この記事のまとめ
17p12領域にあるPMP22遺伝子が1コピー重複すると、シャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)を発症します。CMTの中でもっとも頻度が高いタイプで、CMT全体の40〜50%程度を占めるとされています。同じ17p12領域の遺伝子が「欠失」すると、別の病気である遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)を発症します。重複と欠失は正反対の変化であり、経過もまったく異なります。CMT1Aは足や手の力が少しずつ落ちていく緩徐進行性の末梢神経障害です。進行は緩やかで、寿命への影響は基本的にないとされています。本記事では重複(CMT1A)と欠失(HNPP)の違い、原因、症状、診断、日常生活での注意点を解説します。あわせて妊娠中のNIPTとの関係も、公的機関・学会の情報にもとづいて整理します。
この記事でわかること
- 「17p12重複」と「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という2つの病名がなぜ同時に使われているのか、正確な関係
- 重複(CMT1A)と欠失(HNPP)、さらに紛らわしい17p11.2重複(ポトッキ・ルプスキー症候群)との違い
- 診断に使われる検査と、日常生活で気をつけたい姿勢や動作のポイント
- 妊娠中のNIPTでこの疾患がどこまでわかるのか、確定診断との関係
はじめに:似た名前の病気が並ぶ理由
健診や遺伝学的検査の結果に「17p12重複」「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という言葉が並んでいることがあります。似た名前の病気がいくつも出てきて、混乱している方もいらっしゃるでしょう。実は、遺伝子の変化の向きによって、生じる病気がまったく異なります。
17番染色体の短腕12領域(17p12)には、末梢神経の膜(髄鞘)を作るPMP22という遺伝子があります。この領域が重複している場合に生じるのが、シャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)です。逆に欠けている(欠失)場合に生じるのが、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)という別の病気です。
本記事は「17p12重複」を起点に検索された方向けの解説です。まずCMT1Aを中心に説明し、混同されやすいHNPPや17p11.2重複との違いを整理します。順を追って読み進めてください。
1. 原因:PMP22遺伝子と重複のしくみ
まず、なぜこの病気が起こるのか、遺伝子のレベルから見ていきましょう。
PMP22遺伝子と末梢神経の髄鞘
PMP22(末梢ミエリンタンパク質22)は、末梢神経を覆う髄鞘というカバーの主要な成分を作る遺伝子です。通常、人はこの遺伝子を2コピー(両親から1つずつ)持っています。
神経が正常に信号を伝えるには、この2コピーがそろっていることが重要とされています。1コピー増えて3コピーになったり、逆に1コピーに減ったりすると、髄鞘の働きにばらつきが生じます。
なぜ重複が起こるのか
CMT1Aの原因の大部分は、精子や卵子が作られる過程(減数分裂)で起こる「不等交叉」です。17p12領域にある反復配列同士が不均等に組み換わり、PMP22遺伝子を含む約1.5Mbの領域がまるごと重複します。ごく一部は、PMP22遺伝子そのものの点変異など、重複を伴わない遺伝子異常によるものです。
この不等交叉は生殖細胞ができる過程で偶発的に起こる現象であり、妊娠中の生活習慣や行動が原因になることはありません。ご自身を責める必要は全くない、という点はまず知っておいてください。
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2. CMT1A(重複)とHNPP(欠失)、似た名前の病気との違い
同じPMP22遺伝子・同じ17p12領域が関わるにもかかわらず、重複と欠失では症状の現れ方が大きく異なります。表で整理します。
| 比較項目 | CMT1A(17p12重複) | HNPP(17p12欠失) |
|---|---|---|
| 遺伝子の変化 | PMP22遺伝子を含む領域が1コピー重複 | PMP22遺伝子を含む領域が1コピー欠失 |
| 症状の経過 | 足や手の力が徐々に落ちていく緩徐進行性 | 圧迫をきっかけに急に生じ、多くは自然に回復する発作性 |
| 代表的な症状 | 凹足・下垂足、遠位筋の筋力低下と筋萎縮、感覚障害 | 腓骨神経麻痺による下垂足、手根管症候群、尺骨神経麻痺 |
| 発症年齢の目安 | 5歳から25歳 | 10代から20代 |
| 神経伝導検査の特徴 | 圧迫部位に関係なく全体的に伝導速度が低下 | 圧迫を受けやすい部位に限って伝導速度が低下 |
ひとことで言えば、CMT1Aは「じわじわ進行する」病気で、HNPPは「圧迫に弱くなる」病気です。診断書やインターネットの情報でこの2つが混在して書かれていることもあります。検査結果の「重複」か「欠失」かという記載を、必ず確認してください。
まれに、重複でも欠失でもなくPMP22領域が3コピーに増える「三重複」が起こることがあります。この場合はCMT1Aよりも症状が重くなる、ユアン・ハレル・ルプスキー症候群(YUHAL)という別の病態として扱われます。欠失側の詳細は17p12欠失症候群の解説記事もあわせてご覧ください。
もう一つ、名前が似ているために混同されやすい病気があります。それが17p11.2領域の重複によって起こるポトッキ・ルプスキー症候群です。17p12と17p11.2はどちらも17番染色体の短腕にありますが、別の場所にある別の遺伝子群が関わっています。ポトッキ・ルプスキー症候群では発達の遅れや知的障害、自閉スペクトラム症を伴う行動特性が中心症状であり、CMT1Aのような末梢神経の症状とは経過が大きく異なります。詳しくは以下の記事で解説しています。
さらに17番染色体の別の場所、末端に近い17p13.3領域の重複で起こる病気もあります。こちらも発達面への影響が中心で、17p12重複(CMT1A)とは異なる病気です。あわせてご確認ください。
3. 主な症状:緩徐進行性の末梢神経障害
CMT1Aの症状は、足の先など体の末端から始まり、少しずつ広がっていくのが最大の特徴です。急に悪化することは少なく、多くは数年単位でゆっくり進みます。
代表的な症状
症状の現れ方には個人差がありますが、共通して見られる特徴があります。
- 下垂足・凹足:足首を上げにくくなる下垂足や、アーチが高くなる凹足がよく見られます。
- 遠位筋の筋力低下:足首や手指など、体の末端に近い筋肉から力が入りにくくなります。
- 筋萎縮:ふくらはぎが細くなる「逆シャンパンボトル型」の脚が特徴的とされています。
- 感覚障害と腱反射の低下:振動覚や位置覚が鈍くなり、腱反射が弱くなることがあります。
痛みを伴わないと説明されることが多いものの、実際には神経障害性の痛みを訴える方もいます。しびれの強さや進行の速さは、同じ家系内でも大きく異なることがあります。
発症年齢と進行のペース
最初の症状は5歳から25歳ごろに現れることが多いとされています。ただし60歳を過ぎて初めて気づく方もいる、と報告されています。同じ家系の中でも、症状の程度には個人差が大きく現れます。

4. 遺伝形式:次のお子様への影響
CMT1Aは常染色体顕性遺伝の形式をとります。親のどちらかがPMP22の重複を持っている場合、性別に関わらず約2分の1の確率で子に受け継がれます。
ただし、家系内に同じ症状の人が見当たらない場合でも、突然変異として新たに重複が生じるケースもあります。実際に遺伝するかどうかは、家系ごとに事情が異なります。次のお子様にどの程度の確率で伝わるかは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで個別に確認してください。
私自身、NIPTの相談を受ける中で多くのご家族に出会います。「親から遺伝する病気なのか、それとも突然起きたものなのか」を最初に知りたい、という声をよく聞きます。検査結果だけでなく家系図まで含めて確認する姿勢が大切だと感じています。
5. 診断方法
CMT1Aの診断は、症状の経過を確認したうえで、神経の機能検査と遺伝学的検査を組み合わせて行います。
神経伝導検査・筋電図検査
神経伝導検査(NCS)は、神経に電気刺激を与えて伝わる速さを測る検査です。筋電図検査(EMG)は、筋肉の電気活動を調べます。CMT1Aでは、圧迫部位に関係なく神経伝導速度が全体的に遅くなる(多くは38m/s未満)ことが特徴です。この点が、圧迫部位に限って速度が落ちるHNPPとの見分け方の手がかりになります。
遺伝学的検査
確定診断には、PMP22遺伝子のコピー数を調べる遺伝学的検査が用いられます。代表的な手法は、MLPA法やFISH法、マイクロアレイ染色体検査(CMA)です。1コピーのままか、2コピーが通常か、増えているか(重複・三重複)を判定します。
症状だけでは重複か欠失かを見分けることが難しい場合もあるため、遺伝学的検査で確定させることが治療方針の決定にもつながります。
6. 治療と日常生活での工夫
PMP22遺伝子の重複そのものを根本的に治す治療法は、現時点では確立されていません。そのため、症状の進行を見守りながらの支持療法が中心になります。
リハビリテーションと装具
下垂足が続く場合は、歩行を補助する足関節装具(AFO)が使われることがあります。筋力の維持や関節の柔軟性を保つために、理学療法や作業療法を並行して行うケースも一般的です。骨格の変形が強く生活に支障が出ている場合に限り、外科的な矯正が検討されることもあります。
日常生活で気をつけたいこと
進行を遅らせる決定的な方法はありませんが、日常生活の工夫で転倒などのリスクを減らせます。
- 段差や滑りやすい床など、転倒しやすい環境をあらかじめ把握してください。
- 足に合った靴や装具を選び、定期的に整形外科や神経内科で状態を確認してください。
- 末梢神経に負担をかけやすい神経毒性のある薬剤については、事前に主治医へ相談してください。
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7. 予後:長期的な経過とサポート
CMT1Aは進行性ではありますが、進行のペースは緩やかで、寿命が短くなることは基本的にないとされています。多くの患者さんは、装具などの支援を受けながら通常の日常生活や仕事を続けています。
一方で、加齢とともに筋力低下が進み、生活の中での介助が必要になる場合もあります。定期的に神経内科を受診し、経過を見守ることが大切です。
8. 妊娠中のNIPTとの関係
NIPTで調べる21・18・13トリソミーなどの基本検査は、17p12のような染色体の微小な重複・欠失を対象としていません。一部の検査プランでは、微小欠失・重複まで対象を広げたオプション検査も用意されています。ただし対応する疾患の範囲は、検査施設やプランによって異なります。
ご自身が検討している検査プランが17p12領域まで対象に含むかどうかは、検査を受ける施設に直接問い合わせて確認してください。あわせてNIPTでの微小欠失症候群の検出についての解説記事や、微小欠失・重複疾患の一覧記事も参考にしてください。
もう一つ知っておいていただきたいのは、NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査だという点です。陽性の所見が出た場合は、羊水検査などで確定診断を行います。得られた検体を使い、PMP22遺伝子のコピー数をMLPA法やマイクロアレイ染色体検査(CMA)などで調べる方法です。通常の顕微鏡による染色体検査(G分染法)だけでは、この領域の変化を見つけられないことも知っておいてください。
今回、この疾患について国内の実体験に基づく投稿をX(旧Twitter)で探しましたが、直近の投稿では見当たりませんでした。希少疾患であるため一次情報が乏しいのは自然なことです。本記事では代わりに、MGenReviewsやGeneReviews Japanといった公的機関・学会の情報を根拠としています。
9. ご家族へのメッセージ
「シャルコー・マリー・トゥース病1A型」という言葉を目にして、重い病気だと不安になっている方もいるかもしれません。ですが、進行はゆっくりで、装具やリハビリを続けながら仕事や子育てを続けている方が数多くいます。
長期にわたる通院や装具の管理が必要になる場合、家族の負担が大きくなることもあります。医療チームやサポート団体と連携しながら、無理のない範囲で付き合っていく体制を整えてください。
遺伝カウンセリングの現場では、「次の子にも伝わるのか」というご相談を数多くお聞きします。多くの場合、正確な検査結果と家系図の確認によって見通しが立てやすくなる、というのが実感です。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してみてください。
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お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
17p12重複症候群とシャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)は同じ病気ですか。
同じ意味で使われる呼び方です。17p12領域にあるPMP22遺伝子が1コピー重複することで、シャルコー・マリー・トゥース病1A型(CMT1A)を発症します。
17p12の重複と欠失で何が違いますか。
同じPMP22遺伝子・同じ17p12領域が関わりますが、別の病気です。重複で生じるのがCMT1A、欠失で生じるのが遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)で、症状の経過も異なります。
ポトッキ・ルプスキー症候群とは違う病気ですか。
別の病気です。ポトッキ・ルプスキー症候群は17p11.2領域の重複によって起こり、発達の遅れや知的障害が中心症状です。CMT1Aの原因である17p12領域とは別の場所にある遺伝子群が関わっています。
CMT1Aはどのような症状が出ますか。
足の先など体の末端から始まる、緩やかに進行する筋力低下と筋萎縮が中心です。下垂足や凹足、感覚障害を伴うことがあります。多くは数年単位でゆっくり進みます。
子どもに遺伝しますか。
常染色体顕性遺伝のため、親が重複を持つ場合は性別を問わず約2分の1の確率で子に伝わります。家系内に該当者がいなくても、突然変異として新たに生じることもあります。詳しくは遺伝カウンセリングで確認してください。
妊娠中のNIPTでこの病気はわかりますか。
21・18・13トリソミーなどの基本検査の対象ではありません。一部のプランでは、微小欠失・重複を対象とするオプション検査もあります。対応範囲は施設によって異なるため、検討中の検査施設に直接確認してください。陽性所見が出た場合は、羊水検査などによる確定検査が必要です。
監修:岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有。著書『妊娠したら最初に読んで欲しい本』。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、公的機関・学会の情報を参照して作成しています。記載の数値は文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
参考情報:シャルコー・マリー・トゥース病|MGenReviews(国立健康危機管理研究機構)/シャルコー・マリー・トゥース病(指定難病10)|難病情報センター/シャルコー・マリー・トゥース(CMT)遺伝性ニューロパチー概説|GeneReviews Japan/資格認定(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー)|日本人類遺伝学会
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

