この記事のまとめ
プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群は、どちらも15番染色体の同じ領域(15q11-q13)の変化で起こる別々の病気で、同じ場所でも父由来か母由来かで症状がまるで変わります。父由来のはたらきが失われるとプラダー・ウィリ症候群、母由来のはたらきが失われるとアンジェルマン症候群になります。診断にはメチル化検査など専門的な遺伝学的検査が使われ、確定には血液検査だけでは足りません。NIPT(新型出生前診断)は主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体を対象とする非確定的検査で、この領域の微細な変化やゲノムインプリンティング異常は一般的な検査対象ではありません。検査で分かる範囲には限界があります。気になることは、自己判断せず産婦人科や遺伝カウンセリングで相談してください。
この記事でわかること
- プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群が、なぜ同じ15番染色体から生まれるのか
- 父由来か母由来かで病気が変わる「ゲノムインプリンティング」というしくみ
- 乳児期から大人までの症状の移り変わりと、診断・治療・日常の管理の考え方
- NIPTで分かる範囲の限界と、確定診断・専門的な検査の位置づけ
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群とは
プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群は、どちらも15番染色体の同じ領域の変化で起こる、別々の希少な病気です。名前は違っても、原因となる染色体の場所は重なっています。まずは、それぞれがどんな病気なのかを整理します。
プラダー・ウィリ症候群は、1950年代から60年代にスイスの医師らが報告した病気です。生まれつき筋肉の緊張が弱く、赤ちゃんのころは母乳やミルクを飲む力が弱いところから始まります。日本では指定難病に登録され、医療費助成などの支援制度の対象。名前の由来は、報告した医師の名前です。
アンジェルマン症候群は、1965年にイギリスの小児科医が3人の子どもの共通点を報告したことに始まります。重い発達の遅れやことばの少なさ、よく笑う特徴的な様子が知られています。かつては差別的にひびく別称も使われていましたが、いまは使いません。こちらも指定難病です。
ふたつの病気に共通するのは、15番染色体の長い腕の一部(15q11-q13)にある遺伝子のはたらきが関わる点。ここは、父由来か母由来かで「はたらくスイッチ」が違う特別な場所です。同じ領域の変化でも、まったく異なる症状になります。だからこそ、鏡に映したような病気とも表現されます。
同じ15番染色体なのに違う病気になる理由
父由来のはたらきが失われるとプラダー・ウィリ症候群、母由来のはたらきが失われるとアンジェルマン症候群になります。この違いを生むのが、ゲノムインプリンティングというしくみ。少し専門的ですが、図で見ると流れがつかめます。
私たちの遺伝子は、父由来と母由来がひと組ずつそろっています。多くの遺伝子は両方が同じようにはたらきますが、一部は「どちらの親から来たか」で片方だけがはたらく設計。この片方だけ動くしくみが、ゲノムインプリンティングです。15番染色体のこの領域は、その代表例。
プラダー・ウィリ症候群では、父由来の領域のはたらきが失われることで症状が現れます。原因は、父由来の部分の欠失や、両方の15番染色体が母由来になる状態(片親性ダイソミー)など。母由来しか残らないと、この場所は父由来しかはたらかない遺伝子を補えません。だから発症します。
アンジェルマン症候群は、逆の関係です。母由来の特定の遺伝子のはたらきが失われると発症します。原因は、母由来の部分の欠失や、両方が父由来になる状態、遺伝子そのものの変化、スイッチの異常など。同じ場所でも、失われる由来が違えば表れる姿はまるで別物になります。
それぞれの症状と時期による変化
プラダー・ウィリ症候群は乳児期の筋緊張の弱さから幼児期以降の強い食欲へ、アンジェルマン症候群は発達の遅れやてんかんが中心と、症状は時期とともに移り変わります。年齢ごとの特徴を知っておくと、支援の見通しが立てやすくなります。
プラダー・ウィリ症候群の症状
赤ちゃんのころは、体がやわらかく、母乳やミルクを飲む力が弱いのが特徴です。体重の増えも、ゆっくりになりがち。ところが幼児期に入ると、様子が大きく変わります。強い食欲が現れ、体重の管理がむずかしくなっていきます。
成長にともない、低身長や発達の個人差、ホルモンのはたらきの偏り、こだわりの強さなどがみられることがあります。強い空腹感は、本人の意思だけで抑えるのがむずかしいもの。そのため、家庭と医療が一緒に食事や体重を見守る体制が支えになります。
アンジェルマン症候群の症状
アンジェルマン症候群では、生後半年ごろから運動発達の遅れが目立ち始めます。歩き方がぎこちなかったり、ことばがほとんど出なかったり。てんかん発作がみられることもあります。よく笑い、人とのふれあいを楽しむ様子は、この病気の印象的な特徴です。
ことばでの表現が少ない分、身ぶりや表情、道具を使った意思の伝え方が大切になります。命に関わる合併症の頻度は、プラダー・ウィリ症候群にくらべると低いと報告されています。とはいえ、生活全般で長期的な支えが必要。ご家族の負担にも配慮したケアが求められます。
診断の方法|専門的な遺伝学的検査が必要
プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群の診断には、DNAのメチル化検査など専門的な遺伝学的検査が使われます。ふつうの血液検査だけでは分かりません。症状から疑い、検査で確かめるという順序です。
この領域は、父由来と母由来で「スイッチの入り方(メチル化)」が違います。メチル化検査は、そのスイッチの状態を調べる方法。多くの場合、まずこの検査でどちらの病気の可能性が高いかを確かめます。診断の入口になる大切な検査です。
原因のタイプをさらに詳しく分けるには、追加の検査が続きます。染色体の細かな欠失や重複を調べる検査、遺伝子そのものの変化を調べる検査などです。てんかんが疑われるときは、脳波の検査も加わります。診断の流れを、下の表にまとめました。
| 検査の種類 | 調べること | 位置づけ |
|---|---|---|
| DNAメチル化検査 | 父由来・母由来のスイッチの状態 | 診断の入口となる検査 |
| 染色体の詳しい検査 | 細かな欠失や重複の有無 | 原因のタイプを分ける |
| 遺伝子の解析 | 遺伝子そのものの変化 | タイプを絞り込む |
| 脳波・画像の検査 | てんかんや脳の状態 | 症状に応じて追加 |
知的発達の遅れがどう見つかるかを広く知りたい方は、妊娠中に考える知的障害のリスクの記事もあわせてご覧ください。検査の全体像を知っておくと、説明を受けたときに理解が進みます。
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
治療と日常の管理|多職種で支える
どちらの病気も根本から治す方法はまだありませんが、早い時期からの支援で症状の負担を和らげ、生活の質を高めることができます。医療・福祉・教育がチームで関わるのが基本の形です。
プラダー・ウィリ症候群の管理
柱になるのは、食事と体重の管理です。強い食欲は本人の努力だけでは抑えにくいため、家庭での環境づくりと医療のフォローを組み合わせます。成長ホルモンの治療は、低身長の改善に加え、筋力や体の組成にも良い影響が期待されるもの。医師の判断のもとで行われます。
発達の支援やことば・運動のリハビリ、こだわりへの心のケアも欠かせません。近年は、強い食欲そのものにはたらきかける新しい薬が海外で承認され、研究が進んでいます。日本での今後の展開が待たれるところ。治療の選択肢は、少しずつ広がっています。
アンジェルマン症候群の管理
てんかん発作があるときは、抗てんかん薬による発作の管理が中心になります。あわせて、運動・作業・ことばのリハビリを続けます。ことばでの表現が少ないため、絵カードや機器を使った補助的なコミュニケーションの手段が役立つ場面も多いもの。本人の意思を汲む工夫が支えです。
睡眠のリズムが乱れやすく、ご家族の睡眠不足や介護疲れにつながることもあります。専門家と連携し、生活全体を見守る体制づくりが大切です。母由来の遺伝子のはたらきを取り戻す治療の研究も、海外で進行中。将来への希望が、少しずつ形になりつつあります。

NIPTでこの病気は分かる?検査で分かる範囲の限界
NIPT(新型出生前診断)は主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体を対象とする非確定的検査で、15番染色体の微細な変化やインプリンティング異常は一般的な検査対象ではありません。検査で分かる範囲には、はっきりとした限界があります。
NIPTは、妊婦さんの血液に含まれる胎児由来のDNAを調べる検査です。おもに調べるのは、染色体が1本多いタイプ(トリソミー)。ダウン症とも呼ばれる21トリソミーなどが代表です。染色体全体の数の変化をとらえるのは得意ですが、あくまでスクリーニング検査。結果が陽性でも、確定には羊水検査などが必要です。
一方で、プラダー・ウィリ症候群やアンジェルマン症候群は、性質が異なります。原因は染色体の数ではなく、特定の場所の細かな変化やスイッチ(メチル化)の異常。こうした変化は、一般的なNIPTの対象には含まれないのが基本です。診断には、メチル化検査などの専門的な検査が欠かせません。
NIPTで何が分かり、何が分からないのかを整理したい方は、ダウン症以外にNIPTで分かることの記事が参考になります。検査結果の読み方に不安があるときは、NIPTの検査結果の見方の記事もご覧ください。確定検査の流れは、羊水検査についての記事で解説しています。
大切なのは、検査の目的と限界を知ったうえで受けることです。過度に期待しすぎず、分からない部分があることも理解しておく。私自身、相談の場で「すべてが分かるわけではない」とお伝えすると、かえって落ち着いて考えられる方が多いと感じています。まずは正しく知ることから始めてください。
検査と向き合うとき|迷ったら相談し、夫婦で話し合う
NIPTを受けるかどうかに、ただ一つの正解はありません。だからこそ、専門家に相談し、夫婦で話し合う時間が支えになります。私は、迷いを抱えたまま来院される方こそ、対話を通じて自分の答えにたどり着くのを何度も見てきました。
実際、受けるか受けないかを最後まで決めきれない方は少なくありません。Xでも@o824zzzさんが、ずっと悩んで決められなかったNIPTを、カウンセリングで医師の説明を受けてから受けることに決めた、終えてみて本当にやってよかったと思えた、とつづっていました。決心がつかないまま相談に行き、そこで答えが見つかる。よくあるかたちです。
夫婦で考えが分かれることも、めずらしくありません。パートナーは受けない考えでも、自分は悩み続ける。そんな声も届きます。Xでは@514gotさんが、夫はNIPTに前向きでないなか自分はずっと悩んでいたけれど、先生の「大丈夫」という言葉で考えるのをやめようと思えた、と書いていました。専門家の一言が、心の重さをほどくこともあります。
受ける・受けないのどちらを選んでも、その決断に優劣はありません。大切なのは、納得して選ぶこと。遺伝カウンセリングでは、検査で分かること・分からないことを一緒に整理できます。ダウン症をめぐる検査の考え方は、ダウン症と妊娠のリスク・検査の記事も参考になります。
もっと知りたい方へ|相談先と支援制度
信頼できる公的な情報にあたることが、落ち着いた判断への近道です。プラダー・ウィリ症候群もアンジェルマン症候群も、公的な相談窓口や支援制度が用意されています。ひとりで抱え込まず、頼れる先を知っておいてください。
病気の基本情報や医療費助成の制度は、難病情報センターで確認できます。発達に関する相談や支援については、国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センターが公的な情報を発信中。子どもや家庭への支援制度は、こども家庭庁 障害児支援のページにまとまっています。
顔つきの特徴などから疑われる別の症候群について知りたい方は、ナブルスマスク様顔貌症候群の解説記事もあります。地域の療育センターや相談支援の窓口とつながることで、長期的な支援計画を一緒に立てられます。早めの相談が、これからの安心につながります。
よくある質問
Q. プラダー・ウィリ症候群とアンジェルマン症候群は何が違いますか?
どちらも15番染色体の同じ領域の変化が関わりますが、症状は大きく異なります。父由来のはたらきが失われるとプラダー・ウィリ症候群で、乳児期の筋緊張の弱さから幼児期以降の強い食欲へと移り変わります。母由来のはたらきが失われるとアンジェルマン症候群で、重い発達の遅れやことばの少なさ、てんかん、よく笑う様子が特徴です。同じ場所でも、由来する親が違うと別の病気になります。
Q. NIPTでプラダー・ウィリ症候群やアンジェルマン症候群は分かりますか?
一般的なNIPTの対象には含まれません。NIPTは主に21・18・13トリソミーなど特定の染色体を対象とする非確定的検査で、染色体の数の変化をとらえます。ふたつの病気は、特定の場所の細かな変化やスイッチ(メチル化)の異常が原因のため、専門的な遺伝学的検査が必要です。検査で分かる範囲には限界があります。詳しくは遺伝カウンセリングで確認してください。
Q. ゲノムインプリンティングとは何ですか?
遺伝子が「どちらの親から来たか」によって、はたらき方が変わるしくみです。多くの遺伝子は父由来と母由来の両方が同じようにはたらきますが、一部は片方だけがはたらくよう設計されています。15番染色体のこの領域はその代表例。だから、父由来か母由来かで失われるはたらきが変わり、まったく異なる病気になります。
Q. どのような治療や支援がありますか?
根本から治す方法はまだありませんが、早い時期からの支援で負担を和らげられます。プラダー・ウィリ症候群では、食事と体重の管理、成長ホルモンの治療、発達支援などを組み合わせます。アンジェルマン症候群では、てんかんの治療やリハビリ、補助的なコミュニケーションの支援が中心です。どちらも医療・福祉・教育がチームで関わります。難病情報センターなど公的な窓口も活用してください。
Q. 妊娠中に不安を感じたら、どこに相談すればよいですか?
まずは、かかりつけの産婦人科や遺伝カウンセリングで相談してください。検査を受けるかどうかに、ただ一つの正解はありません。専門家と話すなかで、自分やご夫婦にとって納得できる選択が見えてきます。受ける・受けないのどちらを選んでも、その決断に優劣はありません。ひとりで抱え込まず、頼れる先とつながることを大切にしてください。
Q. これらの病気は遺伝しますか?次の妊娠でも起こりますか?
原因のタイプによって、次の妊娠で起こりやすさが変わります。多くは偶発的に起こりますが、一部のタイプでは家族内でくり返す可能性があるとされています。正確な見通しは、診断で原因のタイプを確かめたうえで判断されるもの。次の妊娠を考えるときは、臨床遺伝の専門医による遺伝カウンセリングで、個別に相談してください。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Cassidy SB, Schwartz S, Miller JL, Driscoll DJ. Prader-Willi syndrome. Genet Med. 2012 Jan;14(1):10-26. doi: 10.1038/gim.0b013e31822bead0.
- Driscoll DJ, Miller JL, Schwartz S. Prader-Willi Syndrome. 1998 Oct 6 [updated 2021 Dec 23]. In: Adam MP, Mirzaa GM, Pagon RA, Wallace SE, Bean LJH, Gripp KW, Amemiya A, editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2024.
- Goldstone AP, Holland AJ, Hauffa BP, Hokken-Koelega AC, Tauber M; Speak-PWS Conference Participants. Recommendations for the diagnosis and management of Prader-Willi syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2008 Nov;93(11):4183-97. doi: 10.1210/jc.2008-0649.

