ネフロン癆(Nephronophthisis) 1 型(欠失2q13)【医師監修】

ネフロン癆(Nephronophthisis) 1 型(欠失2q13)

Nephronophthisis 1 型は、NPHP1遺伝子の変異により腎臓の尿細管機能障害を来すことで多飲・多尿や電解質異常などの症状を呈し、最終的には末期腎不全に至る疾患です。幼少期から学童期までに発症し、平均13―14歳で末期腎不全に移行するため、若年性ネフロン癆とも呼ばれます。

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目次

ネフロン癆の病態

尿のできる仕組み

ネフロン癆(NPH、Nephronophthisis)とは、腎髄質に嚢胞形成を認める疾患の代表という説明がなされることが多いです。では、腎髄質とは腎臓で一体どのような働きをしているのでしょうか。

腎臓は外側の皮質とその内側にある髄質、最も内側の腎盂から成ります。皮質には血液を濾過して尿を作る糸球体が多数存在し、髄質には糸球体で作られた尿の元となる原尿を再吸収する尿細管が存在しており、尿細管を通った尿が腎盂に送られます。糸球体で濾過される原尿は1日で170リットルとも言われていますが、髄質にある尿細管で水分やナトリウムなどの電解質が毛細血管へ再吸収されることで、尿の濃さや量が調節され、最終的には1日に1-2リットル程度の尿の量が出るようになっています。

ネフロン癆における尿再吸収障害

一方、ネフロン癆の腎臓では、後ほど詳しく説明しますが、尿細管に存在する上皮細胞の機能に重要な役割を果たすNPHP遺伝子に異常があり、尿細管に小さな嚢胞ができたり、尿細管が萎縮したりすることで尿細管での再吸収が障害されています。それにより、尿が濃縮されず多尿になったり、ナトリウムが尿中に多量に排出されてしまうので、血中のナトリウムが低下し、低ナトリウム血症や高カリウム血症を引き起こします。

ネフロン癆の臨床症状

ネフロン癆の主な症状としては、上で説明したような多尿と、それに伴う多飲や遺尿(おもらし)、慢性腎不全に伴う成長発育障害などがあります。
尿細管再吸収障害による低ナトリウム血症や高カリウム血症などの電解質異常を認めますが、初期には浮腫や血尿、蛋白尿などの腎症状は認めず、血圧も正常です。その後、尿細管の萎縮が進むと腎機能の低下が起こり、最終的には腎不全に至ります。腎機能の低下が進行した段階で、初めて尿量が減少し、ナトリウムの貯留とそれに伴う高血圧や貧血を呈します。

責任遺伝子であるNPHPは腎臓以外にも脳神経をはじめとして他の臓器にも存在しているため、10~20%で腎臓以外の症状を認めることがあります。代表的な症状としては、網膜色素変性症(Senior-Loken症候群)、眼球運動の失調(Cogan症候群)、小脳性運動失調(Jourbert症候群)、肝線維症、骨格や顔貌の異常、精神発達遅滞などが挙げられます。

ネフロン癆の臨床病型

ネフロン癆は末期の腎不全に至るまでの時期によって臨床的に3つの病型に分類されます。ネフロン癆1型は幼少期から学童期までに発症し、平均13~14歳で末期腎不全に移行し、若年性ネフロン癆とも呼ばれます。ネフロン癆2型は乳児ネフロン癆とも呼ばれ、幼少期の3―5歳までに腎不全となります。ネフロン癆3型は平均19歳前後で末期腎不全に至り、思春期ネフロン癆と呼ばれます。後ほどお話しますが、これらの3病型は異なる遺伝子変異が原因であることがわかっています。

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ネフロン癆1型の責任遺伝子

Nephrocystin-1

ネフロン癆の発症に関与する責任遺伝子はNPHPと呼ばれるもので、現在までに20個にも及ぶ多くの遺伝子の関与が報告されています。これらの遺伝子にコードされたタンパク質は尿細管上皮細胞が正常に機能するために重要な役割を果たしており、ネフロン癆では遺伝子変異により尿細管の機能障害を引き起こし、尿の再吸収がうまく行われないことによって腎臓を中心とした症状を呈します。

その中でも、ネフロン癆1型は尿細管上皮細胞の一次繊毛(primary cilia)に存在するnephrocystin-1というタンパク質をコードするNPHP1遺伝子に変異が生じており、広範囲な遺伝子の欠失や点変異が存在することが報告されています。NPHP1は染色体の2q13上に存在し、約11000塩基対の長さであり、NPHP1遺伝子から翻訳され合成されるnephrocystin-1は677個のアミノ酸から構成されています。

nephrocystin-1は細胞同士や、細胞と細胞外マトリックスとの接着や情報の伝達をする上で重要なタンパク質と考えられており、この分子に異常を生じると細胞の接着や繊毛の機能、細胞内外の情報伝達に大きな障害を生じるため、尿細管上皮の構造的・機能的障害すなわち、尿細管における嚢胞形成や、尿の再吸収障害を引き起こすと考えられています。

その他のNPHP遺伝子変異

ネフロン癆2型の責任遺伝子は染色体の9q31に存在するNPHP2で、inversinと呼ばれるタンパク質をコードしていることがわかっています。また、ネフロン癆3型の責任遺伝子は染色体の3q22に位置するNPHP3で、nephrocystin-3と呼ばれるタンパク質をコードしています。いずれのタンパク質もネフロン癆1型のnephrocystin-1と同様に尿細管上皮細胞で重要な働きをしていると考えられており、遺伝子の変異は腎臓の機能を著しく低下させます。

常染色体劣性遺伝

ネフロン癆1型を含め、ネフロン癆は主に常染色体劣性遺伝の遺伝形式を取ることが知られています。つまり、同じ部分に変異がある劣性遺伝子を持つ両親(発症者か保因者)の間に変異が2つ揃った子供が生まれる可能性があるということです。両親が保因者であった場合は、両親は健康でも子供が発症するケースもあります。
また、頻度は少ないですが、常染色体劣性遺伝以外にも突然変異による孤発例の報告もあります。

ネフロン癆の疫学

ネフロン癆の発症頻度に関して日本では詳細な疫学調査は行われていませんが、海外では数万〜数十万人に1人程度の割合であるといった報告がなされています。日本における患者数は500~600人程度と言われています。また、ネフロン癆に関しては小児の末期腎不全の原因の5〜10%を占めると言われています。
3つの臨床病型の中では若年性ネフロン癆であるネフロン癆1型が最も高頻度となっており、ネフロン癆の全体の20~40%にNPHP1変異を認めるといった報告があります。

ネフロン癆1型の診断

ネフロン癆1型の診断は、症状や臨床所見から本疾患を疑い、組織学的検査や遺伝子検査を組み合わせながら、総合的に診断を行っていきます。最近では、「腎・泌尿器系の希少難治疾患群に関する診断基準・診療ガイドラインの確立」研究班によりネフロン癆の診断基準も作成されています。

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臨床所見

前にお話したように、小児期の多飲、多尿、尿濃縮能低下や腎機能低下などの臨床症状や検査結果により本疾患を疑います。尿細管の再吸収障害による低比重尿(薄い尿)の出現頻度は高く、こういった所見を認める場合はネフロン癆も念頭に置いて診断を進めていく必要があります。
腎障害のスクリーニング検査として尿タンパクの検出は一般的によく用いられる検査法ですが、ネフロン癆におけるタンパク尿はβ2-microgloblinなどの低分子タンパク尿が主なものであり、大きい分子であるアルブミンを中心に検出する試験紙法では検出されにくいので、学校検診などを含めたマススクリーニングで見落とされることもあり、注意が必要です。低分子タンパクの他に尿糖を認めることもあります。診断基準では、低比重尿や低分子タンパク尿は確定診断に必要な所見とされています。
その他には、超音波検査において、腎臓の輝度の上昇、皮質と髄質の境界の消失、腎実質部に小嚢胞を認めることなどが特徴的な所見とされています。

腎組織所見

腎臓の組織は、主に体外から針を使って行われる腎生検により採取されます。そのため、尿検査や超音波検査に比較して体への侵襲性が高い検査と言えます。
ネフロン癆における組織学的な特徴は、皮質と髄質の境界部分に、嚢胞を多数認めることです。病状が進行すると尿細管の萎縮や、尿細管基底膜の肥厚や萎縮なども認めるようになり、さらに末期になると、糸球体周囲の線維化や硬化糸球体が出現してくるようになります。診断基準では尿細管の嚢胞様拡張と、尿細管基底膜の不規則性変化が確定診断に必要とされています。

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遺伝子検査

上記のように臨床症状や組織学的な所見からネフロン癆の診断はある程度絞り込めることや、ネフロン癆では遺伝子変異の同定率が約30%とそれほど高くない点から、診断に必須の検査というわけではありませんが、遺伝子検査で変異を同定することができれば、体に侵襲のある腎生検を行わないでも診断ができることや、変異のある遺伝子に特徴的な合併症を早くに把握できることなどのメリットがあります。
末期腎不全に至った年齢を考慮して、NPHP1(若年性ネフロン癆の責任遺伝子)もしくはNPHP2(乳児ネフロン癆の責任遺伝子)の遺伝子変異の検索が行われます。これらの遺伝子に変異が見られなかった場合は、腎臓以外の症状である網膜色素病変(NPHP5NPHP6の変異に多い)などの有無を参考にしながら、他のNPHPの遺伝子変異を検索してくことになります。

近年では、全ゲノムのうちタンパク質に翻訳されるエクソン配列を網羅的に解析する手法である全エクソーム解析が行われるようになり、責任遺伝子変異の報告数が増加しており、60%以上の遺伝子異常を検出できたという報告があります。

ネフロン癆1型の治療

ネフロン癆1型を含めたネフロン癆の治療については、残念ながら現段階では根本的な治療法は確立されていません。尿細管再吸収障害によって生じた低ナトリウム血症や高カリウム血症、代謝性アシドーシスに対して食事療法やイオン吸着樹脂、重炭酸塩の投与などの対症療法が行われます。進行して末期腎不全に至った場合は、人工透析などによる治療が行われ、最終的には腎移植が選択されることもあります。また、腎不全を原因とした低身長を来した場合は、成長ホルモン療法も適応になります。
病気に対する治療の他にも、本疾患のような遺伝性疾患では家族の心理的負担や親族への影響も考慮されなければならないため、遺伝相談やカウンセリングにより本人や家族に対する心理的・社会的なサポートを行っていくことも重要です。

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今後の課題

前に述べたように、ネフロン癆では発症の初期に尿の異常所見が少なく、学校検尿などのマススクリーニング検査で見逃されることが多いため、タンパク尿を検出したときにはすでに末期腎不全を来している場合も多く、早期発見のためのスクリーニング法の開発が待たれています。
最近になり、日本の研究グループによりNPHP1遺伝子に欠失変異を持つネフロン癆1型患者からヒトiPS細胞が樹立されたことが報告されました。病態iPS細胞によりネフロン癆1型の発症機序のさらなる解明や根本的な治療法の開発に役立てられることが期待されています。

ネフロン癆とヒロクリニックのNIPT

ネフロン癆は、ダウン症(21トリソミー)の検査などの染色体の異数体の検査だけではわかりません。ヒロクリニックではネフロン癆を含む、全常染色体全領域部分欠失・重複疾患を検査する全領域染色体検査の検査も行っています。

生まれる前にわかることで迎える赤ちゃんについて、家族は準備をすることができます。全常染色体全領域部分欠失・重複疾患も検査できる全領域染色体検査も是非検討してみてください。

Nephronophthisis 1 型は、NPHP1遺伝子の変異により腎臓の尿細管機能障害を来すことで多飲・多尿や電解質異常などの症状を呈し、最終的には末期腎不全に至る疾患です。幼少期から学童期までに発症し、平均13―14歳で末期腎不全に移行するため、若年性ネフロン癆とも呼ばれます。

NIPTについて詳しく見る

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記事の監修者

水田 俊先生

水田 俊先生

ヒロクリニック岡山駅前院 院長
日本小児科学会専門医

小児科医として30年近く岡山県の地域医療に従事。
現在は小児科医としての経験を活かしてヒロクリニック岡山駅前院の院長として地域のNIPTの啓蒙に努めている。

略歴

1988年 川崎医科大学卒業
1990年 川崎医科大学 小児科学 臨床助手
1992年 岡山大学附属病院 小児神経科
1993年 井原市立井原市民病院 第一小児科医長
1996年 水田小児科医院

資格

小児科専門医

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