この記事のまとめ
17p12領域にあるPMP22遺伝子が1コピー欠失すると、遺伝性の末梢神経疾患が生じます。正式名称は遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)です。同じ17p12領域の遺伝子が「重複」すると、別の病気であるシャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)を発症します。欠失と重複は正反対の変化であり、症状の出方も異なります。HNPPは圧迫をきっかけに手足がしびれたり動かしにくくなったりする発作的な神経障害です。多くは軽症から中等症で経過します。本記事では欠失(HNPP)と重複(CMT1A)の違い、原因、症状、診断、日常生活での注意点を解説します。あわせて妊娠中のNIPTとの関係も、公的機関・学会の情報にもとづいて整理します。
この記事でわかること
- 「17p12欠失」と「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という2つの病名がなぜ同時に使われているのか、正確な関係
- 欠失(HNPP)と重複(CMT1A)で症状の出方がどう違うか
- 診断に使われる検査と、日常生活で気をつけたい圧迫回避のポイント
- 妊娠中のNIPTでこの疾患がどこまでわかるのか、確定診断との関係
はじめに:2つの病名が並ぶ理由
健診や遺伝学的検査の結果に「17p12欠失」「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という言葉が並んでいることがあります。聞きなれない言葉が並び、戸惑っている方もいらっしゃるでしょう。実は、この2つは別々の病気です。同じ遺伝子領域に関わりながらも、変化の方向が逆になっています。
17番染色体の短腕12領域(17p12)には、末梢神経の膜(髄鞘)を作るPMP22という遺伝子があります。この領域が欠けている(欠失)場合に生じるのが、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)です。逆に重複している場合に生じるのが、シャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)です。
本記事は「17p12欠失」を起点に検索された方向けの解説です。まず欠失側の病気であるHNPPを中心に説明し、混同されやすいCMT1Aとの違いを整理します。順を追って読み進めてください。
1. 原因:PMP22遺伝子とその欠失のしくみ
まず、なぜこの病気が起こるのか、遺伝子のレベルから見ていきましょう。
PMP22遺伝子と末梢神経の髄鞘
PMP22(末梢ミエリンタンパク質22)は、末梢神経を覆う髄鞘というカバーの主要な成分を作る遺伝子です。通常、人はこの遺伝子を2コピー(両親から1つずつ)持っています。
神経が正常に信号を伝えるには、この2コピーがそろっていることが重要とされています。1コピーが欠けたり、逆に3コピーに増えたりすると、髄鞘の働きにばらつきが生じます。
なぜ欠失が起こるのか
HNPPの原因の約80%は、精子や卵子が作られる過程(減数分裂)で起こる「不等交叉」です。17p12領域にある反復配列同士が不均等に組み換わり、PMP22遺伝子を含む約1.5Mbの領域がまるごと欠失します。残りの約20%は、PMP22遺伝子そのものの点変異など、欠失を伴わない遺伝子異常によるとされています。
この不等交叉は生殖細胞ができる過程で偶発的に起こる現象であり、妊娠中の生活習慣や行動が原因になることはありません。自分を責める必要は全くない、という点はまず知っておいてください。
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2. HNPP(欠失)とCMT1A(重複)の違い
同じPMP22遺伝子・同じ17p12領域が関わるにもかかわらず、欠失と重複では症状の現れ方が大きく異なります。表で整理します。
| 比較項目 | HNPP(17p12欠失) | CMT1A(17p12重複) |
|---|---|---|
| 遺伝子の変化 | PMP22遺伝子を含む領域が1コピー欠失 | PMP22遺伝子を含む領域が1コピー重複 |
| 症状の経過 | 圧迫をきっかけに急に生じ、多くは自然に回復する発作性 | 足や手の力が徐々に落ちていく緩徐進行性 |
| 代表的な症状 | 腓骨神経麻痺による下垂足、手根管症候群、尺骨神経麻痺 | 凹足・下垂足、遠位筋の筋力低下と筋萎縮、感覚障害 |
| 発症年齢の目安 | 10代から20代 | 5歳から25歳 |
| CMT全体に占める頻度の目安 | 10万人あたり2〜5人程度 | CMT全体の約50% |
ひとことで言えば、HNPPは「圧迫に弱くなる」病気で、CMT1Aは「じわじわ進行する」病気です。診断書やインターネットの情報でこの2つが混在して書かれていることもあります。検査結果の「欠失」か「重複」かという記載を、必ず確認してください。
まれに、欠失でも重複でもなくPMP22領域が3コピーに増える「三重複」が起こることがあります。この場合はCMT1Aよりも症状が重くなる、ユアン・ハレル・ルプスキ症候群(YUHAL)という別の病態として扱われます。重複側の詳細は17p12重複症候群の解説記事もあわせてご覧ください。
3. 主な症状:圧迫による一過性の神経障害
HNPPの症状は、日常のちょっとした圧迫がきっかけになるのが最大の特徴です。長時間の正座や腕枕、重い荷物を肩にかけ続けることなどが引き金になります。
圧迫が起こりやすい神経と症状
体の中でも特に圧迫を受けやすい部位の神経に症状が出やすいとされています。
- 腓骨神経麻痺:足を組む姿勢などがきっかけで、足首が上がらなくなる「下垂足」が生じることがあります。
- 手根管症候群:手首の圧迫により、親指から薬指にかけてしびれや感覚の低下が起こることがあります。
- 尺骨神経麻痺:肘を長時間曲げ続けることで、小指側のしびれや脱力が生じる場合があります。
- 腕神経叢の障害:重いリュックを長時間背負うことなどがきっかけとなり、腕全体に力が入りにくくなることもあります。
症状の持続時間には幅があり、数分から数カ月続くこともあります。多くの場合、圧迫の原因を取り除くと数週間から数カ月で自然に回復しますが、圧迫が繰り返されると回復までの時間が長引くこともあります。
発症年齢と個人差
最初の症状は10代から20代で現れることが多いとされています。ただし遺伝子を受け継いでいても、生涯にわたって症状がまったく出ない方もいる点は知っておいてください。同じ家系の中でも症状の程度には個人差が大きく現れます。

4. 遺伝形式:次のお子様への影響
HNPPは常染色体顕性遺伝の形式をとります。親のどちらかがPMP22の欠失を持っている場合、性別に関わらず約2分の1の確率で子に受け継がれます。
ただし、家系内に同じ症状の人が見当たらない場合でも、突然変異として新たに欠失が生じるケースもあります。実際に遺伝するかどうかは、家系ごとに事情が異なります。次のお子様にどの程度の確率で伝わるかは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで個別に確認してください。
私自身、NIPTの相談を受ける中で多くのご家族に出会います。「親から遺伝する病気なのか、それとも突然起きたものなのか」を最初に知りたい、という声をよく聞きます。検査結果だけでなく家系図まで含めて確認する姿勢が大切だと感じています。
5. 診断方法
HNPPの診断は、症状の経過を確認したうえで、神経の機能検査と遺伝学的検査を組み合わせて行います。
神経伝導検査・筋電図検査
神経伝導検査(NCS)は、神経に電気刺激を与えて伝わる速さを測る検査です。筋電図検査(EMG)は、筋肉の電気活動を調べます。この2つが診断の手がかりになります。圧迫を受けやすい部位で伝導速度の低下がみられることが特徴です。
遺伝学的検査
確定診断には、PMP22遺伝子のコピー数を調べる遺伝学的検査が用いられます。代表的な手法は、MLPA法やFISH法、マイクロアレイ染色体検査(CMA)です。1コピーに減っているか(欠失)、2コピーのままか、増えているか(重複・三重複)を判定します。
症状だけでは欠失か重複かを見分けることが難しい場合もあるため、遺伝学的検査で確定させることが治療方針の決定にもつながります。
6. 治療と日常生活での工夫
PMP22遺伝子の欠失そのものを根本的に治す治療法は、現時点では確立されていません。そのため、圧迫を避ける工夫と、症状が出たときの対症療法が中心になります。
圧迫を避ける生活の工夫
症状の予防で最も重要なのは、神経を圧迫する動作をできるだけ避けることです。
- 足を組んだ姿勢や正座を長時間続けないようにしてください。
- 重いバッグは肩に長時間かけず、リュックなど両肩に分散するものを選んでください。
- 肘をついたり腕枕をしたりする姿勢を避けてください。
理学療法・装具・まれな外科的介入
下垂足が続く場合は、歩行を補助する足関節装具(AFO)が使われることがあります。筋力の維持や関節の柔軟性を保つために、理学療法を並行して行うケースも一般的です。骨格の変形が強く生活に支障が出ている場合に限り、外科的な矯正が検討されることもあります。
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7. 予後:生活の質を保つために
HNPPは進行性の病気ではなく、圧迫の引き金を避けることで長期にわたり安定した生活を送れる方が多いとされています。実際、多くの患者さんは通常の日常生活や仕事を続けながら過ごしています。
一方で、圧迫が繰り返されたり、点変異によるタイプであったりする場合は、症状が残りやすいという報告もあります。定期的に神経内科を受診し、経過を見守ることが大切です。
8. 妊娠中のNIPTとの関係
NIPTで調べる21・18・13トリソミーなどの基本検査は、17p12のような染色体の微小な欠失・重複を対象としていません。一部の検査プランでは、微小欠失・重複まで対象を広げたオプション検査も用意されています。ただし対応する疾患の範囲は、検査施設やプランによって異なります。
ご自身が検討している検査プランが17p12領域まで対象に含むかどうかは、検査を受ける施設に直接問い合わせて確認してください。あわせてNIPTでの微小欠失症候群の検出についての解説記事や、微小欠失・重複疾患の一覧記事も参考にしてください。
もう一つ知っておいていただきたいのは、NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査だという点です。陽性の所見が出た場合は、羊水検査などで確定診断を行います。得られた検体を使い、PMP22遺伝子のコピー数をMLPA法やマイクロアレイ染色体検査(CMA)などで調べる方法です。通常の顕微鏡による染色体検査(G分染法)だけでは、この領域の変化を見つけられないことも知っておいてください。
今回、この疾患について国内の実体験に基づく投稿をX(旧Twitter)で探しましたが、直近の投稿では見当たりませんでした。希少疾患であるため一次情報が乏しいのは自然なことです。本記事では代わりに、難病情報センターやMGenReviewsといった公的機関・学会の情報を根拠としています。
9. ご家族へのメッセージ
「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という言葉を目にして、進行性の病気だと思い込み、不安になっている方もいるかもしれません。ですが、欠失によるHNPPは重複によるCMT1Aとは経過が異なり、圧迫を避ける工夫次第で穏やかに付き合っていける病気です。
長期にわたる通院や装具の管理が必要になる場合、家族の負担が大きくなることもあります。医療チームやサポート団体と連携しながら、無理のない範囲で付き合っていく体制を整えてください。
遺伝カウンセリングの現場では、「次の子にも伝わるのか」というご相談を数多くお聞きします。多くの場合、正確な検査結果と家系図の確認によって見通しが立てやすくなる、というのが実感です。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してみてください。
お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
17p12欠失症候群とシャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)は同じ病気ですか。
同じPMP22遺伝子・同じ17p12領域が関わりますが、別の病気です。欠失で生じるのは遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)、重複で生じるのがCMT1Aで、症状の経過も異なります。
HNPPはどのような症状が出ますか。
正座や腕枕など、神経が圧迫される姿勢がきっかけとなり、手足のしびれや脱力が発作的に起こります。下垂足や手根管症候群が代表的です。多くは数週間から数カ月で自然に回復します。
子どもに遺伝しますか。
常染色体顕性遺伝のため、親が欠失を持つ場合は性別を問わず約2分の1の確率で子に伝わります。家系内に該当者がいなくても、突然変異として新たに生じることもあります。詳しくは遺伝カウンセリングで確認してください。
妊娠中のNIPTでこの病気はわかりますか。
21・18・13トリソミーなどの基本検査の対象ではありません。一部のプランでは、微小欠失・重複を対象とするオプション検査もあります。対応範囲は施設によって異なるため、検討中の検査施設に直接確認してください。陽性所見が出た場合は、羊水検査などによる確定検査が必要です。
どのような検査で確定診断されますか。
神経伝導検査・筋電図検査に加え、遺伝学的検査を組み合わせて確定診断します。PMP22遺伝子のコピー数を調べるMLPA法やFISH法、マイクロアレイ染色体検査(CMA)などを用います。
シャルコー・マリー・トゥース病は指定難病ですか。
シャルコー・マリー・トゥース病自体は厚生労働省の指定難病10号に指定されています。HNPPが指定難病の対象に含まれるかどうかは、主治医やお住まいの自治体の窓口に確認してください。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・学会の情報を参照して作成しています。記載の数値は文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
参考情報:遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)|MGenReviews(国立健康危機管理研究機構)/シャルコー・マリー・トゥース病(指定難病10)|難病情報センター/シャルコー・マリー・トゥース(CMT)遺伝性ニューロパチー概説|GeneReviews Japan/資格認定(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー)|日本人類遺伝学会
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

