中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症【ACADM】

この記事のまとめ

中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCADD)は、ACADM遺伝子の変異により中鎖脂肪酸をエネルギーに変えられなくなる常染色体潜性遺伝の代謝疾患です。空腹や発熱がきっかけで低血糖やけいれんが起こることがありますが、日本では出生後の新生児マススクリーニングで発見され、食事管理を中心とした対応で健やかな成長を目指せる病気です。単一遺伝子疾患であるため、染色体の数的異常を調べる標準的なNIPT(新型出生前診断)の対象ではなく、出生後の血液検査で見つかる仕組みになっています。原因、症状、検査、治療、そしてご家族が知っておきたい相談先まで、医学的な正確さを保ちながらまとめました。

この記事でわかること

  • MCADDの原因となるACADM遺伝子と、常染色体潜性遺伝という遺伝の仕組み
  • 新生児期・乳幼児期・遅発型で異なる症状の現れ方
  • 日本と海外での発症頻度の違いと、新生児マススクリーニングで見つかる流れ
  • NIPT(新型出生前診断)とMCADDの関係、検査対象になるかどうか
  • 確定診断の検査、日常の食事管理、長期的な見通し
  • ご家族が相談できる公的な窓口と、次の妊娠に向けた考え方

MCAD(中鎖アシルCoA脱水素酵素)欠損症とは

MCADDは、脂肪をエネルギーに変える酵素の働きが弱いために、空腹時にエネルギー不足が急速に進む先天性の代謝疾患です。正式名称は中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症、英語ではMedium-Chain Acyl-CoA Dehydrogenase Deficiencyと呼ばれ、MCAD欠損症やACADM欠損症とも表記されます。

体は通常、糖が不足すると脂肪を分解してエネルギーを作ります。この過程を担うのがMCAD酵素です。MCADDではこの働きが弱く、糖の補充が途切れる空腹時や発熱時に、体がエネルギー不足に陥りやすくなります。

分類上は「ミトコンドリア脂肪酸酸化障害」という疾患群に含まれます。早期に見つけて食事管理を続ければ、多くのお子さんが健康に成長できます。私が診療で保護者の方とお話しする中でも、正しい知識があれば過度に恐れる病気ではないと感じます。

ACADM遺伝子が存在する1番染色体の位置を示す図

原因とACADM遺伝子・遺伝の仕組み

MCADDは、1番染色体にあるACADM遺伝子の変異によって、MCAD酵素の働きが弱くなることが原因です。ACADM遺伝子はMCAD酵素を作るための設計図で、この酵素はミトコンドリアの中で炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を分解する最初の段階を担っています。変異があると分解が滞り、中鎖アシルカルニチンなどの物質が体内にたまります。

欧米で最も多い変異は「c.985A>G(p.Lys329Glu)」で、症状のある患者の変異の大部分を占めると報告されています。日本人ではこの変異以外のさまざまな変異も報告されており、地域による違いがあります。

この病気は常染色体潜性遺伝という形式で遺伝します。優性・劣性という古い呼び方に代わり、現在は「顕性遺伝」「潜性遺伝」という表現が使われます。潜性遺伝の病気は、両親それぞれから変異のある遺伝子を1つずつ受け継いだ場合にのみ発症します。片方だけ受け継いだ人は「保因者」と呼ばれ、通常は症状が出ません。

両親がともに保因者の場合、次の妊娠で子どもがMCADDを発症する確率は4分の1です。常染色体潜性遺伝の考え方や代表的な疾患については、常染色体潜性遺伝の仕組みを解説した記事でも詳しく取り上げています。

ACADM遺伝子や変異の詳細な医学情報は、米国の専門データベースであるGeneReviewsのMCAD欠損症の解説ページにまとめられています。専門的な内容ですが、一次情報として信頼度の高い資料です。

主な症状ー新生児期・乳幼児期・遅発型

MCADDの症状は発症する時期によって3つのタイプに分かれ、いずれも空腹や発熱が引き金になりやすいという共通点があります。生まれた直後は健康に見えることが多く、その後のきっかけで急に症状が現れる点に注意が必要です。

新生児期発症型では、けいれんや意識障害、呼吸障害、心不全といった重い症状が出ることがあります。乳幼児発症型では、筋力低下や肝臓の腫れ、脳症のような発作がみられ、乳幼児突然死症候群(SIDS)の一因になる場合もあると報告されています。遅発型は学童期以降に発症し、中枢神経や骨格筋の障害として現れることがあります。

発作時に共通してみられるのが「低ケトン性低血糖」です。血糖値が下がっているのに、通常なら代わりのエネルギー源となるケトン体が増えないという特徴があります。ほかに、嘔吐、元気がない様子、肝機能の異常、血中アンモニアの上昇なども起こり得ます。

発達の遅れや注意欠陥・多動性障害(ADHD)、運動時の疲れやすさなどが長期的な影響として報告されることもありますが、早期発見と管理によってリスクは大きく下げられます。気になる症状があれば、自己判断せず小児科や代謝の専門医に相談してください。

疫学ー日本と海外での発症頻度の違い

MCADDの発症頻度には地域差があり、日本国内では欧米より頻度が低いと報告されています。欧米、特に北欧系の方が多い集団では約1万人に1人とされる一方、日本国内では約13万人に1人と推定されています。

この違いは、原因となる変異の種類が民族によって異なることが背景にあると考えられています。頻度が低いからこそ、日本では新生児マススクリーニングによる早期発見の役割が一層大きいといえます。

新生児マススクリーニングで見つかる仕組み

日本ではMCADDを含む先天性代謝異常は、生後まもなく行われる新生児マススクリーニングで発見されます。生後5〜7日ごろに赤ちゃんのかかとから少量の血液を採取し、タンデムマス法という分析装置で複数の代謝異常をまとめて調べる検査です。

MCADDでは、血中の「C8アシルカルニチン(オクタノイルカルニチン)」という物質が高値になることが特徴的な所見です。タンデムマス法の導入により、症状が出る前の無症状の段階で発見されるケースが増えています。

現在の日本の新生児マススクリーニングでは、タンデムマス法で調べる脂肪酸代謝異常・有機酸代謝異常・アミノ酸代謝異常などとあわせて、合計20疾患前後が公費負担の対象となっています。検査結果で再検査や精密検査が必要と通知された場合は、早めに医療機関を受診してください。

NIPT(新型出生前診断)との関係

MCADDは単一の遺伝子変異による疾患であり、染色体の数的異常を調べる標準的なNIPTの対象には含まれません。NIPTは母体の血液中に含まれる胎児由来のDNA断片を解析し、13トリソミー18トリソミー・21トリソミーなどの染色体の数の変化を調べる非確定的検査です。ACADM遺伝子の中の変異を直接読み取る仕組みにはなっていません。

NIPTと新生児マススクリーニングの役割の違い NIPT(妊娠中) 母体の血液を検査 染色体の数的異常が対象 MCADDは対象外 非確定的検査 新生児マススクリーニング(出生後) 生後5〜7日の血液を検査 タンデムマス法でC8高値を検出 MCADDはここで発見 公費負担の対象
NIPT(妊娠中の染色体スクリーニング)と新生児マススクリーニング(出生後の代謝異常検査)の役割の違い

ヒロクリニックNIPTでは、基本の検査に加えて単一遺伝子疾患200種以上を対象とする拡張プランも用意していますが、これは染色体の数的異常を調べる基本のNIPTとは別の検査枠です。MCADDのように出生後のタンデムマス法で確実に発見・予防できる疾患については、新生児マススクリーニングが確立された標準的な手段となっています。

検査の位置づけを、下の表でも整理しました。単体で読んでも意味が分かるようにしています。

検査実施時期調べ方MCADDとの関係
標準的なNIPT妊娠中母体血中の胎児由来DNAで染色体の数を解析対象外(単一遺伝子疾患は範囲外)
拡張NIPT(単一遺伝子疾患プラン)妊娠中あらかじめ選定した遺伝子群を解析プランの対象範囲による。個別確認が必要
新生児マススクリーニング生後5〜7日タンデムマス法でC8アシルカルニチンを測定MCADDの標準的な発見手段
NIPTと新生児マススクリーニングの位置づけの違い

妊娠中にNIPTでどこまでの疾患がわかるのか整理しておきたい方は、NIPTの検査範囲と限界をまとめた記事もあわせてご覧ください。検査ごとの得意分野を知っておくと、どの検査を選ぶか判断しやすくなります。

確定診断までの検査の流れ

新生児マススクリーニングで疑いが指摘された場合、複数の検査を組み合わせて確定診断を行います。まず血液中のアシルカルニチン分析でC8の増加を確認し、尿中有機酸検査でヘキサノイルグリシンなどの増加を調べます。

あわせてカルニチン濃度の測定や、ACADM遺伝子の配列解析による遺伝子検査も行われます。必要に応じて、白血球や皮膚線維芽細胞を用いたMCAD酵素活性の測定が追加されることもあります。

これらの検査は小児代謝科や新生児マススクリーニングの精査体制が整った医療機関で実施されます。結果の解釈には専門知識が必要なため、担当医や遺伝カウンセラーからの説明を受けながら進めてください。

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治療と日常生活での管理

MCADDの治療の基本は、空腹の時間をできるだけ作らず、体調不良時には早めに医療機関へつなぐことです。発作が起きたときは入院のうえブドウ糖の点滴による治療が必要で、国内のガイドラインでは1分あたり6〜8mg/kg以上を目安とした投与が示されています。

日常の管理では、新生児期は2〜3時間ごとの授乳、幼児期以降は12時間以上の断食を避けることが基本です。夜間は寝る前の軽食が勧められ、栄養状態によってはL-カルニチンの補充が検討されます。中鎖脂肪酸を多く含むココナッツオイルなどの摂取は避けてください。

発熱や嘔吐など体調を崩したときは、自宅で様子を見続けず、早めに小児科を受診してください。「緊急対応カード」を携帯し、かかりつけ以外の医療機関でもMCADDであることがすぐ伝わるようにしておくと安心です。

小児代謝科での定期的な通院も欠かせません。体調が安定していても、成長や発達、カルニチン濃度の評価のために、2〜3ヶ月ごと、安定後は半年ごとを目安に受診してください。

予後と長期的な見通し

新生児マススクリーニングで早期に見つかり、適切に管理されたお子さんの多くは、標準的な発達と生活を送れます。一方で、症状が出てから診断された場合は、初回発作の時点で命に関わる、または後遺症が残ることがあると報告されています。

スクリーニングによって発症前から対策を始められた場合は、こうしたリスクが大きく下がることが分かっています。ただし、生涯を通じて空腹の回避と体調管理を続ける必要がある点は変わりません。

私自身、幼少期からきちんと管理を続けてきたお子さんが、学校生活や部活動を問題なく送っている例を診療の中で数多く見てきました。診断名だけで将来を悲観せず、主治医と一緒に長く付き合っていく病気だと捉えていただければと思います。

相談できる窓口とご家族へのサポート

MCADDのような希少な代謝疾患は情報が少なく感じられがちですが、公的な相談窓口が複数整っています。疾患の詳しい情報は、小児の慢性疾患を専門にまとめた小児慢性特定疾病情報センターで確認できます。

より専門的な診療の目安としては、日本先天代謝異常学会がまとめた新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドラインが医療者向けに公開されています。海外の情報としては、米国国立衛生研究所が運営する希少疾患情報データベース(GARD)や、遺伝子の働きを解説するMedlinePlus Geneticsも参考になります。

次の妊娠を考える際は、両親が保因者かどうかを確認する遺伝カウンセリングが役立ちます。同じ立場のご家族とつながる患者会や、地域の保健センターも身近な相談先です。ひとりで抱え込まず、医療・制度・仲間という三つの支えを組み合わせて頼ってください。

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よくある質問

Q. MCADDはNIPT(新型出生前診断)でわかりますか?

標準的なNIPTは染色体の数的異常を調べる検査であり、ACADM遺伝子の変異を直接調べる仕組みにはなっていません。MCADDは単一遺伝子疾患のため、日本では出生後の新生児マススクリーニングで発見される病気です。

Q. 新生児マススクリーニングでどうやって見つかりますか?

生後5〜7日ごろにかかとから少量の血液を採り、タンデムマス法という方法でC8アシルカルニチンという物質の値を調べます。数値が高い場合は精密検査に進みます。

Q. 顕性遺伝と潜性遺伝の違いは何ですか?

潜性遺伝の病気は、両親それぞれから変異のある遺伝子を1つずつ受け継いだ場合にのみ発症します。片方だけ受け継いだ人(保因者)は通常無症状です。MCADDはこの潜性遺伝の形式をとります。

Q. 日常生活で特に気をつけることは何ですか?

空腹の時間を長く作らないことが最も大切です。年齢に応じた授乳・食事間隔を守り、発熱や体調不良のときは早めに医療機関を受診してください。緊急対応カードの携帯も勧められます。

Q. 次の子どもも同じ病気になる可能性はありますか?

両親がともに保因者の場合、次の妊娠で子どもが発症する確率は4分の1です。正確な確率や検査の選択肢については、遺伝カウンセリングで担当医に相談してください。

Q. 早期発見できれば普通の生活が送れますか?

新生児マススクリーニングで発症前に見つかり、食事管理や体調管理を続けられれば、多くのお子さんが標準的な発達と生活を送れると報告されています。生涯を通じた空腹回避と定期通院は必要です。

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著者・監修

岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、臨床研修後2年で医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断・小児代謝疾患の情報を発信しています。

医師監修 監修日:2025年6月12日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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