この記事のまとめ
18q欠失症候群は、18番染色体の長腕(18q21からq末端・qter)の一部が失われることで起こる染色体疾患で、国が指定難病139「先天性大脳白質形成不全症」を構成する疾患の一つに位置づけています。発達の遅れや知的障害、難聴、筋緊張低下、白質形成不全などの症状が、欠失した範囲や含まれる遺伝子によって多様に現れます。国内外の報告では4万〜5.5万人に1人程度とされる、きわめて稀な疾患です。基本的なNIPT(13・18・21トリソミー)や基本の微小欠失検査の対象ではなく、より広い範囲を調べる拡大検査の対象疾患に含まれています。確定診断には羊水検査による染色体検査(G分染法・FISH法)とMRI所見の確認が必要です。根本的な治療法はなく、症状に応じた対症療法と長期的な支援が中心になります。
この記事でわかること
- 18q欠失症候群とはどのような病気か、原因となる染色体領域と遺伝子
- 発達遅滞・難聴・白質形成不全など、主な症状の全体像と個人差
- 診断基準と確定検査(G分染法・FISH法・MRI所見)の流れ
- NIPTでわかるのか、基本検査と拡大検査での位置づけの違い
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)・18p欠失症候群との違い
- 指定難病としての位置づけと、家族が使える相談窓口
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
18q欠失症候群とは|18番染色体長腕の欠失で起こる指定難病
18q欠失症候群は、18番染色体の長腕(長い方の腕・18q)のうち、18q21から末端(qter)にかけての領域が失われることで起こる、生まれつきの染色体疾患です。この領域には複数の遺伝子が含まれており、どこからどこまでが欠けているかによって、症状の組み合わせや重さが一人ひとり異なります。まずは病気の全体像を整理します。
日本では、18q欠失症候群は指定難病139「先天性大脳白質形成不全症」を構成する11の疾患のうちの一つとして扱われています。先天性大脳白質形成不全症は、脳の神経線維を覆う髄鞘(ずいしょう)がうまく作られないために起こる病気の総称。18q欠失症候群では、後述するMBPという遺伝子の欠失が、この白質形成不全の主な原因と考えられています。
どのくらい稀な病気なのか
18q欠失症候群の頻度は、国内外の報告でおおよそ4万〜5.5万出生に1人程度とされています。報告によって数値に幅があるのは、対象とする欠失範囲(長腕全体か、特定の領域に限るか)が研究ごとに異なるためです。難病情報センターの資料では、指定難病139全体(11疾患)の医療受給者数は国内でおよそ200人規模とされており、18q欠失症候群はそのうちの一つの病型にあたります。
数字だけを見ると身近に感じにくいかもしれません。ですが、稀な病気だからこそ、正しい情報にたどり着きにくいという事情があります。この記事では、公的機関や学術情報をもとに、現時点でわかっていることを整理していきます。
原因|18q21→qterの欠失とMBP・TCF4遺伝子
原因は18番染色体長腕の18q21からqterにかけての領域が失われることで、欠失の範囲に含まれる遺伝子の種類と量によって、現れる症状が変わります。なかでも重要とされるのが、18q23付近にあるMBP(ミエリン塩基性タンパク質)遺伝子と、18q21.2付近にあるTCF4遺伝子です。
MBP遺伝子は、脳の神経線維を覆う髄鞘(ミエリン)を作るために働く遺伝子です。この遺伝子が欠失に含まれていると、髄鞘が十分に作られず、MRI検査で大脳白質に高信号領域として現れる「白質形成不全」につながるとされています。一方のTCF4遺伝子は、欠失範囲に含まれている場合、知的障害や特徴的な顔立ちなど、ピット・ホプキンス症候群に似た特徴が強く出ることがある遺伝子です。
遺伝形式は常染色体顕性遺伝に分類されます。多くは偶発的に生じる新生突然変異(デノボ)ですが、まれにご両親のどちらかが均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているものの、遺伝情報の過不足がない状態)を持っている場合があります。均衡型転座を持つ親御さん自身には、症状がないことがほとんどです。
私はこれまでの遺伝カウンセリングの現場で、「妊娠中の生活や自分の行動が原因ではないか」と自分を責めてしまうご両親に、何度も出会ってきました。ですが、均衡型転座を除けば、妊娠中の過ごし方や生活習慣が原因になることはありません。次のお子さんを考える際は、ご両親の染色体検査で状況を確認できます。気になる場合は遺伝カウンセリングで専門家に相談してください。
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
主な症状|発達遅滞・難聴・白質形成不全など
主な症状は、発達の遅れや知的障害、難聴、筋緊張低下、白質形成不全などで、現れ方や重さには大きな個人差があります。すべての症状がそろって現れるわけではありません。代表的な症状を整理します。
- 発達の遅れ・知的障害: 運動スキルや言語の発達がゆっくりで、程度は軽度から中等度が中心です。
- 白質形成不全: MRI検査で大脳白質に高信号領域がみられ、MBP遺伝子の欠失が関わるとされます。
- 難聴: 外耳道が狭い・閉鎖しているために起こる伝音難聴に加え、感音難聴を伴うこともあります。
- 筋緊張低下・協調運動障害: 筋緊張が低く、体の動かし方がぎこちなくなることがあります。
- 成長障害: 低身長が目立ち、成長ホルモンの分泌不全を伴う場合があります。
- 特徴的な顔立ち・骨格の特徴: 顔の正中部の低形成、眼振、口蓋裂、手足の変形がみられることがあります。
このほか、けいれんや小頭症が報告されることもあります。TCF4遺伝子まで欠失に含まれる場合は、気分の波や自閉スペクトラム症の特性が強く出ることもあると報告されています。症状の組み合わせ方、まさに十人十色です。
診断基準と確定検査の流れ|G分染法・FISH法・MRI所見
診断は、成長障害や発達遅滞といった臨床症状、MRIでの白質の異常所見、そして染色体検査(G分染法・FISH法)による18q21→qterの欠失確認をあわせて行い、確定します。指定難病139の診断基準では、主に次の4項目で判断されます。
1つ目は成長障害、とくに低身長です。2つ目は発達遅滞。3つ目はMRI検査で大脳白質に病的な高信号領域がみられること。4つ目は、G分染法染色体検査およびFISH法によって、18番染色体長腕(18q21→qter)の欠失が確認されることです。これらをあわせて総合的に診断します。
症状の重さの評価には、Cailloux分類など複数の指標が使われます。指定難病としての医療費助成を受けるには、一定以上の重症度を満たす必要があるため、詳しい基準は主治医や医療機関の相談窓口で確認してください。
| 検査 | 位置づけ | 18q欠失症候群への対応 | 体への負担 |
|---|---|---|---|
| 基本的なNIPT(13・18・21トリソミー) | 非確定的検査 | 対象外(染色体の数の異常が対象) | 採血のみ |
| 羊水検査+染色体検査(G分染法・FISH法) | 確定的検査 | 欠失範囲まで確定できる | 流産リスク約0.3%前後 |
| 絨毛検査+染色体検査 | 確定的検査 | 妊娠早期に確定できる | 流産リスク約1%前後 |
| 出生後の血液検査(染色体検査) | 確定的検査 | 生まれた後に確定できる | 採血のみ |
NIPTでわかるのか|基本検査対象外と拡大検査での位置づけ
18q欠失症候群は、基本的なNIPT(13・18・21トリソミー)や23種の基本的な微小欠失検査の対象ではありませんが、より広い範囲を調べる拡大検査には対象疾患として含まれています。検査を検討する際は、この位置づけの違いを押さえておくことが大切です。
ヒロクリニックNIPTを例にすると、知的障害を伴う23種の微小欠失・重複疾患検査には18q欠失症候群は含まれていません。一方、全ゲノム解析をもとにした116種の微小欠失・重複症候群検査には、対象疾患の一つとして18q欠失症候群が含まれています。検査を選ぶ際は、対象疾患の一覧を必ず確認してください。
ここで誤解しないでほしいのは、拡大検査で「陽性」や「疑いあり」と出ても、それだけでは診断が確定しないということです。NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査であり、確定診断には羊水検査による染色体検査(G分染法・FISH法)が必要です。無限定に高い精度を約束できる検査ではありません。
18トリソミー(エドワーズ症候群)・18p欠失症候群との違い
18q欠失症候群は、18番染色体がまるごと1本多い18トリソミー(エドワーズ症候群)や、短腕(18p)が失われる18p欠失症候群とは、原因も症状の重さも異なる別の病気です。名前が似ているため混同されやすく、注意が必要です。
| 病名 | 染色体の変化 | 特徴 |
|---|---|---|
| 18トリソミー(エドワーズ症候群) | 18番染色体が3本(全体が1本多い) | 心臓・腎臓など複数臓器に重い合併症を伴うことが多い |
| 18p欠失症候群 | 18番染色体の短腕(p)の一部欠失 | 低身長・軽度〜中等度の知的障害が中心 |
| 18q欠失症候群 | 18番染色体の長腕(q)の一部欠失(18q21→qter) | 発達遅滞・難聴・白質形成不全など多様な症状 |
詳しい症状の違いは、18トリソミー(エドワーズ症候群)を解説した記事、18p欠失症候群を解説した記事もあわせてご覧ください。検査結果に記載された染色体の変化の内容(トリソミーか、欠失か、長腕か短腕か)を確認することが、正しい理解の第一歩です。
治療・予後|対症療法と長期的な見通し
18q欠失症候群を根本的に治す治療法はなく、症状に応じた対症療法を組み合わせて生活の質を支えていきます。複数の専門科がチームで関わることが基本です。
- 発達支援: 言語療法・理学療法・作業療法を通じて発達を支えます。
- 内分泌管理: 成長ホルモン補充療法などでホルモンの異常を管理します。
- 聴覚サポート: 補聴器や外耳道の状態に応じた耳鼻咽喉科でのリハビリテーションが提供されます。
- 総合的な医療管理: 小児科・内分泌科・耳鼻咽喉科・神経内科など複数の専門科が連携します。

予後は、症状の程度や適切な医療支援の有無によって異なります。ですが、早期に診断されて発達支援や内分泌管理などの支援を受けることで、生活の質を向上させることは十分に可能です。先天性心疾患や重い感染症などの合併症を伴わなければ、生命予後は比較的良好とされています。
指定難病・小児慢性特定疾病としての位置づけ
18q欠失症候群は、指定難病139「先天性大脳白質形成不全症」を構成する11疾患の一つとして位置づけられています。お子さんが対象となる場合は、小児慢性特定疾病としての助成制度も選択肢に入ります。
指定難病・小児慢性特定疾病のいずれも、一定の重症度基準を満たすことで医療費助成の対象になり得る制度です。認定の可否や手続きは、お住まいの自治体や主治医を通じて確認するのが確実です。難病相談支援センターでも、制度の利用方法について相談できます。
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
ご両親の心理的・経済的負担とサポート
長期的な療育や医療管理が必要なため、ご両親には経済的にも心理的にも大きな負担がかかることがあります。稀な病気だからこそ、孤立しない環境づくりが支えになります。
私が診療の中で感じるのは、情報が少ない病気だからこそ、家族が孤立しないことが何より大切だということです。同じ経験をした家族とつながることや、公的な相談窓口を早めに知っておくことが、長い療育生活を支える力になります。
難病や希少な疾患の情報を調べたいときは、難病情報センターが窓口になります。発達支援については、国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センターが相談先や支援の考え方をまとめています。出生前検査そのものについて中立的な立場で理解を深めたいときは、日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会の情報も参考になります。
身近な支えとしては、地域の保健センターや児童発達支援センター、そして同じ経験を持つ家族会の存在があります。医療費や療育に関する助成制度もあるため、市区町村の窓口で確認してください。
妊娠中のリスク管理に
NIPTで安心を
ご予約はこちら
よくある質問
Q. 18q欠失症候群はNIPTで分かりますか?
基本的なNIPT(13・18・21トリソミー)や23種の基本的な微小欠失検査の対象ではありません。全ゲノム解析をもとにした116種の拡大検査には対象疾患として含まれていますが、NIPTは非確定的なスクリーニング検査のため、陽性であってもそれだけでは確定しません。確定診断には羊水検査による染色体検査(G分染法・FISH法)が必要です。
Q. 18トリソミー(エドワーズ症候群)と同じ病気ですか?
いいえ、別の病気です。18トリソミーは18番染色体がまるごと1本多い状態で、複数臓器に重い合併症を伴うことが多い疾患です。18q欠失症候群は18番染色体の長腕(q)の一部が失われる疾患で、原因も症状の重さも異なります。検査結果に記載された内容を確認して区別してください。
Q. 診断はどのように確定するのですか?
成長障害・発達遅滞などの臨床症状、MRIでの白質の異常所見、そしてG分染法染色体検査およびFISH法による18q21→qterの欠失確認をあわせて総合的に診断します。出生前であれば羊水検査や絨毛検査で、出生後であれば血液検査で調べられます。
Q. 指定難病に認定されていますか?
18q欠失症候群は、指定難病139「先天性大脳白質形成不全症」を構成する11疾患の一つに位置づけられています。お子さんの場合は小児慢性特定疾病の助成対象になることもあります。認定の可否は重症度基準によるため、主治医や自治体の窓口で確認してください。
Q. 親の妊娠中の生活が原因ですか?
いいえ、原因ではありません。多くは偶発的に生じる新生突然変異(デノボ)で、まれにご両親のどちらかが均衡型転座を持っている場合がありますが、その場合も生活習慣が原因ではありません。気になる場合は遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. 症状はどのくらい重いのでしょうか?
症状の重さには大きな個人差があります。欠失の範囲にMBP遺伝子やTCF4遺伝子が含まれるかどうかによっても現れ方が変わります。平均像を当てはめるより、目の前のお子さんの様子をていねいに見ながら、必要な支援を組み立てていくことが大切です。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本小児科学会認定 出生前コンサルト小児科医/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本小児科学会 小児科専門医/日本アレルギー学会 所属/小児科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

