群、上腕神経性精神遅滞症候群などと呼ばれることもあります。

原因

オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮は、染色体の一部の領域が欠損することに起因する疾患ですが、何故このような欠損が起こるかは未だにわかっていません。罹患者の両親の殆ど(約95%)は正常な核型を持っていることから、両親からの遺伝は稀であり、大部分はde novo変異(*1)によることがわかっています。このことから、両親の精子・卵子が形成される際、または胚形成初期段階の受精卵における、DNAの複製エラーによって引き起こされる欠損であると考えられています。全体としての症例数が少ないことと、de novo変異であるがゆえ遺伝子型の似た親・兄弟・姉妹の患者が少ないことから分子生物学・遺伝学的な調査はあまり進んでおらず、genotype-phenotypeの関連付けはほとんど行われていません。

欠損が起こる領域は染色体2番長腕の特に末端付近が多く、欠失部は2q37領域であることが同定されています。この領域の純粋な欠損が当該疾患を引き起こす要因であると考えられています。欠損のサイズは個人差が大きく、2 Mbp~9 Mbpに及ぶことが知られています。この領域には約100遺伝子がコードされていますが、この内のひとつ、または複数の遺伝子の機能が損なわれることによって発症すると考えられています。特に主要な遺伝子のひとつとしてHDAC4遺伝子(*2)があり、片側のアレルにおける欠損と、これに伴ったヘテロ接合性の消失が見られます。HDAC4はヒストン脱アセチル化酵素をコードする遺伝子であり、骨格や筋肉の発達に関与することが知られていますが、オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮との分子レベルでの関連は未だ明らかになっていません。

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症状

オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮罹患者の典型的な症状には主に身体的特徴と神経科学的な異常が見られます。身体的特徴:罹患者の約半数は短指症または多指症、特に手及び足の第4指においてこれらの症状が現れます。さらに、突出した額・丸顔・薄くアーチ型の眉・くぼんだ鼻筋・鼻腔の欠損や隆起・薄い唇・薄いまぶた・上目瞼ひだ・上向き口蓋裂・平滑口蓋・突出下頬骨・耳の異常などの特徴的な顔貌がほとんどの症例で見られます。また低身長・肥満・薄毛などの症状や逆乳頭を含む乳頭の異常が多く見られます。臓器の発達不全も確認されており、心臓・消化器系・腎臓の異常は罹患者の3分の1で見られます。数人の患児においてWilms腫瘍・腎異形成・気管支軟化症などが見られることがありますが、これは2q37.1の近位に欠失部を保つ場合にのみ確認されています。オルブライト遺伝性骨ジストロフィー様(*3)の表現型は2q37.3におけるテロメア欠失が起こった患者で見られ、後に発作や嚢胞性腎を発症します。

神経科学的異常:発達遅延と精神的地帯の症状が見られ、これは軽度のものから重度のものまで個人差はありますが、最も典型的なものに低酸素症による筋緊張の低下が挙げられます。約半数の患者にこうした症状が確認されますが、これは時間の経過とともに改善することが報告されています。また、てんかんなどの発作症状のリスクが高いことも特徴です。さらに、運動機能の発達の遅れがあり、立つ・座る・歩くといった行動に異常をきたすことが報告されています。2q37.3に欠失部をもつ末端欠失が起こっている患者では、主に反復行動、コミュニケーション、社会的相互作用に障害を持っており、自閉症スペクトラムの典型的な症状を示すことが報告されています。具体的には、断続的な攻撃性・多動性・注意欠陥・強迫性障害・および睡眠障害が指摘されています。こうした神経発達に由来する異常の重症度や形質の数は遺伝子欠失サイズの大きさによると指摘されていますが、これを立証するにはまだ症例が少ないため、この関係の優位性はまだ明らかにされていません。オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮の治療法の症状は以上のように多岐にわたるため、基本的に上記の症状に対する対症療法が行われます。それに加えて肥満などの二次病変に対する健康管理などが行われます。

診断

上記のような特徴的な異常を注意深く記録することで、一部の新生児や乳幼児においてはオルブライト症候群様中手骨・中脚短縮の臨床診断が可能です。しかし、殆どの症例においては、それ以降の年齢の子供で確定診断されます。その場合、エコー検査やX線写真を撮影することで身体的初見の発見を行います。オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮はde novo変異であるため、両親の遺伝子検査はごく一部の例を除いてあまり意味がありません。病理的な診断は、ゲノムの欠損を調べることで行われますが、以下のように細胞遺伝学検査と分子遺伝学検査に大別されます。

細胞遺伝学検査:オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮の80%は簡易的なカリオタイピング(*4)などの染色体検査によって診断を確定することができます。ただし、この手法はある程度欠失領域の大きいものに限られます。欠失領域の小さいものは通常の染色体検査では正常核型となるため、欠失領域の個人差の大きい当該疾患を高精度・高感度で診断するには後述する分子遺伝学検査を併用する必要があります。

分子遺伝学検査:分子生物学的手法を用いて遺伝子診断を行います。主にFISH(Fluorescent in situhybridization)法、DNAのマイクロアレイ法が用いられます。

FISH法

標的遺伝子領域に相補的な一本鎖DNAを蛍光標識し、蛍光顕微鏡を用いて観察を行う手法です。蛍光標識した一本鎖DNAをFISHプローブと呼び、標的遺伝子領域の配列に合わせて任意に設計することができます。オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮は染色体の末端領域に欠損が多く見られることから、テロメア及びサブテロメア領域を標的としたFISHプローブを設計することが多く、キットとして市販されているものもあります。こうしたリピート配列を多く含む領域では、FISHプローブが多価で結合するため、蛍光色素の実効濃度が上昇してシグナルは増強されます。一方で欠失が起こっている場合、FISHプローブは標的領域に結合できず、のちの洗浄操作によって洗い流されるため蛍光シグナルは検出されません。したがってDAPIやHoechstといったDNAに特異的に結合する色素を用いて染色体を染色し、FISHプローブのハイブリダイズを行うと染色体上のどの領域に標的領域が存在するかマッピングすることができます。FISH法は非常に小さい領域の欠損も検出できる技術であり、オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮を高い精度で診断することができます。ただし、欠失領域にFISHプローブの標的配列が含まれている必要があります。中にはサブテロメア領域の中間部欠失が起こっているケースもあり、このような場合テロメア領域にFISHプローブを設計していると、偽陰性となり検出することができないので、FISHプローブの選択と設計は極めて重要です。

DNAマイクロアレイ

基板上に既知のDNA断片(この場合、全ヒトゲノムの断片)が密に敷き詰められているチップを用いて、検査したい組織から抽出したDNAとコントロールとなる正常な配列を持ったDNAをハイブリダイズさせて比較する手法です。試料中に基板上に相補的なDNA断片が含まれていると基板上の相補的な配列と結合し、蛍光を発します。コントロールとチップ上の蛍光シグナルの空間的な分布を比較し、ゲノム上のどの部分で欠損が起こったかを網羅的に分析することが可能です。このような手法を特にCGH(Comparative genomic hybridization)マイクロアレイと言います。本手法は染色体上における遺伝子座のコピー数の変化を解析する手法ですが、コピー数の増加は感度良く検出できるのに対し、部分的な欠損は5~10 Mbpのサイズでなければ検出は難しいとされています。

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今後の展望

近年は次世代シークエンサー(next-generation-sequencing)によるゲノム配列解析が発展して来ており、genotype-phenotypeの関連付けに大きく関連できることが期待されています。ただし、装置自体のコストやランニングコストの問題から実際の診断用途に利用するのはまだ現実的ではありません。前述した二つの手法は、蛍光検出を原理とするので比較的安価であり、病理診断用途には実際にこれらが用いられています。現在は比較的安価に外注できるようになりつつあり、次世代シークエンサー装置自体の価格も段々下がってきており、試薬等についても、複数検体を相乗り的に同時解析することで、run数を減らすという運用を行うことでランニングコストを抑える工夫がなされています。

今後genotype-phenotypeの関連付けが進めば、欠失位置とそのサイズによってどのような症状が出るかなどの予測ができるようになると考えられます。これは、オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮の原因の解明や治療方法の発展だけでなく、他の重要な遺伝子疾患の解明にも貢献できることが期待されています。特に、2q37.3領域は自閉症スペクトラムの発症に関連する遺伝子の候補が含まれていると考えられており、重要なゲノム領域と言えます。240.1-242.2 Mbの最小欠失間隔で自閉症スペクトラム、運動亢進性行動、てんかんを引き起こすことが知られており、シナプス小胞の軸索トランスポーターなど、少なくとも29の遺伝子を含んでいます。この2.1 Mbの欠失間隔は興味深いことに、湿疹のための最小欠失間隔(1.5 Mb)とオーバーラップしています。近年、まだ立証はされていませんが、自閉症スペクトラムとアトピー性皮膚炎が関連しているという指摘がなされており、その仮説が本当なら、欠失間隔のオーバーラップはgenotype-phenotypeの観点でリーズナブルであるように見えます。この様に、2q37領域の欠失は、多様な症状が観察されているので、より詳細な解析を行うことは、思いも寄らない疾患同士の関連性を解明するかもしれません。そうなれば、全く新しい治療法の開発はもちろん、既存の薬や治療法のrepurposingといったアプローチのさらなる発展が期待されます。

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まとめ

本記事では2q37に欠失部を持ち、ゲノム領域の欠失を要因とする遺伝子疾患、オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮について解説しました。非常に稀な疾患のため、未だ不明な点が多く、今後は最新の遺伝学的手法を積極的に取り入れることで分子生物学的な疾患のメカニズム解析やgenotype-phenotypeの関連付けが行われることが期待されています。このような情報は、他の遺伝子疾患のメカニズムや診断法、治療法の発展にも繋がることが予想されます。

ヒロクリニックでは、こうした染色体の一部に欠失部や重複部を持つ全常染色体全領域部分欠失・重複疾患の検査も行っています。全染色体検査と合わせて是非検討してみてください。

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脚注

  • (*1) de novo変異:いわゆる突然変異のことで、親から遺伝的に受け継いだ変異ではなく、ある個体において新規に発生した変異のことを言います。新生変異とも呼ばれます。
  • (*2) HDAC4遺伝子:ヒストン脱メチル化酵素(HDAC4)をコードする遺伝子です。 Transforming growth factor β1 (TGF-β1)によって繊維芽細胞から筋芽細胞への分化誘導の際に重要な役割を担っていると考えられています。
  • (*3) オルブライト遺伝性骨ジストロフィー様症候群:身体的及び知的な発達障害・短指症・低身長・肥満が同時に見られる場合に特にこう呼ばれます。
  • (*4) カリオタイピング:染色体に特徴的なバンドパターンを用いた核型解析です。Hoechst色素を用いたQ-band解析や、ギムザ染色を用いたG-band解析があり、簡易的に染色体の同定、倍数性、転座などを染色体の構造から判断することができます。

オルブライト症候群様中手骨・中脚短縮は染色体の一部が欠損する事で、体の様々な箇所に異常が現れる遺伝子疾患です。本記事では、当該疾患の症例報告に基づいて、発症の原因や症状、診断法などについて解説します。

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記事の監修者

水田 俊先生

水田 俊先生

ヒロクリニック岡山駅前院 院長
日本小児科学会専門医

小児科医として30年近く岡山県の地域医療に従事。
現在は小児科医としての経験を活かしてヒロクリニック岡山駅前院の院長として地域のNIPTの啓蒙に努めている。

略歴

1988年 川崎医科大学卒業
1990年 川崎医科大学 小児科学 臨床助手
1992年 岡山大学附属病院 小児神経科
1993年 井原市立井原市民病院 第一小児科医長
1996年 水田小児科医院

資格

小児科専門医

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