妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群の違いについて【医師監修】

妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群の違いについて 聴診器 写真

妊娠中毒症は研究が進み定義が変更され、現在では妊娠高血圧症候群と呼ばれています。自覚症状が少ないものの、悪化した場合は死産につながる恐れがある危険な病態です。約20人に1人の割合で起こり、比較的頻度が高いため注意が必要とされています。

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この記事のまとめ

「妊娠中毒症」は旧称で、現在は高血圧を中心にとらえる「妊娠高血圧症候群(HDP)」と呼ばれます。2005年に日本産科婦人科学会が定義を見直し、かつての浮腫や蛋白尿を中心にした考え方から、妊娠20週以降にみられる高血圧を軸にした概念へと変わりました。放っておくと胎児発育不全や常位胎盤早期剥離、子癇などにつながる恐れがあるため、早い段階での気づきが母子を守ります。自己判断の減塩や服薬ではなく、妊婦健診で血圧を見てもらい、気になる症状は必ず主治医に相談してください。

この記事でわかること

  • 「妊娠中毒症」から「妊娠高血圧症候群」へ呼び名と考え方が変わった理由
  • 妊娠高血圧症候群の定義(血圧の基準)と4つの病型の違い
  • 赤ちゃん・お母さんに起こりうる合併症と、リスクが高い人の特徴
  • 診断されたときの管理・治療の流れと、予防のために今日からできること

妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群の違い

「妊娠中毒症」は過去の呼び名で、いまは高血圧を主役にとらえた「妊娠高血圧症候群」という名称に置き換わっています。健診で「昔でいう妊娠中毒症ですね」と説明され、戸惑うお母さんは少なくありません。呼び方が変わった背景を知ると、なぜ血圧の数字をあれほど気にするのかが腑に落ちます。

かつては「高血圧」「蛋白尿」「むくみ」のどれかがあれば妊娠中毒症と呼んでいました。これらが出産後にやわらぐことから、胎児や胎盤から出る毒性物質が原因だと考えられていた時代です。「中毒」という言葉も、その名残でした。

ところが研究が進むと、症状の中心は血管の異常な収縮と血液の固まりやすさにあると分かってきました。そこで2005年に日本産科婦人科学会が定義を見直し、「妊娠高血圧症候群(HDP)」へと名称と概念を変更しています(参考:日本産科婦人科学会)。浮腫や蛋白尿ではなく、高血圧を軸にする考え方への転換でした。

「むくみ」だけでは妊娠高血圧症候群にあたらない

名前が変わった一番の意味は、判断の軸が血圧に移ったことにあります。むくみは妊婦さんの3割以上にみられ、多くは赤ちゃんへの影響が少ない生理的な変化です。そのためむくみや蛋白尿があっても、血圧が上がっていなければ妊娠高血圧症候群とは診断されません。逆に、自覚のないまま血圧だけが静かに上がる例もあります。だからこそ、見た目より数字が大切なのです。

妊娠高血圧症候群とは|定義と4つの病型

妊娠高血圧症候群とは、妊娠20週以降から分娩後12週までに高血圧がみられる状態を指し、収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上が基準です。蛋白尿や臓器の障害を伴うかどうかで、いくつかの病型に分けられます。まずは血圧の数字を押さえてください。

血圧は重症度でも区切られます。収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上は重症とされ、母子の安全のために入院や早めの対応が検討されます。家庭で測るときは、決まった時間に、座って落ち着いてから測るのが目安です。

病型は大きく4つ。下の表で、それぞれの特徴を整理しました。専門用語が並びますが、「高血圧だけか」「蛋白尿や臓器障害を伴うか」「妊娠前から高血圧があったか」という視点で読むと分かりやすくなります。

病型おもな特徴
妊娠高血圧妊娠20週以降に高血圧のみがみられ、蛋白尿を伴わないもの
妊娠高血圧腎症高血圧に加え、蛋白尿や肝・腎機能障害、胎児発育不全などを伴うもの
加重型妊娠高血圧腎症もともとの高血圧に、蛋白尿や臓器障害が上乗せされた状態
高血圧合併妊娠妊娠前、または妊娠20週までにすでに高血圧があるもの
妊娠高血圧症候群の4つの病型(日本妊娠高血圧学会・日本産科婦人科学会の分類にもとづく)

病型ごとに管理の重さは変わります。より詳しい診断の考え方は、専門学会である日本妊娠高血圧学会の情報も参考になります。名称や分類は改訂されることがあるため、最新の基準は主治医に確認してください。

妊娠20週以降の高血圧をどう分けるか 高血圧のみ 妊娠高血圧 高血圧+蛋白尿 や臓器障害 妊娠高血圧腎症 もとの高血圧に 上乗せ 加重型妊娠高血圧腎症 妊娠前からの 高血圧 高血圧合併妊娠
血圧に加えて蛋白尿・臓器障害の有無や発症時期で病型を分けます

赤ちゃん・母体への影響|起こりうる合併症

妊娠高血圧症候群は、赤ちゃんの発育とお母さんの体の両方に影響しうる状態で、早めの管理が母子を守る鍵になります。血圧が上がると胎盤への血流が滞り、酸素や栄養が届きにくくなるからです。ここが「ただの血圧の話」で済まない理由です。

妊娠高血圧症候群の妊婦さん

赤ちゃん側で心配されるのは、胎児発育不全(FGR)、早産、低出生体重です。胎盤の血流が減れば、赤ちゃんは十分に育ちにくくなります。お母さん側では、常位胎盤早期剥離、子癇(けいれん)、HELLP症候群といった、母子ともに命に関わりうる合併症が知られています。どれも早期に気づくほど、打てる手が広がります。

私が取材で心に残っているのは、合併症を乗り越えて出産にたどり着いた声です。Xでも@tektek_ponさんが、娘さんの誕生日に「妊娠中毒症で胎盤の一部が剥がれたと言われ、35週で緊急帝王切開。1426gと小さく生まれたけれど、発育に問題なく育った」と振り返っていました。常位胎盤早期剥離や早産という大きな出来事も、早い対応と管理で赤ちゃんの成長へつながる例があると教えてくれる言葉です。

妊娠中期以降に気をつけたい体のサインは、妊娠中期に注意したいことの記事でも紹介しています。血圧だけでなく、頭痛やむくみ、体重の急な増え方も、あわせて見ていきましょう。

リスクが高い妊婦さんの特徴

初産・高年妊娠・肥満・多胎などの条件が重なるほど、妊娠高血圧症候群のリスクは上がると考えられています。ただし、あてはまっても必ず発症するわけではありません。自分の傾向を知り、健診でこまめに血圧を見てもらうための目安として役立ててください。

とくに、もともと高血圧・腎疾患・糖尿病がある方や、前回の妊娠で妊娠高血圧症候群を経験した方は、早い段階から主治医と方針を相談しておくと安心です。下の表に、代表的なリスク要因をまとめました。

区分リスクが高いとされる特徴
妊娠・出産の状況初めての出産、高年妊娠、双子など多胎妊娠、前回の妊娠高血圧症候群の経験
体格・生活肥満(高BMI)、妊娠中の急な体重増加
持病・体質高血圧・腎疾患・糖尿病の既往、こうした病気の家族歴
妊娠高血圧症候群のリスクが高いとされる特徴(一般的な目安)

年齢や持病が気になる方は、妊娠前からの体づくりが土台になります。妊娠糖尿病の予防を意識した食事は、血圧管理とも重なる部分が多く、妊娠糖尿病の食事の記事も参考になります。リスクは「弱点」ではなく、気をつける手がかり。そう受け止めてください。

原因と重症化のサイン

妊娠高血圧症候群のすべての原因は解明されていませんが、胎盤の血流不足と血管内皮の障害が深く関わると考えられています。血管が異常に収縮し、血液も固まりやすくなる。その結果として血圧が上がる、という流れです。原因が一つに絞れないからこそ、早期発見が現実的な守りになります。

見逃したくない重症化のサイン

妊娠高血圧症候群は自覚症状が乏しいまま進むことがあります。それでも、体が出す警告はあります。強い頭痛、目がチカチカする、みぞおちや右上腹部の痛み、急なむくみや体重増加、胎動が減った感じ。こうしたサインがあるときは、次の健診を待たずに連絡してください。

重症化した先で心配されるのが子癇です。けいれん発作が起き、意識障害や脳出血につながる恐れもあります。HELLP症候群では、血小板の減少や肝機能の障害が進み、多臓器に負担がおよぶことがあります。いずれも、早い受診が分かれ道。ためらわず頼ってよい場面です。

診断されたら|管理と治療の流れ

妊娠高血圧症候群と診断されたら、安静・血圧管理を軸に、重症例では母児の安全のため計画的に分娩を選ぶことがあります。根本的な治療は「妊娠を終える」ことにあるため、どの週数で、どんな形でお産に向かうかを、状態を見ながら医師が判断します。自己判断ではなく、主治医と一緒に決めていく病気です。

妊娠高血圧症候群の治療法

軽症であれば、自宅での安静と定期的な受診で経過を見ることが多くなります。血圧が高い場合は、母児の安全のために降圧薬が使われ、子癇の予防に薬を用いることもあります。ただし、急に重くなることもあるため、軽症でも入院で管理する判断は珍しくありません。

入院での管理は、当事者にとって大きな出来事です。Xでも@FIRE_maaniyさんが「高血圧で1か月入院していたとき、いろんな部屋を回った。妊娠中のトラブルの人たちの部屋は心が痛かった。切迫早産は全く動いてはいけないから…」とつづっていました。安静とはただ寝ているだけではなく、心細さや不自由さを抱える時間でもあります。私も家族の入院に付き添い、面会のたびに「今日は少し眠れた?」と聞くことしかできない歯がゆさを覚えました。それでも、その管理が母子の安全を支えているのは確かです。

妊娠高血圧症候群は病気として扱われるため、治療には健康保険が適用されます。自治体によっては医療費助成があることもあります。診断を受けたら、費用の相談も含めて、早めに窓口へ確認しておくと落ち着いて療養に向き合えます。

予防のために大切なこと

完全に防げる病気ではありませんが、適正な体重管理・無理のない範囲での減塩・規則正しい生活・妊婦健診での早期発見が、予防と早期対応の柱です。「これを守れば絶対に発症しない」とは言えません。それでも、リスクを下げ、早く気づくための土台はつくれます。

柱をひと目で確認できるよう、下の図にまとめました。どれか一つを頑張るより、無理のない範囲でゆるやかに続けることが、結局は長続きします。

予防のための4つの柱 適正な 体重管理 無理のない 減塩 規則正しい 生活と休養 妊婦健診 早期発見
どれも「頑張りすぎない範囲で続ける」ことが予防の基本です

減塩と体重管理は「無理のない範囲」で

塩分の摂りすぎは血圧を上げる一因です。日本人の食事摂取基準では、成人女性の食塩摂取の目標量は1日6.5g未満とされています。ただし、極端な減塩は栄養不足を招くことがあるため、味つけを少し薄くする、汁物を控えめにするといった小さな工夫から始めてください。体重も、急に増やさない・急に減らさないのが基本です。

妊婦健診を予定どおりに受ける

自覚症状が乏しい病気だからこそ、健診で血圧を測ってもらう機会が命綱になります。予定どおりに受け、家庭でも血圧を記録しておくと、変化に早く気づけます。健診で何を見ているかは、妊婦健診の記事で確認できます。妊娠前からの体づくりでは葉酸などの栄養も土台になるため、葉酸の記事もあわせてどうぞ。国や自治体の情報はこども家庭庁 母子保健も参考になります。

妊婦健診はお母さんの体を守る検査ですが、超音波検査だけで赤ちゃんの染色体の状態まで詳しく調べることは難しいとされています。ヒロクリニックNIPTでは、出生前診断についての相談を受け付けています。NIPT(新型出生前検査)は対象を絞った非確定的な検査で、確定には羊水検査などが必要という点を理解したうえで、納得して選んでください。

よくある質問

Q. 妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群は同じものですか?

ほぼ同じ状態を指しますが、考え方が変わりました。「妊娠中毒症」は旧称で、むくみや蛋白尿を含めてとらえていました。2005年以降は高血圧を中心にとらえ直し、「妊娠高血圧症候群」と呼びます。いまはむくみ単独では診断されず、血圧の数値が基準になります。

Q. 血圧がどのくらいになると妊娠高血圧症候群ですか?

妊娠20週以降に、収縮期140mmHg以上または拡張期90mmHg以上がみられる場合が基準です。収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上は重症とされます。数値の判断や病型の分類は、健診での測定をもとに医師が行いますので、自己判断はせず相談してください。

Q. 赤ちゃんにはどんな影響がありますか?

胎盤の血流が滞ることで、胎児発育不全や早産、低出生体重につながる恐れがあります。お母さん側では常位胎盤早期剥離や子癇、HELLP症候群などが心配されます。早めに気づいて管理するほど、母子ともにとれる対応が広がります。

Q. どんな人がなりやすいですか?予防はできますか?

初産、高年妊娠、肥満、多胎妊娠、高血圧・腎疾患・糖尿病の既往や家族歴、前回の発症などがリスクとされています。完全には防げませんが、適正な体重管理、無理のない範囲での減塩、規則正しい生活、妊婦健診での早期発見が予防の柱です。あてはまる方は早めに主治医と相談してください。

Q. 診断されたら入院や手術になりますか?

軽症なら自宅での安静と定期受診で経過を見ることが多く、必ず入院になるわけではありません。ただし急に重くなることがあるため、状態によっては入院管理や降圧薬による治療を行います。重症例では、母児の安全のために計画的に分娩を選ぶことがあります。方針は医師と一緒に決めていきます。

著者・監修

岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。

妊娠中毒症は研究が進み定義が変更され、現在では妊娠高血圧症候群と呼ばれています。自覚症状が少ないものの、悪化した場合は死産につながる恐れがある危険な病態です。約20人に1人の割合で起こり、比較的頻度が高いため注意が必要とされています。

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医師監修 監修日:2021年12月16日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2021年12月16日
花澤 司 (医師/ヒロクリニック大宮駅前院 院長)

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2021年12月16日
陽川 英仁 (医師・医学博士/ヒロクリニック大阪駅前院 院長)

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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