流産調査における無細胞DNAの活用

文献

流産という診断を受けたあと、「絨毛染色体検査」や「cfDNA」という言葉を目にして、このページにたどり着いた方へ。

結論からお伝えします。cfDNA(セルフリーDNA・無細胞DNA)とは、母体の血液中に浮かぶ胎児由来のDNA断片のことです。流産後に採取した血液を調べるだけで、染色体異常の有無を確認できる可能性がある検査技術です。日本で現在広く行われているのは流産組織そのものを調べる絨毛染色体検査(POC検査)ですが、cfDNAはその代わりや補助になり得る技術として、海外で研究が進んでいます。

この記事では、cfDNA検査の仕組みと海外の研究データ、日本で一般的な絨毛染色体検査との違い、そして検査結果をどう受け止めればよいかを整理しました。専門的な内容も含みますが、一つずつ確認していきましょう。

💡 この記事でわかること

  • cfDNA(セルフリーDNA)検査とは何か、NIPTとの違い
  • 流産の原因の多くが偶発的な染色体異常であること
  • 絨毛染色体検査(POC検査)とcfDNA血液検査の違い
  • 海外の研究データで見るcfDNA検査の精度と限界
  • 日本で流産後の染色体検査を受けるまでの流れ
  • 検査結果を次の妊娠にどう活かせるか

1. cfDNA(セルフリーDNA)とは?流産の原因調査でできること

cfDNAとは、細胞の外に漏れ出した断片状のDNAの総称で、妊娠中は胎盤由来のDNAが母体の血液中に混ざります。この胎盤由来DNAを解析する技術は、すでに出生前スクリーニング検査(NIPT)で広く使われています。

今回取り上げる「流産の原因調査におけるcfDNA」は、NIPTとは目的が異なります。NIPTは妊娠を継続している段階で胎児の染色体異常の可能性を調べるスクリーニング検査です。一方、流産調査のcfDNAは、すでに流産と診断された後に、その原因が染色体異常だったのかどうかを血液検査だけで確認しようとする研究段階の技術です。

従来、流産の遺伝学的原因を調べるには、胎盤成分と胎児成分からなる妊娠組織(POC:受胎産物)を採取し、細胞培養や染色体マイクロアレイ解析にかける方法が中心でした。組織が新鮮でないと検査が難しく、母体の細胞が混入して結果が不正確になるリスクもあります。cfDNAは血液を採るだけで済むため、この負担を減らせる可能性がある方法として注目されています。

私は外来で、「流産した組織を検査に出すこと自体がつらい」と話す患者さんに何度も出会ってきました。血液検査だけで手がかりが得られるなら、身体面でも心理面でも負担が小さくなる、期待の持てる方向性。

2. 流産の多くは偶発的な染色体異常が原因です

臨床的に確認された妊娠のうち一定割合が流産に至り、そのおよそ半数は胎児側の偶発的な染色体異常が原因とされています。これは母親の生活習慣や行動が原因ではなく、受精や細胞分裂の過程で偶然起こる現象です。

実際にX(旧Twitter)でも、絨毛染色体検査の結果を待つ間の不安や、結果を聞いたあとの複雑な思いを語る投稿が見られます。@ie15265さんは、流産した子の絨毛染色体検査で異常がなかったと知った際に「産まれてこられるはずだったのに、私のせいでごめんね」と涙が止まらなかったと綴っていました。この感情は、多くの当事者に共通するものだと感じます。

染色体異常による流産は、細胞が分裂するときの偶発的なエラーによって起こります。母親の年齢が上がると発生率も上がる傾向はありますが、若い世代でも一定の割合で起こり得るものです。自分の行動を責める必要はありません。流産の基礎知識や分類については、流産ってどんな状態のこと?流産の原因とは?の記事でも詳しく解説しています。

3. 絨毛染色体検査(POC検査)とcfDNA血液検査の違い

日本で流産後に受けられる染色体検査の主流は、妊娠組織そのものを調べる絨毛染色体検査(POC検査)です。cfDNA血液検査は研究段階の技術で、国内で日常的に臨床提供されている検査ではありません。両者の違いを表にまとめました。

項目絨毛染色体検査(POC検査)cfDNA血液検査(研究段階)
検体流産した妊娠組織(絨毛・胎盤成分)母体の血液
身体的な負担組織採取・手術に伴う侵襲がある採血のみで比較的少ない
母体細胞混入のリスクあり。結果に影響することがある基本的に少ない
日本での実施状況産婦人科での標準的な選択肢の一つ研究段階で臨床提供はごく限定的
費用の目安医療機関により異なり自費のことが多い国内では通常の臨床メニューになっていない

妊娠反応が陽性になったごく早期に流産が終わる化学流産のケースでは、そもそも組織の採取自体が難しいこともあります。化学流産の時期や原因については、化学流産とは?症状・原因と流産5つの分類で解説していますので、あわせて確認してください。

4. 海外の研究データで見るcfDNA検査の精度

英国バーミンガム女性病院のチームが2020年に発表した研究では、cfDNA検査とPOC検査の結果が全体の75%で一致したと報告されています。この分野の代表的な研究を3つ紹介します。

まずColleyらの研究(Journal of Clinical Medicine、2020年)です。早期流産を経験した女性102例からcfDNAサンプルを収集し、うち57例で対応するPOC検査の結果と比較しました。POC検査で染色体異常が確認されたのは27例(47%)、そのうちcfDNA検査でも正しく異常を検出できたのは16例(59%)でした。正常だったサンプルでは30例中27例(90%)が一致し、全体としては57例中43例(75%)で両者の結果が一致しています。

この研究が示すのは、胎児由来DNAの割合(胎児率)による精度の差、という限界。胎児率が9%以上のグループでは100%の一致率だった一方、5%未満のグループでは約60%にとどまりました。妊娠週数についても、8週以上で採血できたケースは100%一致、7週未満では66.7%と差が見られています。

ほかの2つの研究でも、近い傾向が確認されています。Yaronらの研究(Human Reproduction、2020年)は86例を分析しました。標準的な解析条件では検出率55%でしたが、流産例向けの閾値を新たに設定したところ82%まで改善したと報告しています。Clark-Ganheartらの研究(Obstetrics & Gynecology、2015年)はどうでしょうか。細胞遺伝学的な結果が得られたケースに限ると、87.5%の一致率だったとされています。染色体異常による流産率の全体的なデータは、染色体異常による流産率についてでも紹介していますので参考にしてください。

5. cfDNA検査が向いているケース・向いていないケース

cfDNA検査は万能ではなく、胎児率が低い場合やモザイク(一部の細胞だけに異常がある状態)、三倍体では見逃しが起こり得ます。結果を読み解く際には、この限界を理解しておく必要があります。

実際の研究でも、モザイク症例の一部はcfDNA検査で正しく検出できませんでした。三倍体についても、今回紹介した解析手法では原理上とらえにくいとされています。染色体以下の小さな欠失・重複についても、大きさによっては検出できないケースが報告されています。つまり、cfDNA検査で「異常なし」と出ても、POC検査でしか見つからない変化が残っている可能性は否定できません。

一方で、絨毛染色体検査(POC検査)にも実際の負担があります。@ilctpfvさんは、流産の際に絨毛の組織を自分で採取できたことについて「便器に手を突っ込んでよかった」「自費だったけど原因が1つわかってよかった」と投稿していました。組織を確保できるかどうかは状況次第で、費用も自己負担になることが多いのが実情です。

私自身、患者さんから「検査を受けたいけれど、組織がうまく採れなかったらどうしよう」という相談を受けたことが何度もあります。血液採取だけで手がかりが得られるcfDNAのような技術は、こうした不安への一つの選択肢になり得ると考えています。

6. 日本で流産後の染色体検査を受けるまでの流れ

日本では、流産と診断された産婦人科でまず絨毛染色体検査の可否を相談するのが一般的な流れです。検査を希望する場合は、手術や自然排出のタイミングで組織を確保できるかどうかがポイントになります。

検査のタイミングは医療機関によって異なります。稽留流産で手術を行う場合は手術時に組織を採取し、自然排出を待つ場合は排出した組織を持参する方法が取られることもあります。検査費用は保険適用の範囲が限られており、自費になるケースが多いため、事前に担当医へ確認してください。

流産を3回以上繰り返している場合は、単発の染色体検査だけでなく、不育症としての精密検査が選択肢になります。夫婦双方の染色体検査や血液凝固系の検査など、より広い視点での原因調査です。不育症の原因や治療の全体像については、不育症とは?原因や治療方法などを解説を参考にしてください。

7. 検査結果を次の妊娠にどう活かすか

染色体検査で偶発的な異常が確認された場合、次の妊娠の見通しに大きな悪影響を及ぼすものではないとされています。一方、染色体に異常がなかった場合は、子宮の形態異常やホルモン、血液凝固の異常など、ほかの要因を調べる方向に進むことが多くなります。

結果が「異常あり」でも「異常なし」でも、原因の手がかりが一つ増えること自体に意味があります。将来の妊娠を計画するタイミングを考える材料にもなるはずです。悩んだときは一人で抱え込まず、担当医や遺伝カウンセラーに相談してください。

次の妊娠に向けて出生前診断の情報を早めに知っておきたいという方は、LINEでの無料相談も利用できます。年齢や週数に関する不安があれば、気軽にお問い合わせください。

よくある質問

流産後の染色体検査について、患者さんからよく寄せられる質問をまとめました。

cfDNA検査(流産の血液検査)は日本で受けられますか。

2026年時点では研究段階の技術で、国内で日常的な臨床メニューとして広く提供されているものではありません。日本で流産後の染色体検査を希望する場合は、絨毛染色体検査(POC検査)が現実的な選択肢になります。詳しくは担当の産婦人科医に確認してください。

絨毛染色体検査とcfDNA検査、どちらが正確ですか。

現時点では組織を直接調べる絨毛染色体検査の方が確立された方法です。cfDNA検査は胎児率が低い場合やモザイク・三倍体などで見逃しが起こり得るため、海外の研究でも「POC検査を完全に置き換えるものではない」と位置づけられています。

検査で「異常なし」と出たら、流産の原因は何ですか。

染色体以外の要因、たとえば子宮の形態異常やホルモンバランス、血液凝固系の異常などが考えられます。ただし検査の限界により、実際には異常があっても「異常なし」と出ることもあり得ます。1回の結果だけで原因を断定せず、繰り返す場合は不育症検査を検討してください。

絨毛染色体検査は自費ですか。費用はどれくらいですか。

保険適用の範囲は限定的で、自費になるケースが多いのが実情です。金額は医療機関や検査項目によって幅があるため、検査前に担当医へ具体的な費用を確認してください。

流産の原因がわかると、次の妊娠に役立ちますか。

偶発的な染色体異常だとわかれば、次回の妊娠に大きな悪影響を及ぼすものではないと理解する材料になります。逆に染色体に異常がなければ、ほかの要因の検査に進む判断材料になります。いずれの結果も、今後の方針を考えるうえでの手がかりです。

NIPTと流産原因調査のcfDNA検査は同じものですか。

使われている技術の原理(母体血中のcfDNAを解析する点)は共通していますが、目的が異なります。NIPTは妊娠を継続している段階で胎児の染色体異常の可能性を調べるスクリーニング検査で、流産調査のcfDNAはすでに終わった妊娠の原因を調べる研究段階の技術です。

まとめ:流産の原因調査は、一人で抱え込まないことが第一歩

cfDNA検査は、血液採取だけで流産の染色体原因に迫れる可能性を持つ研究段階の技術です。海外の研究では、POC検査との一致率が75〜87.5%程度と報告されていますが、胎児率や妊娠週数によって精度が変わる限界も残っています。

日本で今すぐ選べるのは絨毛染色体検査(POC検査)です。染色体異常が見つかっても見つからなくても、それは次の妊娠への準備を考えるための一つの材料に過ぎません。染色体異常は、誰のせいでもない偶然の出来事。

次の妊娠を考え始めたタイミングで、NIPTを含めた出生前診断の情報を早めに知っておきたいという方は、下記から予約や相談を受け付けています。年齢制限や紹介状は必要ありません。

出典・参考文献

本記事の作成にあたり、以下の学術論文・公的機関の情報を参照しました。

本記事は、上記のColleyらによる研究(Journal of Clinical Medicine、CC BY 4.0ライセンス)を含む公的・学術情報を参照しています。編集部が日本の読者向けに再構成したものです。原著論文はオープンアクセスで、クリエイティブ・コモンズ表示4.0ライセンスのもとで公開されています。

監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業後、日本とアメリカの医師国家試験に合格。日本に20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有。本記事はPubMed収載の査読済み医学論文や公的機関の情報をもとに作成していますが、症例数の少ない研究であり、数値は文献により幅があります。診断・治療方針の最終判断は担当医にご相談ください。

医師監修 監修日:2020年12月9日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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